天女の肌に杯を 桃色の花びら舞う。 今日は十六夜か。 月もいつもより神々しく輝いて舞っている。 「殿・・・。寝床の支度が出来ましたので」 障子越しに家来が知盛に告げる。 ガシャン!! 障子から杯が飛んできた。 「・・・。おい・・・。月見酒の邪魔するな・・・」 「は、はっ。失礼致しましたッ・・・」 家来は血相をかいて立ち去る・・・ 「・・・下らん・・・」 もうすぐ月から天女が自分を訪ねてくる。 恍惚な気分が台無しだ。 「・・・天女は酒が飲めるか・・・。ふふ・・・」 戦で流れる血の匂いしか知らなかった。 だが・・・ 血の匂いより心惹かれる匂いに出会ってしまったらしい。 ガサ・・・。 庭のススキが微かに動く。 「天女が来たらしい・・・」 知盛は静かに障子を開けた。 「よう・・・。神子さま。これはこれは」 少し緊張した面持ちの望美がそこに・・・。 「・・・まさか来てくれるとは思ってなかったぜ? 俺の想いは伝わったのかな。フフ・・・」 「・・・。何のようなの・・・?わざわざ・・・」 「・・・今日は十六夜だ・・・。お前とつきを見ようと思っただけのこと・・・」 「きゃあッ」 望美を腕を掴み、望美の首にそのまま手を回す。 「お前は酒は飲めるか・・・?」 「・・・っ。みっ未成年ですから飲めないわよ」 「ミセイネン?ふふ。まぁいい・・・。酒が主ではないからな・・・」 知盛はそのまま自分の膝の上に望美を座らせ ぐいっと杯を飲み干す・・・ 「・・・ふぅ・・・。いい酒になった・・・。お前がいるせいだろうか」 「・・・」 望美の鼻にお酒の匂いと・・・ 少し生々しい男の匂いがする・・・。 それは望美の胸を激しく刺激して・・・。 「・・・ん・・・?体が熱いな・・・」 「・・・!」 知盛はそっと・・・ 望美の白い足をなでる・・・ 「お前・・・飲んでもいないのに酔ったのか」 「ち、違う・・」 「・・・俺に酔った・・・のか。フフフ・・」 自信に満ちた言葉の一つ一つ。 拒否したいのに心の隙間をぬって入ってくる 「・・・。天女の肌は・・・。月より白い・・・。 思わず被りつきたくなるな・・・」 「・・・変なことしたら・・・。容赦しないから・・・」 望美は腰につけてあった短刀をちらつかせる。 「フフ・・・。上等だ・・・。そうこなくては・・・な・・・」 知盛は一層嬉しそうな笑みを浮かべて・・・ 望美を抱く腕が強まった・・・。 「・・・お前は・・・。俺のことを嫌っているか・・・?」 「・・・」 「・・・ほう・・・。嫌われてもいないようだな・・・。 なら・・・。もう暫くこのままでいてもいい・・・ということか」 跳ね除けようと思えば跳ね除けるのに そうしようとは思わない自分に気づく・・・。 「・・・酒の勢いで・・・。自分のものにしようなどと そこまで俺は落ちぶれてはいない・・・」 「・・・」 「だが・・・。俺の”印”ぐらいはつけておくか・・・」 酒で濡れた唇を着物の袖口で拭う知盛。 そのまま望美の長い髪をそっと前に流して・・・ 「今宵・・・俺と共に一緒に月を見た印だ・・・」 白く細い首筋に 肌に吸い付くように口付ける・・・。 「・・・」 思わず声が出そうになるが治める・・・。 悔しい。 完全に相手のペースだ。 だがやはり・・・。それを拒まない自分がいる・・・。 確かにいる・・・。 「・・・天女とてただの女・・・。だが・・・。 お前は俺が惚れた極上の女だ・・・」 「・・・」 「・・・天に・・・。還らせはせぬ・・・。フフ・・・神子殿・・・」 低い どこか殺伐とした声・・・。 心震える声・・・。 「・・・。もう暫く・・・月を共に見ようぞ・・・。 我が天女よ・・・」 腕の中にいる神々しい姫。 敵同士という事実は今は忘れ ただの男と女でいようぞ・・・。 朝まで・・・。 知盛と望美は 離れることはなかった・・・。