神子殿と私
〜抱く花〜
神子殿が笑う。 桜の木の下で・・・。 この世の全てが花になる。 魑魅魍魎の戦の世。怨霊がはびこるこの世に こんな綺麗な花が私の目の前に在るなんて・・・。 私はこの世で一番綺麗な花を・・・ 守っているのだと心底思うのだ・・・ 「頼忠さん・・・。桜が綺麗ですね・・・」 いえ・・・花より綺麗な花が私の目の前に・・・ 「・・・」 「・・・頼忠さん・・・?」 「はっ・・・。す、すみませんっ」 神子殿に見惚れていたなんて・・・。 神子殿が私の様子を心配そうに見つめている・・・ 「頼忠さん・・・?どうか・・・しましたか・・・?」 「い、いえ・・・。た、ただの考え事です・・・。神子殿にご心配 おかけすることではないので気になさらないでください」 そうだ。 私のこの浅ましい想いに気づかれてはいけない・・・ 神子殿に・・・ 嫌われたくはないから・・・ 「・・・頼忠さん・・・。私ってそんなに頼りになりませんか?」 「え・・・?」 「・・・頼忠さんの忠義心はとても嬉しいけど・・・。なんだか 寂しいです。私は・・・もっと貴方のことが知りたいのに・・・」 (・・・っ) 神子殿・・・ なんて澄んだ瞳で私を見るのです・・・ 私の・・・ 封印している浅ましい想いを抉じ開けてしまう・・・ 「・・・み、神子殿・・・。そ、そんなに見つめないで下さい・・・。 私は・・・貴方をお守りするための八葉・・・」 私は堪らず神子殿に背を向けてしまった・・・ これ以上・・・神子殿を見つめていたら私は・・・ 私の心は暴走してしまう・・・ 「頼忠さんにとっては私は龍神の神子ってだけかもしれないけど・・・。 私は・・・。私は・・・貴方が・・・!」 (・・・!!) 神子殿が・・・ 私に抱きついてきて・・・ 「貴方が・・・。大好きです・・・」 (・・・っ!) 私の心の封印が・・・ 解けてしまった・・・ 「・・・貴方が・・・好きなんです・・・」 「み・・・神子殿・・・っ」 小さく震える神子殿の肩を 私は・・・ 思い切り抱きしめた・・・ 「神子殿・・・っ」 解けてしまった私の心。 想い。 神子殿の気持ちを知ってしまった今、 もう誰にもとめられない・・・ 「・・・私は・・・愚か者です・・・。従者より・・・。只の男しての想いを 選んでしまった・・・」 「・・・でも私は嬉しい・・・。それが嬉しいです・・・。 私を守れるのは・・・貴方だけ・・・」 「神子殿・・・」 貴方の麗しい声・・・ 愛しさが込み上げる・・・ 「・・・私の心も体もあなたのもの・・・」 「み、神子殿っ、な、何を・・・っ」 突然の神子殿の刺激的な発言に・・・ 不覚にも私の鼓動はやなって・・・ 「頼忠さんが前に私に身も心もささげますって言ってくれたけど・・・。 私も・・・捧げます。貴方に全てを・・・」 「み、神子殿・・・」 「・・・自分でも恥ずかしいこと言ってるって分かってます・・・。 でも・・・私は本当に貴方が・・・」 (・・・っ) もう駄目だ・・・。 武士の自分 八葉としての自分・・・ 全て捨ててもいい・・・ 「神子殿・・・っ私の神子殿・・・っ」 今、腕の中にいるこの愛しい花を・・・ 愛しい花に・・・ ただ口付けたい・・・ 「・・・ンっ・・・」 柔らかな唇に想いをこめる・・・ 華奢な体を抱き寄せて・・・ 倒れこむ・・・ こんな綺麗な花の下で私は・・・ 浅ましい想いを開花させてしまった・・・ 例え龍神の怒りをかってもいい。 私は・・・ 腕の中のこの花に 触れられずにはいられない・・・。 「・・・神子殿・・・」 その白い肌に 触れることを止められない・・・ 「・・・頼忠さん・・・っ」 乱れていく衣・・・ 絡み合う手と手 混ざり合う・・・ 息・・・ 「・・・私だけの・・・っ神子殿・・・ッ!!」 「・・・頼忠さ・・・っ」 神子殿と・・・ 魂も体も一つになった瞬間だった・・・ 桜の花びらが・・・ 裸身の私と神子殿の肌に舞い落ちる・・・ 「・・・すみません・・・。神子殿・・・。私は・・・」 「いいの・・・。謝らないでください・・・」 「・・・愚か者です・・・。神子殿への想いを止められず・・・。 己の欲望で貴方を・・・」 「・・・欲望だなんていわないで・・・。貴方の腕の中で眠れる今が 私は・・・とても幸せです」 神子殿がそう言って 身を寄せる・・・ 「・・・頼忠さん・・・愛しています・・・」 「・・・私も・・・。神子殿を・・・愛しています・・・」 もう止められない。 私はこの花を一生守ろう・・・ 刀と身分を捨てても・・・ ずっと・・・ 守ろう・・・