清らかに乱れて
神子殿が水浴びをされている。 緩やかに流れ落ちる滝・・・ 神子殿が白装束で滝に打たれている。 私はすぐそばで神子殿をお守りしている。 滝に打たれ、身を清め、霊力を上げておられる・・・ 神聖な空気。 私は水しぶきに包まれる神子殿を眺めている・・・ 目を閉じて 手を合わせ、透明な水を浴びられる神子殿・・・。 本当に清らかだと思った・・・ 神子殿のお心が現れているのだ・・・ 清らかで・・・。優しさに満ち溢れ・・・ 私はそのやわらかい優しさに包まれている。 単なる主従私に温かなぬくもりを下さる・・・。 あ・・・。神子殿がくしゃみをされた。 とてもかわいいくしゃみ・・・ 主君に可愛いという形容詞は失礼極まりないのだが 愛らしいと思ってしまったころは恥じることでもない。 嗚呼神子殿・・・ 私の視線は神子殿から離れない。 見守っているのではない・・・ 濡れた襦袢に透ける神子殿の肌に視線が行ってしまう。 (だめだ!何を考えているのだ!!) 私は自分自身を奮い立たせ、神子殿から視線をそらした。 (なんという浅ましい気持ちで・・・) 私は岩場に腰を降ろし俯く。 神子殿を見ぬよう・・・ (私は穢れている・・・。怨霊より・・・) 「頼忠さん・・・?」 「・・・!み・・・。神子殿・・・」 濡れたままの襦袢姿の神子殿・・・。 私の鼓動がドクンっと激しく打つ・・・ 「み、神子殿っ。ぬ、濡れたままではお体が冷えますっ」 私は神子殿から視線をそらし、上着をかけた。 目の毒だ・・・ 私の中の”男”の汚らわしい部分が暴れだしそうだ・・・ 「ありがとう。頼忠さん・・・」 神子殿が私の着物を嬉しそうに着ている・・・ 「頼忠よりさんの匂いがします・・・。なんだか・・・。ドキドキするな・・・」 ドクン・・・! 神子殿は・・・。私を惑わす言葉をどうして知っておられるのか・・・ 「み・・・。神子殿。しばしここでお休み下さい。私は 何か木の実でも探してまいりましょう」 神子殿から離れなければ・・・ 私はまた・・・。”主従”でなくなる・・・ 「頼忠さん!待って・・・!」 (!) 神子殿は・・・私の背中に手を回して捕まえる・・・ 「どうして・・・どうしてそんなに壁を作るの・・・? 私はいつまで貴方の”主君”なんですか・・・?」 神子殿こえが震えている・・・。 泣いて・・・。泣いているのか・・・? ゆっくりと・・・私は神子殿にふりむく・・・。 「みっ神子殿・・・」 なんて哀しい瞳・・・ 大粒の涙・・・。 「・・・み・・・神子殿・・・。貴方のような清らかな神子を私は・・・ 私は・・・」 「・・・私は清らかなんかじゃなりません・・・」 「え・・・?」 なっ・・・ み、神子殿が・・・ 濡れた襦袢を・・・脱ぎ始める・・・ 「なっ・・・何をなさるんですか!!」 私はあわてて神子殿の手を止めた・・・ その手はとても柔らかく・・・ こんなときなのに全身で神子殿をたった一人の女性として意識してしまう 自分が憎らしい・・・ 「私は頼忠さんが思ってるような・・・。清らかな人間じゃありません・・・ 好きな人に・・・沢山触れてほしい・・・そんなことを思ってるんです・・・」 「み・・・神子殿・・・」 「どうしたらどこまですれば頼忠さんは私を私をちゃんと見てくれるんですか・・・!? 全部脱いだら見てくれますか!??」 神子殿は興奮して着物をすべて脱ごうとした。 「や・・・やめてくださいっ・・・。神子殿っ・・・」 私は思わず神子殿を抱きしめてしまった・・・。 思わず・・・じゃない・・・ 神子殿の・・・涙が私の封印を解くから・・・ 「頼忠さん・・・!」 「神子殿・・・。すみませぬ・・・。こんなに思いつめさせてしまって」 「頼忠さん・・・」 「・・・神子殿・・・。私が箍(タガ)を外してよいのでしょうか・・・。 いや・・・。もう当の昔にはずしてしまっている・・・。貴方に心奪われたときから・・・」 華奢な神子殿の体を強く強く抱きしめる・・・ もう誰も私を止められない。 「神子殿・・・。貴方をお慕い申し上げます・・・。心のそこから・・・」 「頼忠さん・・・!」 ドサ・・・っ 私と神子殿はそのまま草の中に倒れこむ・・・ 濡れた神子の体は・・・とても冷たく・・・ でもそれ以上に 美しく・・・ 「・・・今だけは・・・。貴方の私は主従じゃなくただの男・・・。 ただの男になります・・・。良いですか・・・?」 「・・・はい・・・。私も一人の女の子になります・・・」 もう・・・清らかではいられない・・・ 濡れた肌に 私は何度も唇を這わせる 「頼忠さ・・・」 「神子殿・・・っ!神子殿・・・!」 清らかな肌に 私の印をつけていく・・・ もう清らかではいられない・・・ 乱れて 求め合って・・・ 滝の音がする 卑猥な声や音を消していく・・・ 清らかに乱れる それが私と神子殿の愛の形なのかもしれない・・・