嗚呼 神田川 先輩の家に遊びに来た。 ・・・と、泊りがけのつもりだったんだけど・・・。 「お風呂壊れちゃったの。銭湯いこっ☆」 というわけで。 片手にせっけん、シャンプーと着替えいりの洗面器。 オレと先輩は夜の住宅街を歩く。 某フォーソングの歌詞を思い出す。 「・・・うふふ。なんか・・・。”神田川”の世界だよね」 「えッ!??」 せ、先輩の心を読まれたのか。それとも・・・ 「・・・あ。もしかして譲君もおんなじこと考えてたの?」 「え、い、いや・・・」 先輩はちょっと悪戯な視線をオレに注ぐ。 「ふふ。以心伝心なんだね。あたしたち♪」 (・・・!) オレに腕を絡めてきた瞬間・・・。 同時に柔らかい感触も・・・ 先輩、ちょっと今日、テンション高いのは・・・ ・・・誘ってるってオレ・・・。勘違いしそうです。 ・・・。神田川の世界。オレにとっては魅惑の世界。 「きゃー☆私、一回、こういうレトロな銭湯に来て見たかったんだ」 先輩の言うとおり、純和風のどっしりとした瓦屋根。 大きく高い煙突から煙が出ている。 「じゃあ・・・譲君。あとでねー☆」 「あ、はい・・・」 完璧に先輩は神田川の唄の世界に浸っているようだ。 ・・・やれやれ。 先輩ったら・・・。相変わらずノリやすいんだから・・・。 でも・・・そこがまた可愛いんだよな・・・。 「おい。兄ちゃん。何にやけてんだ」 「え・・・」 銭湯の暖簾の前で腰の曲がったおじいさんに・・・ 突っ込まれたオレ・・(汗) 「す、すみませんッ」 オレは慌てて男湯へ走った。 「ふぅー・・・」 辺りを見回すと・・。 「おー。オラ、体重減ったなぁ」 お、お年寄りばかり・・・。 ちょっと奥の方のロッカーで着替えよう・・・。 「おう。若い兄ちゃん。珍しいなぁ。ふふ。 いい体してんなぁ」 「わっ」 「ふふ。流石に若いのう・・・。肌が艶々じゃあ」 「わ、わわわ・・・」 オレはそのままおじいさんに浴場まで拉致されて・・・ 「おー。すまんのう。若いの」 「いーえ・・・」 おじいさんの背中を流している。 ・・・こ、これが”神田川”の世界なのだろうか・・・(汗) 頭にタオルを乗せ、俺は風呂に浸かる。 「おーい!」 向こうから聞き覚えのある声・・・。 先輩だ。 「譲くーん」 可愛い声が壁の向こうから聞えてくる。 「あんたの恋人かい?」 「え、ええまぁ・・・」 さっきのおじいさんだ・・・。 なんか顔が赤い。お酒でも飲んでいるのかやたら 絡んでくるなぁ・・・。 「あらまぁ。お嬢さん若いねぇ」 「あ、は、はい・・・」 さらにおばさんの声と先輩の会話が聞えてくる。 「肌もぴっちぴちだねぇ。白くて細くて」 「あ、あの・・・」 「胸もボンって張りがあってもちもちしてそうだよ」 ・・・。ど、どんな会話してるんだ。 なんだか火照ってきたぞ。 ・・・風呂のせいだろう(汗) と、おじいさんが肘でオレをつつく。 「いいねぇ兄ちゃん」 「ええのう。なら彼女と毎晩ウハウハしてんのかい? ええのうええのう・・・」 「・・・(汗)」 「張りのあるもちもちってどんな感触なんでい?おう、兄ちゃん」 おじいさんの両手はにぎにぎとリアルな手の動き・・・(汗) 「・・・(焦)。あ、あのしっ失礼しますッ」 バシャッ。 オレはおじいさんの追求に耐え切れず一足早く風呂から上がった。 「ふぅー・・・。はぁ・・・。なんか別の意味で茹った・・・」 銭湯の入り口で先輩を待つ。 それにしても・・・。 ・・・張りがあってモチモチ・・・か。 (・・・) って。オレは何故自分の右手を見つめているんだ! 「譲君?何してるの?」 「はッ!!せ、先輩っべ、別にオレは変な妄想はしてな・・・」 ・・・。湯上りの先輩・・・ なんだか・・・。 「・・・?」 「いっ行きましょうかッ(汗)」 オレは先輩の顔がまともにみられない。 ・・・あのおじいさんのせいではないけれど 妙な気分になってくる・・・。 「・・・はい。譲君。珈琲牛乳」 「あ、ありがとうございます」 自動販売機の前。 販売機の灯りをたよりにふたをあける。 「王道かな。銭湯のあとの珈琲牛乳って」 「え、ええそうですね・・・」 冷えた珈琲牛乳。けどオレの心は火照って仕方ない・・・。 しっとりと濡れた先輩の髪・・・ 微かに染まった頬・・・。 湯上りの先輩は初めてじゃないけれど なんだかいつもよりとても・・・。 つやっぽく見えて・・・。 「へへ・・・。譲君、一緒に暮らそうか」 「ぶはッ!!」 突然の発言に珈琲牛乳をふき眼鏡が茶色に染まった。 「な、何を急に・・・」 「えー。冗談だよ。ふふ。ほら。一緒に暮らしてたら本当に ”神田川”の世界だなって思っただけで・・・」 「・・・そ、そうですね(汗)」 先輩・・・。オレにとっては先輩の発言は全て冗談に聞えません・・・。 「・・・でも少しあこがれるかな・・・。好きな人と四六時中一緒・・・。 だなんてさ」 「先輩・・・」 「・・・。譲君と同い年ならよかったのに・・・」 先輩は少し寂しげな瞳で俺を見上げる・・・。 ・・・っ。 今、そんな顔されたらオレ・・・オレは・・・。 そのとき・・・。 プップーー!! 暗闇から車がスピードを出して通り過ぎる 「先輩ッ!」 オレは先輩を自動販売機側に押し付けて盾になった。 「・・・大丈夫ですか。先輩・・・」 「うん・・・」 あ・・・。 先輩とオレの視線が一点になる・・・。 「譲君・・・」 先輩はオレの胸に頬を寄せてきた・・・。 ほんのり・・・ 石鹸のいい香がする・・・。 「今は冬じゃないから・・・一つの”マフラー”に包まれないけど・・・。 譲君に包まれたいな・・・」 「・・・。包めるだけじゃ・・・。済みそうにないな・・・。 オレは・・・」 そう・・・。 オレを誘う色香を 体全身で感じたい・・・。 「・・・。早く・・・。帰りましょう・・・。 先輩をもっと包みたいから・・・」 「うん・・・」 手をつないで 帰る・・・。 ドキドキしながら・・・。 神田川の唄の世界。 ただ、好きな人と一緒にいたい いることだけが全て。 そんな恋人達の気持ちが分かる・・・。 ・・・先輩。いつか 一緒に暮らしましょう。 ・・・そして時々銭湯へ行きましょうね(笑) いつか・・・一緒に・・・。