奇跡
未だに信じられない。 俺が、恋焦がれ焦がれて止まなかったあの人が。 俺だけを・・・見ていてくれるなんて。 大袈裟だけどやっぱり・・・。俺にとっては”奇跡”なんだ。 貴方が・・・。貴方が俺の隣にいる・・・。 どんなことより”奇跡”なんだ・・・。
今日の空は、澄み切った青空だ。 俺の好きな人によく似て・・・ とても清清しく・・・風が優しい。 俺に幸せを運んでくる・・・。 「譲くーん!!」 校門の前。俺は彼女を待っていると 笑顔で手を振って・・・。 「譲くん!」 眩しい笑顔・・・。太陽みたいで・・・クラクラする。 「譲くん?どうしたの・・・?」 「えっ。い、いや何でも・・・。それより先輩どうしたんですか。そんなに 急いで」 「うん!今日はね、譲くんに見せたい場所があるんだ」 えっ・・・。 彼女は俺の手を引っ張って・・・。 嗚呼も本当に・・・ 彼女の無自覚な行動には俺は本当にリアクションに困る。 先輩、今、俺がどれだけドキドキしているか知っていますか? 貴方の手の温もりだけ俺は・・・。 「・・・譲くん?」 「えっ」 「どうしたの?赤い顔して・・・」 「い、いや、何でも・・・。そ、それにしても本当に綺麗な景色ですね・・・!」 彼女が俺に見せたいと言った風景。 それは鎌倉の海。 今日は波も穏やかで・・・。何より・・・。雲ひとつ無い空。 何度も来た砂浜だけれど、一緒に見る人が・・・彼女ならば俺にとっては 格別の風景だ。 彼女と俺は砂浜に座り、しばらく地平線を見つめていた。 ・・・。きっと彼女も思い出しているのだろう。 異世界で見た、同じ風景を・・・。 あの日々を・・・。 「・・・譲くん」 「はい」 「・・・もう・・・”悪い夢”は見てない・・・?」 「見ていませんよ。だって・・・。先輩はこうして俺の隣にいるから・・・」 彼女は安堵して俺の肩に寄せてきた・・・ そう・・・。悪い夢など見るはずが無い。 「悪い夢は・・・。先輩。貴方が幸せな夢に変えてくれた・・・。時空を越えてまで・・・」 「譲君・・・」 「俺を想い、時をさかのぼって俺を助けてくれた・・・。 事実を知ったとき、俺は・・・。俺は世界一の幸せ者だと思った・・・。先輩」 こうして・・・。彼女を自分の腕に抱けるのも、彼女の真摯な愛があったから・・・。 「大袈裟だな・・・。奇跡だなんて・・・私は・・・ただ無我夢中だっただけ・・・。 譲君に会いたくて・・・。会いたくて・・・。ただそれだけだった・・・」 彼女の言葉の一つ一つを心に刻み込む・・・。 俺にとっては宝石だから・・・。 俺を想ってくれる彼女の言葉は・・・ 「いえ・・・。でも奇跡なんです・・・。先輩・・・。澄んだ瞳をみつめられるのも・・・。 柔らかな髪に触れられるのも・・・。俺には・・・。奇跡以外の何者でもない・・・」 すくった彼女の髪は・・・ とてもいい匂いがする・・・ 「奇跡じゃないよ・・・。譲くん」 「先輩・・・」 「譲君。もうその”先輩”じゃなくて・・・名前で呼んでほしいな・・・」 甘え声で彼女は俺に願う・・・。 俺は・・・少し緊張して・・・彼女の名を呟く・・・。 「の・・・望美・・・。先・・・輩」 「先輩は・・・いらないよ」 「・・・。の・・・のぞ・・・望美・・・さん」 「ふふ・・・。”さん”もいらないよ。譲君・・・」 彼女の名を呼ぶ・・・ 俺だけの彼女の名を・・・。 「譲君・・・。大好きだよ・・・」 嗚呼・・・。 やっぱり奇跡だ・・・。 眩しい太陽が俺に想いを告げてくれるなど・・・。 確かめたい。 これは奇跡ではないと・・・。 ・・・俺の名を呼ぶその唇から・・・。 「俺もです・・・。何度も言う・・・。貴方が好きです・・・。誰よりも・・・」 奇跡を この奇跡を確かめる・・・ 焦がれた 唇から・・・ 初めて触れ合う・・・ この世で一番愛しい唇から・・・。 強く強く・・・ 「・・・んっ・・・」 貴方の唇を全て奪うように・・・ 「ふぁあ・・・ふっ・・・」 唇を離しても 俺は貴方の体を抱きしめて確かめる。 この愛が・・・現実か・・・。 「望美・・・さん・・・愛してる・・・愛してる・・・」 熱い想いを言の葉にして・・・。 冷たい波も熱く感じる。 嗚呼、夢じゃない。 奇跡じゃない・・・。 「譲君・・・」 「貴方の全てを愛してる・・・」 この手の中の温もりを何度も抱きしめて 俺は・・・ ずっと彼女を放さなかった・・・