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ボーイ・譲物語
(もうすぐ先輩の誕生日・・・。貯金もそこをついたな・・・) 貯金通帳をみながらため息をつく譲。 お金をためようとを考えて、選んだのが・・・。 ちょっと雰囲気のいいレストランのボーイ。 「・・・礼儀ただしさがいいね。君」 「ありがとうございます」 事務室から制服に着替えた譲が出てきて、他の従業員達 の仕事の手が止まった。 「制服も似合うし・・・」 女子従業員たちをちらっと視線を送る。 「ふふ。じゃあ早速今日から出てもらおうかな。 一通りのことは俺が教えるから」 「はい。よろしくお願いします」 背筋を伸ばして一礼する譲の背中を・・・ 女子従業員たちは頬を染めてうっとりした瞳で見ていた・・・。 礼儀正しさの他人への気遣いが万遍ない譲。 その性格が態度に出るのか仕事振りにも親切さがにじみ出て すぐに評判になる。 接客業は肌に合わないと思っていたが思いのほか 仕事も覚えすぐに慣れて・・・。 「おい!有坂!5番テーブル注文頼む」 「はい!あ、あの高野さん。すみません。4番テーブル お願いします」 「え、う、うんいいわよ」 てきぱきと仕事をこなす そんな譲は女子従業員達にたちまち焦がれの的のなったようで・・・。 「ねぇ。譲君。もしよかったら・・・。一緒に帰らない?」 「ねぇ譲君。メアド教えてくれない?」 声をかけられたが。 「すみません。僕には・・・心に決めた人がいますので」 と真面目にお断りしていた。 (でもその真面目さがまた初々しくて・・・) ってな新たな譲ファン(?)もできたりしていた。 そんな人気者の譲だが本人は望美へのプレゼントの費用を 稼ぐことばかり考えている。 (先輩・・・。待っててくださいね。オレ頑張りますから・・・) 携帯の待ち受け画面の望美の笑顔。 譲にパワーを与えて、一層仕事にも熱がはいる。 そんなある日・・・。 カラン。 鐘の音と共に店内に入ってきた一組の客。 「いらっしゃいま・・・」 (・・・せ・・・先輩!?) (ゆ、譲君!?) 薄い黄色のワンピース姿の望美と・・・ (だ、誰だ・・・!?) 少し年上のスーツ姿の男が・・・ 「・・・?おい。どうした。席に案内してくれないのか?」 「あ、は、はい、ではこちらへ・・・」 動揺を抑えて、譲は窓際の席に望美達を案内する。 (せ・・・先輩・・・だ、誰なんだ・・・) (ど、どうしよう・・・譲君・・・) たがいに視線を合わせたり逸らせたり・・・。 「何やってるんだ」 「あ、す、すみません。メ・・・メニューはこちらになっております・・・。 お決まりになりましたらそちらのボタンを押して 及びくださいませ・・・。で、ではごゆっくり・・・」 譲は動揺を抑えながらも望美たちの席から離れた・・・。 (・・・先輩・・・。その男は・・・) 譲の思考は定まらない。 注文を聞きに回らなければいけないのに 「おい!何ぼやっとしてんだ!さっさとオーダー取りにいってこい!」 「あ、すみません・・・!」 譲は注文票をポケットに入れて再びテーブルへ・・・ 「ご・・・ご注文は・・・」 男はクールに二品三品頼んでメニューを譲に返した。 「・・・なんだ。お前。さっきから・・・。 オレの連れに何かようか?」 「い。いえっ。失礼致しました。ではごゆっくり・・・」 いつもより気のせいか望美の化粧が濃い・・・ (先輩・・・。先輩・・・) メニューよりオーダーより 望美に今すぐにでも尋ねたい。 そんな衝動をぐっと抑え、譲は自分の仕事に気持ちを必死に切り替えようとする。 「おーい。ボーイさんお水くれない?」 「はい、ただいまお持ちいたします!」 (先輩・・・) 他のテーブルへメニューを持っていきながら譲の心は望美のテーブルに飛んでいる。 「譲。8番テーブル、カルボナーラあがったぞ」 「あ、はい」 8番テーブルは望美のテーブル。 譲はパンと頬を叩いてメニューはこぶ。 (しっかりしろ・・・。ここで感情に流されたら 先輩にも迷惑がかかる・・・) 公衆の面前。 譲は営業スマイルに戻り・・・。 「お待ちどうさまでした。カルボナーラホワイトソースがけで ございます」 スマートにテーブルに皿を置いて一礼してテーブルを去ろうとしたときだった。 (・・・!?) 望美の異様な瞳に気がつく。 (譲君・・・助けて・・・) 何かを訴えているような・・・。 望美の視線が足元をさしている。 譲も望美の視線に辿っていくと・・・ (・・・!!) 白いテーブルクロスの角・・・ 望美の膝を毛深い手がいやらしく撫でているではないか・・・! 今にもスカートの中に手が入りそうに陰湿な動き・・・。 譲の血液が逆流して怒りと震えが走った。 (先輩!!) プツン。 譲の中で何かが切れた。 「お前!!先輩から汚い手を離せッ!!!」 「イタタタ!!」 譲は男の手を掴み上げ、背中でねじ伏せた。 「て、てめぇ!ボーイのくせに客になにしやがる!!」 「それはこっちの台詞だ!!ここは如何わしい店じゃない!! 先輩に妙なまねをするんじゃない!!」 「こら!!店長だせ!!この店は客に乱暴する ボーイを雇ってんのか!?」 店長が慌てて厨房から出てきた。 「譲!手を離しなすんだ!!」 「で、でも店長・・・」 「いいから・・・!!」 店長が譲を睨む。 店長に促されて譲は男を解放したが・・・。 「おい。この落とし前、どうつけてくれるんだ?? こいつはオレを痴漢扱いしやがった・・・店長さんよ?」 「はっ・・・。お客様のお望みのままに・・・。このボーイは しかるべき処分を取らせます」 「ま、待ってください!この人は私の足をテーブルの下で 触ってたんです・・・」 望美が割ってはいるが譲が止めた。 「いいんです。先輩・・・。俺がお客様に手荒なまねをしたことは 確かなんだから・・・」 「でも・・・!」 譲は首を横に降ってそれ以上望美を公衆にさらす事を 控えた。 「譲。お前は一週間、謹慎してろ」 「え・・・?」 てっきりクビかと思ったのだが・・・。 「お客様・・・。確かにこのボーイは手荒な真似はしました。 ですが、お客様がなさっていたことは他の従業員も 目撃しております」 「な、何!?」 「以前は茶髪の女性の方、そのまた以前は他の女性・・・。 当店を利用していただくのは嬉しいですが、ここは キャバレーではありません」 従業員全員達の鋭い視線が男に集中して・・・。 「・・・な、なんだよ!!フン。こんな店・・・! 二度とこねぇぞ!!」 バタン! 男は悪態をつきながらも店からそそくさと出て行った・・・。 「あのお客・・・ちょっと有名でな偉い大学教授なんだが うちの店に女子大生連れて来ては痴漢まがいなこと して食事するんだ・・・。正直参ってた・・・ありがとうよ。譲」 「店長・・・」 「だがお前も手荒なことした責任はとってもらう」 「はい・・・。きちんと自重してきます・・・」 (譲君・・・) 店長に深々と頭を下げて・・・ 譲はその日、早退していったのだった・・・。 帰り道。 少し重たい空気で歩く二人。 「・・・。譲君・・・ごめんね・・・。私のせいで・・・」 「いえ・・・。先輩のせいじゃありません。気にしないでください・・・」 話したいことはそのことじゃなくて・・・。 ”先輩とあの教授のこと” 「・・・あの・・・。実はね譲君」 「先輩。いいんです。分かってますから・・・」 「でも聞いて。私の学友があの教授のセクハラに悩まされて たの。それで私がやめてくれって訴えようと思って・・・」 「分かってますから・・・。先輩があんな”オヤジ”を 相手にするわけがない。先輩には俺がいますから。ね、そうでしょう?」 譲は微笑んでウィンクした。 (譲君・・・) 望美を元気付けようと 笑ってくれているんだ・・・望美は譲の優しさを感じた。 「・・・譲君こそ・・・。バイトなんてどうして?」 「・・・え、そ、それは・・・///」 眼鏡がくもるくらいに譲の頬はそまった。 「・・・当ててあげる・・・。私の誕生日プレゼントの費用 だったりして」 「!!ど、どうしてわかったんですか!?」 「え・・・。そ、そうなの!?冗談で言ったのに・・・」 「・・・じょ、冗談って・・・。もうま、参ったな///」 二人は顔を見合ってくすっと笑った・・・。 重たかった空気が大分和んで・・・。 「・・・でもすみません。あの・・・。まだ給料もらってなくて・・・」 「いいよ・・・。プレゼントならもう・・・貰ったもの」 「え・・・」 望美は立ち止まり譲の手を握った・・・。 「私を助けてくれた・・・。それだけで・・・」 「先輩・・・でも・・・プレゼントは・・・」 望美は首を振って・・・。 「あのね・・・。私が一番欲しいのは・・・」 譲の胸に頬を寄せて呟く・・・。 「欲しいのは・・・。譲君だよ・・・」 「せ、先輩・・・」 呟かれた声・・・ 譲の腕はもう既に望美を包んでいて・・・。 「・・・。先輩・・・。あんまり刺激しないでください・・・。 このまま・・・先輩を帰したくなくなる・・・」 「うん・・・」 「・・・オレなんか・・・いつもいつも・・・ 先輩が・・・欲しいです・・・」 ぐいっと望美を引き寄せて抱きしめる・・・ 「・・・先輩・・・。部屋・・・。行きましょうか・・・」 「・・・うん・・・」 そのまま二人は寄り添って・・・ 望美の部屋へ直行・・・ そしてベットの上で見詰め合う二人・・・。 「・・・譲君のボーイ姿・・・なんかドキドキしちゃった」 「・・・せ、先輩ってば・・・オレをあおるのが 上手いんだから・・・」 「譲君・・・。好き。大好き・・・」 (駄目だ・・・もう我慢できない) シュル 譲は望美のワンピースの背中のファスナーをおろし・・・ 望美は譲の制服のボタンをはずす・・・ 脱がせあって そして愛し合う・・・ 一番欲しかったのはお互いの心。 二人はそれを深く深く確かめ合った夜を過ごしたのだった・・・。