貴方の傘になりたい 「・・・今年は残念ですね」 「うん。」 ザー。 雨が激しく降る。 高校生活最後の夏休み。 コンクリートの道路の脇。 トタンの掘っ立て小屋のバス停に、浮き輪をもった望美と バスの時刻表を丹念に調べる譲。 「あと30分以上経たないとバスは来ないです。先輩」 「いいじゃない・・・」 「相変わらずマイペースなんだから」 「あら?だって嬉しいじゃない。30分以上はここで・・・」 (・・・え) 「譲君と二人きりじゃない」 譲の腕をからめる望美。 「・・・せっ。先輩っ。かっからかわないでくださいッ」 バサッ! 譲の手からバスの時刻表が落ちた。 「ふふふ・・・。何でも楽しまないとねー!」 「・・・お、オレで楽しんでませんか。もう・・・///」 少しずれた眼鏡を指で調える (せ、先輩のペースには参る・・・) けれどの望美のペースに”乗っかる”自分も 嫌いじゃなく・・・。 「ふふ・・・」 「・・・?」 「思い出しちゃった」 「・・・何を?」 チャプチャプ・・・ 雨だれの音・・・ 「ほら・・・。ぞうさんの長靴」 「あ・・・」 チャぷん・・・ チャプン・・・。 雨だれの音が 幼い頃の記憶を呼び起こす・・・。 「はい・・・ブルーのハンカチ」 小さな赤い傘をさした望美。 チャプチャプ水溜りで遊んではどろんこになり。 ”そんなによごしちゃだめですよ” 弟みたいにいつも望美の心配をして・・・ 「オレのハンカチは先輩専用だった」 「うん」 びしゃびしゃになった顔や手をいつも・・・ 譲が拭いてくれた 「先輩のしんぱいをすることが仕事でしたよ」 「ごめん・・・。私は汚すことが仕事でした。へへ」 「笑い事じゃありませんよ、もう・・・。おかげでオレの箪笥には ハンカチ何枚あるか・・・」 静かにポケットからブルーのハンカチを取り出す。 「うん。これからは私が譲君を拭いてあげる番よね」 「えっ」 望美は譲のハンカチを受け取り、そっと譲の濡れた肩を拭う。 「傘をいつも私にさしてくれて・・・。譲君の肩が濡れていることにも 気付かずに居た・・・」 「先輩」 「今度は私が濡れる番・・・。私。譲君の傘になりたい・・・って ちょっと気障かな。へへ」 「・・・。先輩・・・」 柔らかな手で 胸、肩・・・静かに水気をすいとっていく・・・。 (・・・。先輩に・・・。触れられてもらっている・・・。 そんな・・・。そんな・・・。そんなことされたら・・・。オレ・・・) ただでさえ 今日一日、 望美の小麦色の肌にドキドキしているのに・・・。 「きゃッ」 望美からハンカチを取り上げて 思わず抱き寄せてしまう・・・ 「・・・先輩に触れるのは・・・。永遠、オレの仕事です」 「・・・譲君」 「バスが来るまであと10分・・・」 腕時計をはずす譲。 「 いい・・・ですね?」 永遠に欲しかった想いが叶った 叶ったらもっともっと欲しくなる もっと・・・ バスが来る10分前・・・ 激しい雨音も忘れ、消え・・・ 二つの影は一つになる 「濡れるなら・・・一緒に濡れましょう」 お互いの体温があれば 寒くも冷たくも無い 永遠に・・・