恋人のガクラン 〜幸せな時〜 黒くて重い ガクランは譲は苦手だ。 「ふぅ。縛られているようで・・・。きつくて」 詰襟のボタンをはずす譲。 (まるで・・・。自分の運命のようで) 星の一族とやらの柵にいつも振り回されているようで。 「こじつけすぎですかね。ふふ」 学校の中庭の芝生。 ごろんと横になる譲。 望美が静かに譲の言の葉を聴いている。 「感性豊かなのよ。譲君は」 「はは。お褒めに預かり光栄です」 (・・・こんな穏やかで・・・。満ち足りた日が来るなんて) 望美が自分の言葉に耳を傾けて 微笑んでくれている。 ・・・『幼馴染』としてではなく。 確かな絆『恋人』として・・・。 「・・・。どうしたの。急に譲君・・・」 「いえ・・・。幸せだなって」 「え?何が」 「・・・。”今”がです・・・。先輩は?幸せなときって?」 「今が・・・?私は譲君のオムライス食べてるときが 幸せかな」 くすっと譲の口元が緩んだ。 (幸せすぎて怖いくらい) だから 確かめてみる。 望美の瞳を見つめながら 「先輩」 「何?」 「・・・甘えても・・・いいですか?」 譲はそっと望美の膝に 頬を置いた。 「・・・うん・・・。夢じゃない」 「え?」 「先輩の膝が・・・あったかいから」 「・・・。譲君ったら・・・照れるなぁ///」 「夢じゃない夢じゃない・・・」 何度も呟く。 (やっとほしかった場所が・・・手に入った。 欲しかった瞳が・・・) 見つめると 見つめ返してくれる確かな関係。 出来ることなら時間が止まってしまえばいいと思うくらい。 だが。 ポツ。 「・・・あ。やだ・・・」 冷たい雫が 空から落ちてきた。 望美達は立ち上がり、並んで校舎へ走る。 「今日晴れだって天気予報でいってたのに・・・」 バサッ。 譲はガクランの上着を 望美の頭からかぶせた。 「ガクランは苦手だけど・・・。 ”傘”になるなら便利ですね。防水加工してありますから フフ・・・」 「譲クン・・・。ありがとう。いつも ごめんね」 小さく会釈する望美。 そんな望美の謙虚さも いとおしい。 「・・・。傘になりますよ。先輩に降りかかるものがあるなら・・・」 オレ全身で守ります」 「・・・き、気障だなぁ・・・///」 「本心ですよ。フフ。ああでも今は 校舎に一直線ですね!」 ギュ。 譲と望美は手をつないで 校舎へ入っていく・・・ 握り締める譲の手が・・・ 大きく感じて。 (頼もしくなったね・・・。私もしっかりしなくちゃ) 重くて大きいガクラン。 けれど、恋しい人を雨から守れる傘になるなら 恋の大切なアイテム。 「じゃあ今度は私が傘になってあげるね。 濡れないように」 「・・・え?」 (ぬ、濡れ・・・!?ど、どういう意味で・・・) ちょっと何故か頬を染める思春期譲君。 「私の傘に入って一緒に帰ろう。今日は」 「そ、そうですね・・・(汗)」 (馬鹿、オレ・・・(汗)) パサッとピンク色の傘の下、 二人並んで学校を後にする。 二人で一つ。 ずっと一緒に・・・。 雨は優しげに降っていた・・・。