貴方を感じたい
焦がれ焦がれ続けた人が オレの想いを受け取ってくれた。 その想いは尽きることなくどんどん貪欲になる。 駅前の花時計の前。 オレは、彼女との待ち合わせの時間より30分も早く来てしまった。 (・・・緊張するな) 周囲には腕を組んだり手を繋いだりするカップルばかりだ。 (・・・オレも・・・あんな風に・・・) 「譲くん!」 わっ・・・。 オレは一瞬、言葉を失った。 「遅れてごめんね・・・」 制服姿の先輩しかみたことなかった。 その・・・先輩のワンピース姿。 肩口ははだけ、気をつけないと胸元が見えそうな・・・ 白いワンピース。 ・・・だ、駄目だ。見とれてしまう。 「譲君?あの・・・。この格好、可笑しいかな?」 「そ、そんなことありませんっ。先輩は何着ても似合いますっ」 オレは思わず声が荒げてしまった。 ・・・本音だ。けど照れくさいこと・・・。 「ふふ。ありがとう。譲君のためにちょっとお洒落してきたから嬉しい」 「・・・オレの方が嬉しいです。・・・先輩がオレのためになんて・・・」 ああ。いかん。頬が熱くなってきた・・・ オレはもう先輩の彼氏だ。 堂々としていなければ・・・。 「・・・じゃあ・・・。そろそろ映画いこっか?時間だし」 「はい。そうですね」 ・・・先輩と並んで歩く・・・。 他のカップルみたいに手を繋いでもいいだろうか? オレは思い切って先輩の手を握った・・・ ・・・あ。 一瞬、先輩は戸惑ったようだけど、握り返してくれた・・・。 ・・・これは応えだと思っていいのだろうか? 先輩もオレと同じ気持ちだと・・・。 オレは信じたい。 『世界の中心で恋を叫ぶ』 映画のタイトルだ。今、流行の恋愛映画だという。 内容は病魔に冒された少女を少年が愛し抜く・・・というありがちな内容だが オレはこの主人公の少年の気持ちがよく分かる。 「・・・先輩?」 映画の途中、先輩の瞳が濡れていたことに気がついた。 映画に感動しているのか・・・。先輩らしいな、と思った。 「・・・先輩・・・(汗)」 映画の終盤。今度は先輩が眠っていることに気がついた。 ・・・感動したかと思ったら眠りにはいるとは・・・。ふふ。 それも喜怒哀楽が俺かな先輩らしいと思った。 映画の中の少年が命がつきかけている少女を腕にして叫ぶシーン。 『助けてください!俺の大切な人を助けてください・・・!』 眼鏡越しに危うくオレもなきそうになった。 主人公の気持ちはオレの気持ちそのものだ。 ・・・こんなに焦がれて好きな人を亡くしたらオレはどうなるだろう。 オレは壊れてしまうかもしれない。 映画の主人公は時がたち、あたらしい恋人が出来ていたが、俺は多分無理だ。 ・・・先輩以上に好きになれる女性なんていないから・・・。 感動的なラストシーン中にすやすやねむるなんとも暢気な彼女。 彼女の手をオレはそっと・・・重ねていた。 「ふぁあ・・・。いい映画だったねー・・・」 「途中眠ってたのに」 「え?何か言った?」 「いーえ。何でもありません。先輩。お腹すきませんか?食事にしましょう」 オレは目の前のファーストフードの店を指さした。 「・・・ふふ。相変わらず譲君はお世話好きだよね」 「先輩が手を焼かせるからです」 「ごめん。成長します。譲お父さん」 「お、お父さん!?ひどいなー。もう。先輩っ」 先輩とのこんな他愛もないやりとり。 それがとても愛しい。 「譲君。ここのパスタ、美味しいよ!」 ミートソースのスパゲッティを ぺろりと平らげる。 相変わらず先輩はよく食べるな。 子供みたいな無邪気な笑顔にオレは弱い。 「はい。先輩なら多分、お代わりするだろうと思ってました。 あ、先輩、口・・・」 オレはティッシュで先輩の口元を拭いた。 「本当にしょうがない人だな。ふふ」 「・・・ご、ごめん・・・」 照れる先輩にも・・・弱い。 自意識過剰かもしれないが、先輩がオレに甘えてくれているんじゃないかって 思う。 オレにしか甘えられない・・・と。 自惚れすぎか。でも自惚れたい。オレは・・・。 「ふー。食べた食べた。ね。譲くん、次、どこ行く?」 「そうですねぇ・・・」 オレの服をくいくいとひっぱる。先輩。 先輩。本当にオレのこと、父親だと思ってます? ふふ・・・ でもできれたら男としてみてほしいな。 オレはいつだって先輩をたった一人の女性と思っているのだから・・・。 「・・・ん?雨・・・」 ポタポタと通り雨か地面が濡れだす。 「夕立かな?譲くん、とりあえず、あそこで雨宿りしよう!」 先輩はオレの手をひいいて電話ボックスに入った。 その途端、雨は激しさを増し、降る。 「はー・・・。カサもってこればよかったね・・・」 「え、ええ・・・」 オレはカサどころじゃない。 先輩の・・・ 先輩の濡れた素肌にオレは・・・ 目が離せない。 「先輩、体が冷えたらいけない・・・」 オレは自分のジャケットを先輩に着せた。 「ありがとう。譲君・・・」 そんな・・・。そんな優しい瞳をしないでください。 只でさえオレは理性を抑えているのに・・・ でもオレは先輩の優しい眼差しがほしい。 心が躍ってしまう。 「・・・私・・・。いつも譲君に助けてもらってばかり。 いけないって思うのに・・・。つい甘えてしまう」 「甘えてください。先輩にならオレ・・・いくらでも甘えてほしい・・・」 「譲君・・・」 駄目だ・・・。 電話ボックスという狭い空間で、先輩とこんな会話していたら。 オレは・・・ 自分を止められなくなる。 「譲君・・・。ありがとう。でも私も譲君の支えになりたい。 譲君が辛いとき、誰より・・・」 「先輩はいつだってオレの支えです・・・。生きる支えです・・・」 照れくさい言葉がポンポン出てくる。 恋愛って不思議だ。 「譲君・・・」 「せんぱ・・・いや・・・。望美さん・・・」 先輩とオレの距離は数十センチ。 手を伸ばせば先輩はオレの腕の中に入れる・・・。 「・・・先輩・・・。もっとこっちに来て下さい・・・」 「え・・・」 「もっとこっちに・・・」 先輩のからだをオレは 引き寄せた・・・。 ドクンッ。 先輩の体に触れただけでオレの体は脈打つ。 全身で先輩を感じる。 「・・・譲君・・・」 着せたジャケットごと先輩の体をオレは完全に抱きしめた。 独占欲が・・・丸出しだ。 でも先輩も拒まない。 むしろ・・・ 「譲君・・・」 顔を埋めて・・・。オレの想いを受け取ってくれる・・・。 「望美さん・・・」 「”望美”でいいよ・・・。望美って呼んでほしい・・・」 「の・・・望美・・・」 ずっとオレもそう呼びたかった・・・。 兄さんのように・・・。 「好きだよ・・・。譲君・・・」 「オレもです・・・。好きです・・・好きだ・・・」 オレは激しく強く・・・ 先輩を抱きしめた。 「もっと・・・。貴方を感じたい・・・」 浅ましい台詞が出てくる。 着せたジャケットが邪魔だ。 オレは着せたジャケットを先輩から脱がせた。 先輩の肌を 直に もっと感じたい・・・ 「・・・先輩は・・・。色が白いですよね・・・。雪のようだ・・・」 「・・・譲君・・・」 濡れたワンピース・・・オレを誘惑するように 色っぽく・・・艶やかで・・・。 「・・・貴方を感じたい・・・。感じさせて・・・」 オレは先輩の肩口に唇を這わせた。 ビクっと 先輩の体が反応した。 ・・・先輩の反応にオレの血が騒ぐ。 「貴方を感じたいんだ・・・」 ここが二人きりの部屋だったらオレはきっと 男の本性を丸出しにしているだろう。 小雨になったことにも気がつかず 俺と先輩は抱き合う・・・。 ここが外ではなかったら。 オレは・・・ オレは・・・。 「・・・。譲くん・・・」 「え・・・?」 「雨・・・。あがったよ・・・」 どのくらいの抱擁だったのか。 オレは先輩に夢中で・・・。 「・・・。譲君・・・。なんか今日は・・・その・・・だ、大胆だったね・・・」 「・・・貴方がそう・・・させたんですよ・・・?その責任、この後とってくれますか・・・?」 「え・・・?」 オレは彼女の耳元で、もっと大胆な言葉をはいた。 「・・・か、考えておく・・・」 「はい」 先輩は耳の先まで真っ赤だ。 ・・・可愛い。 俺達は電話ボックスから出て、すぐ・・・ 先輩の部屋に向かった。 そして・・・。 愛し合った。 オレが先輩の耳で呟いたかって・・・? ”全身で貴方を感じたい・・・” とね・・・。 でもオレは・・・。先輩が側にいてくれるだけで 先輩をいつも・・・愛しく 感じているんだ・・・。