キャッチボール 〜譲れない愛しき人〜 久しぶりに夢を見た。 ・・・幼い兄さんとオレの夢だ。 兄さんの誕生日。 両親が兄さんに・・・プレゼントした。 スニーカー。 実はオレが前から欲しかったもので・・・。 ”オレ、こういうの趣味じゃねぇから” そう言って兄さんは俺にゆずってくれたんだ。 ・・・兄さんのそういう優しさは嬉しくもありでも少し・・・ 戸惑った。 兄さんは昔からリーダー格で頼りがいがあって・・・。周囲の皆から 深い信頼を得ていた。 だからオレは・・・。そんな兄さんをいつも応援して・・・ 兄さんがくれたグローブを見つめる・・・。 (兄さん・・・) 時々ふと思う・・・。兄さんもやっぱり先輩のことが好きだったのではないかと・・・。 いや、そうだったはずだ。 だが兄さんは別に道を選んで・・・。勿論兄さんの意思もあっただろうが その気持ちの中に・・・ ”先輩を想うオレのため”という項目も少なからずあったんじゃないかって・・・。 「・・・はい。ジュース」 「・・・!」 河川敷。 先輩が缶ジュースでオレの頬を冷やす。 「何物思いにふけってたの?」 「え、あ、ちょっと子供の頃のことを思い出してました」 「子供の頃?」 「はい。兄さんとここでよくキャッチボールしたなって・・・」 土手の下では兄弟と思える子供達が 元気に遊んでいた。 「そっかー・・・。うらやましいな。兄弟か・・・」 先輩はオレの横に静かにすわった。 「兄弟の絆っていいね」 「・・・」 でもね。先輩・・・。その兄弟の絆のど真ん中にいるのが・・・ 貴方なんですよ。 「・・・。将臣くん・・・どうしてるかな・・・」 (・・・!) 今でもオレは先輩の口から兄さんの名前を聞くと 胸に切ない痛みが走る・・・ 先輩は何気なく言ってるのだろうけど・・・。 「幸せならいいよね。将臣くん・・・」 「・・・そ、そうですね・・・」 駄目だ・・・ 幼稚な嫉妬と独占欲がオレの心の中で暴れだしてきた・・・。 「・・・?譲君・・・?顔なんかひきつってるよ・・・?」 「・・・べ、別に・・・」 「譲君・・・。具合わるい・・・?」 (わっ!!) 少し冷えた先輩の手がオレの額に触れた。 「熱はないね」 ・・・。こ、この先輩の天然さには負けます。 ちょっとした触れ合いでもオレにとっては・・・。 興奮してきた自分を必死に抑えようとしたそのとき・・・。 ボールがこちらに向かって飛んでくる・・・! 「先輩!!あ、あぶない!!」 ドサッ!! オレは先輩を強引に押し倒した。 コロ・・・、 ボールはすぐ真横に落ちて・・・ 「・・・。ふぅ・・・。よかった・・・。先輩怪我はないですか?」 「うん。ありがとう」 ・・・。う・・・。 ま、まずい・・・。 この体勢・・・。 真下に先輩が・・・。 「譲君にたすけてもらってばっかりだね・・・。ありがとう。本当に・・・」 ・・・嗚呼だめだ・・・。 先輩。そんな澄んだ瞳でオレを見上げないでください・・・ 歯止めが聞かなくなる・・・。 「え・・・?あ、あの。譲君・・・?」 歯止めが利かなくなった俺の手は 先輩の頬にいつのまにか添えられて・・・。 「ゆ、譲君、こ、ここではちょっと・・・(汗)」 「・・・。そうですか?新鮮なシチュエーションです。 愛し合うには・・・」 オレらしからぬ、常識を忘れてしまった台詞がポンポン出てくる。 ・・・これも皆先輩のせい。 いや・・・。先輩を愛しているオレのせいか・・・? 「・・・大丈夫。キスだけですから・・・」 「キスだけって・・・」 「それ以上のことは・・・帰ってから・・・」 先輩の顔を自分に向かせ 唇を近づける・・・。 ・・・ん? 何だか視線を感じる。 「!!」 草陰からこそっと少年が二人、目撃・・・。 「・・・あ、やべッ!!逃げろ!!」 グローブを持った兄弟があわててボールを持って 走っていった・・・ 「・・・」 「・・・」 先輩は少し乱れたスカートを調えて正座・・・ オレも正座・・・。 こ、こんなときどんな言葉をいえばいいのか。 「ゆ、譲君のそういうの・・・嫌いじゃないけどあの・・・ば、場所と時を考えて・・・」 「あ、すみませんでした。先輩オレって奴は・・・」 「・・・い、家に帰ってから・・・(照)」 ・・・。先輩。 本当に貴方はオレの想いに火をつけるのがうまいひとですね。 もう・・・。 「・・・じゃあ。早く帰りましょう。速攻で!」 「きゃ!?」 オレは先輩をお姫様抱っこして 土手を歩く。 「ちょ・・・。譲君、は、はずかしいよ。人が見てる・・・」 「大丈夫。家に帰ったらもっと”恥ずかしいこと”してあげますから・・・。 ふふ・・・」 先輩は少し可愛らしくオレの首に手を回してくれた・・・。 (・・・。ゆ、譲君が強引キャラに変わったちゃった・・・(照)) 先輩を抱きしめながら思い出す・・・。 キャッチボールした時のことを・・・ ”これ、譲にやるよ” ・・・兄さんに譲ってもらったつもりもないけど・・・。 これだけは誓うよ 先輩を絶対に幸せにするって ”望美を頼んだぞ” 兄さんから託された 愛しい人を幸せにすると・・・。 絶対に・・・。