女なんて男の憂さの吐きどころ。 どんなに綺麗な花でも見ごろが過ぎりゃ 使い捨てだ。 枯れない花なんてねぇ ・・・そう思ってきた。だがこの世には永遠に散らない花があるって知っちまった。 知っちまったが最後・・・ オレは散らねぇ花の虜。 永遠に咲かせてやるぜ。それが男ってもんだろ・・・?※「・・・オレが来るってのに待たせるなんて女はかごめだけだな」 杯をくいっと軽快に持ち上げて酒を飲む蛮骨。 男の色気を漂わせ、かごめが部屋に来るのを待っている。 自分を待たせる女など昔ならばその場で斬っていたものだが・・・ (・・・待つもの嫌じゃねぇなんて思わせられちまって・・・。オレは完全にいかれちまってる) 腹立たしいが嫌ではない。 そんな自分の変化に蛮骨は戸惑いながらも受け入れ始めていた。 「・・・それにしても。遅せぇな・・・。オレの短気が爆発するだろうが」 蛮骨は自慢の蛮竜を部屋に置き、廊下に出る。 「・・・おい」 半被を着た番頭を呼び止め、襟を掴んでかごめの居所を聞きだす。 「・・・ふっ」 かごめが今、居る場所を知って・・・ 蛮骨の悪戯心が騒ぎ出す。 「脅かしてやるか。ふっ」 にやっと笑って蛮骨はある場所へと向かう。 そこは・・・ (湯煙の向こうの花か。ふっ) 湯処。 格子から白い湯気が廊下まで流れてくる・・・ ギィ。 引き戸を開けると女物の着物が綺麗にたたまれている。 紫の着物に桃色の帯。その上に桜の簪(かんざし)が静かに置かれている。 (・・・桜ねぇ・・・。ふっ) 簪を手に取り少し眺める。かごめはいつもこの簪をしている。 ・・・肌身離さず・・・。 (・・・犬夜叉がかごめにやったモンか・・・) ボキッ! 嫉妬が桜の簪を真っ二つに折る・・・ (・・・。こんなもんよりオレが上等なモンくれてやる・・・) 蛮骨は簪を捨て・・・ (この戸の向こうに”湯船に咲く花”が・・・。さぁて。どうやって 脅かしてやろうか) 口元を緩めニヤリと笑う蛮骨。 かごめの驚いた顔がみたい。どんな風にどんな声でどんな顔をする? 蛮骨の悪戯心が激しく騒ぐ。 だがそれより・・・ 戸の向こうに居る柔肌を想像する自分が抑えられない。 花を自分のものに・・・ 「・・・。誰かそこにいるの?」 (・・・ちっ) かごめの声。 人の気配に気づいたのか。 「・・・。気のせいかしら・・・」 (・・・ふ) かごめの一語一語に蛮骨の心は弾んだり寂しがったり。 かごめの反応が快感となって蛮骨に響く。 (・・・気配を消してやる) もっともっと かごめの色んな顔が見たい。 蛮骨は自分の殺気を全て消し、静かに引き戸の隙間から中を覗く・・・ (・・・白い湯船に咲く花。かごめ・・・か) 欅の木風呂。 湯は乳白色。 降ろされたかごめの長い髪が湯気に少し見える。 そしてかごめの白い首筋が・・・ その白い首筋に見つけた。 自分が唇でつけた印。 (・・・ふっ・・・。花に刻まれた刻印ってな) 色濃く残っている印に悦びを感じる。 あの花は自分の物だと 言っているようで・・・ 「・・・。蛮骨さま。おなごの湯処を覗く趣味があったのですね」 かごめがこちらをじっと睨んで見つめた。 「やっぱり気がついてたのか・・・。気配を消していたのに。 やっぱりおめぇは・・・。ただの料亭の女将じゃねぇな」 「・・・蛮骨さま。それ以上先にお進みにならないでくださいましね。 少なくとも蛮骨さまは男気のある方だと私は思っております」 「あー?男気ぃ?なんだそりゃ。オレは腹減ったら食う。 気に入った女が目の前にいりゃぁ思いっきり抱くまでだ」 バシッ。 蛮骨は戸を蹴破って中に入る・・・ 「・・・」 だがかごめの姿はどこにもない。 (花は消えたか・・・。いや・・・) ヒュン・・・ッ 蛮骨を背後から小太刀が振り下ろされる・・・! 「きゃ・・・ッ!!」 だが蛮骨はかごめの手首を掴みかわす・・・ 「・・・オレの後ろをとるなんてお前が初めてだぜ?かごめ。やっぱり お前は”ただの花”じゃねえな・・・」 「・・・」 「だが・・・。所詮は花は花・・・だ・・・!」 襦袢一枚姿のかごめ・・・。 蛮骨はかごめを引き寄せ、両手を万歳させる形で 壁に押し付ける・・・ 首筋が濡れ・・・ 薄っすら透けてみえる胸元・・・ 「・・・おいおい・・・。お前の肌がオレを誘ってやがるぜ・・・?」 「・・・」 かごめは抵抗する様子も見せずただ無表情・・・ 「怖くはねぇのか」 「・・・蛮骨さまは・・・。おなごをのこころを踏みにじる ことをするほど落ちぶれてはおりませぬ・・・」 「・・・」 かごめの真直ぐに射抜く瞳。 この瞳に 蛮骨の心は激しく揺さぶられる・・・ 熱く熱く・・・ 「・・・ああ。だが・・・。オレの”印”が薄くなってやがる・・・。 つけなおさねぇとな・・・」 蛮骨はかごめの濡れた首筋に 唇を這わせる・・・ 「・・・!」 吸われる感覚にかごめの体全身が震えた 蛮骨の厚い唇。 熱・・・ 心のどこかでこの激しさに踊らされてみたいと思う自分に かごめは気がつき始めて・・・ 「・・・。お前の肌は・・・一番だ」 蛮骨の言葉に 悦びを感じる・・・ (私はいつかこの人に・・・) 「・・・っ」 蛮骨の荒い息がかかる・・・ 全身に熱いものがかけめぐって・・・ かごめの首筋 新たな痕が刻まれた・・・ そして付け終えると蛮骨は掴んだかごめの肩から手を離す・・・ 「・・・着替えな。湯冷めするぞ」 蛮骨は自分が着ていた着物をかごめにふわっと着せた。 「蛮骨さま・・・」 「・・・。お前の着物は貰ったぜ。質屋にでも売るか」 「え?」 見るとかごめの着物と帯を蛮骨はちゃっかり強奪。 「ちょ・・・ちょっと蛮骨さま!!」 「へへ。いい格好だぜ」 かごめ、男物の着物と襦袢姿だけ・・・ 「い、意地悪しないでくださいまし!きゃ・・・」 蛮骨はひょいっとかごめを抱き上げる・・・ 「・・・。うまそうに茹で上がったな」 「なっ」 「へへへ・・・。さぁあて。どっから食ってやろうか〜」 「蛮骨さま!」 かごめを抱えて蛮骨は笑いながら部屋に戻る 「かごめ、犬夜叉が現れるまでは我慢しといてやるが・・・。 オレは短気だ。いつ、お前を食っちまうかわからねぇぞ」 「・・・。蛮骨さまは我慢強い方です」 「ま。もうしばらくはそういうことにしといてやるよ・・・」 悪戯少年 この憎めない微笑み・・・ (私はこの男性(ヒト)に求められことを・・・どこかで望んでいるの・・・?) 蛮骨の腕に抱えられ 鼓動が波打つ・・・ 「かごめ・・・。お前はオレのためだけに咲けばいい・・・。 いつか・・・。それまで待ってやる・・・」 (・・・) かごめの濡れ髪から落ちる雫・・・ 床に 一雫・・・ 蛮骨の言葉が湯上りのかごめの体をもっと火照らす・・・ かごめの中で咲く花。 風呂の裏の庭の蓮の花 蕾が・・・ 咲いたのだった・・・