ガサ・・・。
かごめと蛮骨は道なき道を草を掻き分け歩く。
(・・・私・・・。簡単に蛮骨について来たったけど・・・。大丈夫だったかな)
敵意はあまり感じないとはいえ
何度も自分たちの命を狙ってきた男。
そして欠片を欲しがっている男・・・
もしかしたら自分が持つかけらを狙っているかもしれない・・・
蛮骨の背中をちらちら見ながら歩くかごめ・・・
「お前の四魂のかけらなんてもう狙ってねぇさ」
「!!」
かごめの心を見透かすように笑う蛮骨。
「・・・べ、別に・・・」
蛮骨の笑みがくやしい・・・
「だが余計なことしゃべらねえ方がいいぜ。オレの気が変わるかもしねぇしな」
「・・・」
信じてよかったのか・・・
だが今、妖怪がどこから襲ってくるかも分からないこの山道を
一人で降りるのも・・・
(どっちにしても危険な状況なら私は蛮骨を信じるわ)
ひそかに弓をぎゅっと抱え、かごめは歩く・・・
「・・・痛・・・っ」
草で指先を切る・・・
「・・・はぁー・・・。絆創膏、沢山ないのに・・・」
かごめはリュックから絆創膏を取り出す貼り付ける。
「・・・。生身の人間ってのは面倒だな・・・。墓土の体のオレは
ラクでいい」
「・・・。寒さも温かさも感じない体がいいの・・・?貴方も人間だった頃感じていたもの・・・
思い出したりしない・・・?」
「・・・。想いだすのは人の血の匂いだけだ・・・。女のような甘っちょろい感傷なんて
うざったいだけだ」
「・・・そう・・・」
蛮骨はいつになく多弁な自分に少し戸惑う。
今すぐにでもかごめを斬って四魂のかけらを奪うことは容易なのに・・・
「しゃべってねぇで先を急ぐぞ」
「あ・・・。う、うん・・・」
”心内を誰かに話したい”
自分でも信じられないような要求が心に湧いている。
蛮骨はそんな自分の心模様を打ち消すように
ただ黙って歩く・・・
「・・・。ねぇ・・・。な、何か話してよ・・・。静か過ぎてなんか・・・」
「オレは話しなんぞしたかねぇ。しゃべりすぎると本当に斬るぞ」
「・・・。斬らないわよ。貴方は」
蛮骨はピタリと止まった。
「・・・なんだと・・・?」
「少なくとも今は・・・。私を斬らないわよ」
「なんでそんなことがいえる」
「・・・理由はないけど・・・。ただそう思うから」
カチャ・・・
蛮骨は刀の鞘に手を添えた。
「これでも斬らないっていうのか?お前を斬るなんて造作もないことだ」
「・・・。そうね・・・。斬られたら仕方ない・・・。でも貴方を信じた自分を私は最後まで
貫き通すわ・・・」
「・・・」
手が動かない。
刀を振り上げて下ろせば切れるのに刀からぬこうともしない。
(・・・くそ・・・。調子が狂う・・・。いちいち相手にするからだ・・・)
殺意どころか
敵意すら湧かないそれどころか
かごめともっと話してみたい、そんな想いに蛮骨は苛つきを隠せず・・・
「あ・・・。蛮骨・・・。腕・・・」
かごめは微かに感じた邪気。
蛮骨の腕の土がそぎ落ちて骨が露になっている・・・
「さっきの妖怪にちょっとかじられただけだ」
「けど・・・。四魂のかけらがないと再生しないんでしょ・・・?そのままじゃ
邪気が全身にまわるわ」
「だとしてもてめぇにゃ関係ねぇだろ。つーかむしろ厄介ばらい
できるってか?」
「・・・」
かごめは矢で黒くくすむ蛮骨の腕を浄化する
「・・・無駄なことを・・・」
「無駄かどうかわからないでしょ・・・!」
剥き出しになった蛮骨の腕の骨・・・
腕の土がぽとりぽとりとおちる。
生々しいその光景・・・
「・・・。なにベソかいてんだ。お前は」
「ベソなんか・・・」
ぽろっと・・・
かごめの瞳から涙の粒がこぼれた
「・・・。オレの無様な姿に涙が出るほどおもしろいってか」
「馬鹿いわないでよッ!!!!そんなんじゃ・・・。
私が・・・。私が痛いだけよ・・・」
「痛い・・・?」
「あなたの体は確かに生身じゃないけど・・・。あなたはちゃんと生きてるわ。
あたしの目の前で憎まれ口をたたいてちゃんと生きてるわ・・・」
「・・・感傷的な女はムカつく」
「ムカついてるってことはちゃんと心があるってことでしょう・・・。あなたはちゃんと
生きてるわ・・・」
ぽた・・・
ぽた・・・
蛮骨の腕に
染み込む
かごめの涙の粒が・・・
土の蛮骨に腕に
大地が水が吸い込むように・・・
「・・・ごめー!!!」
「!?い、犬夜叉!??」
森の奥から犬夜叉たちの声が響く
蛮骨は静かに立ち上がった。
「ちょ、ちょっと・・・。まだ腕が・・・」
「・・・なおらねぇもんは治らねぇんだよ。それが死人だ。
消え去るモンなのさ」
「蛮骨・・・」
去り際・・・
蛮骨はぼそっとつぶやく・・・
「・・・世話になったな」
(えっ・・・)
ザワ・・・ッ
一瞬目を逸らした瞬間・・・
蛮骨の姿は風と一緒に消えた・・・
”死人は消え去るモンなんだよ・・・”
「・・・。そんな・・・。そんなこと・・・。私・・・忘れない・・・」
さっき一瞬だけど・・・
(笑ったわ・・・。穏やかに・・・)
かごめの心に
蛮骨の微笑みがはっきりと刻み込まれた・・・
かごめと別れた蛮骨・・・
また
ひとり。
暗い道なき道を
歩く
高く生える木々で月さえみえない
闇の森。
出口はあるのかわからない。
自分がここにいることさえ
ぼやけてくる・・・
無意味なものと感じる・・・
”あなたは生きてるわ・・・。私の前で・・・”
かごめの言葉を思い出し、何気なく腕をみると・・・
(・・・!)
かごめの涙が染み込んだ場所・・・
邪気で黒くくすんだ部分を消えていた・・・
削ぎ落ちた土も元通りに・・・
「・・・」
”痛いのよ私の心が・・・”
かごめの涙が染み込んだところを撫でる・・・
あるはずのない
感覚・・・
ほのかに
温もりを感じる・・・
”あなたは生きてるわ・・・”
「・・・生きている・・・か・・・」
痛みも感じないこの体。
なのに
かごめの透明な涙が
焼きついて
この体に
かごめの涙が染み込んでいる
その事実
「・・・女の涙なんぞ気にしちゃいねぇ・・・」
未来もないこの先の自分。
その虚しさより
無意味さより
あのかごめの涙の意味が
拘っている・・・
「・・・この世に未練などあるものか・・・。少し妙な気分は月のせいかもな・・・」
ずっと続いていた闇。
ふと見上げるといつのまにか小さな三日月が昇っていた・・・
優しいつき灯り。
あの月明かりの下へ行って見たい。
人の血の匂いしかしらなかったけれど
違った何かを見つけられるかもしれない・・・
何故か蛮骨にはその灯りが自分が行くべき場所への道しるべに
見える・・・
「・・・ふっ・・・。行ってみるとするか・・・」
”あなたは生きているわ・・・”
かごめの言葉と涙の意味を探しに・・・