ずっと奥の貴方
一度味わってしまった快感。


そう簡単には消せるわけがねぇ。



染み付いた血の匂い。




生き方を変えることなんてできるわけがねぇ。




いくら惚れた女の言うことでも・・・。




変えられるわけがねえって思っていたのに・・・。







近くの村に妖怪が出たと聞きつけたかごめ。 幸い、妖怪はさほどの力量の妖怪ではなく、かごめの破魔の矢の一発で 妖怪は退治された。 「ふぅ。ちょっとおてんばしちゃったかなぁ・・・」 一撃で退治はしたものの、村の子を助けたときにくじいてしまった 手と膝小僧。 血が少し滲んでいる・・・。 「ふぅ。絆創膏はらなくっちゃ」 かごめは急いで蛮骨が待つ寺に走る。 「!?」 寺に着くとおびただしい血痕が・・・。 「蛮骨!?」 背中を切られた蛮骨が柱に寄りかかっていた。 「ちょ・・・どうしたの!?」 「夜盗どもが絡んできやがった・・・。だからちょっと遊んでやったのさ」 寺の外には蛮骨の鉾に切られた夜盗の死体が転がっている。 「そんな・・・」 「ちっ。あんな野郎どもに切られちまった・・・。八つ裂きにしとくんだったぜ」 「そんな言い方しないでよ!!」 かごめは思わず怒鳴ってしまった。 「もう無理なことは・・・。人を殺めないって約束したじゃないの・・・」 「・・・。そんな約束したかよ」 「したわよ!!もう・・・無茶なことはしないって・・・」 蛮骨は苛立つ。 かごめが悲しい表情をすると・・・。 まるで自分が悪いような気にさせられて・・・。 「てめぇはどうなんだよ。傷つくりやがって・・・」 「私は・・・。近くの村の人が困っていたから・・・」 「困っていたから”人助け?”か?相変わらずおせっかいな女だな。お前」 「悪かったわね!それより、傷みせて!手当てするから。全く・・・」 かごめはむすっとしながら包帯をリュックから取り出す。 「人を殺してでしか生きられない・・・。あなたはそう言ったけど 貴方が一番殺してるのは本当の”自分”でしょ」 「・・・なんだと?」 「本当の・・・優しい貴方を・・・殺さないで・・・」 潤んだ瞳が蛮骨を包む・・・。 (や、やめろ・・・。そんな目で見るな・・・) 胸の中が柔らかくなるようなこの しっとりとした気持ち・・・。 居心地が悪くなる いらいらする・・・。 「蛮骨お願いもう・・・きゃあッ!!」 蛮骨はかごめの両腕を床に押さえつけ、体を倒した。 「・・・痛・・・!」 「イライラするんだよ・・・。いいか?俺はな・・・誰かに指図されるのが 一番むかつくんだ・・・。俺がどんな生き方をしようとお前には 関係ない・・・」 「・・・」 力で押さえ込んでも恐れることなく 自分を見返してくる女・・・。 「ムカつく・・・。お前の目も・・・口も・・・」 蛮骨の血のついた指先がかごめの目や鼻をなぞっていく・・・。 「どうしてそんなに乱すんだ・・・。何故だ・・・!!!」 「・・・っ!」 乱暴に引きずり下ろされた制服。 かごめの白い肌に蛮骨の爪あとついた・・・。 「どうして・・・。どうしてだ・・・。俺を心を乱す・・・? お前を見ていると・・・。変になる・・・」 「・・・。乱してなんかない・・・。ただ・・・。本当の貴方を・・・。信じたいだけ・・・」 「・・・!」 透明な 光って流れるもの・・・。 誰のために流れた涙。 誰のため・・・。 「お前は・・・そうやってすぐ泣く・・・。俺のため・・・俺のために・・・」 「蛮骨・・・」 蛮骨はそのままかごめの胸に倒れこんだ・・・。 「ば、蛮骨・・・?」 「スー・・・」 かごめの胸の谷間に前髪がかかる。 穏やかな寝顔・・・。 「・・・もう・・・全く・・・。怒ったかと思ったら・・・」 かごめには分かる。 どんなに怒ったとしても絶対に今の蛮骨は手荒なことはしない。 奥の奥に隠された優しさを知っているから・・・。 ”どうしてそんなに俺の心をかき乱すんだ・・・” 「・・・私の方こそ心、乱さないでよ・・・。ドキドキさせないで。女の子はそんなに 強くないんだからね・・・」 かごめは微笑んで蛮骨をそのまま両手で包んだ・・・。 愛しい人だから。 「自分を大切にして・・・」 血の匂いを消すように・・・。 愛しい人だからもう・・・自分を他人を傷つけないで欲しい・・・。 願いを込めて抱きしめる・・・。 死人であろうがなかろうが・・・ 確かに心在る心をかごめは感じ そっと抱きしめて 眠りにつくのだった・・・。