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第13話 再会

シャラン・・・。

弥勒の錫杖の音が、宿の入り口に響く。

「もし。御免下され。誰か居ませぬか!」

しかし誰も出てこない。

村人達はこの宿が一番大きく賑やかだと口々に言っていたのに宿の中は静まり返っている。

「変だねやっぱり・・・。この宿にもかごめちゃんいないのかな・・・」

「犬夜叉。どうだ。かごめ様の匂いはするか?」

犬夜叉はくんくんと鼻を効かせるがかごめの匂いは感じない。

「くそ・・・。だがこの城下町からは確かにかごめの匂いがしたんだ!間違いねぇッ!!」

焦る犬夜叉達一行の前に・・・。一人のおなごが階段からゆっくりと下りてきた・・・。

「騒がしいねぇ・・・。何の用だい・・・?」

派手な着物。牡丹の柄。

長い髪を左肩で結った小夜が犬夜叉達の前に姿を現した・・・。

村一の美貌の持ち主の小夜。

やっぱりこの男が誰よりも先に反応した。

「なんと美しい女将でしょう。是非今宵一晩泊まってみたいものですな。どうです。私の子をうんでくださらんか?」

素早く小夜の手をとっていきなりいつも台詞をかます弥勒。

「・・・。あたしゃ亭主持ちだ。それに悪いが年下は趣味じゃないんでね。それにあたしゃそっちの白い髪の僕ちゃんの方が好みだね。フハハハ!」

「・・・」

思いっきり派手にあしらわれた弥勒。かなりショックらしい。

”いい気味だ”と言わんばかりに珊瑚はくすっと笑った。

「あたしはここの女将の小夜ってもんだ。」

「おう、小夜だか魔女だかしらねぇが、派手な女!俺達は止まりに来たんじゃねぇ。かごめって女をしらねぇか?」

「かごめ・・・?”かもめ”なら海にいきゃ腐るほど飛んでるけどねぇ。知らないよ。そんな女」

「隠し立てすると痛い目にあうぜ?かごめを出せ!!微かだが、おめぇの着物からかごめの匂いがする!!!」

犬夜叉は小夜の着物の襟をグッと掴んだ。

「・・・。その態度・・・。『かごめ』って女にアンタは惚れてんのかい?」

「なッ・・・(照)」

思わずパッと襟から手を離す犬夜叉。

「ふッ。初ねぇ・・・。でも悪いけど本当にそんな女、知らないんだ。なんなら宿中、家捜ししてもいいんだよ?」

「けっ・・・。上等じゃねぇか!おい、弥勒、珊瑚、七宝、探すぞ!!」

ドタタタ・・・!

犬夜叉はひょいっとジャンプして二階に上がった。

「荒っぽいことはしたくないですが・・・。ここは探すしかないですな」

「うん」

弥勒と珊瑚と七宝も宿の中をくまなく探していく。

しかし、余裕の表情の小夜・・・。

(フン・・・。好きなだけ探しな。でもかごめは絶対に見つからないさ・・・。絶対にね・・・)

数十部屋もある宿。

犬夜叉達は全部の部屋を探したがどこにもかごめの姿はない。

部屋だけでなく 調理場、納戸、屋根の上まで・・・。

そして何故か弥勒だけはこの場所を『特に』探した。

その場所は・・・女湯。

「きゃー!!」

湯船に使っていた女達はいきなり入ってきた弥勒に驚く。

「いやーすみませぬな。客間と間違えてしまいした。いやはや・・・。そうだ、せっかくですからお背中ながしましょうか?」

わざとらしい言い訳をしている弥勒の背後からやっぱり凄まじい殺気が・・・。

「さ、珊瑚・・・。す、すまぬ。こ、これは客室と間違えただけで・・・」

「客間に風呂なんかあるわけないだろ・・・?問答・・・無用!!」

カコーン・・・!!

風呂の桶が弥勒の顔をすっぽりと覆った。

「すけべ法師なんかほっといて他の部屋さがそ!七宝!」

すたすたと女湯を出ていく珊瑚・・・。

「・・・桶が取れません。珊瑚・・・」

弥勒の顔には桶の痕くっきりとついていた・・・。

一方。犬夜叉。

屋根の上まで登ってかごめの姿を探すがみつからない。

(くそッ!!どこにもかごめの姿おろか、匂いがしねぇ・・・!!あの小夜って女の着物からは微かにするのに・・・!)

すぐ近くにかごめはいる・・・!

そう心は確信しているのに・・・。

イライラが募る犬夜叉・・・。

「畜生!!おい!!かごめだしやがれ!!今すぐだしやがれ!!でねぇと、この宿ブッ壊すぞ!! おい!!きいてんのか!!」

知らん顔で花を生ける小夜に犬夜叉は怒鳴る。

「うるさいねぇ。短気な男は嫌われるよ」

「てんめぇ。下手にでてりゃいい気になりやがって・・・。かごめは何処だ!!」

「知らないっていってるだろ。海になら『かもめ』なら飛んでるよ。フフフ・・・」

犬夜叉をからかう小夜。

「てめぇッ!!女だからって手加減しねぇ!!」

拳をあげた犬夜叉を弥勒は錫杖で一発かまして抑制。

「落ち着きなさい。犬夜叉。感情的になっても仕方がない」

「うるせえ!!かごめがここにいるのは確かなんだ!!」

「長期戦ですな。女将。私達は『客』としてここにとどまってもよろしいかな?ならば問題ありますまい?」

「・・・うちは料金が高いよ」

「それなら心配ご無用。ほら」

弥勒は懐からずしりと重い銭入れを小夜に見せた。

「・・・。まぁいいだろう・・・。空いている部屋なら好きに使いな」

「有り難うございます。では、犬夜叉、珊瑚、七宝。行きますよ」

弥勒は今にも暴れそうな犬夜叉の襟をくいっと掴んでひきづって二階の部屋に上がっていった。

「・・・。姐、どうしやす?かごめ姐さんの仲間の様ですが・・・」

「フン・・・。いくらでも探せばいいさ・・・。絶対にかごめ達は見つかる筈がないからね・・・」

余裕の表情の小夜・・・。


一体、かごめ達は何処に・・・?


一方。二階の部屋に通された犬夜叉達。

障子を開けると、すぐそこは海が見渡せる。

「は〜。潮風が気持ちいいですな〜」

「ほんとだねぇ〜」

弥勒と珊瑚は潮風を満喫。

「おめーらな!!何悠長なこといってんだよ!かごめを探さねぇのか!」

「焦っても仕方ないでしょう。かごめ様がここにいるのは確かなのだから、じっくり持久戦といきましょう。さて。私は湯にでもつかってきますかな」

のんびりムードの弥勒と珊瑚達の態度に犬夜叉はイライラ募る。

我慢が出来ずにもう一度、宿の周りなどを探しに飛び出す・・・。

しかし、いくらどこをどう探してもかごめの気配すら感じられない・・・。

そして一晩たって・・・。

「ダーーーーッ!!もう限界だ!!この宿ブッ壊してやる!!!」

静かに朝食をとる弥勒達の横で、いきりたつ犬夜叉。

「ブッ壊すのは構わないがかごめ様まで一緒に潰すなよ」

「・・・!」

「そうだよ。暴れるなら海に行ってよね」

犬夜叉に突っ込みながら漬け物をぽりぽりと噛む珊瑚達。

「お前ら、かごめが見つからなくてもいいってのか!」

「そんなことはない。大切な仲間です。それにかごめ様がいないと暴れるお前を誰も止められない。それに、かごめ様の居所なら大体予想はついた」

「何!?どこだ!!弥勒!」

「だから慌てるな。慌てると相手側(小夜)とも話ができない」

「・・・言ってることがわからねぇ!ごちゃごちゃ言わずにかごめの居所を・・・」


ギャアアアー!!

砂浜の方からもの凄い絶叫が聞こえてきた。

犬夜叉はすぐ、砂浜に駆けつけると・・・。

「ヒィーーー・・・!」

長い足が8本、全身真っ赤で黒い毛に覆われたの巨大蟹の様な妖怪鋭い夾みで村人達を襲っていた。

「大変だ!助けないと!」

珊瑚は飛来骨に手をかけるが、もう既に・・・。


「風の傷ーーーッ!!!!」

鉄砕牙で妖怪を一気に粉砕。

風の傷の余波が凄く、海が真っ二つに一瞬割れた・・・。

「ハァ・・・ハァ・・・。くそうッ!!あんな雑魚妖怪じゃムシャクシャもおさまらねぇ!!」

「・・・犬夜叉・・・。お前・・・八つ当たり・・・」

もう犬夜叉の我慢も限界らしいな・・・と弥勒と珊瑚は悟る・・・。

「あの・・・。法師様・・・。お助けいただきありがとうございました・・・」

犬夜叉が助けたのは小夜の宿の男・・・。

少し複雑そうな顔で礼をい言う宿の男。

「いえいえ。困ったときはお互い様です。それでと言っては何ですが、小夜さんに話があるから取り次いでもらえないだろうか」

「・・・へい。わかりやした」

男は小夜に弥勒の意志を伝えた。

小夜の部屋に通された犬夜叉達。

金屏風の前で小夜は一人、澄まし顔で座っている。

「・・・さっきはうちの手代を妖怪から助けてくれたんだってね・・・。礼を言う」

「いえいえ。妖怪退治は我々の仕事みたいなものですから。」

「だからって何か聞き出そうとしても無駄だよ」

「それには及びません、かごめ様の居場所は分かりました。かごめ様はこの下です」

「・・・」


シャラン!

弥勒は錫杖でトントンと畳を叩いた。

「下って・・・。法師様、どういうこと?」

「つまりこの宿の下に居るということです。犬夜叉の鼻もかごめ様を感じない、しかし小夜殿からはかごめ様の匂いがする・・・。ということは、小夜殿はかごめ様と接しているということです。宿じゅう探し回ってあと探していないところと言えば・・・。この宿の下しかありません。どうでしょう。私の推理は・・・?」

小夜は表情一つ変えず、手鏡で紅をさす。

「ふふ・・・。頭いい法師だねぇ。確かにかごめはこの下さ」

「じゃあ、今すぐ会わせやがれ!!でねぇと畳にでけぇ穴あけるぞ!!」

犬夜叉は小夜の持っていた手鏡を取り上げてにらみつけた。

「・・・犬夜叉・・・。とか言ったね。あんたはかごめの骨の髄まで惚れてるのかい?」

「んなッ・・・」

唐突な小夜の問いに犬夜叉はたじろいで、後ずさり。

「どうしたんだい。応えられないのかい?」

「んなことおめーに言う筋合い・・・」

「悪いけどね。かごめは私・・・私の友人にとって必要な人間なんだ。だから生半可な気持ちの奴に、仲間だからって簡単に引き渡せない。それでも会わせろっていうなら、このあたしを倒してから畳みでも何でも穴あけな!!」

小夜は畳の上に大の字になって犬夜叉に啖呵を切った。

「さぁ、どうした!!あたしの体に穴あけな!!それくらいの根性を見せろ!!」

小夜の気迫に犬夜叉はただただ唖然・・・。

「犬夜叉!お前も言い返せ!男ならかごめに惚れていると叫べ!!」

七宝が犬夜叉の肩からひょいっと顔出し、参戦。

「う、うるせぇ・・・ッ。お、俺は・・・俺は・・・」

犬夜叉は俯く・・・。


「・・・かごめは・・・元気なのか・・・?」

「・・・元気だよ」

「かごめは・・・ちゃんと飯喰ってんのか・・・?」

「喰ってるとも。海の幸たらふくね・・・」

「そうか・・・」

犬夜叉は小夜の横に静かにあぐらを描いて座る。

「どういうつもりだい?」

「・・・。かごめが世話になってる奴に・・・。手荒なことはできねぇ・・・。お前がかごめに会わせてくれるまで俺は・・・まつ」

「いくら待っても無駄だよ」

「それでも・・・待つ!」


鉄砕牙を抱え、どしりと座る犬夜叉・・・。

「では私達も待つとしますか」

「私も待つよ。飛来骨手入れしながら」

「オラも♪」

犬夜叉の横に弥勒、珊瑚、七宝も並んで座り込む。

「お前ら・・・」

「はーあ。お前の頑固は鉄より石より固いからな」

「そうじゃ。そうじゃ。お前につき合えるのはオラ達だけじゃぞ。な、珊瑚!」

「そうだね。犬夜叉の融通のきかなさは天下一だからね。ふふ・・・」


”今はもう一人じゃないんだから・・・”

何故か犬夜叉の耳にかごめの言葉が響く。


”一人じゃない”

確かに自分には掛け替えのない仲間だと思ってきたが・・・。


今ほどそれを肌で感じた事はない・・・。

「けっ・・・。し、仕方ねぇな。お前らもつき合ってもいいぞ」

照れながらぶっきらぼうに言う犬夜叉。

そのぶっきいらぼうは、犬夜叉の感謝の気持ちの表れだという事も知っている弥勒達。

『仲間』だなんて本当に照れくさいけど、その存在に感謝したくなる・・・。

「あー。もう、何だい、この空気は!!体張ってこうしてるあたしは馬鹿みたいじゃないか・・・!!もうやってられない・・・。好きにしな!!」

小夜は起きあがり、自分が寝転がった畳一枚をべろんとひっくり返した。

すると・・・。

突然現れたのは細い階段・・・。

「・・・。この先にかごめはいるよ・・・。好きにしな・・・。でも、かごめがどんな事を言っても責めるんじゃないよ・・・。記憶はまだ戻ってないんだから・・・」

「・・・けっ。わかってらぁ・・・」


犬夜叉はゆっくりと階段を下りていく・・・。

薄暗い・・・。

壁につけられた蝋燭の火だけが頼り。

足下の階段だけしかうっすらと見えるだけ・・・。

ヒタヒタヒタ・・・。

冷たい木の感触 が不気味さを更に感じさせる・・・。

(どこまで続いてるんだ・・・)

細い長い階段・・・。

ようやく、扉らしきもが見えた・・・。

重そうな鉄の扉。

(ここが行き止まりか・・・?この先にかごめが・・・)

ギイイイイ・・・。

扉の軋む音が異様に響き・・・犬夜叉の目の前に現れたのは・・・。


「なっ・・」


太陽の日差しが眩しい。

犬夜叉は思わず手をかざした。

そして聞こえてきた音は波の音・・・。

犬夜叉の目の前に広がったのは砂浜だった。


犬夜叉は一瞬、宿裏の砂浜に出たと思った。しかし・・・。

「ん・・・!?あの派手な建物は・・・」


遠くに見えるのは自分が今さっきまで居たはずの宿。

小さく、小さく見てる。向こう岸に・・・。

「とするとここは・・・」

そう。犬夜叉が今居るのは海に浮かぶ小さな島だった。

(けっ・・・。なんでい。こんなことなら雲母に乗ってくりゃすぐじゃねぇか・・・)


「・・・!」


潮の香りに混じって・・・。


一番大好きな・・・。


一番心地いい・・・。


優しい匂いが・・・すぐ後ろから薫る・・・。



「・・・流木ってすごく燃えるからいいわね」

しゃがみ、流木を拾う着物姿のかごめ・・・。


トレードマークのセーラー服ではないが・・・。


正真正銘のかごめだ・・・。


犬夜叉はまるで何年も会えなかった相手に会った様な興奮に襲われる・・・。


「かご・・・め・・・」


絞り出す様な声で呟いた・・・。

「・・・?」


自分の名を呼ばれた気がしたかごめ・・・。


きょとんとした顔で・・・。

犬夜叉に振り向いた・・・