永遠の白い羽
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第17話 重なる微笑み

医者の言葉に呆然とするかごめ・・・。

風馬の具合は少なからず良くないとは分かっていたが・・・。

”もう長くはないだろう”

足元がふらつく・・・。

突きつけられた現実がリアルに・・・体を直撃し・・・。

呆然としたのはほんの数秒なのに・・・。

時間が止まった。心臓が止まった・・・。

「・・・ごめ!かごめッ」

「!」

犬夜叉の声にビクッと気がつくかごめ。

「犬・・・夜叉・・・」

「かごめ・・・」

「・・・。あ、あたし・・・。お水汲んでこなくちゃ・・・!」

犬夜叉の声に平静を装うが・・・。

視点が定まらない・・・。

”死・・・?”

急に目の前にその言葉が。まだ昼間なのに視界が真っ暗に・・・。

湧き上がる不安と怖れ。

(そんなことない・・・。絶対そんなことない・・・)


自分に言い聞かせる。何度も何度も・・・。

風馬には悲しい顔は見せられない。

かごめは部屋に入る前、障子を開ける前に頬をパチっと叩いて笑顔にした・・・。

「風馬さん、おまたせ、手拭い、いまかえるね!」

そんなかごめの様子を廊下で犬夜叉は静かに見ていた・・・。

(かごめ・・・)

チャプ・・・。

桶の中で手拭を絞るかごめ。

「かごめ」

「なあに?」

「医者はなんていっていた?」

チャプン・・・ッ。

絞った手拭を再び落としてぬらす・・・。

かごめの反応で悟る風馬・・・。

「・・・。そうか・・・。俺の体は長くはもたないのか・・・」

「な、何いってるの・・・!?そんなこと絶対ないわ!!」

「医者より自分の体の事は自分が一番わかるさ・・・。刀を振ることもままならい・・・。そのうちこの手でにぎる力さえなくなる・・・」

風馬は自分の手のひらを握ったり開いたりした・・・。

「風馬さん、そんなこと絶対にさせないから・・・!きっと治るわよ!!だから頑張ろう!」

かごめは風馬の手をとって言った。

この大きな手のぬくもりを消しはしない ・・・!そう思って・・・。

しかし風馬はそっとかごめの手を放す・・・。

「風馬さん・・・?」

「かごめ・・・。本当にお前の気持ちは有難い・・・。だけどもういいんだ・・・」

「いいって・・・」

「お前はやはり自分の仲間と元へ帰れ」

「風馬さん、まだそんなこと・・・。私はずっとそばにいるって・・・」

「・・・。いなくていい・・・」

(・・・え・・・?)

風馬はかごめを見ようとしない。

目を逸らす。

(風馬さん・・・?)

「風馬さん、こっちを見て。ねぇどうして私を見ないの・・・?」

「・・・」

「ねぇ、風馬さんたら!!」

かごめは風馬の前に回りこんで尋ねた。

「風馬さん・・・。私の顔を見てちゃんと言って。風馬さんの本当の気持ち、ちゃんと言って」

「・・・。辛い・・・。俺は・・・静かに一人で死にたいんだ・・・。お前の笑顔が・・・辛いんだ・・・」

「そ・・・そんな・・・」


「・・・お前には国がある、家族もある仲間もいる・・・。俺に付き合う必要はないんだ・・・。だからさっさと帰れッ!!仲間の元へ帰れッ!!」

「ちょッ・・・」


風馬は強引にかごめを部屋から追い出し、障子を荒々しく閉めてしまった・・・。

「風馬さん、開けて!!お願いだから開けて!!」

「・・・」


激しく障子を叩くかごめ。

しかし固く強く風馬が押さえて・・・。

「・・・かごめ。お前の本当の想い人は犬夜叉殿だろう・・・。記憶が戻ればきっとお前は・・・」

「な、なに言ってるの!私は・・・!」

「同情なら沢山だ。頼むから帰ってくれ!!!!」

怒鳴り声が廊下に響いた・・・。


そしてどこよりかごめの心に・・・。

「何よ・・・。風馬さんの・・・ばかッ・・・!」


かごめはうっすら涙を溜めて・・・屋敷から飛び出した・・・。

「かごめ・・・ッ!」

犬夜叉は追いかけようとしたが。

「犬夜叉殿ッ。待ってくだされ・・・」

風馬に呼び止められた。

「風馬、てめぇッ。かごめの気持ちがわかんねぇのかッ!」

犬夜叉はカッとなって風馬の着物の襟をつかんだ。

犬夜叉の脳裏には医者から風馬の病状を伝えられた時の悲痛な顔が離れない・・・。

「かごめは・・・。かごめは・・・本当にてめぇの事を心配して・・・っ」


「・・・。分かっています・・・」

「じゃあなんであんなガキみてぇな事言うんだ!!てめぇそれでも男か!病気ぐらいで泣き言いってんじゃねぇよッ!!」

「・・・。かごめ・・・。いやかごめ死なせないでください・・・」

「は・・・?」

「また化け鳥や妖怪が来ても俺はもう・・・。かごめを守ることはできない・・・。守ることもできないのに・・・。俺のそばにはおいてはおけません・・・」


掴んだ襟をそっと放す犬夜叉・・・。


風馬の言葉はいつかどこかで自分が弥勒に言った気がした・・・。


かごめを危ない目に遭わせて・・・。もう自分のそばにはおけないと思った・・・。

「なんて・・・。かっこつけてるけど本当は・・・。かごめに毒で弱っていく姿を見せたくないだけなのかもしれない・・・。俺は・・・ 。ゲホゲホッ。ゴホッ」

激しく咳き込みふらつく風馬を手で支える犬夜叉。

「大丈夫か」


「大丈夫です・・・。すいません・・・。優しいですね・・・。犬夜叉殿は・・・」

「・・・べ、別に・・・」


「やっぱり・・・。 かごめの本当の思い人は。犬夜叉殿貴方だ・・・。貴方のところにいるのが自然なんです・・・。二人をみていたらわかった・・・」

「・・・」


記憶がなくてもかごめが犬夜叉のそばに座ると分かる・・・。


二人が培ってきた目には見えない”何か”を感じる・・・。

そう・・・言葉であらわすならば・・・。


”絆”



「俺はもう充分だ・・・。「側にいさせて」という言葉だけで俺は・・・。もう充分・・・。本当に本当に嬉しかったから・・・。俺は・・・。ここで・・・心の中で見守っています・・・。かごめの笑顔を・・・」


風馬は微笑んでいる。


本当はかごめに側にいて欲しいくせに風馬は微笑んでいる。


微笑んで、自分に『かごめを連れて帰ってください』と頼んでいる。


風馬に悲しい顔を見せまいとしたかごめと同じ・・・。


かごめと同じ・・・。


風馬の微笑みがかごめの微笑みと重なった・・・。

「・・・。けっ・・・。格好つけてんじゃねぇ・・・。俺はかごめを見てくる・・・。病人は寝てやがれ・・・」


犬夜叉はかごめを探しに砂浜の方へ高くジャンプして向かっていった・・・。


「・・・犬夜叉殿・・・」



ザザン・・・。


白い貝殻が波に乗ってかごめの足元に。

膝を抱え、波をぼんやり見つめているかごめ・・・。

ゆっくり犬夜叉が近づく・・・。

「犬夜叉さん・・・」

「かごめ・・・」

なんてかごめに声をかけたらいいかわからない。

「風馬さん・・・。演技下手だよね」

「え?」

「”同情なら沢山だ”なんて台詞、根っから武士の風馬さんの本音なわけがない・・。誰より命の重さを知ってる人だから・・・。本音じゃないって信じてる」

「・・・」

かごめの言葉がキツイ。だが・・・。自分の知っているかごめもきっとそう言うだろうと犬夜叉は思った・・・。

かごめは足元に流れ着いた小さな貝殻を拾う。

「信じてるだったら・・・。なんで泣いてんだ・・・」


「・・・。私が辛いのは・・・。支えになれない自分・・・。風馬さんの支えになれない自分が・・・」

「かごめ・・・」


「強がらないで・・・弱いところも前部見せて欲しい・・・」


”弱いところも見せて欲しい”


いつか自分にかけてくれた台詞。


今は他の男のために・・・。

ぐっと嫉妬を拳の中に抑える犬夜叉・・・。


「あきらめたくないの。死なせたくないの・・・ッ。でも・・・私には風馬さんの体の毒をどうすることもできない・・・。私には・・・」

かごめはやりきれない気持ちをガリッと濡れた砂と一緒に掴む・・・。


かごめの一途な想いが犬夜叉の心を締め付ける。


だけど・・・。


「・・・。なら。楓ばばあの所いってみるか」

「え・・・?」

「楓ばばあならなんかいい薬草でも知ってるかもしれねぇ・・・」

「本当!?」

「ああ・・・」


犬夜叉の言葉にいっぺんにかごめは声を弾ませた。

かごめの仕草、声の一つ一つが・・・。


自分に向けられたものではないとおもいしらされる。


だけど・・・。


「ほれ。んじゃ行くぞ!早く乗れ!」

「うん!」


久方に背中にかごめの香り・・・。


温もり・・・。

かごめの心の中に自分はいないけれど・・・。


かごめのそばにいたい気持ちだけは確かだから・・・。


犬夜叉とかごめは雲母を珊瑚から借りて楓の元へとむかった・・・。