永遠の白い羽
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第18話 その瞳に映るのは

雲母に乗って楓の小屋に猛スピードで向かう犬夜叉とかごめ。

「・・・」

かごめは少しでも早く薬草を手に入れたいと落ち着かない・・・。

「そんなに焦るなよ。もう着くぜ・・・」

「うん。でも、風馬さんの具合が気になって・・・」

「・・・。けッ・・・」

わかっているけれど。

チクチクチク・・・。

嫉妬という名の痛みが走る・・・。

こんなにそばにいても、かごめの中には自分はいない。

言葉や態度一つ一つから感じてしまう自分が嫌になるほど・・・。

「ほら・・・。見えてきたぜ。あれが楓ばばあの小屋だ」

楓の小屋に降り立つと丁度、楓が川から水を汲んできたところに出くわした。

「なんだ。お前達か」

かごめはぺこっと楓に頭を下げた。

「はじめまして。楓おばあちゃん」

「”初めまして・・・?”何じゃ今更あらたまって・・・」

かごめの様子がどことなくいつもと違うな・・・と楓は感じた。

「犬夜叉・・・。かごめに何かあったのか・・・?」

「・・・中で話す・・・」

犬夜叉はこれまでのことを楓に一通り話した。

記憶がないこと、そして薬草を取りに来たこと・・・。

「そうか・・・。そんなことが・・・」

「・・・。ごめんなさい。楓おばあちゃん。私・・・」

「かごめが謝ることはない。かごめの記憶はいつか戻るじゃろう。じゃがその武士の事は急を急ぐのだな?」

「そうなんです!!とにかく風馬さんの命は一刻を争うんです!だから何かいい薬草・・・毒消しはないでしょうか!?お願いします!何か知っていたらおしえてください!お願いします!お願いします!」

かごめは楓の両肩をぐっとつかんで必死に懇願・・・。

その必死さからかごめの風馬に対する気持ちを感じ取る楓・・・。

「話はわかった・・・。じゃがその風馬という武士の体は心の蔵まで弱っていると聞く・・・。田とて毒が消えたとしてもどこまで回復するかはわからんぞ・・・」

「構いません!少しでも希望があれば私は何でもします!」

「・・・わかった・・・。この先に赤い小花の群生する野原がある・・・。まれに白い花を咲かす。その花びらには体の中の不純物を降ろす効能があると聞いたことがある・・・。ただし、白い花を見つけ出すのは容易ではない。見つかるかわからんぞ・・・?」

「いいです!!絶対に見つけます!!必ず見つけ出します!!」

もうかごめにはとにかく風馬を助けることしか見えていない・・・。

切ないけれど、まっすぐに風馬を助けたいという思いは楓にもそして誰より犬夜叉にも胸に響いて・・・。

奥歯をグッとかみ締めて犬夜叉は立ち上がる。

「ならかごめ。時間がねぇんだろ!行くぞ!」

「は・・・はいッ」

かごめは楓に会釈をして、急いで小屋をあとにした・・・。

犬夜叉の背中が切なく見えた楓・・・。

(お前も辛いかもしれんが・・・。かごめのために頑張るんじゃぞ・・・)



赤い花が群生している野原に降り立った犬夜叉とかごめ・・・。

「こ・・・こん中から探せってのか・・・」

海原を思うほど広い。ただ、広い。

赤い地平線を見るよう・・・。

「楓ばばあ・・・。こん中から見つけろなんて無茶言うぜ・・・」

「無茶でも何でも見つけるわ!必ず見つけるわ!!」

かごめは制服の腕をまくり、しゃがんで捜し始めた・・・。

「白い花・・・。白い花・・・。待っててね。風馬さん。必ず見つけて帰るから・・・!」

かごめの瞳には、白い花を持ち帰ることしかない・・・。


わかっているのに


わかっているのに

その眼(まなこ)の片隅でいいから自分を見て欲しいという湧き上がる気持ち・・・。

「かごめ、無理かもしれねぇぜ・・・。いくらなんでもこん中から見つけるなんて・・・」

「・・・」

犬夜叉の声も聞こえないほどに集中してさがす。


今のかごめには風馬を助けることしか 見えない 聞こえない・・・。


「・・・ちっ・・・。勝手に・・・勝手にしやがれ・・・ッ!」

犬夜叉はその場にかごめに背を向けて座り込む・・・。

見ていたくはないから・・・。

自分を見ていないかごめの姿なんて・・・。

(待ってて・・・。絶対に見つけて帰るから・・・)

風馬の元気な姿がみたい。

今はとにかく・・・。

犬夜叉の姿はかごめには今は映っていない・・・。


1時間・・・。2時間・・・。

時間がながれていく。

かごめはただ、ひたすら、赤い花をかきわけ白い花びらを捜す。


手を泥だらけにしても


足を汚しても地面に這いつくばって懸命に捜す・・・。

「痛い・・・ッ」

「どうしたッ!?」

かごめの人差し指。葉で切った・・・。

「ちっ・・・。だから言わないこっちゃねぇ・・・」

「大丈夫・・・。こんなのたいしたことないわ」

かごめはハンカチを取り出して自分で指に巻いた。

「そんなんで大丈夫なのか?まだ血がでてっぞ・・・」

「平気だって。こんな痛み、風馬さんの苦しみに比べたら・・・」

「・・・」

チクッ・・・。

風馬、風馬、風馬・・・。


かごめには風馬しか見えていない、風馬しか・・・。


(・・・。くそッ・・・ッ)


拳に湧き上がる嫉妬を溜め、奥歯でこらえる・・・。


こらえなければいけない・・・。

だって何があっても諦めない、まっすぐなのがかごめだから・・・。

「ふう・・・」

額の汗をぬぐいながら、かごめは探す・・・。


かごめの傷だらけの指・・・。


巻いたハンカチはまだ赤く染まって・・・。

「犬夜叉・・・」

「一人で探したって拉致があかねぇだろ・・・」

犬夜叉も腰を下ろし、花を探し始める。

「ありがとう・・・」

犬夜叉が一緒に探してくれてる・・・?


心の奥の弦が、かすかに鳴る・・・。


それでも今は、白い花びら・・・。


ポツ・・・。

かごめの頬に空から冷たい雫。

見るとどんより重たい雨雲が犬夜叉とかごめの上空を覆っていた。

雨はすぐに降り出し・・・。

フサッ・・・。


「着てろ・・・」


あたたかい犬夜叉の衣・・・。


この赤い衣。


この衣に自分は・・・。


守られてきたような気がする・・・。


記憶はなけれども・・・。


「どうした?かごめ・・・。見つかったのか・・・?」


「ううん・・・。なんでもない・・・」


そう・・・。今は風馬のこと・・・。


一秒でも早く見つけなければ・・・。

見つけたい・・・。


しかし雨は皮肉にも強くなって・・・。

ぬれた土で泥に足がとられ、手間がかかる・・・。


それでも探す。


探す


探す・・・。


花びら一枚で救えるかもしれない。


かすかな希望でも


かすかな希望でも


探して


探して・・・


しかし見つからない。

赤い花しか見つからない。


「・・・。かごめ・・・。もう無理じゃねぇか・・・。このままだとお前の体まで参っちまうだろ・・・」

「大丈夫・・・。私は大丈夫だから・・・」

白い花・・・。


白い花・・・。


白い花・・・。

(絶対みつけなきゃ絶対・・・)

「きゃッ」

泥濘(ぬかるみ)にはまりかごめは転ぶ。

「かごめ!」

駆け寄る犬夜叉。その足元に一瞬白いものが見えた。


「あッ・・・!」

「ん?な、何だ?」

「そこッ!動かないでッ!」

犬夜叉の動きを止め、そっと赤い花の茎の根元をそっと掘るかごめ・・・。


直径3センチ程の3枚の白い小さな花・・・。


隠れるように咲いていた・・・。


「あった・・・。あった・・・。あった、あった・・・ッ!!!」


かごめの手の中の白い花。


小さな希望だけど大きい希望に変えられるかもしれない。

「犬夜叉さん、あったの!ほら、見てあったの!あったの・・・!」

泥だらけの顔で、飛び跳ねて喜ぶかごめ・・・。


悔しいけれど・・・。


かごめの喜ぶ顔はやっぱり一番いい・・・。


悔しいけれど・・・。


「見つかったとなれば、少しでも早く帰らなくちゃ!早く・・・はや・・・」


視界が歪む・・・。


かごめはふらついた・・・。

「かごめ・・・!」

犬夜叉が抱きとめる・・・。


その体は熱い・・・。


「かごめ。お前熱が・・・」

「ちょっと疲れただけ・・・。犬夜叉さんの衣のおかげでぬれずにすんだから・・・。それより早く帰らないと・・・。早く・・・。」


なんで・・・。


そこまで・・・。


かごめは犬夜叉の腕から離れようとしたが犬夜叉は緩めない・・・。


「んでそこまで・・・」


かごめは熱でゆっくりぐったりしていく・・・。


「犬夜叉さん・・・。早く帰ろう・・・。風馬さんの所に・・・。風馬さんの所に・・・」


かごめの瞳には・・・。風馬しか映っていない・・・。

風馬しかみえていない・・・。。


「かごめ・・・。お前・・・。何でオレの名前じゃないんだ・・・。何で・・・。オレは風馬じゃねぇのに・・・」


ここにいるのに・・・。


自分はここにいるのに・・・。


「かごめ・・・」


朦朧とするかごめ・・・。


その瞳に映ったのは・・・。


見たこともないほど切なく眉を歪める犬夜叉の顔だった・・・。