永遠の白い羽 第19話 祈りと誕生 あったかい・・・。 あったかい背中。誰の・・・? いつも私を守っていてくれたような・・・。 誰・・・? 「かごめちゃん!」 かごめが目を開けるとあたたかな布団に寝かされていた。 横には弥勒と珊瑚、七宝が心配そうに座っていた。 「かごめ。気がついたか」 「あ・・・。私・・・」 「熱出して倒れたんだ。小夜に熱さましの薬つくらせた。ほら。飲め」 湯のみをかごめに手渡す犬夜叉。 「あ、ありがとう・・・」 ほのかに苦い薬湯。ひえたかごめの体をあたためる。 「どうだ。具合は・・・」 「うん・・・。もう大丈夫・・・。あ、そ、それより薬草は・・・」 「無事だよ。ほら、あそこ」 枕元にあの白い花が・・・。 あの広い野原でやっと見つけた一輪の花。 「よかった・・・。これをなくしたら大変・・・」 かごめはぎゅっと花を握り締めた・・・。。 大切そうに・・・。 「さっそく煎じて風馬さんに飲ませないと・・・」 かごめは立ち上がり居間へ行こうとしたが足がふらつき、布団の上にしゃがみこんでしまう・・・。 「かごめ・・・。もっと休んでろよ」 「ううん・・・。少しでも早く飲ませてあげないと・・・。早く・・・」 「・・・お前な。自分の体のほうこそ大事にしろよ。お前が倒れたらもともこもないだろ」 かごめは犬夜叉の腕を払い立ち上がろうとするが無理やり布団に寝かせる犬夜叉。 「いい加減にしろ!!お前が倒れちまったらもともこもねえッ!アイツ(風馬)だって余計に心配しちまうだろ・・・ッ!」 これでもかというほどに。 胸に湧き上がる嫉妬を抑える。今は自分の嫉妬心より。かごめの体の方が心配で・・・。 「かごめちゃん。風馬さんね、大分落ち着いて今、まだ寝てるから。だから安心して」 「ってことだ。だからとにかく寝てろ!いいな!」 「・・・。はい・・・」 犬夜叉の真剣な瞳・・・。 自分を心配する気持ちが伝わってくる・・・。 なんだか懐かしい、そして嬉しい気持ちを微かに感じて・・・。 かごめは犬夜叉の勧めるとおり、お昼になるまで暫く眠ることにした・・・。 再び布団に横になったかごめはすぐに眠りついた。 「なんだかんだいっても・・・。犬夜叉の気持ち、伝わったんだね・・・。たとえ記憶が戻ってなくても・・・かごめちゃんには」 七宝と珊瑚は犬夜叉にちらっと視線を送った。 「・・・なんだよ」 「なんか今の犬夜叉ちと・・・かっこよかったぞ」 「うん。嫉妬丸出しの時とは大違いで(笑)」 「・・・けッ・・・」 犬夜叉は少し照れてぷいっと後ろを向いた。 少し、ほほえましい空気が仲間達に流れるが・・・。 犬夜叉の心中はまだ複雑だった・・・。 かごめは早速珊瑚と共に釜戸で湯をわかし、摘んできた花びら、茎、葉を煮詰める。 じっくりと下火で・・・。 かごめは竹筒で釜戸の火に息を拭いて火を調節。 「ケホケホッ・・・」 激しく咳き込むかごめ。 「かごめちゃん。大丈夫?」 「うん平気・・・」 「もしまだ辛かったらあたしがやるよ」 かごめは顔を横に振る。 「私がつくりたいのどうしても・・・。だから平気よ」 煙むそうにせきこながら、かごめは必死に火をおこす。 そんなかごめの姿に珊瑚はかごめの風馬への想いを改めて感じた・・・。 白い花は煎じると真っ白の乳白色になった。 かすかに甘い香りがする。 大きな茶釜にめいっぱい作った。 急須に入れ、お盆に乗せ、風馬の部屋へ持っていくかごめ・・・。 風馬は呼吸は安らかに床で眠っていた・・・。 (よかった・・・。息は楽そうね・・・) 静かにお盆を枕元におき、風馬が起きるのを待つかごめ。 部屋の外にはいぬ夜叉が胡坐をかいていた。 「う・・・」 「風馬さん!」 ゆっくりと風馬めざめる。 「う・・・。か、かご・・・め・・・」 「・・・大分長いこと眠っていたね。風馬さん・・・」 「かごめ・・・」 丸一日眠っていたことを始めて知る風馬。 何か甘い香りがするのにきづく。 「風馬さん、あのね。私、解毒に効く薬草を見つけてきたの。それを煎じてみたの・・・。ねぇ。飲んでみて・・・」 湯飲みに注ぐかごめ。 「・・・かごめ。お前の気持ちは嬉しいがオレの体はもう・・・」 バタンッ! 荒々しく犬夜叉が障子を蹴飛ばして入ってきた。 「てめぇ!いい加減にしやがれ!!かごめがどんな思いで薬草摘んできたとおもってやがる!!雨の中熱まで出して採ってきたんだぞ!!」 「・・・!」 そういえば・・・。 かごめの顔色がまだ青い・・・。 疲れているようにも見える。 「かごめ・・・。おれのために・・・?」 「私の熱なんてもう下がったから大丈夫よ。だからお願い・・・。風馬さん、駄目でもともとでもいいから薬飲んで・・・。お願い・・・」 風馬の着物をぎゅっと握って懇願・・・。 その白い手は草で切った跡が無数に残っていて・・・。 その両手を握り締める府馬。 「こんなに傷だらけにして・・・。すまない。かごめ。すまない・・・」 弱気になっていた自分に。 風馬は恥ずかしさがこみ上げてきて何度もかごめにあやまる・・・。 「謝らないで・・・。とにかく今は頑張ろう・・・。ね・・・。お願いよ・・・。風馬さん・・・」 このまま毒に負け、かごめの記憶が戻って何もかもなかったことになれば一番いいと思っていた。 「・・・でも・・・。オレが『頑張った』ら・・・。かごめ、お前に負担を・・・」 ”一緒に・・・” 風馬はかごめの願いに応えるようにかごめの手を握り返した・・・。 そこからは風馬の体を蝕む毒と闘おうという意思を確かにかごめは感じた・・・。 まるでその場から逃げるように。 かごめと風馬を残し部屋を静かに出た犬夜叉・・・。 「・・・」 嫉妬を押し込めて・・・。 弥勒がみかんを一つ犬夜叉に差し出した。 「いらねぇ・・・」 「そうか」 縁側に男二人、座る。 「・・・。辛いな」 「・・・。何がだよ」 「・・・ちっ・・・。うるせえよ・・・」 同じ男として。 分かる気持ちもある・・・。 下手な慰めはいい。ただ、悩める友のそばにいることが大切・・・。 蜜柑の甘い香りが少しだけ犬夜叉の心を癒した・・・。 激しい咳・・・。 薬を投与して三日目。体力が弱っているせいですぐ熱を出す・・・。 汗で額はすぐ濡れて。 「ゴホ・・・ッ」 「風馬さん、ゆっくりのんで・・・」 背中をさすりながらかごめは風馬に薬を飲ます・・・。 朝夕晩。 そしてまた朝が来て・・・。 「ゴホ・・・ッ」 咳き込んでかごめが煎じた薬もうまく飲めない・・・。 それでも風馬は自分で上半身を起き上がりごくごく・・・とかごめが煎じた薬を全部のんだ・・・。 「かごめの・・・くすりだ・・・。一滴も・・・のこせい・・・。ゴホッ・・・」 「風馬さん・・・」 風馬が頑張ろうとしている・・・。 それが何よりも嬉しいかごめ。 「風馬さん、何か食べたほうがいいわ。栄養つけなきゃね。まってて!」 かごめは釜戸へ行き、とりたての野菜を水洗い・・・。 (きっと風馬さんは助かる・・・!きっと・・・!) そう呪文のように唱えながらみずみずしい大根を切るかごめだった・・・。 ひょこっと。屋根から犬夜叉が降りてきた。 布団の横にあぐらをかいて座る犬夜叉。 「・・・。犬夜叉殿・・・」 「・・・なんでい。おきてたのか・・・」 「・・・申し訳ない・・・。かごめにまた世話をかけて・・・」 「何回も謝るんじゃねーよ。とにかく元気になれ」 「・・・はい・・・」 弱弱しい声の風馬・・・。 嫉妬心が不思議に消えるのを感じる犬夜叉・・・。 「・・・。ところでどーなんだ・・・?薬はきーてんのか・・・?」 「・・・さぁ・・・。でもできることなら効いて欲しいです・・・」 かごめががんばってとった薬草・・・。絶対に効く・・・。犬夜叉もそうしんじたい・・・。 「・・・。犬夜叉さん、あなたは半妖ときいた
・・・。半妖というのは病気ナないのですか?」 「んなもんあるわけねーだろ。やわい人間と違って・・・」 「そうですね・・・。人間は弱い・・・。そうですね・・・」 「はァ・・・。風がきもちいい・・・。体が弱る前は・・・。風の穏やかさなんて全く感じなかった・・・」 「・・・」 「・・・こんな弱りきってる俺が言うことじゃないが・・・。より一層・・・。そばにいてくれる人を・・・いとおしいと・・・。感じます・・・」 「・・・」 犬夜叉はだまって風馬の言葉を聞いている・・・。 ”愛しい人” 頬を通り過ぎる優しい波風のように静かに心にはいってくる・・・。 「なんだよ」 「・・・記憶がなくなる前のかごめはどんな・・・」 聞いてみたい。 自分の知らないかごめ・・・。 「・・・けっ。どんなって・・・。今とおんなじでい・・・」 「・・・。そうですか・・・」 犬夜叉の言葉は詳しくはないけど風馬には伝わった。 わかる・・・。 廊下をかごめが走ってくる。 「風馬さん!!ほら見て!」 かごめの腕の中には・・・。 生まれたばかりの白馬の赤ちゃんが・・・。 「それは、もしかして彗(風馬の乗ってきた馬)の・・・」 「そう!彗の赤ちゃんが生まれたの!!さっき、小夜さんが連れてきてくれて・・・!」 かごめは赤ちゃんをそっと風馬に抱かせた・・・。 「・・・あったかいな・・・」 風馬は思う・・・。 そして犬夜叉も・・・。 |