永遠の白い羽
第20話 決意

”きっと大丈夫・・・。助かるから・・・。私が助けるから・・・”

まるで子守唄のよう・・・。

朝目覚めるとそこに母のような優しい寝顔がそばにいて・・・。

「あ・・・。風馬さん、おはよう・・・」

辛い体もかるくなる笑顔。

「今日の具合は・・・どう・・・?」

「ああ・・・。大分調子がいい・・・」

「薬草が効いて来たのね・・・。よかった・・・!待ってて。すぐ何かつくってくるから!」

幾度目の朝だろうか。

自分の目覚めを待っていてくれるおなごがいて・・・。

朝、起きるのがもったいないとおもうほど・・・。こんな幸せな朝が永遠に続けば・・・と思う気持ちは押し殺す風馬・・・。

「なんだよ。元気なったのか」

朝食の匂いを嗅ぎつけてきたのか犬夜叉が屋根の上から登場。

「おはようございます。犬夜叉殿」

「殿はやめろ殿は」

この赤い衣の半妖がかごめの本当の想い人・・・。

嫉妬こそすれど、不思議と色々話してみたい気分にもなる・・・。

ごはんのいいにおいが廊下からしてきた。

「風馬さん、おもゆつくったの・・・って。犬夜叉さん。おはようございます」

「・・・おう」

腕組みをしてぶっきらぼうに挨拶・・・。

「少しでも体力つけなくちゃね」

茶碗に粥をもるかごめ。

「かごめ・・・。今日は少し調子がいいんだ・・・。だから。海に行かないか・・・?」

「え?でも本当に大丈夫・・・?」

「ああ・・・。外の風にあたりたい・・・」


すっかり夫婦のようなやりとりに、犬夜叉、完全に蚊帳の外。

二人に背を向けて胡坐をかいて座る。

「あの、犬夜叉殿」

「だから殿はやめろってどのは」

「・・・。皆さんも一緒に海にいきませんか」

「あ・・・?」

「皆で行ったほうが・・・楽しいですから」


「・・・。別にかまわねぇけど・・・」

「じゃあきまりね!たくさんおにぎりつくらなくっちゃ!」

かごめは腕をまくって言った・・・。


風馬は考えていた。


かごめの大切な仲間達・・・。

いずれ・・・。かごめが帰るところ・・・。


でもその前に・・・。もう少しだけ・・・。

かごめとの思い出が欲しいと・・・。




ザザン・・・。


穏やかな白い波・・・。

砂浜にかにの親子が通り過ぎる・・・。


そこに白いおにぎりが転がる。

かにの親子はおにぎりを食べた。

「あー!おらのおにぎりがぁ!」

七宝、可哀想におにぎり一個、かにの親子にうばわれる・・・。

「ったく。握り飯一個でがたがた騒ぐな!」

「なんじゃい。犬夜叉、お前はもう3個も喰ったくせに!それよこせ!」

「うるせー!」

敷物の上で握り飯争奪戦。

「まったく、相変わらずですなぁ・・・。この潮騒を感じないとは・・・」

お重の中の伊達巻卵を箸でつまむ弥勒。

「・・・セクハラしながら風流語られてもね」

弥勒の悪い手をつねる珊瑚。

「蟹のはさみより痛いです珊瑚・・・(涙)」

いつもどおりの犬一行・・・。

その光景が松の木によりかかって座る風馬・・・。

仲間がいて・・・。

こんな緩やかな時間を過ごすのは

生まれて初めてだ・・・。


風馬は波際に行こうとたちあがる。

「風馬さん大丈夫?肩かすから・・・」

風馬はかごめによりかかって波打ち際に並んで座る・・・。


痩せて細い足首に透明な海の水が浸る。

「ああ、冷たくて気持ちいい・・・」

潮に香り、波がこんなに冷たく心地いいなんて・・・。

「大げさだけど・・・。この冷たさがとても愛しく感じるんだ・・・」

「え・・・?」

「・・・昔のオレは・・・。どうやって戦いの中で生き延びるか・・・。そんなことばかり考えていた・・・。目まぐるしく精一杯の日々・・・。そんな暮らしに嫌気が差して人里はなれて静かにずっと暮らしていこうと思っていた・・・。だけど・・・。どこか悶々としていた・・・」

風馬の足首に再び波が心地いい冷たさを運んでくる。

「そんな時、かごめと出会って・・・。今、こうしている何気ない一瞬一瞬がとても大切だと知ったんだ・・・」

「そんな、私は・・・」

「いや・・・。大世辞なんかじゃない。一瞬一瞬を一生懸命に生きているかごめに・・・。俺も・・・。きっとお前の仲間の人たちも励まされているはずだ・・・」

風馬は穏やかに微笑んだ・・・。

その笑みがかごめに安堵感を与える・・・。

よかった・・・。この人は”生きている”と・・・。


「・・・かごめ・・・お前に出会えてよかったと思っている」

「え?何急に・・・」


少しずつ風馬の瞼が閉じる・・・。

「・・・悪い・・・。少し眠い・・・」



風馬はかごめの肩によりかかって目を閉じた・・・。

「・・・。風馬さん?」

「・・・」


返事がない。


「風馬さん・・・!?」


かごめの胸に急に不安感が襲って風馬の頭を膝の上に置いた。

「・・・風馬さん!」


「・・・スー・・・」


・・・寝息が聞こえた・・・。


かごめは心底ほっとした・・・。


「もう・・・。脅かさないでよ・・・」


膝の上で静かに眠る寝息一つ一つにほっとさせられる・・・。


この人が。


この命が助かって本当によかった。


生きていてくれて、本当に嬉しい・・・。


何よりも嬉しい・・・。


真上に続く青空より嬉しい・・・。


「くしゅんッ」


ふさッ・・・。

気がつくと後ろから赤い羽織を犬夜叉が着せてくれた・・・。


「冷えるといけねぇからな・・・」


「犬夜叉さん・・・」

「だから!その”さん”ってのはやめろつってんだろ!」

いつもと変わらない犬夜叉・・・。

風馬のために一緒に薬草を探してくれた・・・。


この羽織の温もりが胸の奥を微かに切なくする・・・。

「なんだよ。人の顔みやがって・・・」


自分はこの男をきっと覚えている。


体のどこかで。


きっといつか思い出すのかもしれない。


でも・・・。


それまでこの宙ぶらりんな状態はいけない・・・。


誰も前に進めない・・・。


かごめはすっと羽織を脱いで犬夜叉に返した。

「・・・かごめ・・・?」


「犬夜叉さん・・・私・・・」


かごめ犬夜叉をまっすぐに見た・・・。


「私・・・。あの島で・・・。風馬さんとずっと一緒に暮らします・・・」


ザッパーン・・・。


穏やかな波が一瞬・・・。


激しい飛沫を飛ばした・・・。