永遠の白い羽根 第23話


第23話 僕はこの羽根に誓う

消える・・・。


大切な記憶が・・・。

記憶が・・・。


そして・・・。


戻る・・・。


本当の私に・・・。


”犬夜叉”

その言葉が浮かんできた・・・。


「う・・・」

潮の香り・・・。

目覚めると派手な装飾の金色の天井が飛び込んできた・・・。


「お・・・。やっとお姫様のお目覚めかい・・・?」

天井の色そっくりな着物をきたなんともきらびやかな装いの美しい女性。

「腹へってないかい?」

「あ・・・あの・・・。ここは・・・」

「ここはあたしが営んでいる宿さ。この村一番なんだよ。あたしの名は小夜てんだ」

「わ・・・私は・・・」

何故だかすぐに自分の名前がでない。

でもすぐに思い出す。そう私は・・・。

「私は・・・。かごめ・・・。そうかごめです」

「そうかい」


「あ、あの・・・私どうして・・・」

「その先の海岸で行き倒れになっていたのさ」

「海岸で・・・」

「ほら、あんたの荷物はそこに」

綺麗な風呂敷に包みが布団の上に置いてあった。

かごめは起き上がろうとしたが頭がふらつく。

「ほら。まだ寝ていないとだめだよ。まってな。今、雑炊をつくってきてやるから。あたしの宿に運ばれたのも何かの縁だからね」

「あ、あの・・・ッ」


パタン・・・。

小夜は軽くかごめにウィンクして部屋を出て行った・・・。

「・・・」


ザザン・・・。

静かになった部屋・・・。

波の音がする

どうして自分は砂浜で倒れていたのだろう・・・?

全くわからない・・・。

「そうだ・・・。制服は・・・」

風呂敷の包みをそっとあけると、自分が着ていた制服が綺麗にたたまれていた・・・。

(あの小夜って人が洗ってくれたのかな・・・。ん・・・?)

制服の襟の裏に・・・。

(何だろう・・・)


白くて綺麗な羽根が一枚・・・。

何だかとても・・・。


大切なもののような気がする・・・。


白い羽根・・・。


かごめは再び深い睡魔がこみ上げてきた。

羽根を持ったまま・・・。


また眠りつくかごめだった・・・。


かごめが再び眠りについた頃・・・。

犬夜叉たち一行を一匹の鳥が追っていた。

ピー・・・。

バサバサッ・・・!

珊瑚の肩に止まる。

「あれ・・・。この鳥は・・・」

「確か風馬殿が飼っていた鳥ですな。お?何か足について・・・」

弥勒は風牙の足にまきつけられた手紙に気づき、広げる。

「・・・!これは・・・」


「おい・・・。てめーら何やってんだ」

「犬夜叉。すぐ、戻ろう。かごめちゃんが待ってる」

「・・・けッ・・・。何いってんだ・・・」

犬夜叉は少し辛そうに珊瑚に背を向けた。

「かごめちゃんが待ってるんだ・・・!犬夜叉!」

「・・・」

「記憶が・・・。戻ったかもしれないんだよ・・・!かごめちゃんの・・・!」

珊瑚の言葉に犬夜叉は振り向いた。

「かごめの記憶が・・・?」

「ああ。あの小夜って女から伝言だ。だから、迎えに行こう!ね、犬夜叉!」

「・・・」


しかし犬夜叉の足は何故だかすぐには動かない。

本当に記憶が戻ったのか・・・?

例え戻っていたとしても・・・。

かごめの心には・・・。

動かない犬夜叉に珊瑚がキレた。

「”今迎えに行かなきゃ、本当にかごめちゃんがなくなってしまうんだよ!!!」

「・・・!」


"かごめちゃんが本当に消えてしまう・・・"


一番好きな笑顔も・・・。


優しい匂いも。


犬夜叉は沢山のかごめの笑顔を思い浮かべる・・・。


沢山の・・・。

「犬夜叉・・・!!」

珊瑚の一声に、犬夜叉の足が高くジャンプした。

来た道を戻る。


「どうした!早く行くぞ!かごめを迎えに・・・」

小生意気な犬夜叉の声。

でもそれはとても弾んだ声。

「なんじゃ。あの変わりようは。さっきまでは無言じゃったのに・・・」

「かごめちゃんにやっと会えると思ったら嬉しくてたまらないんでしょう。ほら、離れていた”犬”も久しぶりに飼い主に会えると尻尾をぶんぶん振ってよこぶものです」

「ふふ・・・。そうだね!あたしたちも行こう!」


弥勒、珊瑚、七宝も犬夜叉に負けじと小夜の村に引き返す。


大切な仲間を迎えに・・・。





「ご馳走様でした。小夜さんとってもおいしかったです」

小夜に茶碗と箸を返すかごめ。

小夜が作った雑炊を食べたのだ。

「よかった。食欲があるならもう大丈夫だ」

魚のダシで炊いた雑炊。それにしょうゆや塩などで味付けして、かごめは全部茶碗に一膳、たいらげたのだった。

「かごめ。自分の着替えな。あんたの本当の着物に」

「え・・・?」

「・・・たぶん時期にあんたの仲間が迎えにくるよ」

「仲・・・間・・・?」

「そうさ」

「仲間・・・」

かごめは少し考え込んだ。

ドスン!ドタタタ・・・

階段を荒々しく駆け上がる音。

「あら・・・。どうやら丁度よく迎えに来たみたいだね。あの犬耳のガキんちょが」

「犬・・・耳・・・?」


かごめの胸がトクン・・・と鳴った。


ガラガラ・・・!バッタン!

ふすまを蹴り破って犬夜叉が登場・・・。

「・・・ったく。なんて登場の仕方かね。ほら、かごめがお待ちかねだよ」

「・・・」

犬夜叉はかごめの前に静かに右足をたてて腰を下ろした。

「・・・。かごめ・・・」

「・・・」

かごめは犬夜叉をじーっと見る。


「お前・・・。本当に戻ったのか・・・?本当に・・・」

「・・・」

じーっとじーっとくまなく犬夜叉の隅々を見る。

「な、なんだよ・・・(照)」

そして顔を近づけて一言。


「犬夜叉、あんた、また、顔に傷つくったわね!手当てしなくちゃ!」

かごめはリュックの中から救急箱を取り出す。

「まったく・・・!いつも手当てする私の身にもなって・・・! 」

ちょっと怒った顔のかごめ。



包帯と絆創膏を両手にするかごめ。



自分が知っているかごめだ・・・。



かごめが・・・記憶を取り戻した証拠だ・・・!


犬夜叉はかごめを抱きしめたいようと思ったが。

「かごめ〜!!うわーん。戻ったんじゃなぁ〜(涙)」

ぐしゃりと犬夜叉の頭をジャンプ台にして七宝がかごめに抱きついた。

珊瑚や弥勒にも犬夜叉はどかされて先を越される。



「ど、どうしたの?七宝ちゃん・・・。みんな・・・」

首を傾げるかごめ。

「オラ、オラ・・・。ずっとかごめがオラのこと忘れたまんまだったらどうしようとおもっておったんじゃ・・・。
よかったぞ〜」

「忘れたまんまって・・・。どういうこと・・・?」

「かごめちゃん、ずっと記憶をなくしてたんだよ」

「記憶って・・・」

珊瑚が今までのあらましを詳しくかごめに説明しようとすると・・・。

「この近くの崖から落ちて記憶を失ったあんたは、この先の砂浜まで流さたんだよ。な!退治屋のお姉さん」

「え・・・」

小夜が珊瑚の言葉をかなり強制的に遮った。

「ずっと眠ったままだんたんだ。その間、あんたが目覚めるのに効く薬草を捜しにお仲間さんたちは
この辺りをかけずりまわっていたんだよ、なぁ。法師さん」

「は・・・はぁ・・・」


「そうだったの・・・。珊瑚ちゃん、七宝ちゃん、弥勒さま、ごめんね。心配かけて・・・」

「え・・・?あ、う、ううん・・・。かごめちゃんが無事ならそれで・・・」

小夜の突然の作り話に戸惑う珊瑚達。

しかし何か意図があると察知したのかとりあえず、口裏をあわせる。

「んでもって、いっちゃん”かごめが目がさめねぇ”ってやかましかったのが耳の生えた
赤い着物の男さ。まぁうるさいったらありゃしない・・・。ふ。それだけ好きってことなんだろう
けどねぇ・・・」

くすっと小夜はちょっと小悪魔的に笑って言った。

「う、う、うるせぇッ・・・(照)オレがいつそんなこと言った!嘘こいてんじゃ・・・」

小夜に言い返す犬夜叉をじっとかごめは見つめている。

「・・・犬夜叉・・・。ごめんね・・・。あたし・・・。迷惑かけちゃって・・・」

「・・・。別に・・・。気にすることねぇ・・・。とにかく怪我もなくてよかったよ・・・」

「うん・・・」

かごめは申し訳なさそうに犬夜叉の胸に顔をそっと置いた。



犬夜叉は思いっきり抱きしめようとしたが・・・。


「うおっほん!感動の再会シーンはお外でやっておくれ」

小夜の咳払いで中断・・・。

犬夜叉、ちょっぴり残念・・・。

その感動の再会シーンの舞台は浜辺に移る。

犬夜叉とかごめが砂浜に二人座り、少し遠くから弥勒たちが見守っている。

今日の波は一段と穏やかで、波にいったりきたりもゆっくりで・・・。


「本当に心配かけてごめんね・・・」

「気にスンナっていってんだろ・・・」

「うん・・・。ありがとう。犬夜叉・・・」


”犬夜叉・・・”

そうかごめの優しい声に呼ばれると誕生日におもちゃを買ってもらった
子供のように心が躍る・・・。


嬉しくて。

でも。一つ気になることが。


「かごめ・・・。お前・・・」


犬夜叉はそこで言葉を止めた。

その先の言葉は”風馬のことはどうなんだ・・・?”

『風馬はね・・・。強力な記憶を消す薬草を飲ませて、
そしたらその反動で元に戻るかもしれないって・・・。”今”のかごめの中から自分を消したのさ。
かごめの心の奥に犬夜叉、あんたがいるってことがわかって・・・。
これじゃあいけないと思ったんだろうね・・・』

そして、風馬はこの村から姿を消した。

そう、さっき小夜に聞かされたのだった・・・。

「犬夜叉。どうしたの?何か言った・・・?」

「いや・・・何でもねぇ・・・。それより寒くねぇか?」

「大丈夫・・・」

しかし風はやや冷たい。

犬夜叉は衣を脱ぎ、かごめに着せそのまま右手でかごめの体を引き寄せた。

「・・・変なの・・・。なんか優しすぎるよ。犬夜叉・・・」

「わ・・・悪いかよ・・・(照)」

「ううん・・・。嬉しいよ・・・。あったかい・・・」

かごめは更に体を寄席、犬夜叉の胸に顔を置く・・・。

心臓の音が聞こえるくらいに・・・。



何度こう寄り添っただろうか。


哀しいことがあったときも。

嬉しいことがあったときも。



向かい合って抱き合うのもいい。

でも、こうして同じ位置で体を寄せあえば、

同じ景色が見える。

同じ空の、海の色が見える・・・。


「犬夜叉・・・」

「なんだ・・・?」

「もう・・・。絶対に忘れたりなんかしないよ・・・。あんたのこと・・・」

「・・・。ああ・・・。絶対だぞ・・・」

「うん・・・。忘れない・・・」


犬夜叉はかごめの髪を優しくなでた・・・。


別れより、忘れられるほうが辛い。

その人の心の中から自分が消えるほど怖いことはない。

寂しいことはない・・・。

ならば・・・。


風馬は今、どんな気持ちだろうか・・・?


無理やりに想う女の中から自分の存在を消した・・・。


・・・自分が風馬の立場だったら同じことができただろうか・・・?

分からない。

だた・・・。今、自分が誓えるとしたら・・・。




『大切なものを守ること』


柔らかで小さな体。そして心は強く、広く、温かい・・・。

海のように。

そのかごめの心と体を何があっても守り抜くこと・・・。



「かごめ・・・。もうあぶねぇめにはあわせねぇからな・・・」

「うん・・・」

犬夜叉とかごめは、お互いの体の熱が伝わるほどきつく寄り添い
心と心を結ばせた・・・。














そんな二人を・・・。


障子戸の隙間から切ない瞳が見守っている・・・。


がっちりとした肩に風牙を乗せて・・・。


ピィ・・・。

励ますように鳴く・・・。



「・・・。大丈夫だよ・・・。やっぱりちょっと・・・。いや・・・かなり寂しいけどな・・・」

風牙は風馬の言葉が分かるのか風馬の頬に体を摺り寄せた。



砂浜から消えたはずの風馬は・・・。


小夜の宿に居た。


かごめに薬を飲ませ、この村を出ようとしたとき・・・。


再び激しい発作に見舞れ・・・小夜に助けられた・・・。

「・・・風馬。本当に本当にこれでよかったんだね・・・?」

香炉を焚く小夜・・・。

犬夜叉に風馬の匂いを気づかれないためだった。

「ああ・・・。でも本当は誰にも気づかれずに村から出たかったのに・・・。ざまないな・・・。すまん。小夜・・・」

寝巻き姿。黒く艶やかな黒髪をかきあげる風馬・・・。

「ふん・・・。病人がかっこつけるんじゃないよ・・・。気障ったらしいね・・・」

でもそれが風馬なのだ・・・。

自分の幸せよりかごめの幸せを願う・・・

「いつまでも浜辺の切ない場面なんて見ていたら体に毒だ・・・」

「そうだな・・・。悔しいがオレにはかごめにあんな安心した顔はさせられない・・・」



できることなら今すぐにでもここから砂浜に向かって

かごめの名を大声で呼んでみたい。

連呼したい衝動にかられる・・・。


「風馬・・・。あんた・・・」


その”衝動”は涙に流し押さえる風馬・・・



「風馬・・・」


涙が出るほどに

切ない・・・。


痛いほど風馬の気持ちは小夜に伝わった。


「ゴホッ・・・!ゲホッ」


「風馬・・・!」



激しく咳き込みふらつく風馬を、小夜は布団に横にらせた・・・。


「ハハ・・・。子供みたいだな・・・」

「謝るくらいなら・・・。最初からかっこつけるんじゃないよ・・・。今は・・・とにかく病と闘うことに専念
するんだ・・・」

「ああ。わかっている・・・。俺は負けやしないさ・・・。あきらめないさ・・・」


風馬は懐からあの羽根を取り出した。


「この羽根に誓って・・・。かごめともう一度”出会う”ために・・・」


もう一枚同じ羽根をかごめが持っている。

この羽根が・・・チカラをくれる。


毒と闘う勇気をくれる・・・。


「風馬。本当にあんたは気障だよ、でも・・・。誰より強い男だよ・・・」


小夜が少し涙をためて言った・・・。



そして風馬は


再び毒との戦いが始まったのだった・・・。

でも一人じゃない・・・。

大切な羽根があるから・・・