永遠の白い羽根 〜夢の中の貴方〜 夢の中のあの人。 切なくなるほど優しい瞳で見守ってくれている。 あの人。 名前は思い出せないけれど 私はあの人を知っている。 ・・・会いたい。 夢の中でもいいから・・・。 「ふぅ。やっといつもどおりの旅に戻りましたな」 「そうだね。かごめちゃんの記憶がなくなって一時はどうなるかと 思ったけど・・・」 かごめが現代から持ってきたおにぎりを ほおばる弥勒と珊瑚。 犬一行は細い小川のほとりの草むらで昼食をとっている。 「そういえば、あの”風馬”という男はどうなったんじゃろうな」 七宝は何気なく言ったが犬夜叉と弥勒、珊瑚は ギクッとする。 「あやつもかごめに惚れ・・・ぐがッ」 珊瑚が七宝の口におにぎりを突っ込む。 「し、七宝ほら、あたしのおむすびもたべていいよ!」 「そうですな。ほら私のも食べていいぞ」 何も知らないかごめを前に焦る珊瑚と弥勒。 でも帰ってそれがかごめに疑問をもたせる。 「ねぇ。フウマさんて誰なの?みんな私に何か隠してない?」 「か、か、隠してなんか。何もないよ。ね、ね、犬夜叉」 珊瑚はこともあろうに犬夜叉にふる。 「・・・」 犬夜叉は何故だか神妙な顔をしている。 意外なリアクションに珊瑚も弥勒も驚いた。 「犬夜叉は知っているの?なら教えて。私、気になって・・・」 「・・・お前が一番知ってる筈だ。悪い、俺ちょっと風にあたってくる・・・」 複雑な表情で犬夜叉は一人、向こうへ行ってしまった・・・。 「私が一番よく知ってる・・・?どういう意味・・・?ねぇ弥勒さ・・・ってみんな もう寝てる・・・」 弥勒、珊瑚、七宝。 かごめへの説明に困り果てたぬき寝入りだった・・・。 「あーあ。何よ。みんなして私に隠し事して・・・」 小石を蹴るかごめ。 一人小川の淵を歩く。 ”お前が一番よく知ってる筈だ” 犬夜叉の言葉が気になる。 どういう意味だろう。 知らないのに知っている・・・? ますますわけが分からなくなる。 ただ・・・。 かごめは制服の懐からあの羽を取り出す。 白く長く綺麗な羽。 これをくれた長い髪の男の名が”フウマ”ではないかと感じていた。 (フウマ・・・さん・・・) 心の中で呼ぶと深い悲しみと懐かしさがこみ上げてくる。 知らない人なのに知っている・・・。 「・・・わからない・・・」 小川に映る自分の顔を見つめてため息をつくかごめ・・・。 青々しい草の上に座り静かに横になった。 澄み切った空。 いつか、潮の香りがする場所で誰かと一緒に見た気がする・・・。 いつか・・・。 サク・・・。サク・・・。 誰かが草を踏んで近づいてくる。 (犬夜叉かな・・・) かごめは起き上がり振り向くと・・・。 「・・・あ、あなたは・・・」 長い髪。 長身。 腰には長刀さしている・・・。 そしてその手には白い羽根が・・・。 「・・・フ・・・ウ・・マさん・・・なの・・・?」 男は穏やかに微笑んで頷いた。 「あ、あの・・・。ごめんなさい私、あなたの事を知らなくて・・・。でもなんだか 知っているような気がして・・・」 ”謝らなくいいさ・・・。名前を呼んでくれただけで嬉しい・・・” 風馬の声。 透き通るようにかごめの心の中直接に響く。 ”元気だったか・・・?” 「ええ」 ”怪我はしていないか・・・?” 「はい・・・」 父親が娘に語るように 慈しむように・・・。 風馬はかごめの横に静かに座った。 「あの・・・。私とフウマさんって・・・一体・・・」 自分と風馬の関係・・・。 かごめが知りたいのはそのこと・・・。 ”・・・思い出さなくていい・・・” 「でも・・・!」 ”かごめのまっすぐな心で・・・オレを感じていてくれ・・・” 「フウマさん・・・」 風馬の大きな手がかごめの頬を包む。 その大きな手の温もりは陽だまりで・・・。 ”かごめ・・・。今・・・幸せか・・・?” 「え・・・」 ”オレの望みはお前が幸せになることだから・・・” 「・・・.。色々あるけど・・。幸せよ・・・。こうして生きて綺麗な景色を見られる・・・」 ”よかった・・・” 風馬の優しい声に かごめはずっと包まれていたいと感じた・・・。 「風馬さん・・・。貴方は今、何処にいるの・・・?」 ”・・・とても綺麗なところさ・・・。白い羽根が舞い散る・・・” 「・・・!」 風景が一瞬にして変わる・・・。 何枚もの白い羽根が踊るように舞い散る・・・。 まるで粉雪のように・・・。 「わぁ・・・!本当に綺麗・・・」 沢山の羽達。 かごめの肩に 手の平に ふわり ふわりと おりてくる・・・。 「ふふ。あ、私が持ってる羽根、どれだか分からなくなっちゃった・・・。 どうしよう・・・」 ”大丈夫・・・。かごめが生きている限りなくなりはしない・・・” 「風馬さん・・・」 風馬はそっとかごめの耳に羽根を飾った。 「あの・・・。風馬さんは本当は何処にいるの・・・?」 ”いつも・・・お前のそばにいる・・・” 「うん・・・。でも・・・」 かごめはハッとした。 風馬に影がない・・・。 もしや・・・。 「もしかして・・・。風馬さんはもう・・・」 この世のものではない・・・。 かごめはそう実感した・・・。 「嘘・・・。どうして・・・?何で・・・?どうして・・・。どうして・・・」 涙が一気に溢れ出す。 行き場のない悲しみと刹那さが止められない・・・。 ”泣かないで・・・” 風馬はそっと涙を拭う。 「だって・・・。今、こうして目の前に風馬さんが いるのに・・・。手の届くところにいるのに・・・」 ”泣かないでくれ・・・。お前が哀しいとオレも哀しい・・・” 「・・・消えてしまうの・・・?ねぇ行ってしまうの・・・?」 すがるようにかごめはたずねる・・・。 ”かごめが生きている限り・・・オレはお前の中にいる・・・。 いつでも会える・・・” 「風馬さん・・・。でも私は・・・」 ”お前が辛くてどうしようもない時・・・。何処にいたって オレはすぐかごめに会いに来るよ” 「でも・・・。でも・・・」 ”オレが生きた証は・・・かごめ、お前なんだ・・・。だから・・・。 笑っていてくれ・・・” かごめの頬を包む風馬の大きい手に・・・。 かごめの手が重ねられる・・・。 「・・・風馬さん。お願い・・・。消えないで・・・」 ”消えないよ・・・。ずっとそばにいる・・・” 風馬の体が少しずつ・・・。 透明になっていく・・・。 「消えないで・・・!お願いだから・・・ッ」 かごめは必死に風馬の体を掴もうとしたが・・・。 触れられない・・・。 触れたいのに。 消えていく・・・。 「行かないで・・・。神様お願い・・・風馬さんを連れて行かないで・・・」 ”かごめ・・・。ずっと笑っていて・・・” 「笑えないよ・・・!風馬さんが行ってしまう・・・!」 ”大丈夫・・・。オレはずっと見てるから・・・” 消えかける風馬の体・・・。 最後に・・・。 風馬は かごめの額にそっといたわるように 口づけた・・・ 本当の体ではないのに。 触れられた唇は とてもとても あたたかい・・・。 それは世界で一番優しいキス・・・。 ”永遠に・・・かごめを愛してる・・・” 「風馬さん・・・!!」 パアン・・・。 風馬の体・・・。 光の粒となって・・・。 弾いて 消えた・・・。 ”かごめ・・・。ずっとずっと笑っていて・・・。 ずっと・・・” 白い羽根たち・・・。 風馬のかわりにかごめを守るように いつまでも絶えることなく・・・。 舞い落ち続けた・・・。 「・・・!」 パッとかごめの両目が開いた。 鳥のさえずりと草木の揺れる音。 それらでここが『現実』だとかごめに認識させた。 あれは・・・。 夢・・・?。 現実には風馬はいない。 どこへ行ってもどこをさがしても もういない。 いない。 いない。 いない・・・。 「・・・っう・・・」 夢の中であれだけ泣いたのに・・・。 かごめの瞳から涙が溢れ、溢れて・・・。 「風馬さん・・・」 会いたい・・・。 だけどここは現実・・・。 何処へ行っても 会えない・・・ ねぇ神様・・・。 もしいるなら聞いて・・・。 夢の中のあの人に・・・会いたい・・・。 会いたい・・・。 小川にかごめの涙が零れ落ちる・・・。 水面に映るかごめ・・・。 すると・・・ 「・・・!」 水面に映っている・・・。 風馬の笑顔が・・・。 ただ・・・微笑んで・・・。 かごめの幸せを願っているように・・・。 ”お前が生き続ける限りオレはかごめのそばにいる・・・” 「風馬さん・・・」 膝を突き、川の水を飲むように 水面に顔を近づける・・・。 そして・・・。 目を閉じて・・・。 微笑む風馬に・・・。 チャプ・・・。 柔らかな唇を触れさせた・・・。 感じるのは水の冷たさ・・・。 だけど・・・。 どこかあたたたかい・・・。 「風馬さん。ありがとう・・・。本当に本当にありがとう・・・。ありがとう・・・」 かごめの言葉を聴いて・・・。 水面に映る風馬はスッと消えた・・・。 たとえ消えてしまっても。 感じられる。 強い想いが在る限り・・・。 かごめは涙をふき、空を見上げた。 何処までも続く青。 生きていく勇気と元気を贈ってくれる・・・。 「おう。かごめ。おめー、何してたんだよ」 犬夜叉が不思議そうにかごめを見つめる。 「え?うん・・・。私青空が大好きだなって・・・」 「あぁ?」 犬夜叉も空を見上げてみるがイマイチピンとこない。 「ねぇ。あの羽根もってる?」 「羽根・・・。あああれか」 ごぞごそと衣の中から取り出した。 「この羽根をくれた人に教わった・・・」 「何を」 「・・・いつでも希望を捨てちゃいけないって・・・」 「・・・」 かごめはもしや風馬のことを思い出したのか・・・と 犬夜叉は思った。 「お前・・・」 「なあに?」 「・・・いや・・・なんでもねぇ・・・」 思い出したとしても 犬夜叉には何も言えない。 他の男がかごめの心にいても・・・。 ・・・自分のように。 「絶対に羽根、なくさないようにしようね」 「ああそうだな・・・」 「犬夜叉」 「ナンだよ」 「一緒にがんばろうね・・・」 「お、おう・・・」 大好きな人がそばにいる。 なんて幸せなことだろう。 生きて、そばにいる。 それはなんて素敵なんだろう。 特別に賢くなくていい。 特別に強くなくていい。 生きているだけでいい。 生まれてきてくれただけでいい。 それだけでみんな幸せ。 でももし、大切な人と離れてしまったら・・・。 目を閉じてごらん。 大切な人が心の中に いるよ。 だから 泣かないで・・・。 君は大丈夫だから・・・。 君が。 生きているだけで 僕は 私は 幸せなんだから・・・。 |