「光の巫女かごめ」 第一話 私がここに居る意味 前編 見上げる空は。 井戸の向こうの空と同じ色。 生きる世界は違っても向こうで自分が生まれ、育った事実は 変らない。 「・・・」 青空なのにかごめにはどこか・・・重たいくすんだ青に見える。 この世界で生きていくと決めた。 それに迷いはない。 共に生きていくパートナーもいて、 仲間もいる。 けど・・・ (・・・なんだろうな。このキモチ) 「っと・・・ぼうっとしてられない。帰って 薬草の名前おぼえなくちゃ」 かごめは慌てて薬草の名を記した巻物をもって 村へと帰る。 巫女の試験があるらしい。 そのための勉強だ。 (あ・・・) 村に帰ると珊瑚たちが住む小屋から賑やかな声が聞こえてきた。 格子越しに見えるのは 温かな囲炉裏と家族寄り添って食事をする光景。 幼子に粥を食べさせる珊瑚たち。 (・・・珊瑚ちゃん・・・。弥勒さまも・・・。笑顔・・・。ううん。 笑顔を掴んだんだね・・・) 長い長い奈落との闘いの末、自分たちで培った絆。 それが今、こうして微笑ましい光景にかわって・・・。 (みんな・・・何かを得たんだよね・・・) 自分も、好きな相手と共に生きるという道を選んだ。 犬夜叉と共に過ごす日々は 楽しくも有り、時には危険でもあり・・・。 二人で紡ぐ大切な時間。 積み重ねている日々は大切だ。 (・・・。大切な日々を大切に生きているのに・・・。 なにか・・・) ・・・満たされない。 楓の隣に新しく借りたかごめの家。 (まだ帰ってないのか・・・) 勿論、犬夜叉も寝泊りしているが、妖怪退治とかであんまり帰ってこない。 (ったく・・・。相変わらず好き勝手に行動するんだから・・・) 最近は薬草の勉強で、一緒に妖怪退治にはいけない。 それで、何だか不機嫌な犬夜叉。 ”けっ。山犬程度ならオレ一人で充分だ” と豪語して朝早くから出て行った。 (・・・ここにいればちゃんと帰ってくるしね・・・) 当たり前にそう思える。 それは幸せなことなのだと思うけれど・・・。 「うわー・・・。まだこんなにあるんだ」 長い長い巻物。2メートル以上ある巻物には200以上の薬草と効能、使い方 が記してある。 受験勉強を思い出す。 高校合格のため、必死に勉強した。 (がんばらなくちゃね) それを、新品の筆で墨をつけ、新しい巻物に書き写す。 霊力はあるっても、それだけでは人々は助けられない。 (・・・。私は・・・霊力に頼らない、人のために何か出来る 巫女になりたい・・・。・・・ちょっと半端かな) 好きな相手と共に居たくて、この時代を選んだ。 そして肩を並べて同じ空の下で生きていくことを決めた。 (後悔なんてしてない・・・。だけど・・・) かごめの筆が止まる。 (・・・ただ・・・一緒に生きていく”だけ”じゃだめな気がする・・・) 硯に映る自分姿。 巫女服を着た自分。 (・・・) 良く似た姿の”誰か”をふとよぎるのは、きっと自分だけじゃないだろう。 (・・・。私がここに”居る”意味をもっと・・・) 理由はその”誰か影”だけじゃない。 犬夜叉には鉄砕牙がある。 弥勒には強い法師としての力がある。 珊瑚には母として、妻として、そして妖怪退治屋としての強さがある・・・。 (私には・・・?) 犬夜叉の側に居る・・・。 (それだけでいいのかな・・・) 考え込むかごめ。 「・・・っと。とにかく思いつくことをする!うん!」 この心の迷いはなんだろう。 「・・・とにかく・・・今は薬草の名前を覚えて・・・」 筆が止まり、蝋燭の火が消えた。 かごめはうとうと・・・寝息をたてはじめた。 (・・・こっちに来てまでべんきょーばっかしやがって) 屋根の上で、最近まったくかまってもらえなかくて、へそをまげて 寝転がっていた犬夜叉。 こそっと降りて来て、かごめに布団をかける。 (べんきょーべんきょー・・・なんでこんなに すんだ?) 犬夜叉には分からない。 分からないが、かごめが一生懸命にしていることなら応援しようと 思っている。 「・・・犬夜叉の・・・」 (ん?寝言か) かごめの顔を覗き込む。 「・・・アホ」 (んなっ) ピクッと怒りが耳をたてる。 「・・・私・・・ここ・・・居る・・・意味・・・」 (?何いってんだ?) 「ここにいる・・・zzz」 (?何行ってんだ・・・?) 首をひねる。 犬夜叉には分からない。 分からないけど、 (けっ・・・無理すんじゃねぇよ) そっと小屋を出、再び屋根の上で寝転がる。 例え一時村を離れても、かごめはちゃんとこの村に居る。 ”私がここにいる意味・・・” (居んじゃねぇか。何言ってんだ?あの寝言) かごめが側にいてくれるならそれでいい。 かごめが生きていてくれるならそれでいい。 それ以外、望むことはない。 (・・・後でアホってのは謝らせるからな!) かごめの寝言の意味など忘れ、犬夜叉も暫し、眠りについた。 村の空の月。 月の光を・・・なまり色の雲が集まって・・・。 そしてかごめは不思議な夢を見ていた・・・。