また・・・。かごめに辛い思いをさせてしまった。
夜、桔梗に会いに行っていた自分を一人、しゃがんで花火をしていたかごめのその小さな背中が犬夜叉の胸に突き刺さる。
かごめに辛い思いをさせてしまったと自分を責める一方で、
かごめが離れていかないかという不安も同じぐらいに大きくなる・・・。
自分のずるさとかごめへ想いで・・・。
なかなか寝付かれない犬夜叉。
弥勒も七宝も珊瑚も皆日頃の闘いの疲れで熟睡。
しかし、ふと気付くと布団にかごめの姿がなかった。
(かごめ・・・どこいったんだ・・・)
パチパチパチ・・・。
外から微かに・・・。火薬の匂いと花火の音がする・・・。
犬夜叉があわてて外に飛び出すと・・・。
一人、座り花火をしているかごめの後ろ姿がそこに・・・。
「かごめ・・・?まだ花火してたのか・・・?もうなくなったはずじゃ・・・」
「・・・」
声を掛けるが応えないかごめ。
「かごめ・・・」
犬夜叉が近づこうと踏み出した時、かごめの口が開いた・・・。
「犬夜叉・・・。あたし・・・。ずっとかんがえてたの・・・」
「何を・・・?」
「・・・。あたしは一体“何”なのかって・・・」
とても哀しげな声・・・。
犬夜叉の心も不安になる・・・。
「何ってお前・・・。お前はお前だろう・・・?」
「・・・そうね。“桔梗”の生まれ変わりのかごめ・・・。そうだよね」
「何がいいたんだ、かごめ・・・?」
かごめはスッと立ち上がる・・・。
「“桔梗”の生まれ変わりなら・・・。誰でもよかったんだよね・・・。要は“桔梗”の魂を受け継いだ者なら誰でもよかったんだよね・・・」
「ば・・・。バカ言ってンじゃねぇッ!!お前はお前だって何度も言ってンだろ!!」
ポト・・・。
かごめの持っていた線香花火の火が弱まり始めた・・・。
「あ・・・。もう終わりそう・・・。やっぱり花火は切ないね・・・。息が消えそうなくらい・・・」
「かごめ・・・!」
犬夜叉はかごめの側に行こうとした。
「来ないで!!」
「かごめ・・・」
「犬夜叉・・・。あたし・・・。もうこの切なさには耐えられない・・・」
「なっ・・・」
「この花火みたいにね・・・。一瞬だけ夢見ていたのよきっと・・・。あんたとも出逢いも・・・。あんたを好きになったことも・・・」
かごめの哀しい声と供に・・・。
線香花火の火もだんだん・・・。
だんだん・・・。小さくなっていく・・・。
「かごめ・・・!」
「ごめんね。犬夜叉・・・。あたしも・・・。消えるね・・・」
「かごめ・・・!!」
犬夜叉が手を伸ばし、かごめの肩に触れようとした瞬間!
線香花火がポトッと地面に落ち、そしてかごめの姿も・・・。
消えた・・・。
「かごめ!?どこいった!!」
探せど・・・。
「かごめーーー!!」
呼べど・・・。
かごめの姿はない・・・。
「かごめが・・・消えた・・・」
そう・・・。かごめは消えた・・・。
匂いすら消えて・・・。
地面に這い蹲って、匂いを探しても・・・。
心地よい優しい匂いはもうしない。
もうしない。香らない。
「かごめ!!」
楓の小屋に戻っても・・・。
寝床にかごめはいない・・・。
どこにもいない。どこにも香らない。
かごめの全てが・・・。
消えた・・・。
「ちきしょーーーーッ!」
ドンッ!!
地面に想いを拳にしてぶつける・・・。
その手に・・・。まだ使ってない一本の線香花火が・・・。
「・・・。まだ・・・。終わってねぇじゃねぇかよ・・・」
「終わってねぇって・・・。かごめお前が・・・」
“まだ・・・終わってないよ・・・”
「お前が言ったんじゃねぇかーーーーー・・・ッ!!!!!」
夜空の星に・・・。犬夜叉の叫びがこだまする・・・。
けれど・・・。
それに応える優しい声は・・・。
もう二度としなかった・・・。
小屋の冊子から太陽の光が射
して犬夜叉の頬を照らす・・・。
チュン・・・。
雀の鳴き声で目を覚ます犬夜叉。
「かごめ・・・ッ」
夢と同じく、布団にはかごめがいない・・・!
「かごめ・・・ッ!」
犬夜叉は堪らず、外に飛び出す・・・。
すると・・・。
小さな背中がそこに・・・。
夢と同じ場所にしゃがんでいた・・・。
「かごめ・・・!!」
「あ、犬夜叉。おはよう!」
かごめはいつもと変わらぬ笑顔で・・・。犬夜叉に振り向いた・・・。
犬夜叉の体全身に安堵感が走り渡る・・・。
かごめがいる・・・。
そこに、
いる・・・!
大切なかごめがそこにいる・・・!
「犬夜叉・・・。どうしたの・・・?ぼうっとして・・・。あ、そうだ。これ、昨日の花火・・・。まだ一本残ってたんだ・・・。今からしよ・・・。きゃっ・・・」
かごめの体が・・・。
犬夜叉の腕の中に抱き寄せられた・・・。
強引に・・・。
「い、犬夜叉・・・!?」
かごめがいる・・・!
今・・・自分の腕の中にいる・・・!
確かめても確かめても
確かめ足りない・・・!
かごめがここにいる事を・・・。
そんな激しい想いが・・・。
かごめを抱く、犬夜叉の腕に伝わり・・・。
かごめの体を更に強く、強く・・・。
自分の体に吸い込んでもうどこにも出したくないくらいに・・・。
「犬夜叉・・・。あの・・・。花火・・・」
「・・・。花火なんかしたくねぇッ・・・!」
「え・・・?どうして・・・?」
「・・・お前も一緒に消えそうだから・・・」
「犬夜叉・・・?」
かごめが消えるなんて・・・。
嫌だ。嫌だ。嫌だ・・・。
考えたくない。考えたくない。考えたくない・・・ッ!
「犬夜叉・・・。ちょっと痛い・・・」
かごめの言葉も耳に入らないくらいに犬夜叉はかごめを懐に引き寄せる・・・。
柔らかな髪に手を絡ませ、かごめの首筋に鼻をうずめてかごめの匂いも全部を確認する・・・。
髪も・・・。
腕も・・・。
匂いも・・・。
本当のかごめだ・・・。
全部かごめだ・・・。
それが犬夜叉の体に染みこんで・・・。奥の奥まで染みこんで・・・。
「・・・犬夜叉・・・あの・・・」
かごめが顔をあげると、ぎょっとする・・・。
「い、犬夜叉・・・」
オレンジ色の瞳から・・・。溢れ流れる一筋の涙・・・。
その表情はまるで、母をまつ幼子の様に怯えて、哀しみ満ちた・・・。
「お前は・・・。消えないよな・・・?」
「え・・・?」
「花火みてーに・・・。パッと消えたりしねぇよな・・・?」
子供の様にかごめに声を震わせて尋ねる犬夜叉・・・。
「・・・消えないよ。やだなぁ・・・。あたしはずっとそばにいるから・・・」
「本当か・・・?」
「うん」
「本当に、本当か・・・?」
「・・・。本当よ・・・。だから・・・。泣かないで・・・」
かごめはそっと犬夜叉の頬に手を振れ、涙を拭った・・・。
母が子を慰めるように・・・。
更に犬夜叉はかごめの手に自分の手を添えて
かごめの温もりを感じる・・・。
もう片方の手はかごめの背中にきっちり回されて・・・。
「犬夜叉・・・。いつまでこうしてればいい・・・?」
「ずっと・・・。かごめが消えないって分かるまで・・・。ずっとずっと・・・」
「・・・うん・・・。わかった・・・。ずっとずっとね・・・」
抱き合う二人はもう離れない。
離れようとしない。
抱きしめるたび、互いがどれだけ必要としあっているかが身に染みて・・・。
かごめと犬夜叉の恋の花火は消えない。
絶対に消えない・・・!
二人が想い合う限りずっと・・・。
ずっと・・・。