TIME
〜幸せな時〜

晴れた空。

水色の絵の具をこぼしたようなスカイブルー。

雨が続いたこの2,3日。

かごめは久しぶりの青空に深呼吸をする。

「はぁ〜。空気がおいしい!たくさん吸っておこう!」

かごめが手を空に広げていると、犬夜叉が不思議そうに見ている。

「そんなもん喰ってうまいのか?味もしねーだろうに」

「だからおいしんじゃない。新鮮な空気は体も心もスカッとさせてくれるんだから。犬夜叉もいっぱい吸っておいたいいよ」

「へん。いらねーよ。んなもん」


犬夜叉の言葉もどこ吹く風。

かごめは両手を大きく広げて青空を仰ぐ。


犬夜叉はやっぱり不思議だと思う。


当たり前にある空や空気、花や木。

かごめはそんな何気ない物に思いもよらない驚きや感情を持つ。


今、自分が裸足で踏んづけている草花にも、気を配って・・・。


「は〜。なんか。こうして犬夜叉と一緒にのんびり過ごすのも久しぶりだね」

「そうかぁ〜?いっつも一緒じゃねーか」

犬夜叉はごろんと野原に寝転がる。

「・・・。そっか 。考えてみればそうだよね。いつも一緒・・・か・・・」

「な、あのな、別にへ、変な意味じゃねーぞ!」

犬夜叉はガバッと起きあがり、照れ隠し。

「いつも一緒っていうのもなんか変化がなくて寂しいわよね。そうだ!ねぇ犬夜叉。待ち合わせしましょ」

「は?待ち合わせ?」

かごめは立ち上がる。

「明日。この時間に、お互い、ここで待ち合わせするのよ」

「何でだ」

「何でも!いい、約束よ!あたしは一度実家に帰るからね!じゃあねッ」


かごめはそう言って、一人先に楓の村へと帰っていった・・・。

「一体どういうつもりなんでい・・・」

犬夜叉は首をかしげる。

しかし、楽しそうにしていたかごめ。

犬夜叉はかごめの言うとおり、次の日、同じ時間に野原にやってきた。

かごめは実家に一晩泊まってくると行ったまま、まだ帰っていなかった。


「たく・・・。かごめの奴から言い出しておいてまだ来てねーなんて・・・」


犬夜叉は腕を組み、足をコツコツやりながら待っていた。


犬夜叉は頭の後ろで手を組みごろんと寝転がる。


ピー・・・チチチチ・・・。


犬夜叉の頭上を小鳥たちが飛び回っている。


犬夜叉の体を包む草花がゆっくりと揺れる・・・。


赤トンボが花にとまって・・・。


穏やかな空・・・。


新鮮な空気・・・。


かごめがなんでただの空をあんなに嬉しそうに仰ぐのか少しわかる気がする・・・。


犬夜叉は深く深く空気を吸い込む・・・。


「すー・・・ハー・・・」


花の匂いも一緒に・・・。


『新鮮な空気は心も体もスカッとするのよ』


かごめがなんであんなに本当においしそうに、深呼吸するのかわかった気がする・・・。


こんな時間・・・。


こんな穏やかで安らぎに満ちた時間・・・。


今まで知らなかった・・・。


戦い、殺し合い・・・。


孤独で血なまぐさい時間をずっと生きてきた。


奈落との戦い。


空気をこうしてゆっくりと吸うことさえ、忘れていた。


知らなかった。


かごめがいなかったら・・・。


ピーチチチチ・・・。


犬夜叉は小鳥に止まれというように手を空に差し出す。


ピピッ。

黄色の小鳥は犬夜叉の人差し指にとまった。


「けっ。しばらくだけだからな・・・」


自分の手より小さな生き物。


昔の自分はこんな小さな生き物など、全く気にもならなかった。

死のうが生きようが、殺されようが。


かごめに会うまでは、自分にとって大切なのは誰にも負けない力だと思ってた。

誰も信用できなかったから、唯一自分を示す強い力が・・・。


でも・・・。


『ねぇ。犬夜叉。こんな小さな小鳥でもね・・・。辛いとき、手にちょこんととまってくれて、可愛い鳴き声を聴かせてくれる・・・。人の心をふわって和ませてくれるんだよ・・・。ね?すごいね・・・。小さいけどすごいよね・・・』


そう言ってかごめは小鳥を優しく見つめていた・・・。

今なら・・・。


かごめのその言葉がわかる気がする・・・。


こうして自分の手に止まってい小鳥が・・・。


たまらなく愛らしく思えるから・・・。


ピピッピ。


小鳥はキョトンとした顔で首をくりくりっとかしげる。


「へっ・・・。まぬけな顔してんなー・・・。ふっ・・・」


ただ、その顔を見つめるだけで。


そばにいるだけで。


凍てついた心でも、自然に頬がゆるんで


笑顔を引き出してくれる・・・。


この小鳥が・・・。


大切な、大切な、誰かに似ている・・・。


こんな穏やか時間をくれた・・・。


限りなく優しい匂いの愛しい人・・・。


ピピピ・・・!


「あっ・・・」


小鳥はパタパタッと飛んでいく。

犬夜叉の手から離れて・・・。


大空に吸い込まれていく・・・。


大切な何かが・・・。


消えていく様に・・・。


『だって。犬夜叉はもう一人じゃないじゃない・・・』


『一緒に・・・いてもいい?』

思い出す・・・。


あの言葉達・・・。


『わかってるから・・・』


『いいの・・・。好きで一緒にいるんだから・・・』


逃げ出したくなるような


辛い時そばにいてくれたのは誰・・・?


つまらない、馬鹿みたいなことでも


一緒に笑ってくれるのは誰・・・?


何も言わず、自分のすべてを受け入れて


側にいてくれるのは誰・・・?


大きく広がる空。


おいしい空気。水。花。


どんなにそれらが大切な命か教えてくれたのは誰?


誰・・・・・?


それは・・・。


「犬夜叉ーーー・・・!」


それは・・・。


今・・・手を振って自分に向かい、走ってくる少女の笑顔。


一歩一歩近づいてくる


ひだまりの様な笑顔。


「犬夜叉ー !遅くなってごめんねー!」


あの飛んでいった小鳥が帰ってきた・・・。


愛しすぎる笑顔の少女となって・・・。


帰ってきた・・・。


自分の元へ・・・。


「はぁはぁ・・・。久しぶりに出た授業が長引いちゃって・・・。はぁはぁ・・・」


かごめは息を切らして帰ってきた。


「・・・。何?あたしの顔じろじろいみて・・」


「・・・。な、なんでもねぇよッ!」


帰ってきた・・・。


かごめが・・・。


迷子の子が母を見つけた様に・・・。


深い、深い、安堵感に包まれる犬夜叉・・・。


涙がでそうなくらいに・・・。


「たまには待ち合わせっていうのも素敵でしょ?あたし、犬夜叉が待って手くれるって思ったらすっごくワクワクドキドキしちゃった・・・」<


そう微笑むかごめは・・・。


たまらなく、愛らしい・・・。


そして。


犬夜叉にとびきりのおみやげをもってきたかごめ。


「じゃーん!ほら。見て。今、そこの河原で拾ってきたんだ。綺麗でしょー・・・」


かごめは透き通る水晶の様な石を太陽に向け、のぞく。


「きらきらして綺麗・・・。ほら、犬夜叉ものぞいて見てよ」


かごめは犬夜叉に石を渡す。


「なんだ。一体・・・」


犬夜叉ものぞく・・・。


透き通った石に真っ白な太陽が・・・


反射して真っ白く輝く・・・。


それは・・・とても優しい光。


それは、とても温かな光。

まるで、隣の少女の様な・・・。



「ね?綺麗でしょう。きっと七宝ちゃんあたり、喜ぶわね・・・。って犬夜叉・・・?」


石をのぞき込む犬夜叉の頬に一筋、透明なものが流れた。


「・・・犬夜叉・・・?どうしたの?何で泣いて・・・」


「な、な、泣いてなんかねぇッ。目がまぶしかっただけだ!!」

犬夜叉はゴシゴシと着物で涙を付いた。


「・・・。変なの。はぁー・・・。それにしてもやっぱりここの空気はおいしいね!あたしの国って排気ガスとかで汚れてて・・」


かごめはやはり大きく息をする。


「は〜。おいしいな〜!!」


「・・・たしかにな」


「えっ?」


犬夜叉もスウッと深呼吸。


「お前と一緒・・・。だからな・・・」


「犬夜叉・・・」


犬夜叉はかごめの手をきゅっと握りしめる・・・。


どんなに空が青くても


どんなに空気がおいしくても


かごめがそばにいなければ


かごめがそばにいるから


いろんな事が・・・


愛しく思える・・・。



かごめがくれたこの時間・・・。


永遠に続いて欲しいと願わずに入られない。


ずっと・・・。


「ずっと・・・」


「え?」


「ずっと・・・」


その先の言葉は・・・。


握られた手を温もりの中に・・・。


力一杯に・・・かごめの手を包む・・・。


「うん・・・ずっと・・・ね・・・」


ずっと・・・。


この時間が続きますように・・・。


続きますように・・・。


二人は広い広い空に願い続けた・・・。


BZの「TIME」という曲を聴きながら書きました。 犬が感じるものすべてはかごちゃんが隣にいるから、すごく色々なものが新鮮にみえてくるのだと思います。