願い・・・。そして祈り・・・

あたしの腕の中にいるのは・・・。。

きずだらけの犬夜叉の姿・・・。

流れ出る血は止まらない。


どんどん・・・。


つめたくなってく・・・。


つえめたく・・・。


消えていく瞬間・・・。微かに聞こえた犬夜叉の声・・・。


そして・・・今にも絶えそうな息と一緒に・・・。聞こえてきた・・・。


犬夜叉の声・・・。


”オレの分まで生きて欲しい・・・。お前に出会えて良かった・・・”


嫌・・・!!

そんな言葉、聞きたくない !!


お願い・・・!


生きて・・・!!

生きることをあきらめないで!!


出会って良かったなんて言わないで・・・!!


生きて・・・!!生きて生きて生きて・・・!!!!!!


生き抜いて・・・!!!


「!!」


ストン・・・ッ。


犬夜叉の腕の力がぬけた・・・。


「だめ・・・。だめ・・・。絶対にだめ・・・。だめぇええええッ!!!!」


逝っては駄目・・・。

絶対にそれだけはだめ・・・。


駄目・・・ッ!!!


「だめぇえ・・・・ッ・・・!!」


自分の叫び声で目を覚ましたかごめ・・・。


目の前には消えかかったたき火の火種がパチパチと音をたてて・・・。

そして、犬夜叉の衣が自分に掛けられているのに気づく。


「犬夜叉・・・」


かごめはすぐさま、犬夜叉の姿を探した。

目の前にはいない・・・!

「犬・・・ッ」

かごめがふと見上げると木の上で眠っていた・・・。

かごめは安堵感に深く息をつく・・・。

「・・・」


嫌な夢は・・・初めてではない。


でも今のはやけにリアルで・・・。


かごめは犬夜叉の衣を羽織ったまま、小川の方へ少し歩く・・・。

夜の風はちょうどよく心地いい・・・。


星もいつもと同じ、きらきらと輝いて・・・。


でもかごめの心だけがあの夢から覚めていないように、不安感でいっぱいで・・・。


「・・・」


膝ぐらいまで水がつくほどの浅い川。


かごめはしゃがみ、手の先を少し濡らした・・・。


「冷たい・・・」


冷たいと感じると言うことは・・・。間違いなくこれは現実。


でも、心の曇りは冷たい小川の水でも晴れない・・・。


かごめがぼんやり川の流れを見つめていると・・・。


向こうから何かしろい物体が流れてくるのに気がついた。

(何だろう・・・)

かごめがその物体を手で受け止めると・・・。


「!!」


白い・・・。子犬のだった・・・。


かごめは急いで引き上げ、子犬の水をはかせようとしたが、もう子犬は息絶えていた・・・。


「・・・なんで・・・」


小川でおぼれたのだろう・・・。


傷は一つもない。


子犬の体は川の水で冷えたのかかなり冷たい・・・。


かごめの脳裏にあの夢の中の犬夜叉から伝わった冷たさがよみがえる・・・。


「つめたい・・・。冷たいよ・・・」


子犬の体を何度こすっても

こすっても・・・。


温もりは戻らない。


夢の中の様に犬夜叉を何度も揺すったように


子犬を抱きしめて揺すっても


目をあくことはない。


「・・・どうして・・・どうして・・・!」


これが命がなくなる・・・ということなのか。


実に当たり前で


実にリアルな現実。


この子犬は・・・。死に際に一体何を見たのだろう・・・。


川の冷たさ?


草の匂い?


生まれてしばらくしか生きていないこの子犬は今まで何度、温かな温もりを感じただろうか?


一番楽しいと思った事は何だろう?

もう少し早く自分が気がついていれば。もう少し自分を出会っていれば


助けてあげることもできただろう


いや、おぼれることさえなく、どこかの村のあたたかな囲炉裏にあたらせてあげられたかもしれない。


考えてもどうしようもないとわかっていても。


考えずに入られない。


なくした命。


自分は今、こうして生きている・・・。
かごめは桃色の花がさく草むらに石で穴をほる。


スコップもない、両手で掘る。


泥だらけになる制服。


かごめはかまわずに懸命に掘る。



ちょうどいい深さになったところで子犬をそっと土に寝かせる・・・。


子犬の体に少しずつ土をかけるかごめ・・・。


「ここなら・・・。綺麗な花がいっぱい咲いてるからね・・・」


気休めの言葉かもしれない。でも何か声をかけてあげたくて・・・。


もしかしたら、子犬は綺麗な花に生まれ変わって人々の心を和ませてあげるかもしれない。


気休めな想像かもしれない。


でも・・・。でも・・・。


埋め終わり、小石を置き、花を手向ける。


静かに手を合わせる。


ただ・・・。この子犬の魂が安らかに眠る事を願って・・・。


命は儚くてちっぽけだと人は言う。

でも。心は残る。

その命と接した人々。記憶。


この子犬が短い命の中で何人の人間の記憶の中に残っているか。

少なくともあたしは・・・。

この子犬の毛が初雪のようにふわふわしていたことはずっと忘れない。


覚えておきたい・・・。


かごめは立ち上がり、再び小川の淵にしゃがみ、泥だらけの手を洗う・・・。


川面にあの夢の一部がよみがえる・・・。


自分の腕の中で息絶えていく犬夜叉。

’オレの分まで生きてくれ・・・。に出会えて良かった’


「・・・」


バシャンッ!!!


かごめは川面激しくたたいて夢の中の犬夜叉を消す・・・。


バシャン!バシャン!


何度も激しく叩く。


バシャンバシャンッ!!

消えて。消えて。消えて。消えて!!


そんな台詞聞きたくない。


聞きたいくない!


自分の命が消える恐ろしさより恐ろしい。


自分の命が削られていくような痛みさえ感じる。


犬夜叉は自分の命をかけてあたしを守ってくれる。守ろうとしてくれる。


いつか犬夜叉が言った。


”かごめが生きていてくれたから・・・”


嬉しかった。でも・・・。


それはあたしから犬夜叉にも言えること。


命をはって何かを守る・・・。


自分の命など省みず・・・。

そして・・・昔自分のせいで死んでしまった魂のため、共に逝こうという・・・。


「・・・。そんなの・・・そんなの・・・」


かごめは・・・。やりきれない気持ちをぐっと手を拳にする・・・。


たった一つしかないのに。


たった一つしかない命なのに。


そんなに簡単に言わないで。

なくなるのは命だけじゃない。


犬夜叉と一緒にいた楽しい時間。珊瑚ちゃん、弥勒様、七宝ちゃんみんなで笑った時間。


そして・・・あたしと過ごした時間・・・。


全部否定されてしまう。


生きて欲しい。


生きてさえいれば。生きてさえいれば・・・。


生きて、笑って欲しい。


そして今まで何の関係もなく奈落との闘いに巻き込まれた命の分まで。


空の青さを。星空がこんなに綺麗だと見上げて欲しい。


例え・・・この恋があの小さな星のように朝になって消えてもかまわない。


だから・・・。だから・・・。



「クシュン・・・」


小さなくしゃみ・・・。


かごめは羽織っていた犬夜叉の着物に目をやる。

すると、袖口が汚れている・・・。


昼間、妖怪と戦ったあとだ・・・。


「・・・洗濯しなくちゃね。明日・・・」


今、自分が犬夜叉のためにできることは汚れた衣を洗うことぐらい。


自分に一体何ができるだろう。


犬夜叉の・・・。大切な人の命のためになにができるだろう・・・。


「なーに、また一人でふらふらしてんだ。かごめ」


「犬夜叉・・・」


犬夜叉は頭をぽりぽりかきながらかごめに近づく。


「ちょっとね・・・。風にあたってただけ・・・。あ、そうだこれ。ありがとう・・・」


かごめは衣を脱いで犬夜叉に返す。


「今夜は冷えるからきてろよ」


「うん・・・」


かごめを気遣う犬夜叉。


気遣ってくれるのは嬉しい。でも・・・。


衣の代わりはあっても犬夜叉の代わりはいない。


犬夜叉だって寒いだろう。


「ねぇ・・・。犬夜叉・・・」


「何だよ」


「・・・。死なないでね・・・」


「んあ?何いってんだ急に」


「死なないでね・・・。お願い・・・」


かごめは声を思わず震わせる・・・。


「・・・。何だかわかんねーけど。オレがそんな簡単にやられるかよ!」


「本当?」


「ああ」


「本当ね・・・?簡単に命捨てたりしないよね・・・?」


かごめは懇願する様に犬夜叉をじっと見つめた・・・。


「・・・。あったりめーだろ!何いってんだ。かごめお前なんか、あったのか?」


「・・・。ううん。何でもない・・・。ごめん・・・」


自分の不安を犬夜叉にぶつけてしまった。


かごめは自分を少し責める。

「・・・。死ぬわけねぇだろ。お前がいんのに・・・」


「犬夜叉・・・」


かごめの震える手が・・・。


犬夜叉の襟元をそっと掴む・・・。


「約束だからね・・・絶対・・・。ね・・・?」


「おう・・・」


かごめの肩が震えている・・・。


何かにおびえるように。


何かを祈るように・・・。


犬夜叉はどうしてかごめがこんなにせっぱ詰まっているのかいまいちわからない。


ただ・・・。今言ったことに嘘はない・・・。


かごめの震える肩を落ち着かせるようにしずかに引き寄せた。


「・・・何があったかしらねーが。泣くなって・・・」


犬夜叉がこうして生きていてくれる事を体で感じられて。


それが嬉しい・・・。有り難い・・・。


この命が。心がなくなりませんように・・・。


ただ願う・・・。


たった一つしかない命。


そして心。


この恋が一瞬の打ち上げられた花火だとしても。


実らなくてもいい。


心さえいきてくれたら。生きて生きて生き抜いてくれたら。


これ以上の願いはない。


この世のどこかに神様が本当にいるならお願いです。


犬夜叉が・・・。生きることを選んで欲しいのです。


この恋の結末がどうなるとも・・・。


神様。お願い。私の祈りが聞こえたならば・・・。


どうか叶え給え。


彼が『生』 を選び、全うしてくれることを・・・。


彼らしく生きてくれることを私は心から願っています。


神様・・・。



かごめの願いに応えるように・・・。


小さな星がきらきらと光り続けていた・・・。