シグナル

犬夜叉とかごめ。久しぶりにのんびり、野原で二人並んで空を眺めている。

「はぁ・・・。空気が美味しいね・・・。もう秋かなぁ・・・」

「おう。そうだな」

「ふう・・・。こうしてふたりっきりでいるのも久しぶりだよね」

「ああ、そうだな」


犬夜叉のオウム返しな返答にかごめ、ちょっとムッとする。

「あのねぇ。もっと違う答え方ないの?」

「どんな答え方だ」

「・・・」


犬夜叉の鈍感は、筋金入りというより、ここまで来るとちょっと問題である。

「犬夜叉・・・。あたしの事、女の子って思ってないでしょ?」

「女じゃねーか。お前、男なのか?」

「そーゆー事いってるんじゃなくて・・・。ああ、もういいわよッ!」

かごめ、ちょっとキレて、すたすたと楓の小屋に戻ってしまった・・・。

「何おこってんだあいつは!」

犬夜叉、訳が分からず一人、ムスッとして寝転がる。

かごめが一体、どんな答えを期待していたのか、犬夜叉にはいまいちわからない。

ただ、怒ったかごめを機嫌をどうやって直すか、そればかり考える。

そこへ、犬夜叉に救世主?が現れる。

「私の出番ですね。おなごの事ならまかせなさい。ふッ」

「ぐおー」

救世主登場に、犬夜叉、思い切り、寝る。

バッコン!!

弥勒、犬夜叉に目覚めの一発。

「いてっ!!なにしやがる!!」

「寝ている場合ではなかろう。これから私はおなごの心、というものを伝授する」

「おめぇの場合、女ひっかける技じゃねぇのか?」

バッコン!

2発目、食らいます。犬夜叉。

「お前の鈍感ぶりにも、犯罪的なものがあるな。いいですか?おなごというものは、惚れた男に常にシグナルを送っている」

「しぐなる?なんだそりゃ」

「たとえばだな、さっきの例で言うと、かごめさまは「空が綺麗ね」と言っただろう。それは『お前と二人だから綺麗に見えるのよ』と言っているのだ」


犬夜叉、首を傾げて考えるが弥勒の言っている意味がわからない。

「そういうとき、男はな、さり気なく、肩を抱くとか手を握るとか・・・。おなごのシグナルに応えねばならん!そういうアンテナがお前にはないのだ。犬夜叉」

「ん・・・んなこと言ったって俺はわかんねーんだから仕方ねーだろ!どうやりゃわかるんだよ」

「目を見ろ」

「目?」

「おなごは視線で男に自分の気持ちを伝えてくる。常におなごの瞳を気にかけることだ。あとはお前次第。じゃあ、あとはがんばれ。私は珊瑚の瞳を見にいってきますぞ〜」


スキップして、弥勒は珊瑚のところへ駆けていった。

または、一発殴られに・・・。

「目・・・か・・・」


犬夜叉、ともかくかごめの機嫌を直したいので、弥勒から伝授(?)された事をすぐに実行に移す。

かごめの行くところ、行くところ、つけ回す犬夜叉。

それはいつもの事だが・・・。


かごめが薬草を採っている・・・。


妙な鋭い視線を背中に感じ・・・。

振り向くと、犬夜叉がかなり怖い顔で自分をじっと見ている。

(・・・何なの?一体・・・)


無視してかごめは薬草を採る・・・。


行くところ、行くところ、本当についてくる犬夜叉。

眠っていても。


時には・・・。

現代で入浴中のかごめにも・・・。


「出てってーー!!!」

バッシャン!

お湯をかけられ、風呂場を追い出される犬夜叉。

「畜生!弥勒の言ったとおりにしてんのに、なんでこんな目にあうんでいッ!」

戦国時代に帰って犬夜叉、弥勒に八つ当たり。

「お前・・・。筋金入りの馬鹿者だな。じっと目をみろとは言ったが、誰が四六時中と言った」

「違うのか!」

弥勒、犬夜叉をちょっと横目で見る。

「な、なんだよ」

「お前、鈍感ぶってるだけで、実は本当は確信犯だな?要するにかごめ様と離れたくないと言う・・・」


「そっ、そんなんじゃねぇよッ。俺はお前の言ったとおりに・・・」

でも要するに、かごめの事が気になる事であり・・・。


「いいか?とにかく二人切りになるのだ。あとはその場の雰囲気に任せて・・・」

囲炉裏で男達がひそひそとしていると、かごめが帰ってきた。


風呂上がりで、犬夜叉は敏感にシャンプーの匂いを感じた。

つんつん。

弥勒が肘で犬夜叉をこづいて、耳打ちする。

(ほら・・・今ですよ。早速かごめ様と二人切りになるチャンス・・・)

「わ、わかってらぁ!おい、かごめ!!ちょっとこいッ!!」

「え?な、何?」


犬夜叉は強引にかごめの手を引っ張って、小屋を出ていった・・・。


果たして、弥勒の言ったことがわかっているのかどうか・・・。


弥勒は茶を啜りながら、言った。


「まぁ、なるようになるでしょう・・・。がんばれ犬夜叉・・・」



そして犬夜叉。


かごめをいつも来る野原に連れてきて、並んで座る二人。


草むらから鈴虫の鳴き声が響いてくる。

「あの・・・。犬夜叉?用って何?」

「・・・」


犬夜叉は口をつぐみ、腕を組んで無言。

そしてかごめの目をじっと見る・・・。

(な・・・何なのよ。一体・・・)

じいいいいっ。

食い入るように見る。


犬夜叉、必死にかごめからのシグナルを感じようとするがまったくわからない。

(畜生!やっぱ、わかんねぇッ!!)

「?」

かごめは犬夜叉が一体何をしたいのか、わからず首を傾げる。

その時。

犬夜叉のまぶたに糸くずがくっついているのに気づく。

「あ、犬夜叉、ちょっと動かないでね・・・」


見つめていたかごめの顔がぐぐっと犬夜叉に近づく。

(なっ・・・何する気だ・・・)


犬夜叉、緊張のあまり、正座して固まる・・・。

「ちょっと動かないでね・・・。いま取るから」

かごめはそうっと犬夜叉のまぶたから糸くずをとる・・・。

犬夜叉は何だか全身がくすぐったくて、ゾクっとした・・・。

(な、なんか脈が速くなってきた・・・)


かごめの体から、せっけんのいい香りがしてクラクラ・・・。

「はい、とれた」

しかし、犬夜叉、何だか気分が高ぶってきてかごめの目を見られない。

「あれ?犬夜叉、どうしたの?なんか緊張してるみたい・・・。もしかして、ドキドキしてた?今?」


「ば、バババ馬鹿言うなッ!!お、俺はただ・・・」


かごめはにこっと笑った。

「嬉しいな」

「は・・・?何でだよ」


「だって・・・。なんか意識してくれてるのかな・・・って・・」

犬夜叉、かごめ、照れくさくてちょっと視線をそらす。


「・・・」


「・・・」


ドキドキ・・・。


久しぶりに胸が高鳴る・・・。


ときめき・・・。


「お前・・・。なんで人の心・・・わかるんだよ・・・」

「なんでって・・・。犬夜叉の目とかみたらなんとなく・・・ね・・・」

「『シグナル』ってやつか・・・。弥勒が言ってた・・・。目は人の心のシグナルだって・・・」


「そうかもしれないね・・・。じゃあ、犬夜叉。あたしが今、何を思ってるか、わかる?」


かごめはチラッと犬夜叉を見た。

(う・・・。何って・・・)


『ここぞ!という時に男は決めないと!』


弥勒の言葉がよぎる。

「なーんてね。ごめんごめん。意地悪なことい・・・」


ぐいッ。


かごめの肩を引き寄せる犬夜叉・・・。


それもすごく強引に・・・。


「・・・お前のシグナル・・・違うのか・・・?」


「・・・ううん・・・。大正解・・・」


かごめは犬夜叉の胸に顔を擦り付ける様に体を密着させた。


かごめの体から・・・。甘い香りが犬夜叉に伝わって・・・。


もっと抱きしめたいと思わせる・・・。


「でもね。犬夜叉・・・」

「何だよ・・・」


「目を見なくてもね・・・。あたしは犬夜叉の事・・・。離れててもわかる気がするよ・・・。いつもあたしを見守ってくれる犬夜叉のシグナル・・・」


「・・・けっ・・・(照)」


愛しいという言葉を身をもって実感する。

腕の中の存在を羽交い締めにしたいくらいに愛しい・・・。


かごめの言葉に・・・。犬夜叉は精一杯応える・・・。


「俺だってな・・・わかるんだよ・・・。離れてたってお前を感じてるからな・・・」


(・・・気障だっただろうか・・・。こんな台詞・・・)

しかし、犬夜叉だって決めるときは決めたい。

「ありがと。犬夜叉・・・」


「お・・・おう・・・」


気障な台詞もたまにはいい。


本当の気持ちを素直に言っただけだから・・・。


近くにいても離れていても、感じる。


あったかい気持ち。


ドキドキする気持ち・・・。


好きな相手を想う気持ちはずっと発しているから・・・。


それが一番大事なシグナル。


「犬夜叉。いつかキスしようね」


「な、なななな何いってんだよ!」


ちょっと刺激的なシグナルも・・・たまには・・・ね。

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