おなご達がなにやら嬉しそうに話している。
かごめはリュックの荷物を整理しながら。珊瑚は飛来骨を磨きながら。
「珊瑚ちゃん、よかったね〜♪プロポーズ、もうあたし、聞いてても感激しちゃった」
「う、うん・・・」
「『共に生きていこう』だなんて♪何だかんだ言っても、珊瑚ちゃん、愛されてるんだよね」
「う、うん・・・」
珊瑚は照れくさそうにもじもじする。
昨日、弥勒が珊瑚に告白したことで盛り上がっているかごめと珊瑚。
今まではっきりしなかった微妙な関係も互いの気持ちを確認し合った二人。
「でも・・・。法師様の事だから浮気の心配は尽きないよね。ハァ・・・。今から先が思いやられるなぁ」
かごめはにこっと珊瑚をじっと見る。
「な、何?」
「うふふ。今の台詞、なんかもう『奥さん』って感じだったよ」
「や、やだ、もう・・・ッ。かごめちゃんたら・・・!」
「うふふ・・・」
照れくさそうに笑う珊瑚。
珊瑚の笑顔を見ていて、かごめは、本当によかったね・・・と心の底から思った。
まだ続く闘い。弥勒の言葉は珊瑚の心の支えにきっとなると・・・。
「珊瑚ちゃん、幸せになってね」
「え・・・?」
「ううん。何でもない。あ、犬夜叉達が帰ってきた!」
今晩の夕食の材料を調達してきた男達。犬夜叉は大きな川魚を抱えて戻ってきた。
「おかえり!法師様」
「はい。珊瑚。キノコが沢山とれましたよ」
まるで、稼ぎ出た夫を出迎えた妻、新婚の様な二人。
(・・・二人とも、なりきっちゃって・・・。でもいい顔してるなぁ・・・)
それに比べ犬夜叉は。
疲れたと言って、囲炉裏の横でごろんと横になって眠っていた。
「はー。めんどくせぇ。おい、腹減った。めしにしよーぜ」
「・・・」
「なんでい。人の顔じっとみやがって」
「・・・。何でもない。さ、ご飯にしよう」
首を傾げる犬夜叉。
しかし、珊瑚はかごめの一瞬、切ない目をしたのを見逃さなかった・・・。
夕食の後、かごめはちょっと実家までお使いに。
「なっ。また、かごめの奴、勝手に帰ったのか!!」
かごめは、朝早くに実家に帰ってしまっていた。
そしてやっぱりお怒りの犬夜叉。
「いちいちうるさい奴だね!かごめちゃんはあんたの持ち物じゃないんだよ!」
いつになく、厳しい言葉の珊瑚。
キッと犬夜叉を睨む。
「な・・・。なんだよ。俺、何も悪いことしてないぞ!!」
「自分が悪い事に気がつかない、それが、悪いんじゃないの!!鈍感、無神経!」
珊瑚の迫力に犬夜叉、怯む。
何故だか、犬夜叉に風当たりを強くする珊瑚。
訳がわからない犬夜叉だ。
「ただいまー!」
そのうち、大きく盛り上がったリュックを担いだかごめがご帰還。
「かごめ、てめぇ一体何しに帰ったんだよ」
「何しにって・・・。ちょっとね」
「ちょっとって何だよ」
「ちょっとはちょっとよ。用があるのはあんたじゃないの。珊瑚ちゃん、ちょっとこっちに来て!」
かごめは珊瑚の引っ張って、外に連れ出す。
「なんだよ!!かごめの奴・・・!」
いつもの如くにふてくされる犬夜叉。
それにしても、かごめは一体、何をしようというのだろうか?
それから10分ほどして・・・。
「弥勒さまー!!犬夜叉、外に来て!」
かごめがご神木の前まで犬夜叉と弥勒を呼び出す。
「かごめ様。一体何事ですか?」
「いいから。いいから。珊瑚ちゃん、出てきていいよー!」
しかし出てこない珊瑚。
「か、かごめちゃん、やっぱり恥ずかしいよ。それになんかすかすかする・・・」
「そんなことないって。ね、ほら・・・」
かごめの言葉に、ご神木の後ろから珊瑚が出てきた・・・。
「珊瑚、お前・・・」
白いワンピースに白いベール。
手には野で積んだ白い花で作ったブーケを持った珊瑚・・・。
「えへへ。どう?珊瑚ちゃん、綺麗でしょ?お母さんのワンピ借りてきたの」
かごめは実家に行き、珊瑚に着せるためのドレスを用意していたのだ。
「戦国時代にドレスって何か変だけど、いいよね。ね、どう、弥勒さま」
弥勒は珊瑚をじっと見つめた。
「珊瑚。綺麗ですよ。とっても似合っている・・・」
紅くなる珊瑚。
「法師様・・・。あ、ありがとう・・・」
何だかとってもいい雰囲気になってきたところで、かごめは更に計画(?)を進める。
珊瑚と弥勒をご神木の前に立たせ、腕を組ませた。
「じゃ、これから、結婚式を始めマース!いい?二人とも、これから私が質問することに全部『誓います』って言ってね」
かごめ一人で司会を進める。
「おい。かごめ。俺はどうしてりゃいいんだ」
「ああ、あんたは珊瑚ちゃんのベールの裾、持って」
「なッ・・・」
犬夜叉、お手引き役に抜擢。しかし何だか面白くないような顔でふてくされる。
そんな犬夜叉を余所にかごめ神父(?)結婚式のあの台詞を言い始める。
「ええと・・・新郎、弥勒は健やかなるときも病めるときも、妻珊瑚を生涯愛し抜くことを誓いますか?」
「誓いますよ。一生」
弥勒はキリッとした顔で言った。
そして次は珊瑚に。
「では妻珊瑚、健やかなるときも病めるときも生涯夫・弥勒を愛し、守り抜くことを誓いますか?」
「・・・はい。誓います」
珊瑚は弥勒を見つめながら言った。
「さて、じゃあね。ここからは本当は指輪の交換。本当はその後、口づけもあるんだよ」
「えッ・・・」
珊瑚、全く聞いていなかったので、かなり驚く。
しかし、弥勒の方は・・・。
「私は準備万端です!!」
と気合いは既に入っている。
「そ、そんな・・・。でも・・・」
珊瑚は戸惑い、うつむいてしまった。
「!」
何を思ったか弥勒、突然珊瑚の手をとった。
「かごめ様。指輪はいりません。私達は目に見えない輪で結ばれているのですから・・・」
そして弥勒はふわっと珊瑚の薬指に軽く口づけをした・・・。
「これが指輪の代わりです。永遠の口づけのね・・・」
「法師様・・・」
「奈落から琥珀を取り戻して、お前の花嫁姿を見せてやりたいな」
弥勒の言葉に珊瑚は感極まってポロッと涙があふれた。
琥珀がまだ、奈落の手にあるのに、自分だけが幸せな気持ちに浸ってはいけないという気持ちがどこかにあった珊瑚・・・。
弥勒の言葉が胸に染みたのだった・・・。
が。
この男は本当に余計なことをズバッというものだ。
「けっ・・・。湿っぽくなりやがって」
「何よ、その態度。さっきからあんた・・・。珊瑚ちゃんと弥勒様の事、何で嬉しそうにできないのよ」
「んなことねぇけど・・・」
「あんたがこういう照れくさい事、苦手だってわかるけどさ・・・。なにもそんなつまらなそうな顔しなくたって・・・。もういいよ・・・」
「かごめ・・・」
「じゃ、最後の仕上げ、写真撮ろう!」
かごめはポケットから使い捨てカメラを取り出す。
「ほら、珊瑚ちゃん、弥勒様、腕組んでもっと寄り添って」
「こ、こう・・・?」
「そう。とってもお似合い。あ、犬夜叉、あんた、珊瑚ちゃんの後ろの布、持って」
犬夜叉はちょっとムッとしながらもかごめの言うとおりにする犬夜叉。
「じゃ、いくね・・・。ハイ 、チーズ!」
カシャッ・・・。
戦国時代での弥勒と珊瑚のウェディング。
ご神木をバックに仲間の強い絆をフィルムにおさめたかごめだった・・・。
次の日の夜。現代で早速写真を現像して、珊瑚と弥勒に見せるかごめ。
「おおー。すごいですなぁ。かごめ様の国の機械は・・・。超二枚目法師の私がこんなに綺麗に映っている・・・」
マジマジと写真を眺める弥勒。
「これ、二人にプレゼントするね」
「ありがとう。かごめちゃん。ずっと大切にするよ」
木の写真立てを手渡すかごめ。
珊瑚の横からひょこっと顔を出し、七宝が写真立てを見て笑う。
「きゃははは。犬夜叉、お前、珊瑚の頭の布をもっておる〜♪何だか珊瑚の飼い犬みたいじゃの」
バキッ!
「わ〜ん・・・」
犬夜叉におしおきされた七宝。
「もう。犬夜叉、あんたねぇ、乱暴すぎるわよ!!七宝ちゃんに手加減ぐらいしなさいよね!」
「うっせーよ。お前の遊びにつき合ってやったんだから感謝しなっ」
犬夜叉、まずいことを口走ったとハッとする。
「・・・『お遊び』・・・。そっか。そうだよね。あんたにとっては面白くないことだよね。やっぱり・・・。ごめんね・・・つき合わせて・・・」
「あっ。かごめちゃん・・・!!」
ガタンッ!!
かごめが小屋を出ていく際・・・。
かごめの瞳は少し滲んでいたのを七宝は見ていた・・・。
「こりゃあ、犬夜叉!!今すぐかごめに謝ってこい!!」
犬夜叉の周りをピョンピョン跳んで抗議する七宝。
「やかましい!!俺が何したってんだ!」
犬夜叉の背後に殺気が・・・。珊瑚が仁王立ちしている。
「だから、それが悪いっていってんるんだよ!!自分がどうして怒らせたか自覚しろ!!この鈍感男っ!!!」
珊瑚の迫力に犬夜叉、びびる・・・。
「かごめちゃんはあたしと法師様の事を本当に喜んでくれた・・・。あたしもそれが嬉しかった。でも・・・。あたし聞いたんだ。かごめちゃんの方はどうなのって。そしたらかごめちゃん何て言ったと思う・・・?」
”なるようにしかならいよ・・・”
「って・・・。笑ってたけど、その一言にかごめちゃんの誰にも言えない想いがつまってるような気がした・・・。なのにあんたは・・・。あんたは」
ガタンッ!!!
犬夜叉は珊瑚の言葉を最後まで聞かずに小屋を飛び出してしまった・・・。
「あいつだってわかっているさ・・・。お前の言いたかったことは・・・」
「法師様・・・」
弥勒は珊瑚の肩をポン!と叩いた。
仲間の恋の行方・・・。
自分たちには何もしてあげられない・・・。
ただ、この世にもし、神がいるとしたら、強く想い合う二人の行く末が明るいものであることを願わずに入られない・・・。
「しかし。珊瑚。さっきの言葉は嬉しかったですなぁ」
「え?何が?」
「『あたしと法師様の事を喜んでくれた・・・』”あたしと法師様の事”だなんて・・・。ふっ。珊瑚、お前も言うときは言うなぁ」
「や、やだっ。あ、あれは言葉のあやってやつで・・・」
珊瑚は照れくさそうにくるっと弥勒に背中を向けた。
「ふっ。可愛い珊瑚・・・。どうです?奈落を倒してからではなく、速攻、子供を産んでくれんか?」
弥勒が珊瑚の耳元で囁く。
珊瑚の耳は真っ赤・・・。
「床の準備は既にしてあります。ふっ。愛を語らいましょう・・・」
「ほ、法師様・・・」
「床で何を語らうのじゃ?」
七宝、大人の会話に耳を傾ける。
「ひゃあッ!!」
ドカッ!!
珊瑚、あわてて、弥勒を突き飛ばした。
弥勒、囲炉裏の灰に顔を埋める・・・。
「・・・私は灰と愛を語らうつもりはないぞ。珊瑚・・・」
男と女の事は難しいのう・・・と、七宝は一人頷いていた・・・。
夜、真っ暗な森を一人、ずんずんと進むかごめ。
『遊びにつき合ってやったんだから・・・』
確かに自分が勝手に一人で盛り上がっていたけど・・・。
どうしてなんだろう。
犬夜叉が嫌がる事はわかっていたのに、何だか妙に腹が立つ・・・。
いや違う。犬夜叉に怒っているんじゃない。
『私と共に生きてー・・・』
弥勒のあの台詞。
嬉しかった。珊瑚が喜んで嬉しかった。
幸せになって欲しい・・・。自分たちの分も・・・。
心の底からそう思った。
自分には多分、”誰”からも言われない、言ってはくれない台詞だから・・・。
「・・・。犬夜叉は悪くない。あたしが・・・あたしの気持ちの問題・・・」
羨ましかった。
同じ時代で、一対一で、向き合える弥勒と珊瑚が・・・。
そんな気持ちを自分で認めたくなかった・・・。
立ち止まり、うつむくかごめ・・・。
ザワザワザワ・・・。
草木が不気味に揺れる・・・。
そういえば、この辺りで最近、人喰い蜘蛛が出ると村の噂で聞いた・・・。
(・・・何だか邪気を感じる・・・。どうしよう。矢、置いて来ちゃった・・・)
かごめは村に引き返そうと走り出す。
「ハァハァハァ・・・。逃げなくちゃ・・・。きゃあっ!」
ドサッ!
転んでしまったかごめ。膝をすりむいた。
「イタタタ・・・。ハァ。こんな所で止まってられない・・・にげなく・・・。」
シュルルル・・・!
かごめが顔を上げると目の前に、大蜘蛛が現れた!
口から、白い粘着質の糸を出している。
その糸が、かごめの両手両足に絡む!!
「きゃあああ・・・!!」
身動きがとれないかごめ!
「ぐ・・・ッ」
蜘蛛の糸が足に手にめり込んで痛い!
(・・・。犬夜叉・・・)
「かごめーーーーーーーーーーッ!!!」
ザシュッ!!!
犬夜叉が鉄砕牙で糸を断ち切った!!
「かごめ!!大丈夫か!?」
「・・・う、うん・・・」
「お前はどっかに隠れてろ!」
「・・・うん・・・」
犬夜叉は、鉄砕牙を構え、大蜘蛛に立ち向かう!
「ったく・・・。俺は化け蜘蛛退治しにきたわけじゃ・・・ねぇんだよぉッ!!!」
犬夜叉は思いきり、鉄砕牙を振り下ろす!!
ザッシュッ!!!!!!!
大蜘蛛は真っ二つに割れ、砂のように消え去った・・・。
「けっ・・・。たあいもねぇ・・・」
木の陰に隠れていたかごめ。
なんとなく申し訳なさそうに出てきた。
「・・・ごめん。犬夜叉・・・」
「な、なんでおめーが謝るんだよ。怒ってたんじゃねーのか」
「うん・・・。でも結局こうして最後には犬夜叉に助けてもらって・・・。守ってもらってばっかりだよね・・・。あたし・・・」
かごめはうつむいて犬夜叉に背を向けた。
犬夜叉の顔を見るとまた何を言い出しそうになるかわからない・・・。
「・・・。俺の方こそ言いすぎたよ・・・」
「・・・」
黙ったままのかごめ。
「だ、黙ってんじゃねぇよ。謝ったじゃねぇか!何だ、まだ、怒って・・・」
犬夜叉、ギクリ。
かごめの目には涙いっぱい溜まって今にもこぼれそう・・・。
「な、な、な、何ないてんだよ・・・。俺、そんなきついこと、言ったのか・・・?」
かごめは違うと、首を横に振る。
「だ、だったら泣くなよ・・・」
「・・・」
だけどやっぱり気持ちが高ぶってポロッと粒がかごめの頬を濡らした。
犬夜叉の声があんまりにも優しいから・・・。
「かごめ・・・」
かごめに泣かれるのが一番堪える・・・。
「・・・。俺は弥勒じゃねぇし、気の利いたことは言えねぇ・・・。お前が喜ぶ言葉もわからねぇ・・・お前を守りたい気持ちはずっと変わらねぇ・・・」
「・・・犬夜叉・・・」
「・・・。何だよ。これじゃあ不満か・・・?」
かごめは力強く顔を振った。
「・・・。ありがとう。嬉しい・・・。ありがとう。ありがとう・・・」
「・・・だから泣くなって・・・」
言葉も嬉しいけど・・・。
きっと犬夜叉は、精一杯自分の気持ちを伝えようとしてくれるのが分かるから。
それが一番嬉しい・・・。
「・・・。けっ。・・・」
ちょっとばかり照れくさい犬夜叉はかごめに背を向ける。
かごめの目の前には犬夜叉の背中が・・・。
いつも、自分を守ってくれている背中・・・。
この背中にも、ありがとうを言いたい・・・。
「ごめん。犬夜叉、ちょっとじっとしてて・・・」
「な、何する気だ?」
「あたしの気持ちも伝えたいから・・・。犬夜叉の背中に書くね」
「書く・・・?」
かごめは細い白い指で、文字をなぞる。
何だかくすぐったくてちょっとドキドキの犬夜叉。
(なんか背中がゾクゾクっとこそばゆい・・・)
かごめの細い指は、ある文字を書く。
『I love you』
と描いた・・・。
「はい。終わり」
「え。お、終わりって何だよ。何て書いたんだ?」
「・・・。内緒」
「な、何でだよ。なん・・・。!」
かごめはそっと背中に頬をそっとあてた・・・。
さらに犬夜叉の背中にこそばゆさが走る・・・。
「こういう意味・・・。わかった・・・?」
「・・・お、おう・・・」
自分をいつも背負い、守ってくれている背中。
その背中から、犬夜叉の想いをいつも感じていた。
不器用な犬夜叉の精一杯の『I love you』
なのかもしれない。
だからかごめも・・・。
気がつけば、外は雪。
かごめの国では暦がクリスマスだった・・・。