ご神木によりかかりかごめは何かを書いている。
ピンクの便箋。
うっすらと桜の花びらがちりばめられた便箋・・・。
水色のペンで一行めにこう綴る・・・。
『犬夜叉へ・・・』
なんてあんたに手紙書くなんてはじめてだね。
もっとも渡しても読めないかもしれないけど(笑)
でもなんだかね・・・急に書きたくなったんだ・・・。
このきれいな澄んだ空を見ていたら・・・。
いろんな想いが沸いて・・・。
言葉にしてみたくなったの。
でもちょっと恥ずかしいから手紙にしようって思って・・・。
だから心に浮かぶとおり、書いていくね・・・。
犬夜叉、あんたと出会ってからどれだけ経ったかな・・・。
もうずっとずっと昔から一緒にいるみたいに感じるね・・・。
出会って最初のころはあんた、全然あたしに心見せてくれなくて・・・。
隙あらばあたしがもってる四魂の玉盗ろうとしてたし。
でも少しずつ、ほんの少しずつだけど心の見せてくれるようになって・・・。
すごく嬉しかったよ・・・。
あんたとどこかで通じてる気がして・・・。
犬夜叉・・・あんたって本当にわがままだよね。それに短気で喧嘩すぐするし。
やきもち焼きですぐ怒るし。
今でもそれは相変わらずですけど(笑)
ふふ。でもね。本当は誰よりも優しいってこと、私は知ってるから・・・。
それにすごく大人になったよ。
仲間・・・珊瑚ちゃんや弥勒さま、七宝ちゃんのこと、ほんとに信頼するようになったよね。
今じゃみんな犬夜叉のこと、本当に頼りにしてるんだよ。
あたしはそれがとっても嬉しい・・・。
犬夜叉のいいところ、みんなが分かってくれて。信じてくれて・・・。
いつか・・・あたしや珊瑚ちゃん、弥勒さまや七宝ちゃんが霧骨の毒で死にそうになったとき・・・。
はじめてみたあんたの涙・・・。
びっくりしたよ。でも・・・。やっぱりすごく嬉しかったの・・・。
あんたがみんなを本当に心から心配した証拠なんだって思ったら・・・。
あたしの方が嬉しくて涙でそうになっちゃった。ふふ・・・。
あたし、あの時の涙、忘れないよ・・・。
泣いたり怒ったり・・・。
子供っぽくても怒りっぽくてもそのまんまの犬夜叉でがいい・・・。
肩肘張らず、背伸びしないで・・・。
そのまんまの犬夜叉が一番いい・・・。
半妖でも、人間でも
犬夜叉は犬夜叉だから。
犬夜叉のこころがそのまんまなら何だっていい。
犬夜叉のこころがそのまんまであることが一番大切だから・・・。
これから先も、自分の心のままにまっすぐ、歩いていってね。
堂々と、そしてありのままで・・・。
だた。ひとつだけ約束してほしい・・・。
・・・簡単に命を捨てたりしないで。
犬夜叉は体を張ってあたしや仲間達、大切な人たちをまもってくれるね。
私、とっても感謝してる・・・。
だけど・・・。
自分の命も守って・・・。
犬夜叉がみんなの命を大切に思ってくれるように、私も弥勒様も珊瑚ちゃんも七宝ちゃんも犬夜叉の命、とっても大切に思ってるんだよ・・・。
だからお願い・・・。
簡単に、命を投げ出すようなことは
今、在る命をどんな理由があっても、どんな気持ちであっても自分自身で消さないで。
犬夜叉、犬夜叉の命は世界で一個しかないんだよ・・・。
たった、一個。なんだよ。
心臓、トクン、トクンって動いてるでしょ・・・?
一個しかないの。
犬夜叉の命、そして育ててきた心はたった一つだけ・・・。
その心には、みんなとの思い出がいっぱい詰まってる。
絶対に二度と作れない思い出・・・。
楽しいことも、つらいことも。代えはないの。
それを消すってことは・・・。
あたしやみんなの心の中の思い出も消すってことなの。
犬夜叉が今まで関わってきた人たちの心、全部死ぬってことなの・・・。
だって・・・。
犬夜叉の命はあんただけのものじゃないから・・・。
犬夜叉の命は犬夜叉のお母さんのもの。お父さんのもの。
妖怪のお父さんと人間のお母さんが辛かったけど、出会って想いあってそして犬夜叉が生まれた・・・。
半妖できっと辛いこともあるかもしれないけど、強く生きていって欲しい・・・。
お父さんもお母さんもきっと願ってると思う。今でも・・・。
犬夜叉・・・。
あんたはあんまり気がつかないかもしれないけど・・・。
犬夜叉はいろんな人のあったかいものに包まれているんだよ・・・。
犬夜叉のお父さんが残してくれた鉄砕牙・・・。
犬夜叉がきっといいことに、人助けに使って欲しいって思って残したんだよね。
そして今、お父さんの願いどおり、犬夜叉は大切な人たちを守るために頑張ってる・・・。
だからお願い・・・。
いろいろな人たちの想いを消さないで。
たった一つしかない、自分の命・・・。
大切に、大切にして・・・。
そして犬夜叉らしく生きていって・・・。
ねぇ・・・。犬夜叉。
聞いてもいい?
尋ねてもいい?
きっとこんな質問しちゃいけないのかもしれないけど・・・。
私達は・・・。
いつまで一緒にいられるの・・・かな・・・。
水色のペンはそこで書き止ってしまう・・・。
ポタ・・・っ。
ピンクの便箋が・・・濡れた・・・。
「や・・・やだ・・・。あたしったら自分の手紙で泣いちゃってばかみたい・・・。ばかみたい・・・」
それでも進んでいたペンは動かない・・・。
『別々の道を・・・』の先が書けない。
書くのが怖い・・・。
かごめは制服の袖口で目元にじわっと沸いてくる涙を拭いて、再びペンをとる・・・。
ごめんね・・・。ちょっとだけ寂しくなっちゃった・・・。へへ・・・。
犬夜叉。いろいろ書いたけど・・・。あたしが一番伝えたいことはね・・・。たったひとつだけ・・・。
それは・・・。
「おう。かごめ。一人で何してんだ?」
「きゃあ!!お、おすわりっ!」
ぬっとかごめの背中から現れた犬夜叉に驚いてかごめはとっさにおすわりを・・・。
「てめぇ!なにすんだ!」
「あ、あんた突然沸いて出るからでしょ!」
「人をバケモンみてぇに言うな!おう。それより何書いてたんだ?」
「な、何でもないわよ!べ、べんきょーよべんきょー!」
かごめは便箋をさっと後ろに隠す。
「うそつけ 。べんきょーなら何で隠すんだ。みせろ!」
「だめだったら!」
「俺にみせられねーもんなのか?いーから見せろって!」
犬夜叉とかごめは一枚の便箋をひっぱりあいをして・・・。
ビリリっ!
「あ・・・」
案の定、便箋は真っ二つに破けてしまった・・・。
犬夜叉・・・焦る・・・。
「あ・・・。お、おめーが素直にみせねぇからだろ・・・」
「・・・」
かごめはうつむいたまま顔をあげない・・・。
(や、やべぇ・・・。な、泣いてんのか?俺のせいか?)
犬夜叉はおろおろとかごめを覗き込む。
「・・・フフ。あーあ。破けちゃった」
泣いているのかと思いきや、かごめはなぜだか笑っている。
「な、何だよ。お前、てっきり俺は・・・」
「泣いてると思った?ふふ。そんなことぐらいじゃ泣かないわよ。怒るけどね」
「じゃ、怒ってんのか!まだ」
「怒ってないよ。破けちゃったけど、ほらこうすれば大丈夫だから」
かごめはリュックの中からセロテープを取り出してくっつけた。
「ね。これで元通り」
「・・・おう・・・」
犬夜叉は申し訳なさそうに言った。
かごめの大事な手紙を破いてしまった。
しかしいったい誰に書いていたのだろう・・・?
かごめが隠そうとした・・・。もしや。鋼河ではなかろうかという思考に犬夜叉は至る。
「おう。かごめ。その文、誰に書いてたんだ?」
「・・・。犬夜叉に」
「・・・!」
自分宛だったとは。尚のこと、内容が気になる犬夜叉。
「ん、んで・・・。なんて書いたんだ」
「・・・伝えたいこと」
「だから!!その伝えたいことって何だ!」
「内緒。ずうっとな・い・しょ。」
かごめは上目で犬夜叉をじっと見て口元に人差し指をあててにこっと笑った。
(・・・うッ・・・!)
そのしぐさがあんまりかわいいから犬夜叉は一瞬ドキッとする。
「じゃ、あたし、先行くね」
「あ、こら待ちやがれ!」
すたすたとリュックを背負って仲間の元に戻るかごめ。
犬夜叉はあわてて後をつけていく。
二つに破れた手紙・・・。
『あたしが一番伝えたいこと、それは・・・』
その先はかごめの心の中。
心の中でいつもつぶやいていること・・・。
それだけ・・・。
手紙に綴った気持ち、いつか犬夜叉に届くといいな・・・。
届くといいな・・・。
かごめはそう、五月晴れの空に向かって呟いた・・・。
どこまでも続く空に向かって・・・。
追伸。犬夜叉、そんなに手紙読みたいなら、字、おしえてあげてもいいよ・・・(笑)だたし、根気強くね。