今、こうして隣に君がいる事が、夢だったら。
if・・・。
違う“今”があったのだろうか。
隣居るのは他の“誰か”だったのだろうか・・・。
if・・・。
君は僕と出会わなければ、こんなにも傷つくことはなかったのだろうか・・・。
君にとってもっと幸せな“今”があったのか・・・。
応えなんてない。
出会ってしまったのだから・・・。
少なくとも俺はお前と出会って・・・。
お前が隣にいて・・・。
一人の寂しさを痛いほどわかった。
誰かが隣にいてくれる幸せを知ってしまったから。
振り向けば、そこに変わらない笑顔がある愛しさを知ったから・・・。
お前はどうなのかな・・・。
俺と出会ったこと、今こうして一緒に居ること・・・。
幸せだと思ってくれるかな・・・?
思ってくれるかな・・・。
河原の草原に二人、ぼうっとしながら流れる雲をみている。
眠くなるほどに、ゆったりとした時間。
言葉数も少なくなり、犬夜叉の方はすでにまぶたが閉じられている・・・。
「・・・。こういう二人っきりの時ぐらい、気の利いた台詞ぐらい言って欲しいのに・・・。ま、犬夜叉らしくないけど・・・」
好きな人の寝顔を見られる。たったそれだけなのに、
こんなにも幸せな気持ちになれる・・・。
だからこの時間、一秒一秒がたまらなく嬉しい・・・。
かごめは風で乱れた犬夜叉の前髪をそっと整える。
「ふああ・・・。あたしの一眠りしようかな・・・」
かごめは静かに横になり、ふっと目を閉じた。
草の匂いを感じながら・・・。
犬夜叉が気がつくと、そこはかごめの部屋。
「あれ・・・。なんで・・・」
確かさっきまで河原でかごめと・・・。
「なんでい。いつのまにこっちに来たんだ・・・」
犬夜叉は立ち上がり、部屋を見回す・・・。
「あー、いけない!遅刻しそう!!」
あわてて制服姿のかごめが部屋に入ってきた。
犬夜叉はかごめに声を掛けようと近づく。
「おい、かごめ!!帰るぞ!!かごめ!」
しかしかごめはせっせとカバンに教科書をつめて知らん顔。
「こら!無視すんじゃねぇッ!かごめ!!
犬夜叉の声に気がついたのか、かごめが犬夜叉の方を見たが・・・。
「さ、学校へいざ、ゆかん!!」
なんとかごめは犬夜叉の体を通り抜けて階段をあわてて駆け下りていってしまった・・・。
「!?な、なんだ!?」
犬夜叉は思わず自分の体を調べたが、どこも異変はない・・・。
犬夜叉も階段を降り、かごめを追った。
にゃー!
ぶよが犬夜叉目がけて走ってきた。
「え!?」
スウッと犬夜叉の足を通り抜けるぶよ。
「こらー!もうぶよったら、帰ってきてからたっぷり遊んであげるから、大人しく待ってね!じゃ、いってきまーす!!」
ぶよを抱き上げ、かごめは急いで学校へ向かった。
「チキショウ!!一体、どうなってんだ!!」
透明人間?
誰にも、自分は見えていない。
これはまた・・・夢だろうか・・・?
自分がみている夢の世界だろうか・・・。
「けっ・・・。つまんねぇ夢だ!!」
犬夜叉は何だか意地になり、境内をそうじするかごめのじいちゃんや、洗濯物を干すかごめの母に
「おい、こら!!俺はここにいるぞ!!何とか言いやがれ!!」
しかし、皆、しらん顔でそれぞれ、思うままの行動をする。
「・・・。けっ。なんでい!!」
誰も、気付かない。
自分の存在を。
そして、犬夜叉は一番、気付いて欲しい人の元へ行く・・・。
「また、べんきょーしてやがる」
校庭にある一番高い木のてっぺんから教室を覗く犬夜叉。
「・・・」
真剣な眼差しで、黒板を見つめ、授業を受けるかごめ。
「どーしてかごめの世界の奴ってのは“べんきょー”ばっかりするんだ」
ぶつくさ言いながら、犬夜叉はかごめをじっと見つめる。
そして昼休みも・・・。
「ね、かごめ♪お昼、一緒に食べよう!」
「うん!!あたし、今日手作りなんだ〜♪」
友人達と、裏庭の芝生で楽しそうに弁当を広げるかごめ。
「わ〜♪おいしそう〜♪」
卵焼きに、ハンバーグ。
いつも、かごめが犬夜叉達のために現代でつくって持ってきてくれるもの同じおかずだ。
犬夜叉は、かごめのそばにひょいっと降り、弁当をじっとみつめる。
(・・・。うまそうだな・・・)
しかし、当然、犬夜叉には一口もあたらず、かごめがおいしそうに食べるのを見ているだけだ。
「ね、あたしにも一個ちょうだい!」
「いーよ♪はい♪」
卵焼きを一つ箸で友人のお弁当に入れるかごめ。
それを目で追う犬夜叉。
しかし、どうやったって、犬夜叉の口にはいる筈もなく、犬夜叉はお腹をすかせながら楽しそうにランチタイムを見ているのだった・・・。
「かごめー。またねー」
「うん。またねー」
夕方。校門の前で友達と別れるかごめ。
その背後にぴたりと犬夜叉がくっついている。
「おーい!日暮!」
「北条君!」
(なっ・・・!!)
北条がかごめに声を掛ける。
「途中まで一緒に帰ろうよ」
「うん!いいよ!」
仲良くならんで歩いて帰る二人。
「てめー!!気安くかごめに声かけんなよ!!」
北条に殴りかかろうとしたかスカッとすり抜けてしまう。
「・・・。ちきしょーーー!!」
一人で暴れながらも、二人の後を追う犬夜叉。
(くっつきすぎだ!!離れろ!!)
現代に来たとき、何度かこうして学校帰りのかごめの後をつけた犬夜叉。
これで何回目だろうか・・・。
「日暮。志望校、決めた?」
「ううん・・・。北条君は?」
「俺は・・・。思いきって私立狙おうかと思ってるんだ。あそこには経済学科があるしね」
「ふうん・・・。ちゃんと将来のこと、考えてるんだね・・・。あたしは考え中・・・。へへ。のんびりしすぎかな」
「じっくり考えたらいいさ。自分自身の事なんだから・・・」
「うん。ありがと。」
二人の会話を神妙に聞いている犬夜叉。
北条はかごめを神社の境内まで送って帰っていった・・・。
そして一人ぽつんと神社の階段にすわりぼんやりと夕焼け空を見上げる。
その横に・・・。犬夜叉も座っている。
「はあ・・・。“将来”かぁ・・・。あたし、受験して高校に受けることばっかり考えてたけど・・・。自分が何をしたいのかってこと、考えたことなかったなぁ・・・」
考え込んで、ため息をつくかごめ。
夕焼けに映えて、オレンジ色をしている・・・。
犬夜叉も考える・・・。
かごめはかごめの世界で、悩み、考えるべき事が本当はあったはず・・・。
かごめ自身の事・・・。
でも、自分が知っている現実のかごめは、別世界の人間達の事で悩み、傷つき・・・。
誰がそうしたのだろうか。
そして考えてしまう“もし”四魂の玉がなく、この運命の出逢いがなかったら・・・。
かごめという魂に触れなかったら・・・。
「・・・」
そんな“もし”なんて考えたくない。考えても実感が湧かない。
それほど、かごめの魂が側に在ることが、自分にとって何よりリアルな“現実”だから・・・。
「はぁ・・・。それにしても綺麗な夕焼けだなぁ・・・。青空もスカッとして好きだけど、夕焼け空は、なんか気持ちが和らぐなぁ・・・」
夢の中でも、かごめはかごめで・・・。
自分が今まで見向きもしなかった、空の色や人間の温もりを教えてくれる・・・。
「あたし、何がしたいんだろう・・・。応えなんてないのかもしれないけど・・・。とりあえずは、受験を頑張る自分を好きになろう。うん。まずはそこから始めよう・・・。なーんてね。自分を自分で励ましてどーすんの・・・。あたし・・・」
どんな自分でも、まずは自分を好きになる、弱音も全部認めることをかごめは教えてくれた。
それが本当に強くなるってことを知った・・・。
“自分と出会わなければ、きっとかごめは自分の世界で幸せな“今”でいられた”
・・・。そんなのは建前だ。
うそっぱちだ。
いいかっこしてるだけだ。綺麗事だ。
どこかかごめに後ろめたさを感じているから、“かごめの事を考えている”自分に酔っていただけだ。
今、例え、夢の中でもかごめのそばにいることがこんなに嬉しいのに・・・。
「よいしょっと・・・。そろそろ、家に戻ろうっと・・・」
かごめは立ち上がり、家の方へと歩き出した・・・。
(・・・かごめ・・・!)
気づいて欲しい。自分がここに居ること。
夢のだろうが、違う時代だろうが、何だろうが、かごめに気づいてもらえない。
これほどの寂しさはない。
もし、人が100人居て、99人自分のことを知っていても、かごめ一人が自分を見てくれない。
これほどの孤独はない・・・。
かごめがどんどん自分から離れていく・・・。
「かごめ!!」
呼んでも。
「こら・・・。かごめ!!俺はここにいるんだぞ・・・ッ。無視すんじゃねぇッ・・・。振り向け!!」
叫んでも。
「かごめ!!こっち向け!!俺はここにいるんだ!!気付きやがれ・・・ッ!俺はここに・・・」
かごめは振り返らない。気付かない・・・。
「俺はここにいる・・・。かごめーーーーーーーーーーっ!!」
かごめの足がピタリと止まった。
犬夜叉の声が届いたのか・・・。
「かごめ・・・」
気付いてくれたのか・・・?俺に・・・。
「かごめ!!おれはここだ!!後ろにいる・・・!」
「・・・」
かごめは暫く沈黙するとゆっくり振り返る・・・。
「かごめ・・・」
「かごめ・・・。俺が見えてんの・・・か・・・?」
犬夜叉の問いにかごめは・・・。
柔らかな笑顔で静かに頷いた・・・。
「かごめ・・・」
見つけてくれた。気付いてくれた・・・。
かごめが、自分に気がついてくれた・・・。
犬夜叉はたまらず、かごめに近寄ろうと一歩進んだ、その時・・・。
バサバサバサ・・・ッ!!!
空から何十羽物真っ白な小鳥が犬夜叉を遮るように飛ぶ。
一瞬、かごめが見えなくなった。
「うわっ・・・。何だ・・・ッ」
犬夜叉は思わず、手をかざしてよけようとした。
そして小鳥たちは急にまた、夕焼け空に消えていった・・・。
「何だったんだ・・・。一体・・・。それよりかごめは・・・」
小鳥たちが飛び去った・・・。
白い羽根が雪のように舞う・・・。
しかしその向こうには・・・かごめの姿は・・・ない・・・。
「かごめ!?どこだ!!どこいったんだ!!」
白い羽根に埋もれたいるのかと、犬夜叉は落ちた羽根をすくって探す・・・。
「かごめ・・・!!」
いない いない いない・・・。
かごめが消えた・・・。
小鳥と一緒に飛んでいったのか・・・。
かごめが消えた・・・。
「かごめーーー!!」
白い羽根・・・。
止め処もなく、犬夜叉を包むように降っていた・・・。
いつまでも・・・。
ピ・・・。チチチ・・・。
鳥の鳴き声・・・。
そして何だか鼻の上がくすぐったい様な・・・。
「ん・・・?」
ピ?
自分の鼻の上に、赤いくちばしの白い小鳥、一匹、留まっている。
「わッ!!」
犬夜叉が驚いて飛び起きると、小鳥もびっくりしてかごめの肩に留まった。
「チーちゃん、おどかしちゃだめじゃない!犬夜叉」
「か、かごめ!?」
犬夜叉は一瞬、夢の続きかと思い、焦る。
「何、そんなに驚いてんのよ」
「な、な、何でもねーやいッ!!それよりお前こそ、どーしたんだ」
「小鳥と飛ぶ練習してたのよ」
ピィー!
「小鳥だぁー?おめーはまたそんな、鳥ごときとあそんでんのかよ・・・」
犬夜叉、ちと面白くない。
「・・・。小鳥にまでヤキモチやいてんの?あんた」
「妬くわけねーだろ!!」
いや、充分妬いている。
「小鳥ね、ケガしてたのよ・・・。それで一生懸命飛ぶ練習してたの。でも・・・。一度群れからはぐれたら、二度とその中には入れなくて・・・」
一度、群れから出てしまったら二度と、その中には入れてくれない。認めてくれない。
守られていた現実が一変する・・・。
その辛さは犬夜叉も知っている。
「けっ・・・。一人になっちまったら食うか食われるかだ・・・。力の弱い奴は生きていけねぇ。当たり前だろそんなこと・・・」
「うん・・・。でもね・・・。一人で生きていく強さも必要だけど、でもね・・・はぐれてしまったこの子だからこそ、大切なもの見つけられたんだよ。ほら、見て」
かごめの指さす方向に、もう一羽、小鳥が旋回して飛んでいる。
「あの黄色の小鳥もはぐれ鳥で・・・。2羽が仲良くなって・・・」
「・・・。だからそれがどーしたってんだ」
「小鳥の“群れ”は自分と同じ色の鳥じゃないと絶対に仲間とは認めてくれなかった。でも、あの2匹は色とかそんなの関係なく、仲良くなった・・・。それがすっごく嬉しくて」
「鳥ごときで・・・」
「それでもあたしは嬉しいの・・・!これでやっと、小鳥も自由になれる・・・」
かごめは白い小鳥を人差し指に乗せ、話す。
「もう、小鳥は一人じゃないよ。だから何でもできる、不安がらないで。勇気をもって。飛んでっていいからね・・・」
小鳥はかごめの言葉にお礼を言うようにピーと鳴き、そして・・・。
バサッ・・・!
高く、高く、小さな翼を広げて飛んだ・・・。
高く、そして力強く・・・。
「やったー!」
かごめは嬉しそうに拍手する。
ピー・・・!
小鳥はかごめにお礼を言うように鳴き、そして、青い空に消えていった・・・。
「あ・・・!」
ひら ひら ひらり・・・。
白い羽根が一枚、かごめの手の中に落ちてきた・・・。
「小鳥のおみやげだ・・・。ふふっ・・・。犬夜叉、あんたいる?」
「いるか!そんなもん・・・」
「でしょうね。でも、犬夜叉、やっぱり持っていて。あたし・・・。小鳥から勇気もらった気がする・・・。どんなに傷ついても、何度も立ち上がっていく勇気・・・。必死に何かを守りたいと思う強さ・・・」
その言葉は飛んでいった小鳥ではなく、目の前にいる嫉妬深い銀髪の半妖に向けられて・・・。
「あのガキ鳥だってその・・・。お前が今言ったことと同じ事・・・。思ってる・・・かもしれねぇな・・・」
「犬夜叉・・・。ありがと。嬉しい」
「なっ。何が嬉しいんだ!お、俺は別に、お前に言った訳じゃねぇ・・・ッ」
「ありがと。犬夜叉」
「だから!お前に言ったんじゃないってば・・・!!」
夢の中で消えた白い鳥達とかごめ・・・。
もしかしたら、消えたのではなく、現実へと帰っていっただけなのかもしれない。
目が覚めて、かごめは確かに『ここ』にいる・・・。
“かごめの幸せ”
それはイコール自分の幸せ。
そして自分の幸せイコール・・・。
かごめという魂で・・・。
飛んでいったはぐれ鳥。
かごめに『ありがとう』を伝えるとしたらどうするだろう・・・。
自分の羽根を一枚引きちぎって、それを持っていて欲しい。
かごめからもらった勇気を羽根に託して・・・。
犬夜叉はかごめにもらった羽根をそっとかごめの背中にくっつけた。
「やっぱお前がもってろ。その方がその・・・。ガキ鳥も喜ぶだろうからよ・・・」
「・・・。うん・・・。大切にするね・・・」
「お、おう・・・」
さわやかな風が吹く。
2羽の小鳥は、お互いをいたわるように寄り添い、
そして決して離れないように、飛ぶ。
翼を精一杯広げて・・・。
どこまでも・・・。
いつまでも・・・。
高く、高く・・・。