となりの一番星
どうして人は空ばかり見上げるんだろう。



空の月や雲や星に憧れる。



強く、自分の手に届かないものだから?




遠く、遠くにあるものだから・・・?






・・・本当に大切なものは・・・きっと近くに




自分のすぐそばにあるのにな・・・。









「今宵も星が綺麗じゃ」 七宝は焼き魚をほおばりながら空を見上げる。 確かに今夜は雲ひとつなく、満天の星空だ。 「七宝も情緒的なこと言う年になったか。はは」 「弥勒。当たり前じゃ。どこかの二股男じゃあるまいし」 ポカリ! 「一言おおんだよ!ガキが!」 犬夜叉の拳が、七宝の頭の上に”お星様”をつくった。 「ったく・・・。ですがほら、犬夜叉も御覧なさい。たまには空を見上げるのも いいですぞ」 「けっ。俺は眠いんだ」 ゴロンと寝転がる犬夜叉。 「・・・。まったく犬夜叉ったら・・・。ロマンないんだから。 七宝ちゃんお星様、いくつみつけたの?」 「あのな、あのな・・・」 七宝はかごめの肩によじのぼり指をさす。 「ほら、あの星・・・。なんかどことなく何かの花に 似ておる。五つの花びらのききょ・・・はっ(汗)」 七宝、ちょいとまずい言葉を二言発したご様子。 犬一行の空気が一変に重くなり・・・。 シーン・・・。 ジュッ。 焚き火が消え、煙が舞い上がる。 「・・・」 (ま、まずい・・・。どうしたらいいじゃろ。この空気・・・) 七宝は自問自答していると・・・。 「あ、火、消えちゃったね。私、そこら辺の枝拾ってくるわ。 七宝ちゃんも手伝って」 「あ、わかった・・・」 かごめは七宝をだっこし林の中へ入っていった・・・。 3人残されて。 「・・・。けっ。な・・・なんでい。かごめの奴。 また勝手に拗ねやがって・・・(汗)」 キッと珊瑚が犬夜叉を睨んだ。 怯む犬夜叉。 「誰のせいだよ!あんたの半端な態度のせいだろ!ったくどいつも こいつも男ていうのは・・・」 今度は弥勒を睨む珊瑚。 「な、何故私に矛先を向ける?珊瑚・・・」 「私、今日見たんだよ。手前の村の娘に声をかけてたね?」 「ギクリ。い、いやあれは道を聞かれて・・・」 「道を聞くのにしりを撫でるのかーーー!!」 ボカ! 今度は弥勒の頭にとっても痛いお星様が流れた・・・。 (けっ。やってらんねぇ・・・どいつもこいつも) 腕を組み呆れ顔の犬夜叉。 どこへいくのか。すたすたと林の中へ・・・。 林の中。 七宝が狐火でタイマツをつくって下を照らす。 「すまん。かごめ。オラが一言多いばっかりに・・・」 「七宝ちゃんが気にすることないわ。私が気にしすぎなだけよ」 小枝を拾いうかごめ。 「だけど・・・」 「・・・。ほら。七宝ちゃん元気出して。私はもっと落ち込んじゃうじゃない」 「・・・うん・・・」 かごめは笑顔で言う。 七宝は仲間の辛い顔を見るのが辛い。 子供だから、惚れたはれたの深いことはわからないけど 桔梗のことで切ないかごめの顔は何度も見てきたから・・・。 七宝もタイマツを片手に枝を拾う。 「なぁ。かごめ」 「なぁに?」 「・・・どうして皆は空の星ばかり見るんじゃろうか」 「え?」 枝を拾うかごめの手が止った。 「オラ・・・星も好きだけど・・・。足元の花とか虫とかも好きじゃ。気持ちを和ませてくれる。なのに人はそれにも気づかず、踏みつけたり傷つけたりしている・・・。 どうしてじゃろうか・・・」 「・・・」 絶対に届かない星の光。 届かないものだから人はあこがれるのだろうか。 焦がれるのだろうか。 手に入らないことが魅力なのだろうか・・・。 「・・・。どうして・・・だろうね・・・。不思議だよね・・・」 「・・・。オラは見忘れないぞ。星も足元の花も虫もみんな 大切だって。な、かごめ・・・!」 「・・・七宝ちゃん・・・」 遠まわしだけど・・・。 必死に自分を励まそうとしている 気持ちがわかる。 かごめは七宝をぎゅっと抱きしめた。 「ありがとう。七宝ちゃん。七宝ちゃん本当に 大人になったね・・・」 「・・・オラ・・・。かごめの辛い顔・・・見たくないから・・・」 「アリガト・・・」 かごめは嬉しくて七宝にほお擦り・・・。 (・・・七宝め。なになついてやがる・・・!) それを面白くなさそうに(うらやましそうに)二人の頭の上の枝から 見下ろす男。一人。 「・・・犬夜叉。おすわり」 「わっ」 かごめの言霊で犬夜叉君、盗み聞き終了し落下。 「てて・・・。何すんだ!!」 「はぁ・・・。七宝ちゃんに比べてあんたは何。いっつもこそこそと あたしの後ついてきて」 「だ、誰がこそこそだ!!俺はお前が心配で・・・」 「・・・。そう。別にいいけど」 (ああ・・・またいつものパターンじゃ) 七宝はやっぱり自分のせいだと落ち込む。 「ふふ。ね。犬夜叉。みんなで星、見よう。どこか見晴らしのいいところまで連れてって。 そしたら機嫌、直してあげる」 「・・・。本当だな?」 「うん」 かごめは笑顔で言った。 (・・・本当に犬夜叉という奴は子供じゃ) 呆れ顔の七宝。 でもかごめの顔が笑顔に戻ってほっとしている。 「ひゃー。風が気持ちいいー」 林の中の一番高くて太い木。 その天辺にかごめ達は登った。 「あら・・・。七宝ちゃんたら眠ってる」 かごめの腕の中の七宝、すやすや寝息をたてていた。 「なぁにが星がうんぬんだ。やっぱりガキじゃねぇか」 「・・・あんたに言われたくないわよ。ふふ」 「・・・けっ」 「でもこんなに高い木でも・・・。あの星までは行けないのよね・・・。手を伸ばせば 届きそうなのに・・・」 かごめの白い手。 掴めそうな星も遠くて。 近くにいてもそばにいても遠く感じられることがある・・・。 「・・・。かごめ」 「なに?」 「・・・あの・・・」 ”オラは見失わないぞ。足元の綺麗な花を” 「・・・。な、なんでもねぇッ・・・」 子供の七宝でさえ、かごめを励ます言葉を知っているのに。 自分はいざとなると言えない。 照れた意地が邪魔して。 「犬夜叉」 「何だよ」 「・・・ちゃんと・・・。見ておいてね・・・。忘れないでね・・・」 かごめはもぞもぞっと膝を抱えて犬夜叉に擦り寄った。 赤く頬を染める犬夜叉。 「・・・。でないと・・・。流れ星になって消えちゃうから」 「・・・。わ、わかった・・・」 初めてじゃないのに いまだに肩を抱くときは緊張する。 だけど 消えちゃうなんていわれたら・・・。 (焦るじゃねぇか) だから、消えないように、 掴む柔らかい肩にも少し力が入る。 「・・・ちょっと・・・痛い・・・。でも嬉しい。アリガト・・・」 「・・・」 遠くの星より すぐ近くでいつも自分を見守ってくれる星を見逃したらいけない。 その星に照らされて自分は 優しくなれたのだから・・・。 ちなみに・・・ (・・・そこで口付けの一つでもせんかい!) 薄目を開けながら七宝はそう心の中で突っ込んでいましたとさ・・・★