波の穏やかで、見ている者を優しい気持ちにする。
犬夜叉一行も・・・。
そうでもないらしい。
「ああ、もうオラ、食えんぞ。むにゃむにゃ」
珊瑚の腕の中で眠る七宝。
「どうです、私の子をうんでくださぬか?」
バシッ!
寝言をいいながら、珊瑚にセクハラをし、眠りながら一発無意識にひっぱたく珊瑚。
弥勒も痛そうだが、眠ったまま頬に手をあててる。
「ふう・・・」
寝付けないかごめは寝袋の中で何度も寝返りを打った。
「・・・。だめだ。眠れない。散歩でもしてこよう・・・」
寝袋をぬけだし、一人、砂浜を歩くかごめ。
空には星が瞬き、穏やかな海。
ロマンチックで、いつもなら犬夜叉と二人でいたいと思うかごめだが、今夜は何だか一人でいたい気分・・・。
だが。
背後に、誰かが後をつける気配。
「オウ」
かごめがいないことにこの男が気がつかないわけはない。
かごめ追跡班・犬夜叉、ターゲットかごめを発見の図だ。
「もう・・・。何よ。たまにはあたし一人にしてよ・・・」
「なんだと!てめー!!人が心配してついてきてやってるってのに・・・」
「それはありがたいんだけど!あたしだって一人になりたい時があるのよ。そんなにあたしの後へばりついてたいの?」
「だっ。誰がへばりついてんだーーーッ!!わがまま言うんじゃねぇッ!」
砂浜でケンカする二人。
その足下で何か砂がもそもそ動いている。
「ん?何かしら・・・?」
かごめがしゃがみこんで見てみると・・・。
モソッ。
「まあ!」
小さな鰭。胴体。
砂の中から、なんとウミガメの赤ちゃんが顔をだした!
「かわいい〜!!」
喜ぶかごめ。
しかし、ウミガメの赤ちゃんはその一匹だけでなく、砂の中からあちこちでポコポコとはい出てきた。
「きゃあああ♪可愛い!見て!犬夜叉!」
「けっ!たかが、子ガメになにきゃーきゃー言ってンだ・・・。こんなもん踏みつぶしそうだぜ。間違えて・・・」
ギロっとにらむかごめ。
「おすわり!」
「ぐえッ!」
「そこでじっとしてなさい!」
犬夜叉、静まらせるかごめ。
その間にも、子ガメ達は必死にその小さな体を引きづって海へ海へとめざし、進んでいる。
誰かに教えられたわけでもなく、でもひたすら海を目指して・・・。
必死に・・・。必死に・・・。
「・・・なあかごめ。なんでこいつら、全部、海へ行こうとしてんだ?海があっちの方向だってしってんだ?」
「それは・・・。海の匂いがするからじゃないかな・・・。きっとお母さんが、海にいるって知ってるのよ・・・」
「・・・。知ってるわけねーじゃねぇか。子ガメがそんなもん」
「もー!!どうしてそう、否定的なことばっかり言うのよ!あんたって・・・」
またもやケンカ・・・と思ったとき、一匹の子ガメに気付くかごめ。
他の子ガメ達は既に海へと入っていっているのに、その子ガメだけがまだ砂浜に取り残されていた。
「卵からかえるのがきっとこの子遅かったのね・・・」
その子ガメをしゃがんで見つめるかごめ。
他の子ガメ達と違い、進み具合も遅い・・・。
よく見ると、子ガメは一本足がないのに気付く。
よたよたと段差のところで転ぶ子ガメ。
「頑張って!!」
かごめは思わず、こぶしを握って応援。
そんなかごめの横で腕組みの犬夜叉。
「けっ。子ガメごときにそんな・・・。どうしてそんな何にでも感情移入できるんだ。お前は・・・」
「頑張って!海はあっちだよ!頑張って!」
犬夜叉など無視してかごめは必死に子ガメを応援。
「・・・」
四つん這いになって、砂だらけになってかごめ。
犬夜叉はやっぱり不思議でならない。
下手をすると人間にでも踏みつぶされそうな、こんな小さな命に、どうしてそこまで、気持ちを込められるのか・・・。
馬鹿馬鹿しい。きっと昔の自分ならそう思っていたかもしれない。
でも、かごめと一緒にいると、どんな些細な事も、今までと違って見えてくる。
無視してきた、自分より弱い命でも、何だか大切に見えてくる・・・。
「ああ!頑張って!」
小さな窪みにはまってしまった子ガメ。
必死にあがいて体をパタパタさせるが、すればするほど砂にはまっていく。
「ちっ。しょうがねぇな。出してやりゃいーじゃねーか」
犬夜叉は子ガメを取り出そうとした。
「だめよ!犬夜叉!余計なことしないで!」
「!?」
かごめは何故だか犬夜叉を止めた。
「自分の力ではい上がらなくちゃ。あのね。ウミガメってね。あんなにたくさん海に還っても、海の中で生きられるのはほんの一部なんだって。だから・・・。自分の力で出なくちゃ。ここから・・・」
「・・・。母親じゃねぇんだから・・・」
たかが子ガメの事で・・・。
そう思いつつも、子ガメの視線まで腰を下ろして応援するかごめ。
“なんでそんなもんにいちいち、かまうんだ”
とバカにして笑う事もできる。
でも、かごめの一生懸命な顔を見ると、笑えない。
何にでもまっすぐに真剣なかごめ。
人がバカにするような事も、かごめは真剣になってそれを喜びに変える。
「もうちょっと!そう!もうすぐ海だよ!」
窪みからぬけだした子ガメはあと一メールほどで海。
しかしその一メートルが大変だ。
上手くタイミングよく波に乗らないと、すぐ砂浜に戻されてしまう。
「頑張れ!頑張れ!」
大きな波がきた。
これに上手く乗れば・・・。
「よし!!」
ピチャピチャっとヒレをばたつかせ、子ガメは波に乗った。
そしてそのまま、船に乗ったように、海の中へ、中へと引き込まれていく。
「よかったぁ・・・」
子ガメの姿も見えなくなり、かごめも一安心。
笑顔を見せた。
「行ったか」
「うん。全部。海へ還っていった・・・」
「そうか・・・」
「あの中からほんの何匹かだけが、またこの砂浜に戻って卵を産むんだって・・・」
「海の中も強ぇ奴だけが生き残る・・・。当たり前事だろ・・・」
「そうだけど・・・。でも何か・・・。哀しいね・・・」
かごめの哀しそうな横顔を見つめる犬夜叉。
「犬夜叉・・・。やっぱり変だと思ってる?」
「何が」
「だってさっき・・・。何にでも感情移入できるのかって言ってたじゃない。それってやっぱり・・・変かな?」
「べ、別に変だなんて誰も言ってねーだろ」
「・・・」
かごめはしゃがんで、波でそっと手を濡らす。
「昔ね。犬夜叉。あたし、子供の頃、友達に言われたことがあるんだ。“かごめちゃんは優しいのは自己満足”だって・・・。あたしはこれっぽっちもそんなこと意識してなかったんだけど・・・。人から見たらそうみえたのかなって・・・」
「・・・。そんなもん、気にしなきゃいいじゃねーか」
「うん・・・。そうだよね。ありがと犬夜叉・・・」
「・・・」
自分が落ち込んだり辛いとき、かごめにいつも励ましてもらっている癖に、自分がかごめを励ましたいとき。
上手い言葉が見つからない。
照れくささを捨てて、かごめを励ましたいのに・・・。
「犬夜叉」
「何だよ」
「海ってね。この世の生き物すべてが生まれた場所なんだよ。全部海から生まれたの。だから海ってあんなに優しいんだね・・・。お母さんみたいに・・・」
「・・・」
ザザン・・・。
ゆっくりと波が打つ・・・。
こんな穏やかな海。
ザザン・・・。
不思議だ・・・。
海はどうしてこんなに人を惹きつけるのか。
ホッとするのか。
安らげるのか・・・。
かごめが海は母親みたいだと言った。
ならば・・・。
穏やかな海はかごめの様・・・。
潮の匂いが、今日はやけに優しく感じられる。
かごめと一緒に海を見ているから・・・。
「犬夜叉」
「ん?」
バシャン!
かごめは犬夜叉に見事に、水をかける。
「何すんだ!」
「へへ。すきあり!それ、もう一丁!」
バシャン!
犬夜叉、2回目をくらう。
「てめー!」
バシャバシャン!!
犬夜叉が力一杯思い切りかごめに水をかけた。
「ちょっとー!もう!あんた、力の加減てもの、知らないの!」
「うるせー!お前がいきなりひっかけてくるからじゃねぇーか!」
「何よ!もう頭にきた!」
バシャン!
「まだ、やるか、この!」
バシャン!
水の掛け合い。
ずぶ濡れになって二人ははしゃぐ。
楽しい。
例え、明日とても辛いことがあるとわかっていても、一緒に笑いあえることが
楽しい・・・。
一緒に笑いあえる人がいることがこんなにも嬉しい。
かごめが笑うと、オレも笑う。
オレが笑うと、かごめはもっと笑う・・・。
穏やかな海の様に・・・。
優しい笑顔を・・・。
ずっと見つめていたい・・・。
「あーあ・・・。水浸しだね。お互い・・・」
「へん!オレは丁度よかったぜ。水浴びできて」
「あんたはそれでいいかもしれないけど・・・。水着あったらなぁ」
「みずぎ?なんだそりゃ」
「水浴びするときに着る服のこと。裸にならなくてすむのよ」
「・・・」
犬夜叉、ちょっと何かを想像中。
「あ、今、あんた、いやらしい事考えたでしょ!!」
「ばっ・・・。バカいうんじゃねッ!」
「もー!!わッ!」
バシャン!!
かごめは犬夜叉に水をかけようとしとき、バランスを崩しそのまま犬夜叉の上に乗っかるように倒れてしまった
「ご・・・ごめん。犬夜叉」
「・・・けっ。どーせもうずぶ濡れなんだから別にかまわねーよ」
「ふふっ・・・。そうだね・・・」
かごめはそっと濡れた髪を犬夜叉の胸に寄せた。
「・・・」
犬夜叉はキョロキョロと辺りを見回し確認。
(誰も見てねぇな)
濡れたかごめの肩を抱いた・・・。
体が冷えないように・・・。
潮の匂いが、優しい匂いに変わって・・・。
二人は、優しい波にいつまでも包まれていた・・・。