約束
恋をしていると 小さな不安というのは とてつもなく痛い夢を見させる。 最悪なこの恋のラストを予言するように 早く目が覚めて欲しいのに やけにリアルで感触さえ味わうほどに・・・。 ・・・目覚めたら私はきっと泣いている 夢の痛みを洗い流すために・・・
・・・また・・・あの二人の夢。 何度見ただろうか 白い白い 霧の中に・・・ 見えてくる・・・ 赤い衣と艶やかな長い長い髪 視界がはっきりしてくるにつれて 私の胸の痛みも 激しく 刺し込んでくる・・・。 見詰め合う・・・ 犬夜叉と桔梗の姿が・・・ 「・・・犬夜叉・・・」 切なさを溜め込んだ声で呟く・・・ その震えは 外野の私にも 伝わってくるほどに 哀しげで・・・ 「・・・桔梗・・・」 どうして どこにこんな刹那な犬夜叉がいるのだろう・・・ 私には永遠に見せない 見ることもない 私の知らない犬夜叉・・・ 羨ましい 悔しい ・・・一生、私には見せてくれない ”男”の顔 ねぇ。 犬夜叉。 相手によってそんなに態度が違うものなのかな・・・ 私の前では ”男”にはなれないってことなの・・・? 犬夜叉の中で・・・ 私は”女”じゃないの・・・? 自己嫌悪が入り混じった 混沌とした気持ちが溢れてくる 「・・・桔梗・・・俺は・・・」 「・・・犬夜叉・・・」 言葉少なくとも この二人の間には言霊など要らぬ 空気・・・いや絆がある・・・ まるで映画のスクリーンを見ているようだ 出来上がってしまった物語には 誰も入ることは許されない 「・・・。私の命も・・・あとわずかだ」 「そんなことさせねぇっていってるだろ」 熱い”男”の顔 桔梗の艶やかな女性らしさと熱い男の顔の犬夜叉は なんともいえない緊張感のある雰囲気を 創る。 ・・・私相手じゃ・・・ そんな雰囲気も出ないよね・・・ ・・・誰かと自分を比較するなんて 情けない・・・ 傍観者の私を余所に 霧の中の二人は 只管に見詰め合って 語り合う・・・。 「・・・犬夜叉。お前は生きろ・・・」 「何言ってんだ・・・。一緒に逝くって俺は決めてるんだ・・・」 「犬夜叉・・・」 犬夜叉は 桔梗の肩を掴んで・・・ ・・・犬夜叉が 生身の”男”に見える ・・・嫉妬を通り超えて・・・ 卑しい嫌悪感が私の胸を充満してくる どうしてこんな自己嫌悪しなければいけないのか? 桔梗は一人前の女性として扱うくせに 私には都合のいいときだけ 甘えて・・・ ”なんであんたにそんなこと いわれなきゃいけないの!!何様よ!!見下さないで!!!!” もはや嫉妬ではない 犬夜叉という存在が私を愚弄しているように 見下しているようにさえ思えて・・・ ・・・憎悪だ・・・ 「・・・犬夜叉。お前には仲間がいるだろう・・・。 私の行く末に・・・お前を道連れにするわけにはいかぬ・・・」 犬夜叉の手を離す桔梗・・・。 だがその手を再び掴んで 「・・・道連れに・・・してくれ・・・」 「・・・犬夜叉・・・」 聞いたこともない 吐息をはいて・・・ そのまま・・・ 懐へ抱きしめる・・・ 「・・・。お前のその気持ちだけで充分だ・・・。 私にもう悔いはない・・・」 「・・・俺が悔いる・・・。お前を一人で逝かせるなんて・・・。 いや・・・一緒に・・・お前と共に居たいんだ・・・」 ”そばにいてほしい” 私の唯一の宝物の言葉が・・・ ガシャン・・・と壊れて・・・消えた 「・・・桔梗・・・。お前が死んだら俺も死ぬ・・・。 お前を逝かせた痛みを抱えたまま・・・生きるくらいなら・・・」 「・・・お前を縛りたくはない・・・。私は・・・」 「・・・。縛ってくれ。二度とお前と離れぬように。 魂と魂で・・・」 「犬夜叉・・・」 「・・・二人で一つの魂になろう・・・。 溶け合って・・・」 そのまま 二人は 本当に溶け合うように・・・ 強く 強く 抱きしめあう・・・。 「・・・永遠に・・・なるんだ・・・。二人で・・・」 ・・・もういいよ・・・ 動いている心臓を切り刻まれすぎて 嫉妬も憎悪も・・・ 感じることにさえ疲れたよ 感覚が麻痺したよ ・・・嫌な自分になってもいい こんな重圧が続くらいなら ・・・私を消して 誰か 私の体から 心というパーツを 消し去って・・・ ”駄目・・・!!” (・・・!?) 私の声・・・? どこから聞えてくるの・・・? ”駄目・・・。二人を止めなくちゃ・・・!犬夜叉を 死なせては駄目・・・!!” ・・・もう一人の私の声・・・? ”後悔してもいいの!??二人を止めなくちゃ・・・!!” ・・・後・・・悔・・・? ”お前がそばにいてくれて・・・よかった・・・” 今度は 犬夜叉の・・・声・・・? ・・・そうだ・・・。 死なせちゃいけない 私は生きていてほしいと願ったはずだ 願ったはずなんだ・・・!!! 「犬夜叉!!!待って!!犬夜叉ーーーー!!」 霧の中に消え行く犬夜叉に 私は何度も呼び続ける 「犬夜叉ーーーー!!」 犬夜叉がやっと やっと振り返ってくれた 「・・・かごめ・・・」 犬夜叉は 申し訳なさそうな でも何かを決意した顔で私を見つめた。 「桔梗と一緒に居たいのはわかった・・・。でも、でも お願い・・・簡単に死ぬなんて言わないで」 「・・・かごめ・・・。すまねぇ・・・。俺は決めたんだ」 「決めたって・・・。犬夜叉、命は一個しかないのよ・・・!? お願い、考え直して・・・!!」 私は犬夜叉の衣をぐっと掴んだ。 「・・・俺の命だ。俺の勝手だ・・・」 「何言ってるの。犬夜叉の命はあんただけのものじゃない。 みんなの命よ・・・。ずっと一緒に闘ってきた仲間の気持ち、 考えてよ・・・」 ”仲間” 私もそのうちの一人なのかな それでもいい 簡単に命を扱って欲しくない 「・・・。すまねぇ・・・」 犬夜叉はただ 謝るばかりだ・・・ それしか、犬夜叉の気持ちはないのだろうけれど でも私は諦めない 嫌われてもいい ・・・犬夜叉を死なせるくらいなら・・・ 「犬夜叉・・・。簡単に逝くって・・・。みんなの”心”を 殺すってことなんだよ・・・?」 「・・・何・・・?」 「・・・大切な仲間を・・・。救えなかった・・・。みんなそう悔やむはず・・・ そういう気持ち、辛いって・・・。 犬夜叉、アンタが一番よく知ってるはずじゃない・・・!!」 私は 思いつく理屈を 機関銃のように 犬夜叉にぶつける 説得力がなくても 私は必死にぶつける・・・ 「・・・。すまねぇ・・・。それでも俺は・・・。 桔梗と逝く・・・」 「・・・犬夜叉・・・ッ」 ドン!! 犬夜叉が・・・ 私を突き放した・・・ 「・・・。お前より・・・桔梗の方が辛れぇんだよ。わかんねぇか」 「犬・・・夜叉・・・」 「・・・奇麗事ばかり言いやがって・・・。所詮、お前には分かるはずねぇよな・・・」 冷たい目・・・ 犬夜叉の・・・ 奇麗事でもいいよ 犬夜叉が生きててくれるなら 偽善者だって言われても・・・いい 「お前はお前で生きろ・・・。俺は桔梗と繋がって居たいんだ・・・」 「・・・だからって死ぬなんて・・・っ」 犬夜叉が 離れていく 私に振り返ることもなく・・・ 「犬夜叉!!」 「・・・桔梗の方が・・・。大事なんだ・・・」 ・・・! 私の手は 犬夜叉に届かない 犬夜叉のその手は ・・・桔梗を求めて・・・ 「犬夜叉!!!」 白くて濃い霧が 犬夜叉の姿を消してゆく ・・・私の声も かき消され・・・ 「犬夜叉・・・」 脱力する私・・・ その場に座り込んで 溢れる虚しさに おぼれていく。 その私の背中を 誰かが叩いた (誰・・・?) 振り返ると・・・ バシャッ・・・!! 「・・・ヒッ・・・」 足元に流れる おびただしい血・・・。 私の足元に 全身真っ赤に染まった 犬夜叉と桔梗が手をつないだまま・・・ 倒れて・・・ 「・・・い・・・い、いやぁあああッ!!」 (・・・はっ・・・) 自分の叫び声で 私は目覚めた 「・・・ハァハァ・・・」 額にべっとりと汗が浮かんで頬を伝う・・・。 「・・・。キツイよ・・・あんな夢は・・・」 夢でよかった・・・ 安心とリアルに残る夢の余韻に 疲労感がどっと重く圧し掛かってきて・・・。 「・・・。涙か汗か・・・もう分かんない・・・」 濡れる頬を タオルで拭う。 早く朝が来て欲しい 悪夢は醒めたと 確かに感じたいから・・・。 「・・・犬夜叉。今、かごめちゃんに近寄らない方がいいよ」 「ああ?」 飛来骨を磨く珊瑚が犬夜叉に忠告。 ご神木でぼうっとするかごめを遠目に見つめながら。 「なんでだ」 「とにかく。女の子は色々とあるのんだよ」 「知るかそんなこと。俺が機嫌なおしてやらぁ」 珊瑚の忠告も無視に 犬夜叉はかごめの側に飛んでった。 (あーあ・・・。こりゃ相当に大きな嵐がきそうだな) 痴話げんかを予想しつつ珊瑚は二人の様子を見守る。 「おう。かごめてめぇ何ふくれて・・・」 ギロリ。 「!?」 目の下に隈が出来たかごめが犬夜叉を睨みつける。 (・・・こ、怖すぎる・・・) 犬夜叉、びびって二、三歩後づさり。 「な、ななんだよッ。お、俺が何したってんだ」 口ごたえはしてますが犬夜叉はこめかみに汗かいてます。 「・・・。簡単に生きるとか死ぬとか言ってくれちゃって・・・」 かごめ、犬夜叉に詰め寄る。 「そ、そんなこと言った覚えは・・・」 「あんたの命はあんたのモンだけど、あんた”だけ”の 物じゃないのよ!!分かってんの!?ええ!??犬夜叉!?」 (・・・怯) 子犬のように背中を丸くする犬夜叉。 くいっと犬夜叉の着物の襟を掴んで かごめ、ちょっと柄が悪くなってます 「いい!??勝手にオレは死ぬからさようならなんて 言ってみなさい?!? 私のほうが先にあの世に逝って 化けてでてやる!!」 (・・・恐) かごめの迫力に 完全に怯えております。子犬君 「そんで地獄の果てまでも追いかけて・・・あんたのその耳、 赤くなるまで引っ張り続けてやる・・・ッ」 (・・・涙) 犬夜叉、もはや覇気もなく ただ縮こまる・・・ 「・・・ふんッ!!」 言いたいことだけ言ったらまた・・・ かごめはぷいっと不貞腐れ顔。 (・・・珊瑚の言ったとおりだった・・・(汗)) 珊瑚の忠告をやっと理解する犬夜叉。 かごめのご機嫌斜めは初めてではないが、今日のは最大級。 (何があったんだ) ただただ動揺する犬夜叉・・・ 「・・・ひっく・・・」 (!?) おこっていたかと思いきや 今度は突然泣き出すかごめ。 「・・・な、ないてんのか!??」 「うっ・・・ひ・・・ぐす・・・」 泣きじゃくるかごめに 犬夜叉、オロオロ あたふた。 かごめの周りをチョロチョロするばかり。 (ど、どすりゃいいんだ・・・) 女の子は色々在るんだよ 珊瑚の言葉を身をもって実感する。 「・・・お、俺が何か気ぃ触ることいったんなら謝る。 だからちょっと落ち着けよ・・・」 ビクビクしながらかごめの顔を覗き込む犬夜叉・・・。 かごめは静かに顔を上げた。 「・・・。約束して」 「あん?何を・・・。わっ」 ぐいっと再び犬夜叉の着物の襟をつかむかごめ。 でも今度のは どこかチカラが篭って・・・ 「絶対に生きること・・・辞めないって」 「・・・?何でそんなこと・・・」 「いいから約束して・・・!でないとまた泣くわよ!!」 「・・・(汗)わ、わかったよ」 強引に犬夜叉を頷かせる。 (・・・現実・・・。約束したからね・・・) 悪夢の余韻が いつまでも消えない。 (もっと・・・信用しなくちゃ・・・犬夜叉を・・・。 そして・・・。自分を) 「・・・!?」 かごめはそっと犬夜叉を自分の横に座らせた。 「・・・約束したんだからね・・・。犬夜叉・・・」 「わ、分かったって・・・。お前・・・。本当にどうしたんだ・・・」 「・・・。どうしたんだろうね・・・。自分でも分かんないや・・・」 揺らぐ気持ち 不安 焦り 全部ひっくるめて それを恋というのだろうか 自分自身さえ信じられなくなりそうになる。 (でも生きていて欲しいという願いだけは・・・。捨てられない) 「・・・お前の方こそ約束しろよ」 「え?」 「・・・化けて出てやるって・・・。そんなことさせるかよ」 引き寄せる細い肩を 守り続けたい。 「・・・犬夜叉・・・」 「お前を死なせるわけにはいかねぇ。・・・お、オレしか お前のこと・・・守れねぇからな・・・///」 「・・・ありがと・・・」 同じ願い 大事な人には 生きて欲しい 幸せに・・・ 死ぬとか生きるとか 言葉では簡単だけど 三文字二文字には 計り知れない重みがある その重みの意味を知らないうちは 生きることを諦めてはいけない。 「・・・。で・・・。もう怒って・・・ねぇんだな?」 「うん・・・」 「そうか・・・。そばに・・・いてもいいんだな・・・?」 「・・・うん・・・」 繋ぐ手のぬくもりが消えないように 確かめるように ずっとずっと。 寄り添いあう・・・ ・・・互いの命を尊ぶために・・・ FIN