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私の存在意義 久しぶりの学校。 試験が近いかごめは居残り勉強。 (ふぅー・・・。試験も大事なんだけど・・・。 犬夜叉の怪我・・・大丈夫かな) 犬夜叉の治り切ってない怪我が気になるかごめ・・・。 出された課題にもペンが走らない。 其のとき、廊下から同級生達の話し声が聞えてきた。 「”君には癒されたよ。感謝してる”って言われて、元カノとより戻したのよ!」 「えー!なにそれ!最低!」 「アイツは私のことを傷つけないようにいったつもりだろうけど、『女』としては 意識されてないみたいで馬鹿にされてる気がして・・・」 「なんかムカツク!そんなのさぁ、トラウマを癒さすための道具 にされたって感じじゃないの。ったく女に癒される男なんて ロクなもんじゃないわよね」 「」 (・・・) なんだか他人事ではないような内容に、かごめは女生徒たちの話を聞いてしまった。 (・・・。”トラウマを・・・癒すためだけの・・・存在”) ”お前と一緒に居ると心が和む” 犬夜叉に言われた台詞。 (・・・。和ませてあげただけ・・・。だったのかな。 私は・・・犬夜叉にとって・・・) ・・・どんな存在なのだろう・・・。 かごめのシャーペン・・・ 問題集には何も解答が書かれておらずただぼんやり・・・ 犬夜叉の顔ばかりかごめは浮かべていたのだった・・・。 (あれ・・・。犬夜叉いないんだ・・・) 戦国に戻ったかごめ。井戸をあがってみたが、いつもなら待っているはずの犬夜叉の 姿がない・・・。 ザワ・・・。 なんとなく・・・不安げな風が吹く・・・。 (・・・。もしかして・・・) ”このこと”に関しての勘だけは嫌味なくらいに働くようになってしまった。 ・・・犬夜叉がいなくなる、そしてその居場所も・・・。 ガサ・・・。 「あ・・・。か、かごめ・・・」 犬夜叉が森の中から帰って来た・・・。 (・・・。視線・・・少し在ってないね・・・) かすかに・・・。自分から視線をそらす犬夜叉の目の動きを かごめは感じ取る・・・。 ”どこにいってたの” もうそんなこといちいち聞くほど野暮じゃない。 この少しだけ息苦しい空気にはもう・・・ (慣れっこだもの・・・) 「い、犬夜叉。ごめんね。遅くなって・・・」 「・・・けっ。別に誤ることはねぇ・・・」 「・・・そ、そうだね・・・」 このぎこちない空気ももうなれた・・・。 (あれ・・・。犬夜叉の傷・・・) 肩に負った深い傷が治っている・・・。 「犬夜叉・・・。肩の怪我・・・。もうなおったの・・・?」 「あ、ああ・・・」 犬夜叉の生返事・・・。 誰に治してもらったかすぐわかった。 「よ、よかったね・・・。心配してたんだ」 「お、おう・・・」 ”自分を癒すためだけの道具” あの言葉が過ぎる・・・ (・・・何気にしてるんだろ・・・。犬夜叉はそんな人じゃないのに・・・) 「・・・。ごめん犬夜叉、私、楓おばあちゃんと薬草とりにいく 約束してたの。行って来るね・・・」 このぎこちない空気に耐えかねて・・・ かごめは犬夜叉の横を素通り・・・ (・・・かごめ・・・) かごめの背中を見られない。 きっと・・・ 寂しそうな背中だろうから・・・。 其の夜。 ザシュ!ザシュ! (ん・・・?) 小屋の上で眠っていた犬夜叉。物音に気づいて降りてみると・・・ ザシュ・・・! 「あー・・・当たらない・・・」 柿の木に向かって矢を放つかごめ・・・。 「もう一回!」 ギリ・・・ッ。 弓矢を握るかごめの手から 血が流れて・・・。 ザシュ・・・ッ! 「痛・・・ッ」 矢を放った瞬間と同時にかごめの手の血も 何滴か飛んだ・・・。 「かごめ・・・!!大丈夫か!?」 堪らず犬夜叉は駆け寄るが・・・。 「来ないで!」 「え・・・?でも・・・」 「あの一番上の柿に当てるまで・・・。来ないで!!」 「・・・けど怪我してんじゃねぇか」 「・・・来ないで見ててっ!!!」 かごめは犬夜叉を突き放す。 (かごめ・・・。なんでそこまで・・・) ザシュ! 「痛・・・ッ」 ポタリと地面に血が滴り落ちているが構わずかごめは 一番上の柿の実を狙って矢を放ち続ける。 (・・・単なる意地かもしれない・・・。でも・・・。 努力はしたいの・・・。強くなれなくても・・・) 幼稚な意地かもしれない。 でも・・・。 強い妖怪が倒せるほどじゃなくても 少しでも強くなれたら・・・。 (犬夜叉の力になれたら・・・。なりたい・・・!) ザシュ・・・ッ!! 「・・・あ・・・」 最後の矢・・・。 やっと一番高い枝の柿の実に命中した・・・。 「・・・ふぅー・・・」 かごめの手も弓矢も 血だらけ・・・。 「かごめ!」 跪くかごめに駆け寄る犬夜叉・・・。 「・・・ったく・・・無理しやがって・・・」 犬夜叉は自分の衣を引き千切り、かごめの手に巻く。 「・・・。無理ぐらいしなくちゃ・・・。私、強くなれないもの・・・」 「・・・。強くなんてなる必要ねぇだろ。お前のことは俺が 守ってやってるんだから・・・」 ”守ってやっている” かごめの心はカチン!とひっかかった。 「守ってもらってるだけじゃ駄目なのよ!!」 怒鳴るかごめ・・・。 「・・・なっ。ど、どうしたんだ。お前・・・。今日変だぞ・・・?」 「・・・」 犬夜叉には言えない。 自分の幼稚な意地なんて・・・。 「・・・ねぇ・・・。私・・・。犬夜叉の役に・・・立ててるのかな・・・」 「え?」 「・・・。珊瑚ちゃんや弥勒さま達みたいに強くはないし・・・。 体力もないし・・・」 「仕方ねぇだろ。かごめは普通の人間で女なんだから・・・。 妖怪退治に慣れてる弥勒たちと比べることねぇだろ」 (・・・。仕方ない・・・。か・・・) 犬夜叉もそう思っていたのか。 自分はただの人間。異世界の人間・・・。 「お前だってその・・・。役にたってるだろ。 不思議な薬や上手いたべもんとか持ってて・・・」 けど・・・。 昨日負った犬夜叉の肩の傷は・・・。 「・・・。でも・・・。犬夜叉の肩の傷は治せなかった・・・」 「・・・」 犬夜叉はフォローの言葉を失って 動揺した・・・。 何もいえない。励ます言葉が浮かばない。 かごめの居ない間に桔梗と会っていた自分は・・・。 「・・・。ごめん。確かに私、今日・・・変だね・・・。 犬夜叉困らせちゃって・・・」 「・・・」 「・・・手当てありがとう・・・。小屋に戻って寝るね・・・」 少し俯いたままかごめは・・・ 小屋へ背中を丸くして戻っていく・・・。 (かごめ・・・) 小屋に戻っていくだけなのに かごめがどこか遠くへ行く気がする・・・。 「・・・。かごめ・・・!」 犬夜叉はかごめの怪我をしていない方の手を掴んだ。 「・・・。何・・・?」 「・・・あ、あの・・・」 何を言いたいのか。 何を伝えたいのか。 言葉は分からないけどただ・・・ (・・・かごめを呼び止めたかった・・・) 「・・・犬夜叉・・・」 「・・・お、お前は・・・役にたってるよ・・・。あのその・・・。 ほ、ほら、七宝が泣いた時、慰めてやれるのもお前だし、 忍者食作れるのもお前だし・・・っ」 あたふたと思いつくことを並べてみる・・・。 「・・・だっだからな、その・・・っ」 「・・・。もういいよ。ありがとう・・・。励ましてくれて・・・」 かごめは微笑んでくれたけれど・・・。 どこか切なそうで・・・。 「・・・う、上手くいえねぇけど・・・」 「・・・」 「そっ、そばに・・・いてくれるだけで・・・。いいって・・・」 照れくさそうに それでも必死に伝える犬夜叉・・・ (犬夜叉・・・) 「・・・だーーーっ。と、とにかくだな、お前は 一緒にいればいいんだよ!!俺は元気が出る!!それじゃあなんか 不足か!!」 居直った犬夜叉。 「・・・。いるだけで・・・いいの・・・?」 「お、おう・・・///」 「・・・弓矢も上手じゃないし、霊力も強くないけど・・・。いいの?」 「・・・お、お前は俺の側で笑ってくれてればいんだ!分かったか!」 犬夜叉はかごめの手をぎゅっと握って 頬を染めて言った。 きっとこれが犬夜叉の精一杯の優しさなのだろう。 そういう犬夜叉が好きなのは自分・・・。 「・・・うん・・・。わかった・・・。私は私のままでいいんだよね・・・」 「・・・。お、おう・・・///」 かごめに笑っていてほしい。 どんなに傷だらけになったとしても かごめの笑顔を見たら痛みも吹きとぶから・・・。 「柿・・・。はんぶんこしよう」 「お、おう・・・」 二人は柿の木の根元に座り、落ちた柿を半分にして食べる・・・。 「・・・おいしいね」 「ま、まぁな・・・」 かごめと一緒に過ごす・・・ 穏やかな時間。 それを守りたいと思うから自分は強くなれる。 (・・・。かごめの笑顔を守りたいから・・・) 犬夜叉はそう思う。 だが・・・。 (・・・) ”自分の心のトラウマを癒すだけの存在。『女』としては みてくれてない、意識されてない” (・・・) ”自分を受け入れてくれる女だったら誰でもよかったのよ” 同級生達の言葉が 星を隠す黒い雲のようにかごめの心に靄を作る・・・。 「・・・かごめ。どうした。柿、まずかったのか?」 「ううん・・・。なんでもない・・・。今日は・・・。星がちょっと 見えないね・・・」 さっきまで輝いていた星・・・。 雲に隠れてしまっている・・・。 「あ、明日またみりゃいーじゃねぇか」 「・・・。犬夜叉は・・・ちゃんと見えてる・・・?私の存在が・・・」 「え?」 「・・・ううん・・・。なんでもない。明日、晴れるといいね・・・」 かごめは少し寂しく微笑む・・・。 (かごめ・・・?) 二人は薄闇の空をしばらく寄り添って眺めた・・・。 ・・・けれど星は・・・ 出なく・・・。 ただ・・・月灯りだけが切なく 灯り・・・ かごめの横顔を照らす・・・。 「かごめ」 「なあに・・・」 「・・・。いや・・・」 一番大好きなかごめの微笑が・・・ どこか寂しく感じるのはどうして・・・? (そばに・・・いてくれるんだ・・・よな・・・?) 犬夜叉は・・・ かごめの手を強く握り締める・・・。 そしてもう一度空を見上げたが・・・。 星は・・・。 やはり見えていなかったのだった・・・。