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星月夜
〜お前と出逢ってから〜

「いいか、おめえら、昨日の夜のことはかごめには絶対言うなよ」
「なぜじゃ?犬夜叉の武勇伝、オラ、かごめに話したいぞ」
妖気が戻って犬夜叉のケガもすっかり治っていた。
かごめの方も肩のあざも消え、今はすっかり顔色もよくなっていた。
「七宝、男には微妙で複雑な男心というものがあるのです。ま、犬夜叉の場合は単なる照れの意地っ張りで すがね」
「ふんっ」
「弥勒のはスケベ心じゃがな」
「・・・。また、ワタシがオチですか・・・(泣)」
「あ、かごめちゃん・・・」
かごめがゆっくりと目を覚ました。
犬夜叉はすぐ、かごめに側に行く。
「犬夜叉・・・」
「かごめ・・・。もう安心しな。椿の呪いは解けたから・・・」
「犬夜叉は?」
「けっ。あんなケガ、とっくの昔になおっちまってらぁ」
「そう・・・。よかった」
「かごめー・・・オラ、話したいことが・・・」
「ぐえ」
犬夜叉、七宝の口を無理矢理ふさぐ。
「よけーなこと言うなっていったろーが!」
「?何なの?犬夜叉?」
「べ、別に何でもねーよっ。お前はもうちっと寝てろ。なっ」
「??うん・・・」
かごめの無事と昨日の事を知られたくないというくすぐったさ。
弥勒と珊瑚はそんな犬夜叉とかごめを微笑ましく感じていた。
「いいか、お前ら、絶対にかごめによけーなこと、言うんじゃねえぞっ」

「ふんっ!実家へ帰るわっっ!!」
「おーおー。帰れ帰れ!俺は迎えになんかいかねーぞっ!!」
「こなくて結構!さようなら!!」
かごめはリュックをかついですたすたと井戸へ入っていった。
「けっ。しっつこい女だぜ!全く」
毎度恒例の犬夜叉とかごめのケンカ。今度の原因はかごめが3日前の事を話してほしいといった事が発端だった。
「別にいーじゃないの。話せば又、いい雰囲気になりそうなのに・・・」
「ふんっ!そっ。知られたくねんだよ・・・。人間の姿で闘ったとこなんか・・・」
珊瑚は犬夜叉をじーと見る。
「な、なんだよ」
「なあんだ。要するに好きなこの前ではいいとこ見せたいだけなのか。あんたもまだ、子供っぽいわねぇ」
「う、うるせえ・・・」
「子供じゃろ?」
「ですな」
3人、同意見。
「けっ。悪かったなぁ!!」
すねて、横になる犬夜叉。
「事に犬夜叉」
「んだよ」
「常々聞きたいと思っていたのだが、かごめ様の国とは一体、どの様な国なのだ?」
「は?」
「未来とはどのような所なのか・・・。法師たるもの、知識豊富ではならぬからな。見てきてくれぬか」
「しっしらねーよんなこと・・・!」
「大体、お前はかごめ様の事はどれだけ知っておるのだ?好きなおなごの事、知りたいと思うのが男ではないか」
「・・・」
考えてみたらば、自分はかごめをどこまで知っているのだろう?
未来から来た女で意地っ張りだけど優しい匂いのする・・・。
かごめはいつもこっちの時代に来てくれているが、かごめは向こうで何を考え、何をして生きているのか。
もしかしたら、自分の知らないかごめがいるかもしれない・・・??
そう思ったとき、なぜだか、犬夜叉の脳裏に北条の顔が浮かぶ。
病床のかごめに馴れ馴れしく(犬夜叉談)していた奴・・・。
「・・・」
「ちっ。じゃあねーな・・・。とっ特別に見てきてやってもいいぜ。いっ・・・言っておくがかごめを迎えに行くんじゃねえぞっ!」
「わかっている」
弥勒も珊瑚も目が笑っている。
「けっ・・・」
犬夜叉はぶつぶつ言いながらも急ぎ足で井戸へむかっていった。
「・・・。いい加減、あの二人のケンカに付き合わされるのも疲れますな・・・」
「そう?それにしては楽しそうだけど?」
「珊瑚も、そうだろう?」
「オラもそうじゃ!」
「・・・。七宝にまでそう言われちゃあ・・・何ですな・・・」
3人は、二人がケンカしているのは平和そのものだろうな・・・と思っていた。

「じゃあ、おじいちゃん、いってきまーす!」
元気に登校するかごめ。
それを木の上から見ている男、ここに在り。
(あいつ、一体、どこへ行くんだ?)
「おはよ!かごめ!」
「おはよ!」
かごめの後をつけ、木の間を渡って、民家の屋根の上で身を潜めてかごめを見つめる男、ここにひとり、在り。
(かごめの同じ着物・・・。かごめの友達・・・か?)
「きいたわよっ!北条君、かごめの家に御見舞にいったんだって?」
「え・・・。う、うん・・・」
(なに?!ほーじょーだって?!)
北条の名前が聞いたとたん、犬夜叉のジェラシー計は急上昇。
「かごめ・・・。あんた、いい加減、わがままで乱暴でやきもち焼きで二股男の事なんて忘れて、新しい恋に生きなさいよ!」
(わがままで乱暴で嫉妬深くて二股野郎?俺のことかっ!!)
犬夜叉は思わず鉄砕牙に手をやった。
「北条君、優しいじゃないの。かごめたった一人を見てくれてるじゃない。そんないい人、いないわよ!」
「・・・」
たった一人をみてくれてて・・・の台詞になぜだか犬夜叉は鉄砕牙から手を引く。
(・・・。悪かったな・・・。それにしても何でかごめは何も言わないんだ?)
「・・・。やっぱり、その元カレしかいないって事?」
(モトカレってなんだ?ほーじょーの他にもいんのか?!)
「・・・」
犬夜叉はかごめの応えをドキドキしながら聞く。
「・・・。分からないけど・・・。私決めたの。あいつの側にいるって。あいつがもういいっていうまではずっといるって決めたから・・・」
「かごめ・・・。わかったわ。もう何も言わない。でも、もし、愛想尽かされたら私達も元へいらっしゃい!女の友情は固いんだから!」
友人はかごめの手をグッとにぎって力説する。
「あ・・・ありがと・・・(愛想尽かされるって縁起でもない・・・)」
キーンコーンカーン・・・。
「さ、行こう!みんな!」
いそいそと学校へ走るかごめ。
『あいつがもういいっていうまではずっといるってきめたから・・・』
(バカ野郎・・・。そんなこと、おもってるわけねぇだろ・・・)
できることなら永遠に側にいて欲しい。
そう何度も思ったことか。
そう思いながら犬夜叉はかごめの学校へとついていった。
家々の屋根にはその少し大きめの妙な足跡がくっきり、残っていた。

学校の一番古い杉の木から教室を覗く犬夜叉。
(かごめと同じ着物の奴が並んでなんか書いてるぞ・・・。そうか、これが『テスト』なのか・・・)
『テスト』に嫉妬していた犬夜叉は一安心した。
(!!あいつは!)
犬夜叉、気になるあいつ、北条を発見!!
(あいつ・・・。こんな狭いところにかごめといっつも一緒にいるのか!?)
犬夜叉のジェラシー計、またまた急上昇。
「こら!日暮!授業中に居眠りとは何事だ!!たっとれ!」
かごめ、たたされながらも熟睡中。
(かごめ・・・。まだ、体、治ってねえのかな・・・)
心配そうにかごめを見つめる犬夜叉は身を乗り出しそして・・・。落下。
ドサササササ!
かごめ、目を覚ます。
「おい!いま、何かでっかい犬が落ちたみたいだぞ!」
男子生徒が窓の外見る。
「え?犬?」
かごめも覗くが誰もいない。
「・・・。まっさかねー。こんな所までくるわけ、ないし・・・」
その真上の屋上で犬夜叉はいた。
(ふう・・・。ここなら、しばらくみつからねぇだろ・・・。にしも・・・俺・・・なにやってんだろ・・・)

「かごめ!一発逆転ホームランお願いね!!」
「まかせて!!」
体育の授業。かごめ達女子はソフトボールをしていた。
もちろん、犬夜叉は屋上からかごめを見ていた。
「・・・」
楽しそうなかごめ。生き生きしている。
(随分・・・楽しそうじゃねーか・・・。こちらの国ではお前を苦しめるものはないんだな・・・)
平和なかごめの国。妖怪も戦もない。かごめがかごめらしくいられる。
犬夜叉は少し複雑な思いでかごめを見ていた。
「キャー!ホームラン!」
「ん?」
バコ!
かごめの逆転ホームラン、犬夜叉に命中。犬夜叉、再び落下。
「?あれ、何か、いま、落ちたかしら?」
「カラスでしょ」
かごめは屋上の方見る。
「・・・」
「かごめ!何してるの!次の打順よ!」
「あ、うん・・・」

帰り道。かごめは北条と一緒だ。
そしてもちろん、木に隠れ嫉妬の炎を燃やしている男、一人、在り。
(ホージョーの野郎め・・・。かごめにそんなにひっつくんじゃねぇ!!)
二人がかごめの家の前まで来た。
「ありがとう。北条君、わざわざ送ってもらって・・・」
「いや・・・。日暮のためならどってことないさ・・・」
「・・・アハハハ・・・」
「日暮・・・・」
「え・・・」
北条、かごめの肩に触れ、見つめる。
「北条君・・・」
その時、犬夜叉のジェラシー計は極限を超えた!
(んなっ!!何しようってんだ!!このスケベ野郎!!かごめから離れろーーー!!)
「ごめんなさい!!」
かごめは北条を軽く突き飛ばした。
「日暮・・・」
「あ、あの・・・あたし・・・あたし・・・」
「・・・。日暮・・・好きな人・・・いるんだろ?」
「北条君どうして・・・」
「俺だってそんな鈍感じゃないさ。好きな子事ならなおさらね。だからこそ・・・。焦ったんだな俺・・・ごめん・・・」
「北条君・・・」
犬夜叉、少し落ち着いて二人の会話を聞く。
「聞いていい?日暮の好きな奴ってどんな奴?」
「・・・」
犬夜叉、かごめに注目。
「・・・。怒りっぽくて嫉妬深くて乱暴でわがままな奴・・・」
(んなっ・・・)
「でも、でも・・・困った人や苦しんでいる人をほっておけない・・・人の痛みや哀しみをとても分かる奴なの・・・」
(かごめ・・・)
「そっか・・・。でも、俺、まだ、あきらめた訳じゃないから」
「北条君・・・」
「もしかしたらって思っていたいんだ・・・。でも、自分の気持ちをどうしても伝えたくて・・・」
「北条君・・・」
「何か、困ったことがあったら何でも相談してくれよ。俺はいつも日暮の味方だから・・・」
「うん・・・。ありがとう・・・」
北条は夕日を背に実に『さわやか』に去っていった。
「・・・。そこにいるんでしょ。犬夜叉。でてきなさいよ」
「えっ。な、なんで分かった?!」
「分かるわよ。今日、学校で犬が屋上から落ちたってさわいでたもの。今日1日、ずっとついてきてたでしょ」
犬夜叉は木から降りた。
「あんたねぇ、何も学校までついてくることないでしょー。いくら北条君が気になるからって・・・」
「んなっ。そんなんじゃねぇ!!」
犬夜叉、めいっぱい否定する。
「まあいいわ。あたしもちょうど犬夜叉に頼みたいことがあったの。ねぇ、犬夜叉、あっちに帰えるの、少しまってくれない?」
「あー?どーしてだ??」
「だめ?」
「・・・。しばらくだけだぞ」
「ありがとっ」

「頼みたいことってこれか?」
「そっ。ここから犬夜叉と星を見たかったの」
それから辺りが暗くなったから、犬夜叉とかごめは御神木に登っていた。
街の灯りがきらきらしている。
「ねぇ、犬夜叉、この木、覚えてる?」
「覚えてるも何も俺が封印されていた木じゃねぇか。わすれるわけねーだろ」
「うん・・・。そして、あたしが封印を解いた・・・。まさかこの神社の御神木だったとは何だかね・・・」
運命。そんな簡単なものではない。ここはかごめにとっても犬夜叉にとっても大切な場所。ふたりが出会った場所。
「・・・。ねぇ、犬夜叉」
「何だよ」
「この前はありがとうね・・・。あんなに必死になってあたしのこと守ってくれて・・・」
「!!知ってたのか?!」
「うん・・・。ずっと見てた・・・」
犬夜叉、照れて後ろを向く。
「ばっ。だったら早く言えよ!弥勒達に言うなって言った俺がバカみたいじゃねーか!」
「だーって。犬夜叉ったら意地張るんだもん」
「けっ。もう、あんな真似、ぜってーしねーぞ!」
「うん・・・。絶対止めてね。あんな無理な事・・・。守ってくれるのは嬉しいけど、犬夜叉が傷つくのは嫌だから・・・。私こそ怖かったんだから・・・。犬夜叉が死ぬかと思って・・・」
「かごめ・・・」
犬夜叉の体から流れる血を見るだけで全身が震える。
それが自分のためならなおさら。
「・・・。ねえ、約束して。もう、あんな無茶しないって!」
「・・・。う、うるせぇやい!俺は絶対誰にも負けねえ」
「そーゆーことじゃなくて!」
「わかってらぁ!俺は絶対に死なねぇ!」
「本当ね?」
「ああ・・・」
「約束よ・・・」
かごめはそのままごく自然に犬夜叉の肩に寄りかかる。
犬夜叉もごく自然にかごめの肩に手を回した。
「・・・。星・・・奇麗だね。犬夜叉」
「え、あ、ああそうか?俺には同じに見えるが・・・」
「ばっかねぇ。犬夜叉と一緒に見てるからでしょ。あんたもそのくらいの気の利いた事、たまには言ってよね。こーゆー場面では」
「お、俺は弥勒じゃねぇっ!」
「ふふふ・・・。それもそうね・・・」
ちょっと寒い風が吹く。でもふたりならあたたかい。
「かごめ・・・昼間言ったこと・・・」
「え・・・?」
「俺は・・・もういいなんて絶対言わないからな・・・」
「犬夜叉・・・」
「だから・・・覚悟しとけ・・・」
「うん・・・」

望むもの等何もない。ただ、そこにお前がいれば・・・。

そんな二人を優しく照らすように小さな星々が懸命に光っていた。


この前の朔犬第2弾でちょっと犬かごが痛々しくしてしまったなと思ったので・・・。私この、御神木、というのが何となく気になっていまして・・・。かごめちゃんの時代にもあったということは犬夜叉との何らかの関係がある気がしていまして・・・。あ、あと井戸もそうですね。犬かごしか通れないというのは割とエンディングに何らか関係してくるのでは?!とか考えちゃってます。あと、翠子とかごめちゃんについてとか。翠子の生まれ変わりがかごめちゃん・・・とかなんとか・・・。うーん・・・。にしても、現代編が割と原作の方では最近ご無沙汰なので、書いてみました。現代は犬かごしか登場できないので私、すっごく気に入ってます!!現代は犬かご二人だけの空間なのです〜★★<
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