「ふんっ!実家へ帰るわっっ!!」
「おーおー。帰れ帰れ!俺は迎えになんかいかねーぞっ!!」
「こなくて結構!さようなら!!」
かごめはリュックをかついですたすたと井戸へ入っていった。
「けっ。しっつこい女だぜ!全く」
毎度恒例の犬夜叉とかごめのケンカ。今度の原因はかごめが3日前の事を話してほしいといった事が発端だった。
「別にいーじゃないの。話せば又、いい雰囲気になりそうなのに・・・」
「ふんっ!そっ。知られたくねんだよ・・・。人間の姿で闘ったとこなんか・・・」
珊瑚は犬夜叉をじーと見る。
「な、なんだよ」
「なあんだ。要するに好きなこの前ではいいとこ見せたいだけなのか。あんたもまだ、子供っぽいわねぇ」
「う、うるせえ・・・」
「子供じゃろ?」
「ですな」
3人、同意見。
「けっ。悪かったなぁ!!」
すねて、横になる犬夜叉。
「事に犬夜叉」
「んだよ」
「常々聞きたいと思っていたのだが、かごめ様の国とは一体、どの様な国なのだ?」
「は?」
「未来とはどのような所なのか・・・。法師たるもの、知識豊富ではならぬからな。見てきてくれぬか」
「しっしらねーよんなこと・・・!」
「大体、お前はかごめ様の事はどれだけ知っておるのだ?好きなおなごの事、知りたいと思うのが男ではないか」
「・・・」
考えてみたらば、自分はかごめをどこまで知っているのだろう?
未来から来た女で意地っ張りだけど優しい匂いのする・・・。
かごめはいつもこっちの時代に来てくれているが、かごめは向こうで何を考え、何をして生きているのか。
もしかしたら、自分の知らないかごめがいるかもしれない・・・??
そう思ったとき、なぜだか、犬夜叉の脳裏に北条の顔が浮かぶ。
病床のかごめに馴れ馴れしく(犬夜叉談)していた奴・・・。
「・・・」
「ちっ。じゃあねーな・・・。とっ特別に見てきてやってもいいぜ。いっ・・・言っておくがかごめを迎えに行くんじゃねえぞっ!」
「わかっている」
弥勒も珊瑚も目が笑っている。
「けっ・・・」
犬夜叉はぶつぶつ言いながらも急ぎ足で井戸へむかっていった。
「・・・。いい加減、あの二人のケンカに付き合わされるのも疲れますな・・・」
「そう?それにしては楽しそうだけど?」
「珊瑚も、そうだろう?」
「オラもそうじゃ!」
「・・・。七宝にまでそう言われちゃあ・・・何ですな・・・」
3人は、二人がケンカしているのは平和そのものだろうな・・・と思っていた。
「じゃあ、おじいちゃん、いってきまーす!」
元気に登校するかごめ。
それを木の上から見ている男、ここに在り。
(あいつ、一体、どこへ行くんだ?)
「おはよ!かごめ!」
「おはよ!」
かごめの後をつけ、木の間を渡って、民家の屋根の上で身を潜めてかごめを見つめる男、ここにひとり、在り。
(かごめの同じ着物・・・。かごめの友達・・・か?)
「きいたわよっ!北条君、かごめの家に御見舞にいったんだって?」
「え・・・。う、うん・・・」
(なに?!ほーじょーだって?!)
北条の名前が聞いたとたん、犬夜叉のジェラシー計は急上昇。
「かごめ・・・。あんた、いい加減、わがままで乱暴でやきもち焼きで二股男の事なんて忘れて、新しい恋に生きなさいよ!」
(わがままで乱暴で嫉妬深くて二股野郎?俺のことかっ!!)
犬夜叉は思わず鉄砕牙に手をやった。
「北条君、優しいじゃないの。かごめたった一人を見てくれてるじゃない。そんないい人、いないわよ!」
「・・・」
たった一人をみてくれてて・・・の台詞になぜだか犬夜叉は鉄砕牙から手を引く。
(・・・。悪かったな・・・。それにしても何でかごめは何も言わないんだ?)
「・・・。やっぱり、その元カレしかいないって事?」
(モトカレってなんだ?ほーじょーの他にもいんのか?!)
「・・・」
犬夜叉はかごめの応えをドキドキしながら聞く。
「・・・。分からないけど・・・。私決めたの。あいつの側にいるって。あいつがもういいっていうまではずっといるって決めたから・・・」
「かごめ・・・。わかったわ。もう何も言わない。でも、もし、愛想尽かされたら私達も元へいらっしゃい!女の友情は固いんだから!」
友人はかごめの手をグッとにぎって力説する。
「あ・・・ありがと・・・(愛想尽かされるって縁起でもない・・・)」
キーンコーンカーン・・・。
「さ、行こう!みんな!」
いそいそと学校へ走るかごめ。
『あいつがもういいっていうまではずっといるってきめたから・・・』
(バカ野郎・・・。そんなこと、おもってるわけねぇだろ・・・)
できることなら永遠に側にいて欲しい。
そう何度も思ったことか。
そう思いながら犬夜叉はかごめの学校へとついていった。
家々の屋根にはその少し大きめの妙な足跡がくっきり、残っていた。
学校の一番古い杉の木から教室を覗く犬夜叉。
(かごめと同じ着物の奴が並んでなんか書いてるぞ・・・。そうか、これが『テスト』なのか・・・)
『テスト』に嫉妬していた犬夜叉は一安心した。
(!!あいつは!)
犬夜叉、気になるあいつ、北条を発見!!
(あいつ・・・。こんな狭いところにかごめといっつも一緒にいるのか!?)
犬夜叉のジェラシー計、またまた急上昇。
「こら!日暮!授業中に居眠りとは何事だ!!たっとれ!」
かごめ、たたされながらも熟睡中。
(かごめ・・・。まだ、体、治ってねえのかな・・・)
心配そうにかごめを見つめる犬夜叉は身を乗り出しそして・・・。落下。
ドサササササ!
かごめ、目を覚ます。
「おい!いま、何かでっかい犬が落ちたみたいだぞ!」
男子生徒が窓の外見る。
「え?犬?」
かごめも覗くが誰もいない。
「・・・。まっさかねー。こんな所までくるわけ、ないし・・・」
その真上の屋上で犬夜叉はいた。
(ふう・・・。ここなら、しばらくみつからねぇだろ・・・。にしも・・・俺・・・なにやってんだろ・・・)
「かごめ!一発逆転ホームランお願いね!!」
「まかせて!!」
体育の授業。かごめ達女子はソフトボールをしていた。
もちろん、犬夜叉は屋上からかごめを見ていた。
「・・・」
楽しそうなかごめ。生き生きしている。
(随分・・・楽しそうじゃねーか・・・。こちらの国ではお前を苦しめるものはないんだな・・・)
平和なかごめの国。妖怪も戦もない。かごめがかごめらしくいられる。
犬夜叉は少し複雑な思いでかごめを見ていた。
「キャー!ホームラン!」
「ん?」
バコ!
かごめの逆転ホームラン、犬夜叉に命中。犬夜叉、再び落下。
「?あれ、何か、いま、落ちたかしら?」
「カラスでしょ」
かごめは屋上の方見る。
「・・・」
「かごめ!何してるの!次の打順よ!」
「あ、うん・・・」
帰り道。かごめは北条と一緒だ。
そしてもちろん、木に隠れ嫉妬の炎を燃やしている男、一人、在り。
(ホージョーの野郎め・・・。かごめにそんなにひっつくんじゃねぇ!!)
二人がかごめの家の前まで来た。
「ありがとう。北条君、わざわざ送ってもらって・・・」
「いや・・・。日暮のためならどってことないさ・・・」
「・・・アハハハ・・・」
「日暮・・・・」
「え・・・」
北条、かごめの肩に触れ、見つめる。
「北条君・・・」
その時、犬夜叉のジェラシー計は極限を超えた!
(んなっ!!何しようってんだ!!このスケベ野郎!!かごめから離れろーーー!!)
「ごめんなさい!!」
かごめは北条を軽く突き飛ばした。
「日暮・・・」
「あ、あの・・・あたし・・・あたし・・・」
「・・・。日暮・・・好きな人・・・いるんだろ?」
「北条君どうして・・・」
「俺だってそんな鈍感じゃないさ。好きな子事ならなおさらね。だからこそ・・・。焦ったんだな俺・・・ごめん・・・」
「北条君・・・」
犬夜叉、少し落ち着いて二人の会話を聞く。
「聞いていい?日暮の好きな奴ってどんな奴?」
「・・・」
犬夜叉、かごめに注目。
「・・・。怒りっぽくて嫉妬深くて乱暴でわがままな奴・・・」
(んなっ・・・)
「でも、でも・・・困った人や苦しんでいる人をほっておけない・・・人の痛みや哀しみをとても分かる奴なの・・・」
(かごめ・・・)
「そっか・・・。でも、俺、まだ、あきらめた訳じゃないから」
「北条君・・・」
「もしかしたらって思っていたいんだ・・・。でも、自分の気持ちをどうしても伝えたくて・・・」
「北条君・・・」
「何か、困ったことがあったら何でも相談してくれよ。俺はいつも日暮の味方だから・・・」
「うん・・・。ありがとう・・・」
北条は夕日を背に実に『さわやか』に去っていった。
「・・・。そこにいるんでしょ。犬夜叉。でてきなさいよ」
「えっ。な、なんで分かった?!」
「分かるわよ。今日、学校で犬が屋上から落ちたってさわいでたもの。今日1日、ずっとついてきてたでしょ」
犬夜叉は木から降りた。
「あんたねぇ、何も学校までついてくることないでしょー。いくら北条君が気になるからって・・・」
「んなっ。そんなんじゃねぇ!!」
犬夜叉、めいっぱい否定する。
「まあいいわ。あたしもちょうど犬夜叉に頼みたいことがあったの。ねぇ、犬夜叉、あっちに帰えるの、少しまってくれない?」
「あー?どーしてだ??」
「だめ?」
「・・・。しばらくだけだぞ」
「ありがとっ」
「頼みたいことってこれか?」
「そっ。ここから犬夜叉と星を見たかったの」
それから辺りが暗くなったから、犬夜叉とかごめは御神木に登っていた。
街の灯りがきらきらしている。
「ねぇ、犬夜叉、この木、覚えてる?」
「覚えてるも何も俺が封印されていた木じゃねぇか。わすれるわけねーだろ」
「うん・・・。そして、あたしが封印を解いた・・・。まさかこの神社の御神木だったとは何だかね・・・」
運命。そんな簡単なものではない。ここはかごめにとっても犬夜叉にとっても大切な場所。ふたりが出会った場所。
「・・・。ねぇ、犬夜叉」
「何だよ」
「この前はありがとうね・・・。あんなに必死になってあたしのこと守ってくれて・・・」
「!!知ってたのか?!」
「うん・・・。ずっと見てた・・・」
犬夜叉、照れて後ろを向く。
「ばっ。だったら早く言えよ!弥勒達に言うなって言った俺がバカみたいじゃねーか!」
「だーって。犬夜叉ったら意地張るんだもん」
「けっ。もう、あんな真似、ぜってーしねーぞ!」
「うん・・・。絶対止めてね。あんな無理な事・・・。守ってくれるのは嬉しいけど、犬夜叉が傷つくのは嫌だから・・・。私こそ怖かったんだから・・・。犬夜叉が死ぬかと思って・・・」
「かごめ・・・」
犬夜叉の体から流れる血を見るだけで全身が震える。
それが自分のためならなおさら。
「・・・。ねえ、約束して。もう、あんな無茶しないって!」
「・・・。う、うるせぇやい!俺は絶対誰にも負けねえ」
「そーゆーことじゃなくて!」
「わかってらぁ!俺は絶対に死なねぇ!」
「本当ね?」
「ああ・・・」
「約束よ・・・」
かごめはそのままごく自然に犬夜叉の肩に寄りかかる。
犬夜叉もごく自然にかごめの肩に手を回した。
「・・・。星・・・奇麗だね。犬夜叉」
「え、あ、ああそうか?俺には同じに見えるが・・・」
「ばっかねぇ。犬夜叉と一緒に見てるからでしょ。あんたもそのくらいの気の利いた事、たまには言ってよね。こーゆー場面では」
「お、俺は弥勒じゃねぇっ!」
「ふふふ・・・。それもそうね・・・」
ちょっと寒い風が吹く。でもふたりならあたたかい。
「かごめ・・・昼間言ったこと・・・」
「え・・・?」
「俺は・・・もういいなんて絶対言わないからな・・・」
「犬夜叉・・・」
「だから・・・覚悟しとけ・・・」
「うん・・・」
望むもの等何もない。ただ、そこにお前がいれば・・・。
そんな二人を優しく照らすように小さな星々が懸命に光っていた。