花、一輪

青空の下、犬夜叉達は久しぶりにのんびりした時間を過ごしていた。
いつもの仕事をしている男約1名・・・。
村の女達に囲まれる弥勒。
「キャーやーだーぁ。法師様ったらお上手なんだから」
「いやいや、私は嘘は申しません。あなたのような美しい人に私の子を産んでいただきたい・・・」
「そーね・・・。私が既に亭主もちじゃなかったら考えたかもしれないけどね」
「そうですか・・・。それは実に残念です・・・。今度生まれ変わったら是非、お願いします・・・」
女の手を握ってキリリとした顔でそう言う弥勒。
その横で冷たい視線の犬夜叉達。特に、特に珊瑚は白い目をしていた。
「ったく・・・。弥勒の奴。あいつのあの悪いクセはきっと死んでも治おんねーな」
「犬夜叉の言うとおりじゃな。闘っているときは様になっているのにのう・・・。のう、珊瑚」
「何であたしにふるのよ!法師様の女癖が悪かろーがどうだろうが関係ないさ!あの人の節操のなさは天下一品だからね!」
「それは耳が痛いな。珊瑚」
どこからともなく、弥勒登場。
「私とて誰でもいいというわけではない。私のことを大切に思ってくれそうな人を選んでいるつもりだが・・・」
「それにしては美人で若い女が多いがのう」
七宝、真実を語る。
「たとえばそう、ほら、この可愛らしい櫛が似合う様な・・・」
弥勒は珊瑚の耳に櫛をそっとかける。
「法師様・・・」
「よく、似合っているぞ。珊瑚・・・」
弥勒の手は、(やっぱり)珊瑚の足を撫でている。
「・・・。真面目な顔して・・・。度スケベしてんじゃないわよ!!」
バコ!
弥勒の頭にまあるいおやまができました。
珊瑚はスタスタと向こうへ行ってしまった。
「ははは・・・ちと、やりすぎたみたいですな・・・」
「弥勒、おめー、珊瑚の気持ち、わかってんのか?」
「ふっ。恋愛音痴のお前に言われたくないですな。事に、犬夜叉。お前もたまには今の私のようにかごめ様にも贈り物などしたことはあるのか」
「んなっ・・・。俺はおめーじゃねぇ!!そんなっぱずかしいこと、できるかっ!!」
「その『こっぱずかしいこと』をやるのが恋愛というもの。駆け引きなのだ。わかるか犬夜叉。」
「弥勒の場合は子孫繁栄のためじゃがな」
七宝、再び真実を語る。
「けっ。んなもんわかるか!」
「犬夜叉・・・。意地をはっていたら、かごめ様は他の男にもっていかれるぞ。只でさえ、かごめ様の様にお優しく可愛いお方を男はほっとかぬぞ」
その弥勒の言葉に犬夜叉の脳裏に浮かんだ危険人物の二人の男(犬夜叉談)の顔。
鋼牙と北条だ。
鋼牙の場合はこっちの世界の話しだから自分が見張れるがあの強引さがあぶない。しかし、北条の場合は、かごめと同じ世界の人間。しかも、かごめといる時間がもしかしたら自分より長いかもしれない・・・。
「う``〜ん・・・」
犬夜叉がごちゃごちゃと考えていると川へ水をくみにいっていたかごめが帰ってきた。
とっさに弥勒は
「いいですな、犬夜叉、うまくやるのだぞ」
と耳打ちして櫛を手渡し、七宝とその場を離れた。
「って、おい!」
「あれ?犬夜叉、みんなは?」
「さ、さあ・・・。散歩にでも行ったんじゃねぇか?」
犬夜叉、手の中の櫛を隠す。
「・・・。なに?あたしの顔に何か、ついてる?」
「い・・・いや・・・」
「・・・。何よ。何か、気になるわねぇ。あんた、その手に何隠してんの?」
「何でもねぇっ!!ってあ・・・」
犬夜叉、櫛を落とす。
「・・・。あれ、これ・・・」
「それは・・・」
「これ、村長さんの娘さんが無くしたって言ってた櫛だわ!拾ってくれたんだ。ありがとう!あたし、渡してくるね!」
かごめはあわただしく、村長の家へと走っていった。
すると、犬夜叉の後ろの草の影からひそひそと話し声が。
「犬夜叉は土壇場でいかんのじゃ。つめが甘いのじゃっ」
「奥手な割には時々、大胆な事、するのですがねぇ・・・」
見物人、約2名。
二人の前に犬夜叉のドアップが。
「おめーたち・・・」
「ワシは知らんぞ。弥勒がここで見ていようといったのじゃ」
「弥勒てめぇか・・・。あの櫛・・・」
「いやぁ。村長の家で拾ったのです。とてもいい品でしたので・・・」
「拾ったんじゃなくて盗んだんだろーが!!弥勒てめぇ、密かに俺に櫛をなすりつけようとしやがったな?」
「失敬な。私がそんな悪徳法師に見えますか」
「充分、見える!!」
「ついでに不良法師じゃっ!」
七宝、ここは犬夜叉側につく。
「・・・。やっぱり最後は私がオチなのですな・・・ふう・・・」
結局この後弥勒は密かに櫛は村長の家に返してきたのだった

ここは櫛屋。
店の中には年頃の若い女が喜びそうな色、様々な櫛が並んでいた。
それを暖簾ごしにのぞく男、ここに在り。
(・・・。くそ・・・。こんなとこ、はいれっかよ・・・)
その通り、櫛屋だけあって、中は若いかごめぐらいの年の村の女達でにぎわせていた。
(弥勒に・・・。無理矢理金渡されたが・・・。本当にこれでたりんのか?)
犬夜叉、これが初めての『お買い物』だった。
よくよく考えた犬夜叉。ここはやはり、弥勒の言うとおり、恋敵が多いのでかごめの気を惹きたくてたまらなかった。
「お客様、何かお求めでしょうか?」
「!!」
店の主が後ろから来た。
「いや・・・俺は・・・」
店主、犬夜叉の頭の耳、発見!
「わ・・・。猫の妖怪だぁ!」
「なっ。だれが猫だ!誰がっ!!」
犬夜叉、ちょっとムッとして店主に詰め寄る。
「わああ!おいぬさま〜!どうぞお命だけは・・・っ!何でも言うとおりに致しますから!!」
その言葉に犬夜叉、あおるように櫛を要求する。
「本当だな。んじゃ・・・」
犬夜叉、かごめに似合いそうな色を探す。
淡い薄紅の櫛が目に入った。
「んじゃ・・・あれ・・・あれ・・・くれ・・・」
俯いて指さす犬夜叉。
「あれでございますか?それを差し上げれば命は助けていただけるんですね?」
「お、おう」
「ですがあれはかなり値がはりますよ・・・」
「売るのか売らねーのかどっちなんだ!」
「売ります売ります!」
店主は恐る恐るその櫛を持ってくる。
「ちっ。最初から素直に出しゃいーものを!じゃ、俺は帰るぜ!」
・・・と、犬夜叉、大切な事を忘れていた。
犬夜叉は震える店主の足下にお代をおいていく。
「・・・。金・・・ここ、おいてくぜ・・・邪魔したな!」
(・・・。あのまんま帰ったら弥勒と同じじゃねぇか・・・。しかし・・・)
店主は呆然と犬夜叉の背中を見ていた。

とりあえず、櫛は手に入れた。
しかし、犬夜叉にとってはここからが問題だ。どうやって、かごめに渡すか・・・。
犬夜叉は一人、夜、近くの崖で考えていた。
「・・・。おい、かごめ!これ、くれてやる!!」
(・・・。これじゃまるで俺がおどしているみてぇじゃねーか・・・)
「かごめ・・・。これをかごめに・・・贈りたくて・・・」
(・・・。俺のガラじゃねぇ・・・)
「う``〜ん!!やっぱり俺にはできねぇ!弥勒みてぇな事は・・・」
「何が弥勒様みたいなの?」
真後ろにかごめがいた。
「かっかごめ?!あっ・・・」
かごめに驚いた犬夜叉は崖の底に櫛を落としてしまった。
「・・・」
犬夜叉、がっくりと底を覗く。
「ごめん・・・。大切なものだったの?」
「いや・・・。もういい・・・」
(やっぱり慣れねぇ事、するもんじゃねぇな・・・)
「ってかごめ!お前、何してんだ!」
かごめは自力で崖をおりていこうとした。
「この崖、そんなに深くないみたいだから、あたし、探してくるわ」
「無茶言うなむちゃ!」
(大体、かごめに見つけられても意味ねーんだよ)
犬夜叉はかごめを背負って崖の底へと降りた。
「暗くて・・・見つからないわね・・・」
崖の底は草も生えていて、なかなか櫛は見つからない。
犬夜叉はくんくんと匂いをかぎはじめる。
「ん?」
すると、草の中から赤いものが見えた。
「あった・・・」
しかし、落ちたとき壊れたのか櫛の半分が欠けていた。
「あ、見つかったの?」
「!」
犬夜叉はなぜかささっと着物の中に隠す。
「なんで隠すのよ。あたしに見せられないものなの?」
「べ、別にそんなんじゃ・・・」
「いーからみせなさい!おすわり!」
「ぐえ!」
かごめは犬夜叉の手の中から櫛を取り出す。
「こ、これって・・・」
「い、いま、ここで拾ったンでぇい!」
犬夜叉、ちょっと苦しい言い訳。
「・・・。ふーん・・・。そーなんだぁ・・・。あたしはてっきりあたしにくれるものかと思ったけど・・・」
「けっ。俺がそんなことするはずねーだろ」
「そーよねぇ・・・うふふふ・・・」
かごめは犬夜叉のそのわかりやすい態度から本当は自分のために買ってきたものだとわかったが、犬夜叉の立場もあるのでそれ以上、聞かなかった。
「じゃあ、あたし、これ、もらってもいいかな?」
「・・・。すっ好きしなっ。でもそれ、割れってぞ・・・」
「・・・あ、そうだ★」
かごめは草の中に咲いていた小さな黄色い花を一輪摘んで割れている櫛に巻き付けた。
「ほら、こうすれば、可愛いでしょ?」
「・・・」
そう言って嬉しそうに櫛を髪につけるかごめが犬夜叉は一瞬、心底、可愛いと思ってしまった。
そして、自然とその手はかごめの髪へと伸びる。
「・・・」
そして、櫛を反対側の耳の後ろにかけなおす。
かごめの髪はサラサラで『いい匂い』がする。
「・・・」
「・・・」
その自分の後ろにまわされた犬夜叉の力強い腕が頬にあたってくすぐったい。かごめの鼓動は急激に早くなった。
「とっ。と、にかく・・・。見つかったんだから早くここからでようぜ!」
「う、うん・・・」
かごめの頬がとても熱い。
犬夜叉は再びかごめを背に乗せ、崖を登る。
「・・・」
「・・・」
何だかお互い、相手の熱さを感じて気持ちが高揚している。
かごめはどうしても今、いいたい言葉があった。
「犬夜叉・・・」
「な、なんだよ・・・」
「・・・。ありがとね・・・。嬉しかった・・・」
「・・・」
犬夜叉は背中から香る優しい匂いを全身で感じながら崖を登った。
ずっとお前を側で感じたい。だから、ずっと側にいて・・・。

Fin

常々思っていたことなのですが、犬夜叉っていつも、何食べているんでしょうね?かごめちゃんとか七宝ちゃんなんかの食事シーンはよくでてきますが・・・。あと、犬夜叉の着物って破けてもすぐ、治っちゃいますよね?何か特別な繊維でできているのでしょうか?昔からずっと同じものなんでしょうか・・・?謎は深まります。ついでに犬かごの中も深まっていただけたら・・・(切望・願望・神頼み)