ろうそくの火がかすかに風に揺られて灯っている。布団の上に背を向けあって正座する二人。
しかし、その二人の手と手はしっかりとつながっている。
「・・・」
「・・・」
犬夜叉とチラリと見るかごめ。
(べ・・・べつに犬夜叉と二人っきりの夜なんて初めてじゃないのに・・・何で緊張するのかしら・・・)
今度は犬夜叉がかごめをチラリと見る。
(・・・。と、ともかくこの空気をなんとかしねぇと・・・)
二人、同時に振り向く。
「!」
目と目が合う。
再び背を向け合う。
「・・・」
「・・・」
二人の高鳴る鼓動の音だけが響く。
「あ・・・あの犬夜叉・・・」
「な、何だよ・・・」
「・・・えっとその・・・」
かごめはもじもじっと体をよじった。
「ったく・・・!大体なぁーおめーが七宝の妙なもんで遊ぶからこーゆー事になったんじゃねぇか」
「何よ。あたしのせいだっていうの?!」
「そーじゃねーのか?」
かごめは何だかイライラしていた。確かにこの状況は大変かも知れないけど・・・。
(あたしはちょっぴり嬉しいのにそれをこいつときたら・・・。それとも、やっぱり、あたしってみりょくないのかな??)
「でもま、犬夜叉と二人っきりになったて別に怖くないもんね!度胸ないし」
「なっ・・・。けっ。おめーをどうこうなんておもってねーよ!弥勒と違って俺は・・・」
「あたしって魅力ない?」
「おめーはどっちなんだ!!」
そんなやりとりを壁腰に聞く弥勒と七宝。
「せっかくのオラたちのお膳立てなのにのう・・・。結局はケンカをはじめるんじゃから」
「そうですなぁ・・・。ま、こんな展開になるのではないかと思っていましたが・・・」
「いー加減、あんたたちも寝なさいよ。」
珊瑚はさっさと布団をかぶって眠る。
「そうですな・・・では我々も・・・」
と、弥勒はなぜだか珊瑚の布団をめくっている。
「なぜめくる?法師様」
「いやぁ、布団は一組しかないので・・・」
「まわりよく見たら?ここ、納戸だよ」
周りには布団がいっぱい★
「(とほほ)・・・。そうですな・・・」
一方、またまた背を向け合っているふたり。
ケンカしてもその手はつながれいる。
(何で・・・いっつもこうなっちゃのかな・・・。)
犬夜叉をチラリと見る。
(俺にどーしろってんだ・・・。かごめ・・・また・・・怒ってんのかな・・・)
かごめをチラリと見る犬夜叉。
こんなに近くにいるのに、顔を見るとケンカをしてしまう。
手と手はつながれているのに・・・。
ホントは素直になりたい。
「あ、あのな・・・かごめ俺・・・」
犬夜叉がかごめの手にふれようとしたとき、風がヒュッと吹いてろうそくの火が消えて真っ暗に。
「えっ。い、犬夜叉?!ねぇっどこにいるの!キャー!」
かごめは混乱してバタバタと騒ぎ出した。
「あ、こら騒ぐなって!手ぇ痛てぇだろがっ・・・」
「だって、怖いんだもんっ。あ、そうだ、懐中電灯・・・キャアッ!」
「わっ」
バタバタドサッ!
ふたりまそのまま倒れ込んだ。
「いたたた・・・なに?何か重たい・・・ん?それになにかしら、このやわらかいものは・・・」
かごめが『それ』をつまむとぴくぴくっと動く。
「いてっ。何すんだっ!!」
犬夜叉が少し体を起こすとふすまからの月明かりで真下にかごめの顔が・・・。
「!!」
二人は息が止まった。
完全に犬夜叉は全身でかごめを包んでいる。
「・・・」
「・・・」
月明かりに映える銀髪。
その全身で感じる愛しいまでの優しい匂い・・・。
そして、見つめ合う目と目・・・。
ドクンドクンドクン・・・。
鼓動は急激に速くなる。
その鼓動と一緒に自然とつながれた手と手は重なり合い、お互いの瞳に吸い込まれ近づいていく。
「ん?」
犬夜叉の耳が4つ・・・。
「ワン!」
チビ犬が犬夜叉の耳と耳の間から顔を出した。
「チビ犬ちゃん・・・」
「ワン!」
チビ犬の登場でそのなんとも緊迫した空気は途切れ、なんだか急に可笑しくなるふたり。
「ワン!」
そして、今の状態に気がつきバッと起きあがり再び背を向け合う二人。
「わっわっわ、わりぃっ!!」
「う、ううんっ・・・」
かごめはまだ、ドキドキと止まらぬ心臓に片手をあててうつむく。
(と、止まって・・・!もう!とまってよ!)
(ち、ちきしょう・・・。これじゃあ身がもたねぇ・・・)
「い、犬夜叉、座って寝ましょう・・・」
「そ、そうだな・・・」
二人は壁に並んで寄りかかる。
「最初っからこうすればよかったね・・・」
「お、おう・・・」
かごめは格子から見える月を見上げる。
かごめはふっと七宝が離していた悲恋木の話を思い出した。
「・・・。ねぇ。犬夜叉」
「何だよ」
「悲恋木のお話だけど・・・あたしはね・・・結ばれないからって・・・一緒に死ぬのは絶対に嫌」
「・・・」
「例え・・・別れることになったとしても・・・生きて欲しい・・・生き続けて欲しい・・・。そう思ったんだよ。いきてさえいたら・・・きっとまたいつか会えるって・・・」
かごめは訴えるように犬夜叉を見る。
「・・・」
犬夜叉はそれに応えるようにかごめの肩をぐいっと抱き寄せる。
「・・・。犬夜叉も少し分かってきたね。女の子の気持ち・・・」
「けっ・・・」
「ふふ・・・。ねぇ犬夜叉」
「だから何だよ」
「手錠・・・今夜だけははずしたくないな・・・私・・・」
「何言ってンだよ・・・」
いつかくる別れの時。分かっているけど、怖くて不安でたまらない。ずっとこの時が止まればいいのに・・・。
手錠でつながれた間にはもうひとりの悲運の巫女の存在が重たく感じる。
「ずっとこのままだったら・・・」
「・・・。バカなこと言うなよ」
「えっ・・・」
「こんなおもっくるしいもん、ずっとしてるっていうのか?あのな、こんなもんなくたって・・・」
犬夜叉はその重なっているその手をかごめの手に指をからめてギュッと握る。
「俺はこの手を離さなねぇ・・・」
「うん・・・」
かごめもギュッと握り返す。
そして、二人は互いの気持ちを確かめ合うように額をコツンと合わせた。
「離さないでね・・・」
夜が更けていく。
壁により掛かって眠っているふたりの手錠がポウッと白く光る。
眠っている二人。その耳元で『ありがとう・・・』と聞こえる。
そして二人の腕からスウッと消えた。
『ありがとう・・・』
しっかりと握られた手と手に優しい月の光が照らされていた。
だから、その手を離さないでね・・・。