今日は朔の日。犬夜叉が人間になる日だ。
犬夜叉達一行は、人食い熊でるという山のふもとまで来ていた。
「人食い熊退治は明日にしましょう。犬夜叉の妖力が戻るまで」
「けっ。ただの人喰いぐまなんぞ、鉄砕牙つかうまでもねぇ」
ぱこり。
弥勒の一発。
「お前、今、人間なんだぞ。もう少し用心しろってんだ」
「減らず口だけは半妖の時とかわらんのう。のう。チビ犬」
「ワン!」
「ともかく・・・。今日はみんな用心して休もう」
珊瑚は雲母によりかかって。かごめは寝袋で眠りについた。
それから1時間ほど経っただろうか。
まるで獲物を求めているような目つきの黒い影が犬夜叉達に忍び寄る。
「!」
犬夜叉と弥勒はその殺気だった妖気に気がつく。
珊瑚は飛来骨を片手に敵にそなえる。かごめと七宝とチビ犬も目を覚ます。
「弥勒・・・」
「ああ・・・。きますぞ!!」
グワウウッ!!
闇の中から現れたのはまるで狼の様に鋭い牙の大熊だ。体はどす黒く、その背にはこうもりのような黒い翼がついている。
「かごめ様!四魂のかけらはかんじますか?!」
かごめは大熊のからだをじっと見る。
「・・・。ない!ないわ!」
グワウウ・・・。
大熊はじりじりと犬夜叉達に迫る!
「かごめ!下がってろ!!」
犬夜叉はかごめを自分の後ろにやる。
「犬夜叉!お前こそ下がってなさい!ここは私と珊瑚にまかせてお前はかごめ様をつれて逃げろ!!」
「てやんでぃ・・・こんなザコ妖怪・・・はっ!」
グワウッ!!
大熊は弥勒と犬夜叉に向かってつるどい爪を向けた!
そしてそれをかわす!

「犬夜叉!早くかごめ様と七宝を安全な場所へ連れて行け!!かごめ様を・・・。!!かごめ様っ!!!」
「え?」
かごめ真後ろにもう一匹の大熊が!!
グワウ!!
「かごめえーーーーーーっ!!」
犬夜叉、背を向けてかごめをかばうが大熊の爪が犬夜叉の背中を引き裂いた!
「ぐ・・・っ」
「犬夜叉ーーーー!きゃ・・・」
そのまま倒れた犬夜叉の下敷きに!
ドサ!
「犬夜叉!犬夜叉!」
かごめは犬夜叉をおこすが、傷は深い!
「飛来骨!!」
グワウウ!
珊瑚の放った飛来骨が1匹に命中!
その体は見事に粉砕した。
「雲母!かごめちゃんと犬夜叉を安全な場所に連れて行け!!」
雲母はかごめと犬夜叉を背中に乗せ、高く飛び上がり、その場を離れていった。
「珊瑚!お前は残りの大熊を俺にちかずけろ!俺がまとめて風穴でやる!!」
「・・・。わかった!法師様、きおつけてよ!」
「じゃあ、いくぞ!!珊瑚!」
珊瑚は飛来骨で大熊を弥勒の前にと誘い込む。
「風穴!!」
ゴオオオオオ!
風穴にズルズルとひきづられていく大熊!しかし抵抗している!
「くっ・・・」
弥勒も負けじとその右手を力の限り振りかざす!
大熊の体はみるみるうちに風穴に吸い込まれていく!
グワオオオオオッ・・・!
全てが吸い込まれた・・・と、その時!
ガウウッ!
「うっ・・・!!」
最後のあがきで、大熊の大きな牙が弥勒の手のひらを傷つけた!
「法師様!大丈夫?!」
弥勒に駆け寄る珊瑚。
「う・・・。手が・・・」
「やだ・・・もしかして風穴が開いたの?!」
「大丈夫・・・。風穴からはそれている・・・」
珊瑚は自分の髪を結っていた布をとり、弥勒の手に巻き付ける。
「珊瑚・・・。ありがたついでにできれば膝を貸してはくれまいか?」
「・・・。これにじょうじて何する気・・・?・・・。まあ、いいか。今だけは・・・」
珊瑚は弥勒の頭を自分の膝へ・・・。
「ああ。柔らかくていい気持ちですなぁ・・・。どうせなら、おまけの口づけなど在れば・・・」
「・・・。頭ずらすよ?」
「はい。このままで結構です」
草むらの中。静かに風がやんだ。
「ねぇ弥勒様・・・。もしかして、風穴・・・。段々大きくなってきてるの?」
「日頃の行いが悪いからなぁ・・・。ふっまぁ、奈落を倒すまでの話だが・・・。それまで持つかどうか・・・」
時々見せる弥勒の気持ち。
不安なら不安そうな顔をすればいいのに・・・。おちゃらけ弥勒をぶってばっかり。
でも・・・。とても心配しているんだよ。
「珊瑚・・・。そんな顔をするな。風穴のおかげでこうしてお前の膝で休めるのだし、こういう夜はお前の笑顔を見たい」
「法師様・・・」
自分をを気遣う弥勒に珊瑚の胸はキュンと鳴った。
「!」
ドキ!
片方の弥勒の手が珊瑚の頬に触れる。
「今晩はこの手はお前の笑顔を見るためにこうしておきたい。よいか?」
「うん・・・。あたしもこうして法師様の事・・・。見ていたい」
見つめ合うその瞳の奥にあるものはお互いを大切だという想いだけ。
「・・・。珊瑚。そのようなセリフは俺を本当に狼になるかもしれんぞ」
「その時は私ではなくて飛来骨がお相手します」
今日だけは・・・。セクハラも許す。あなたと私が向き合っている気がするから。
やんだはずの風がまた、少し吹き始め、それにつられて草もゆらりと揺れていた。

ちなみに・・・。チビ犬と七宝はどこに?
草むらの影にいました。そしてまた、チビ犬の口をふさいで隠れています。
(またじゃ・・・。最近の男女は子供の目をなんとおもっておるのだろう。よいか、チビ犬!ここで音をだすのは子供じゃ!で、また、がまんしてもらうぞ!)
(フガゴッ!!)

「雲母!あの洞窟でおろして!」
かごめは犬夜叉をとりあえず、洞窟で休ませることにした。
「う・・・」
「どうしよう・・・。とにかく血を止めなくちゃ!」<血が着物を真っ赤に染めていた。
かごめはリュックの中から湿布と包帯を取り出す。
血だらけの着物を脱がせる。
汗をかいている。
ザコ妖怪とはいえ、人間の体の犬夜叉にはあの爪の傷は深かった。
湿布を背中に貼りつけ、包帯をまく。
犬夜叉のけがをいつも手当てするかごめ。
今までの闘いでの傷跡がいくつも残っている。
「・・・」
かごめを守ろうとしてついた傷もある。
必死に自分を守ってくれた跡・・・。
かごめはその傷一つ一つが愛おしく、そして痛々しく感じた。

『犬夜叉・・・』

誰だ?

『犬夜叉・・・』

お・・・おふくろ・・・か?

『私は・・・あなたを守ってあげられなかった・・・』

おふくろ・・・泣いてんのか・・・?

『私は・・・いつも・・・あなたのそばにいます・・・』

おふくろ・・・

『いつも・・・あなたのそばで・・・見守っています・・・』

おふくろ・・・!

母親らしき影に手を伸ばす犬夜叉。
待ってくれ・・・!おふくろ・・・。

『いつも・・・あなたの側に・・・』

おふくろ!

「はっ・・・」
ゆっくりと目を覚ますとそこにはかごめの瞳から流れる一筋の涙が・・・優しく見えた。
「かご・・・め・・・?」
「犬夜叉・・・!よかった・・・。気がついたのね」
「ここ・・・は?」
「森の中の洞窟。雲母に降ろしてもらったの」
「そ・・・か・・・」
あの夢の中の声は母親の声だったのかそれとも・・・。しかし、とても安心するあたたかい声。
「お前・・・何・・・ないてんだ・・・よ」
「な・・・泣いてなんか・・・それより、傷、痛まない?とりあえず、血はとまっ・・・」
かごめの頬に触れる犬夜叉の手。
「なんで・・・ないてたのかって・・・聞いてンだ・・・」
かごめは触れられた手に自分も重ねる。
「・・・。犬夜叉の体の傷見てたら何だか・・・私も痛くなっちゃって・・・。私を守ったせいでこんな風になったのも幾つかあるのかって思ったら・・・。痛くなっちゃって・・・」
「・・・。ばかやろう・・・。お前が泣くことはねーんだよ・・・」
夢の涙はこの涙?母親の優しい声が犬夜叉の耳にまだ、残っている。
頬にあてられた犬夜叉の手の甲に血がついている。
「ん?かごめ・・・お前、手、どーした?」
「あ、これ、ちょっと雲母から降りるときくじいただけよ。こんなのたいしたことないから・・・」
犬夜叉は痛そうに体を起こした。
「ねっころがってると小石に傷があたって痛いんだよ。それより・・・かごめ、包帯もってこい」
「え?」
「いいから・・・」
犬夜叉はかごめから包帯を受け取るとかごめの手に巻き始めた。
「犬夜叉・・・。いいわよ。どっちがけが人なのよ」
「黙ってろ」
巻くというよりからめてる・・・。
「・・・。不器用ね。あんた」
「う、うっせー!だまってろつってんだろ!ちくしょ・・・うまくいかね・・・」
本当に不器用な犬夜叉。でも、その不器用はたくさんの優しさがつまっていることをかごめは知っている。
「うふふ。もーいいから。自分で巻くわ」
「けっ・・・。俺は・・・お前が傷つくのがやなんだよ・・・。かすり傷でも・・・」
「犬夜叉・・・」
大切な人の傷。それは自分の痛みでもある。
「かごめ」
「ん?」
犬夜叉はかごめをフワッと自分の膝の上に乗せた。
「・・・。今日は膝枕はいいの?」
「ば、バカ言ってンじゃねぇ・・・」
両手で大切に包み込むその両腕がいつにもましてたくましく、力強く感じる。
かごめは体全身で犬夜叉の肌の体温を感じる。
傷のせいせか全身、熱い。
犬夜叉も又、全身でかごめを感じる。
心から安心できる。愛おしい匂い。まるで、母親のお腹の中にいるような・・・。
「・・・。やっぱり・・・お前、いい匂いだ・・・」
「・・・。前から聞こうって思ってたんだけど・・・あたしの匂いってどんなの?」
「ど、どどどんなって・・・」
「シャンプーかな、それともリンス?」
「そんなもん、しらねぇ。ともかく・・・俺は・・・。お前の匂いが好きなんだ・・・」
愛おしい気持ち一杯に犬夜叉は腕の力ぎゅうっと強める犬夜叉。
抱きしめられるのと同時にかごめの耳元かに犬夜叉の息がかかる。何だか全身がくずぐったい。
「あ・・・あたしは・・・犬夜叉の耳が好き」
「なっ・・・。・・・耳・・・だけ・・・かよ」
犬夜叉、少しすねる。
かごめは犬夜叉の腕の中で犬夜叉の方をふりむく。
「・・・。ここも・・・好き」
犬夜叉の唇にそっと指で触れる。
すると自然と犬夜叉もかごめの唇に・・・。
「・・・」
指先から熱さが全身に伝わって、そのままふたりは優しくキスを交わした。
たとえ、傷を負ってもきっとお前が、あなたが、いるかぎり、きっと乗り越えられる。

FIN