忘れな草〜お前を忘れるくらいなら〜

第1話


桔梗はそのどす黒い障気を感じていた。そう、近くに「奈落」がいる。

「・・・。でてこい。奈落。私は逃げも隠れもせん」

「ふっ。相変わらずだな、桔梗」

黒い影から傀儡の奈落が姿を現した。

「何用だ。奈落」

「時に桔梗よ・・・。犬夜叉とは会っておるのか?」

「貴様に言う筋合いはない」

「ふっ・・・。余裕だな。今、この一時も犬夜叉のそばにはかごめがおるのだぞ。まあ、もう一人のお前だともいえるがな・・・」

「・・・。何が言いたい。奈落」

「お前の望みは我を倒し、犬夜叉と共に地獄へ逝くこと。犬夜叉もそう思っている。しかし・・・」

「・・・」

「しかし・・・。共に逝くのは体だけ。心まではもっていけぬ。犬夜叉のこころにはすでにかごめがすんでいる。そう思わぬか?桔梗」

「戯れ言をぬかすな。私に嫉妬させ、何を企む?奈落。」

桔梗は奈落に弓をむけて話す。

「犬夜叉の魂は永遠にかごめを求め続けるのだ・・・。かごめを忘れぬ限りな・・・」

ザシュ!

桔梗は矢を放つ。

しかし、奈落は巧に矢をかわした。

「桔梗よ・・・。この薬を犬夜叉に飲ませるのだ・・・。そうすれば奴はかごめだけを忘れるだろう・・・」

奈落は桔梗に小さな小瓶を見せる。

「そんな怪しげなものを犬夜叉に飲ませると思うか!去れ!奈落!!」

桔梗の放った矢は奈落の傀儡を壊した。

「残念だな・・・。しかし、お前が飲ませぬならワタシが飲ませるまでのこと・・・。いずれ、貴様は私に礼を言わねばならぬかもな・・・フハハハハ・・・・」

その奈落のなんとも不適な声は風の中に消えていった。

「・・・。奈落め・・・」

「!」

かごめはかすかに近づく四魂のかけらの気配を感じた。

「犬夜叉!かけらが・・・四魂のかけら近くにある!」

かごめの言葉に犬夜叉、弥勒、珊瑚は辺りを警戒した。

「・・・。奈落が近くにいるのか?!」

「いや、この気は・・・神楽ですぞ!!」

弥勒の言うとおり、雲の隙間から神楽が姿を現した。

「よう。犬夜叉。久しぶりだねぇ。桔梗とはうまくいってるかい?」

「なっ・・・」

「さ、とっとと仕事、終わらせるよ!」

神楽の背後から無数の妖怪達が犬夜叉達に向かって攻撃してきた。

弥勒は風穴で、珊瑚は飛来骨でそれぞれ妖怪達を倒す!

犬夜叉も鉄砕牙をかまえ、風の傷を放とうとした!

その時!

犬夜叉に向かってきた妖怪の背後から神楽が突然犬夜叉の目の前に現れ、犬夜叉の肩を掴んだ!

「犬夜叉!!」

かごめが犬夜叉に近寄った瞬間、神楽は犬夜叉に無理矢理何かを犬夜叉に飲ませた!

犬夜叉はごくりとそれをのみ込むと、すぐさま、全身が震えだし、苦しみはじめた。

「ぐわっ・・・」

「犬夜叉!!神楽っ!!犬夜叉に何したのよ!!犬夜叉から離れて!!」

かごめは神楽に弓矢を向ける。

「ふふふ・・・」

「な、何が可笑しいのよ!!」

「かごめ、犬夜叉の中にはもう、あんたはいないよ」

「?!何、訳のわかんないこといってんのよ!犬夜叉から離れてっ!!」

ザシュ!!

かごめの放った矢は神楽の肩をかすめた。

「あいからず、矢の扱いが下手だねぇ。桔梗のまがいものってことか。色恋沙汰でもあんたの負けって事か」

「うるさいわよ!神楽!今度は頭、狙うわよ!!」

弓に力が入る。かごめは神楽に再び矢を向けるが、神楽は風を起こして去っていった。

「犬夜叉!!」

かごめは犬夜叉に駆け寄った。

「う・・・」

犬夜叉の顔はみるみる青ざめていく。

「しっかりして!犬夜叉!!」

「犬夜叉!」

弥勒達も駆け寄る。

「珊瑚ちゃん!雲母で早く犬夜叉を楓おばあちゃんの小屋へ運んで!!」

かごめ達はすぐさま楓の小屋へと急いだ。

“犬夜叉の中にはもうおまえはいないよ”

神楽の意味深な言葉がかごめの心にひっかかっていた。

犬夜叉は荒く息をしている。

神楽に飲まされた毒は夜になっても犬夜叉のからだから抜けなかった。

「かごめさま、少しお休み下され。一睡もなさっていないのだから・・・かごめさままで倒れられたら・・・」

「うん・・・。大丈夫だから・・・。弥勒さまこそ休んで・・・」

かごめは犬夜叉の汗をぬぐいながら、神楽の言ったことがずっとひっかかっていた。

「う・・・」

犬夜叉がもうろうとしながらも目を覚ます。

「犬夜叉!気がついた・・・?」

「・・・。ここ・・・は・・・」

「気がついたか。犬夜叉!やれやれだな・・・。奈落の毒も消えたらしいな・・・」

「弥勒・・・」

弥勒の脇から七宝が犬夜叉に抱きついた。

「うわーん!!犬夜叉〜!!よかったのう〜!!ワシはもう目を覚まさんかと思ったぞ〜!!」

「七宝・・・」

「かごめちゃんに感謝しなさいよ。一晩中、あんたの側で看病したんだから・・・」

「珊瑚の言うとおりじゃっ!かごめは一睡もしとらんのだぞっ」

「かご・・・め・・・??」

犬夜叉は不思議そうな表情で首を傾げた。

「いーのよ。珊瑚ちゃん。犬夜叉が無事だったんだから・・・」

犬夜叉は横に座っているかごめの顔をじっとみてそして、つぶやいた・・・。

「お前・・・誰だ??」

「!!」

一瞬、その場の空気が止まる。

「や・・・やだ何言ってンのっ?犬夜叉?あんた、ちゃんと、目、さめてる??横にいるのはかごめちゃんでしょ!」

「・・・。珊瑚こそ何言ってンだ?俺はかごめなんて奴しらねぇ・・・」

「何寝ぼけとるんじゃ!犬夜叉!かごめをわすれおったのか?!」

「うっせーな。しらねぇもんはしらねぇんだ・・・」

かごめは呆然としながらもずっとひっかかっていた神楽のあの言葉の意味をはっきりと悟った。

『もう、犬夜叉の中にはお前は居ないよ』

犬夜叉の自分を見る目。まるで赤の他人を見る、無関心な目。

「・・・。奈落の・・・毒のせいか・・・」

弥勒は全て見通したように言った。

「法師様!それ、本当なの?!」

「ああ・・・おそらく・・・」

「奈落?!奈落がどうしたっていうんだ!そうだ!桔梗は?!桔梗はどうした?!」

「犬夜叉・・・」

「おい!弥勒!奈落のとこに桔梗がいるのか?!なら今すぐ・・・。ぐっ・・・」

弥勒は犬夜叉のふところに一発くらわせた。

「なに・・・すん・・・だ・・・」

「すまぬな。だが、もうしばらく、眠っていろ。今は皆、混乱している・・・」

犬夜叉そのまま気を失った。

一方、かごめは呆然としたまま俯いている。

「か・・・かごめちゃん・・・。だ、大丈夫だよ。きっとすぐ、思い出すって・・・」

「・・・。う・・・うん。ごめん。あたし、ちょっと風に当たってくる・・・」

今の犬夜叉の中には自分はいない・・・。かごめは楓の小屋を飛び出した。

「かご・・・」

後を追おうと珊瑚はしたが、弥勒がとめる。

「一人にしてあげましょう・・・」

「法師様・・・」

「・・・。弥勒、夜が明ければきっとかごめを思いだすのじゃろ?な、弥勒!」

「・・・。奈落の毒によるものならば・・・何ともいねませぬ・・・。奈落の目的はかごめさまと犬夜叉を切り離すこと・・・。それも自発的にそうしむけるためにこんなことを・・・。人の心を弄ぶ奴らしい手口ですな・・・」

「感心してどうするのよ!何か、方法はないの?!」

「・・・」

かごめの心に神楽の言葉が何度も響いていた。

『もう、犬夜叉の中にはお前は居ないよ・・・』

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