あなたのために強くなりたい
後編
胸の奥。年甲斐もなく・・・と思いながらも忘れたはずのドキドキが蘇る。

30年ぶりの再会。互いに歳をとり、姿も変わってしまったが、その存在は忘れない。

何を話せばいいのだろう。楓は言葉を探したが、出てこない。

「・・・一郎太・・・」

「・・・。何で妖怪がここにいるんだ?」

バキ!!

「誰が妖怪じゃいっ!!ワシは人間じゃっ!!」

「楓という名のな」

「ふん!!お前こそ立派なじいさんになりおって!有名薬師の影もないのう」

「ふ・・・。お前こそしわくちゃばあさんになりおって」

言いたいこと言い合って。でもそれがとても楽しかった。あの頃。

姿形は変わっても、心の時間は変わらない。

「で、なんでお前がここにいる。また、調合してほしいなら無駄だぞ。もう、手がいかれちまってうごかねぇしな」

「・・・。歳のせいか。ワシはまだまだ現役だぞ」

「だろうなぁ。お前は似ても焼いても巫女だからな・・・」

「・・・」

亡くなった姉のあとをついで村を守っていこうと決めた若い日の自分。

後悔はしていない。だが・・・。そのためにきづついた人間がいる事を楓は深く感じている。

「まぁ、座れ・・・。昔話をするつもりはないが、酒の一杯ぐらいは出してやる・・・」

穏やかな一郎太。

自分のことを憎んでいるはずなのになぜ・・・。

すぐに帰ろうと思っていたが楓だったが、いつか・・・一郎太とこうして向かい合って話したかった。

「まあ、飲めや」

「巫女は酒などのまん」

「そーかい。本当に『巫女さん』なんだな・・・」

「・・・」

一方、小屋の外。犬夜叉とかごめは密かに小窓から二人の様子を覗いていた。

「へえ・・・。結構いい雰囲気だね」

「そんなもんか?俺にはケンカしてるにしかみえねーけど」

「・・・。でしょうね」

焚き火をはさんでかつての恋人同士が向かい合う。

「・・・」

「・・・」

30年。長い月日。それぞれに歩んできた。

「楓」

「何じゃい」

「半妖のクソガキは元気か」

「ああ。外でわしらの話をきいとるわい」

外の『クソガキ』とかごめ、思いっきりそこにいるのがばればれです。

(な・・・!誰がクソガキだコラ!)

(静かにしなさい!!おすわり!!)

静かにおすわりの犬夜叉です。

「ふん。あんな奴ワシによこしやがって・・・。生意気にも『助けたい女』がいるって俺に頭下げやがった」

「ほう・・・。あいつがな・・・」

外の犬夜叉、かなり、焦る。かごめのために人の頭を下げたなどと絶対に、いや、特にかごめだけには知られたくなかったのに・・・。

かごめはチラッと犬夜叉を見る。

「・・・」

犬夜叉、照れ隠しにぷいっと腕を組んで後ろを向いた。

「確かに『クソガキ』は小生意気なガキンチョだが、少なくとも惚れた女を必死に守ったんだからな・・・。昔のワシよりは幾分マシな奴かも知れねぇな」

「一郎太・・・」

一郎太は木の枝をぱきっと折って火に入れる。

「失ってしまってその大切さに気づくナンザ・・・。バカな男だ・・・。そして今でもそいつに支えられてるんだ・・・。八重に・・・」

「八重・・・」

八重・・・。楓の幼なじみだった。

同じ男を好きになってしまってから、八重は楓の村を去っていった。

「・・・。八重が・・・死んだのは一郎太、お前のせいだけではない・・・。ワシが・・・ワシが八重を追いつめたかもしれん・・・。八重の本心も知らずに・・・」

『一度でいい。楓、自分の気持ちに正直になって・・・。私に気を使わないで・・・』

「・・・。一郎太、頼みがある」

「何だ」

「八重の・・・八重の墓に連れて行ってはくれまいか・・・。久しぶりに・・・八重と話がしたい」

「・・・。そうさな・・・。ついでに外の見物人も連れて墓参りとするか。おい、でてこい。半妖のクソガキ」

「んなっ。誰がクソガキでぇい!!クソジジイがっ」

『クソガキ』とかごめの見物人、登場の巻。

「あ・・・。あの、初めまして。かごめっていいます・・・。一郎太さん。ありがとうございました。調合したお薬が効いて、元気になりました」

かごめは深々とお礼を言った。

「・・・。ほう・・・。あんたか。クソガキの『助けたい女』ってのは・・・。クソガキにゃもったいない娘さんだな」

「んなっ・・・。クソガキクソガキってさっきから・・・」

「おすわり!」

犬夜叉、今日、3回目のお座りです。

「あははっは。こりゃいい。おすわりってか!あはっはは」

「笑うんじゃねっえ!!」


4人はこの先の古い一本杉の下にある八重の墓に来ていた。そこからは丁度楓の村が一望できる。

ひっそりと村を見守るように八重の墓はたっていた。

「八重・・・」

楓はそっと八重が好きだった野菊の花を供える。

かごめも一緒に手を合わせる。

「・・・。八重は・・・ここから村を眺めるのが好きだった。いつも、幼い頃楓と遊んだと楽しそうに言っていたな・・・」

『楓ちゃーん。ここまでおいでよ〜!』

耳に残る幼い頃の幼なじみの声。

「・・・。ワシは八重のおかげで自分を取り戻せた。その時はもうワシのそばには八重はいなかったがな・・・」

「・・・」

「あいつにゃ・・・死に際までワシの事を気遣って・・・」

“本当の・・・好きな人をあきらめないで・・・”

静かにそよ風が吹く。

「けっ・・・。なんでい!このじめっとした空気は!死んだ奴前にして」

「こら!犬夜叉!!ごめんなさい!一郎太さん!失礼なことばかり言って・・・」

「いや。賑やかで八重も喜んでるだろうよ。」

「そうじゃな。おせっかいな若い奴らのお陰で・・・八重と会えた。だがな、礼は言わんぞ。お前が勝手に連れてきたのじゃからな」

「けっ。ばばあに礼なんて言われたかねぇぜ!きみわりぃ」

「おすわり!!」

「ぐえっ!!」

犬夜叉、今日4回目のお座りです。

「あはっはは!尻に敷かれてるな。おい、クソガキよ。ちょといと耳かしな」

「んだよ!」

「・・・。いいか。クソガキ・・・。耳の穴かっぽじって聞けよ・・・この先ずっと・・・大切な者は守り続けて行けよ。ずっとな・・・」

「・・・」

かごめは何を話しているのだろうと首を傾げる。自分のことだとは知らずに

「犬夜叉、かごめ。そろそろ行くぞ。珊瑚たちが待っているからな。一郎太、お前はどうする」

「ワシはもう少し八重と話ている」

「そうか・・・。じゃあ・・・さらばだな・・・」

「ああ・・・」

楓が一郎太に背を向けた。

一郎太の胸に蘇る。一生添い遂げようと告げ、自分の前から去ったあの巫女の後ろ姿。

呼び止めたかった後ろ姿・・・。

「楓っ!!」

ドキッとして振り向く楓。

「な、何だ・・・」

「・・・。お前はこの30年・・・幸せだったか・・・?」

「・・・」

楓は少し穏やかに笑って言った。

「ワシは後悔しとらん。30年前の自分も今の自分もな・・・」

そう言い切った楓の表情は長い年月を生きてきた女の自信が満ちていた。

「そうか・・・。ならいい。気が向いたらまた、来い。酒しかだせんがな」

「気が向いたらな・・・」

気が向いたら・・・。きっと来るだろう。行くだろう。

30年。やっと、向かい合えた二人。

かごめはそんな年老いた二人の新たなつながりを確かに感じた。

「あ・・・」

帰り際、かごめは杉の木の後ろに一瞬、髪の長い、優しい表情をした女性の姿が見えた。

「どうしたんだよ。かごめ。帰るぞ」

「あ・・・。う、うん・・・」

杉の木が穏やかに風になびいていた。



その夜。かごめはなんとなく寝付けなかった。

そうっと楓の小屋を抜け出し、川原へと出かける。

岩の上に座り、冷たい川の水に足をつける。

「ふう・・・」

最近、かごめは時々こうして一人で川原にきて色々考える。

(楓おばあちゃん・・・何だかかっこよかったな・・・)

桔梗の死に、楓の人生も変わった。姉が守るべき村を楓が守ることになって・・・。

自分の恋もあきらめなければならなくなって・・・。

それでも楓は言った。

『今の自分も30年前の自分も後悔はしていない』と・・・。

自分は・・・どうなのだろう・・・。

今は犬夜叉たちと共に奈落を倒すのが最大の目的・・・。

それが終わったら・・・。

「・・・」

それは・・・。

覚悟しているはずの・・・『別れ』。

自分の恋との・・・。

15歳の恋・・・。

「・・・」

ぽろっと涙が出る。まだ・・・。きっといつか、くる『その時』の事を考えると・・・。

「・・・」

かごめは自分の頬をびしっと叩く。

そして叫んだ。

「・・・。もっと強くなるぞーーーーっ!!」

「こんな夜に何さけんでんだ。コラ」

やっぱし犬夜叉、かごめの跡をついてきていた。かごめの行くところ、どこへでもついていく。

「何だ。犬夜叉か」

「何だとは何だ。心配してきてやったってのに・・・」

「ごめん。色々と考え事がありまして・・・」

「・・・。考え事って・・・何だよ」

犬夜叉はかごめをじっと見た。

「・・・。色々」

「色々って・・・何だよ」

「色々は・・・色々よ」

「だから!色々って何だっていってんだよ!」

「うるさいわねぇ!色々っていってんでしょ!!」

「泣いてたじゃねぇかよ・・・」

「!やっぱし覗いてたんだ・・・」

犬夜叉、密かにかごめを観察していたのはモロばれだった。草陰から耳が見えていたのだ。

「・・・。じー」

「な、何見てんだよっ!」

「ねぇ犬夜叉。あたしの薬のために一郎太さんにあたま、下げたの?」

「んなっ・・・」

「じー・・・」

犬夜叉、必死に否定する。

「ば、バカやロー。んな、この俺が人に頭なんかっ・・・!!」

「うふふ。ありがとう。犬夜叉。感謝してる。いつも守ってくれて・・・」

「な、何だよ急に・・・」

かごめは再び川の水の足をつける。

「守ってもらうのが当たり前みたいになってるきがして・・・。だめだよね。それじゃあ。もっと強くならなきゃ」

かごめは両手を拳にして軽くシュシュッとボクシング。

「・・・。おめーはつえーよ・・・。強くて・・・。優しい・・・。誰より・・・。そんなお前だから俺は・・・」

一郎太の言葉がうかぶ。

“守りつづけろよ。ずっと・・・”

「だから俺は・・・。その先は何?」

かごめはじっと犬夜叉の瞳をのぞき込んだ。

「ばっ・・・。な、なんでもねぇっ!!その先は・・・。そ、そのうち言ってやる」

「ふうん・・・。そのうちねぇ・・・。ま、いいか。待ってやるか。ずっと待ってやる・・・」

「かごめ・・・」

たとえあんたと・・・離ればなれになったとしても・・・。

でも・・・。いつか、いつか・・・。思う存分、お互いを首ったけになるくらいに想い合える、それが許される時がくるかもしれない・・・。

「犬夜叉。もしあたしがこの先・・・また誰かに生まれ変わったとしても・・・。また、『かごめ』に生まれたいな」

「生まれ変わる?」

「そっ。そんでね・・・。もし、同じ世界にあんたも生まれて出会ったら、たっくさん前世での文句いってやる!でもやっぱり出会って最初の一言って・・・」

かごめは犬夜叉の胸にシュッと拳を出し、それをぱしっと受けとめる犬夜叉。

「・・・。おすわりってんじゃねぇだろうな」

「・・・。あら、わかった?だって合言葉じゃない♪あたし達の♪ふふっ」

笑顔で話すかごめ。犬夜叉はそんなかごめの笑顔が愛しくて切なくてたまらない。

「・・・。やっぱりお前は強いな・・・。強いよ・・・」

今、こうして当たり前のように、まるで体の一部のようにそばにいるかごめとの『別れ』が来るなんて思えない。しかし、その道を選んだのは自分。

“守り続けろよ・・・。ずっと・・・”

「・・・」

犬夜叉はそっとかごめを抱きしめた。

「・・・。どうしたの。急に・・・」

「うるせえ!黙ってろ!」

「・・・。うん」

すまねぇ・・・。ジジイ・・・。俺は・・・。

犬夜叉の、かごめを守りたい・・・という気持ちが鼓動と一緒にかごめにも伝わる。

力強くて、どんな時も私を守ってくれる犬夜叉。

ありがとうをたくさんいいたい。

けど・・・。

優しくされるほど、大切に守りたいと思ってくれるほど、

切なさといつか来る『別れ』への不安が爆発しそうになる・・・。だめだね・・・。

かごめはそっと犬夜叉の腕から離れた。

「・・・かごめ?」

「もう、戻ろう。みんな、心配するから」

「あ、ああ・・・」

まだ・・・全てに強くなれない。

嫉妬もするし、寂しさ不安がつきまとってる。

楓おばあちゃんの様に、自分が選んだ事を後悔しない・・・と胸をはっていえる強さが欲しい。

そんな確かな強さが・・・。

FIN

かごめちゃん、ファイトーーーーっ!!(一発ーーーっ!!)
・・・。すみません。心の叫びを書いてしまいました。いや、自分で書いていて、何でこんないい子が戦国時代で苦労しなきゃならんのだ!なんでいっつも少年漫画は健気な女の子が苦労したり、痛い目にあうねん!!とかなんとかぼやきながら書いたしろもんです。でも、楓ばあちゃんは本当に偉いですね!だって、姉上が亡くなってからずっと50年も村を一人で守ってきたのですから。その『姉上』様はずっと自分は一人だと思ってきたらしいですが、楓ばあちゃんがいたと思いますよ。楓ばあちゃんも苦労人ですね。蘇った姉上の心配までしてます。ほんで生まれ変わったかごめと犬夜叉の相談役までして・・・。密かに応援してますです!!