恋は自転車の乗って


かごめが、白糸の滝から帰って、3日がたった。
かごめの心境の変化が気になり、跡までつけていった犬夜叉だが、結局はかごめの心うちははっきりとはわからずじまいでいた。
しかし、いつもの変わらないかごめの笑顔。
犬夜叉はホッとしていたのだった。そして、いつも通りの朝の出来ごとである。

ちりりりん。
かごめの移動法は自転車だ。後ろにはリュック、かごの中は大抵、七宝が入っていることが多い。
「便利な乗り物ですな、自転車というのは」
「だって、何かと荷物多いし」
かごめは現代から食料等を持参してくる。自転車は乗る、というより荷台用にもなっていた。
「けっ。そんなもん、俺の方が早いにきまってんだろ」
「なんじゃ、犬夜叉。お前、自転車にまで焼いておるんかい」
「ばっ・・・」
どうやら図星らしい。
「犬夜叉・・・。お前、もっと自分に自信をもちなさい。お前の背中はかごめ様専用ではないか。いつも背中にかごめ様の温もりを・・・。なんともうらやましい」
「みょうないいかたすんじゃねえっ!好きで乗っけてやってるんじゃねよ!かごめのスピードに合わせてやってたらよるになっちまうからな」
かちん。かごめ、ちょっとムッと来た。
「何よ。あたしの自転車にけちつける気?!だいたい、あんた、自転車乗ったこともないクセに・・・」
「そんなもん、乗りたくもねぇ」
つんと腕を組む犬夜叉。夫婦げんかが又始まったか・・・と弥勒と珊瑚は少しあきれ顔。
「あんた、もしかして、乗れないんじゃないの?あ、そーなんだ、そーなんだぁ」
「んな!んなわけねーだろ!!そんなもん、こぐだけじゃねーか」
「へえ・・・。じゃあ、こいでみせてよ」
「おう。やってやらーな!」
犬夜叉はかごめの自転車にまたがり、ペダルに足をかけた。
「こんなもん、簡単じゃねーか」
が・・・。
ガッシャン!
犬夜叉、ひとごきするまえに、倒れる。
「・・・」
一同、注目。
「・・・。こ、こんなもん、すぐ、のれらぁな」
犬夜叉、再び挑戦。が・・・。
ガシャン!
またも、倒れる。
「なんでえ!!これ、壊れてんじゃねーのかよ!」
ガシャン!
何度やっても倒れてしまう。
「犬夜叉あんた・・・本当に乗れないの?」
「のれんのじゃな」
「乗れないんだね」
「そのようですな」
4人とも、確認する。
「な、何だよ・・・。んじゃあ、おめーらは乗れんのかよ!」
弥勒、珊瑚、すいすいと乗って見せた。
「割と簡単ね」
「そうでしょう。私は以前、乗ったのですが」
余裕の二人。犬夜叉、立場なし。
そこへ七宝のトドメが・・・。
「自分より遅い乗り物に負けたんじゃな」
「・・・」
ばこん!
犬夜叉、プライドにひび入り、そして七宝に八つ当たりの図。
そして犬夜叉、すね犬と化す。
「けっ。なんでぇなんでぇ!!そんなもん乗れなくたって俺は別にかまわーねぇし、興味ねーからどーでもいいぜ!けっなあにが、 自転車だ。俺の方がはえーつーんだよっ!」
そして、すね犬はぶちぶちとつぶやきながらその場を立ち去った。
「犬夜叉にも、以外に不器用ですな〜。ま、あいつらしいといえばらしいですが。恋愛も二股という不器用というか器用というか・・・」
「法師様は器用すぎるんでしょ」
「誉め言葉、ありがとうございます。珊瑚」
「誰も誉めてない」
しかし、そこは、負けず嫌いの犬夜叉。このまま引き下がるはずもなく・・・。

そして夜。皆が寝静まった頃、外に止めてあるかごめの自転車にに二つの三角の影が忍びより・・・。
ガタガタ!
「ん・・・?何の音だろ・・・」
パジャマ姿のかごめは目をこすりながら、外に出てみると・・・。
どた!
自転車と共に倒れる犬夜叉の姿があった。
「い・・・犬夜叉あんた、何やッてんの」
「う、うるせぇ・・・。俺は別に自転車にのってたんじゃねーぞ!勘違いすんなよ!」
そう説明する犬夜叉は思いきりハンドルをつかんでいる。
「・・・。お、俺はもう、寝るぜ!」
「犬夜叉!」
「何だよ」
「練習しようよ」
「は?誰がそんなめんどーくさいこと・・・」
かごめは犬夜叉をチラッと見る。
「あたし・・・。犬夜叉と二人で乗りたいの。私の世界ではね、好きな男の子の後ろに女の子が乗るんだよ。・・・。だめ?」
「・・・」
「ならいいや。弥勒様にでもお願いし・・・」
いつの間にか犬夜叉、倒れた自転車をおこして、またがる犬夜叉。
「犬夜叉・・・。いいの?練習しても」
「ふん!弥勒にできて俺にできねーわけがねえっ!!」
「見栄はっちゃって・・・」
「あー?何かいったかよ」
「なんでもないなんでもない。さ、始めましょ」
かくして犬かごの自転車教室が始まった。

後ろにはかごめが乗り、犬夜叉はがしっとハンドルをもつ。
「いい?あたしが足で蹴ってバランス取るからあんたはそれに合わせてペダルをこいで」
「う、うっせーな。わかってらぁ」
「じゃ、いくよ!」
かごめは勢いよく、右足で蹴りあげて、自転車を走らせる。
「わっ」
犬夜叉はハンドルをおろおろさせながらうごかす。
「もっと、ハンドル真っ直ぐに!」
「ん・・・んなこといったって・・・。わっ!!」
ガシャン!
ハンドルを思い切り右に切りすぎてそのまま、倒れふたりは自転車の下敷きに。
「てて・・・」
「ここは平らな場所だからいけなのかも。そうだ。この先の坂道で練習しよう。犬夜叉」
「え``」
その坂はかなりの急斜面。降りたその先は林で行き止まりだ。
「おい・・・。ホントにここ、おりんのか?」
「何よ。怖いの?」
「バカ野郎!んなわけあっか!よし・・・。じゃあ・・・行くぞ!」
かごめは静かに蹴って自転車を動かした。
ゆっくりとスピードが出てくる。
「犬夜叉!ハンドルしっかり持って!半分降りた所ぐらいからブレーキかけてね!!」
「わかってらああ・・・」
どんどんスピードがでてきてしゃべれない。
坂道の半分を過ぎて犬夜叉が右ハンドルのブレーキをぐっとおした。しかし・・・。
「おい・・・。なんかこれ、ぜんぜんきかねーぞ!!」
「えっ。嘘!」
犬夜叉はもう一度ブレーキをかけるが全然止まらない!
「きゃあああっっ!この林の先は崖よーーーー!!」
「このままつっこむきゃねーーーー!!」
暴走自転車は林をつきぬけて崖へ目がけて一直線!
「きゃああああああ!」
「あ、こら!耳持つな!みみ!」
自転車は勢いよく崖を飛んだ。
バサバサバサ!!
「いたたた・・・」
犬夜叉が気がつくとそこは大木の木の上だった。大きな枝に自転車がひかかっている。
「かごめ!大丈夫か?!」
「ん・・・。犬夜叉・・・」
「どうやら、この木に助けられたらしいな」
「・・・」
犬夜叉はかごめと自転車を担いでかげをのぼる。
「ごめん・・・。犬夜叉・・・。あたしがむりゆったから・・・」
「きにすんな。別におめーのせいじゃねぇ」
「うん・・・」
何だか犬夜叉にわがままを言ってのではないか・・・かごめは申し訳なく感じた。
かごめはそんな思いをこめて犬夜叉にしっかりとつかまる。いつも自分は当たり前のようにこの背中に乗っている。
温かくて広い背中だ・・・。
かごめはある、一言がとても言いたくなった。
かごめはそっと犬夜叉の耳元でつぶやく。
「犬夜叉の背中って・・・いい匂い・・・」
「!!」
突然、耳元でささやかれ、犬夜叉、思わずバランスを崩す。
「おい・・・。急に何言うんだよ・・・」
「あ・・・ごめん。つい・・・」
「・・・。ったく・・・。調子の狂う女だぜ・・・」
そう言いながらもどこか嬉しそうな犬夜叉。
「・・・。かごめ」
「ん?」
「お、俺の背中は・・・お前専用だから・・・」
照れくさそうにぽそっと言う。
「え?何か言った?・・・」
「な、何でもねえよっ!!」
「ふふふ・・・」
(ちゃんと、聞こえてたよ)
自分専用・・・。最高の特等席。
かごめはその照れている大きくて広い背中が愛しくてたまらなかった。ずっと・・・。
できるなら、私だけの特等席でいてほしい・・・。ずっと・・・。

追伸・このあと、犬夜叉はかごめの猛特訓にもかかわらず、乗れなかったのであった。

FIN

どうでもいいですが・・・あのかごめちゃんの自転車ってどうやってもってきたんでしょうね?井戸の中に入ったのでしょうか・・・?謎だ・・・