生まれ、出会ってくれてありがとう 〜誕生日、おめでとう〜


夕方。そろそろ日が落ちてきた。
しかし、タイミングが悪く(?)朔月で、犬夜叉は人間の姿になっていた。
「待ってるね♪犬夜叉」
昨日、かごめにそう言われた犬夜叉。
人間の姿で現代に行くのははじめてである。
しかし・・・何だかおちつかない。
かごめから『お誘い』を受けたのは初めてで、犬夜叉、なんとなく嬉しく、緊張してドキドキしている。
(一体、何たくらんでやがる・・・。しかも夜だし・・・)
「・・・。なっ。何かんがえてんだ!!俺はっ。べ、別にかごめが来いつったから・・・。それだけでぇいっ!!」
犬夜叉、大声でひとりごと。
「お主・・・何さわいでおるのじゃ?」
「・・・。なっ・・・なんでもねぇっ!あっちに行って来るぜ!」
犬夜叉、あわてて井戸へと出勤なさいました。
「今晩は、多分かごめ様の部屋に『お泊まり』ですな」
腕組みをして井戸を覗く弥勒。
「なんでそう言えるんじゃ?弥勒」
「こんな時刻にあちらへ行くというのは、『そういう』事でしょう?普通は」
「『そういう事』とはどんな事じゃ?」
「そう言うことというのは・・・男女の事情といいますか・・・」
ゴン!
弥勒の男と女の事情講座、ここで終了。
「七宝、法師様なんてほっといて夕飯できたからおいで。」
「そうかっ」
ぷいっと弥勒を無視して七宝と珊瑚は楓の小屋へと戻る。
「・・・。珊瑚、お前、最近、突っ込みが早くなってきたな・・・」
あたりは完全に暗くなっていた。



こちら日暮家台所。
「ン〜♪」
鼻歌を口ずさみながらエプロン姿のかごめは、せっせと小麦粉と卵を混ぜていた。
(あいつ・・・驚くかな〜・・・。でも、どーせあいつの事だから、がぶり一口なんだろうな・・・)
「何つくってやがる」
「きゃあっ!!」
振り向くと、犬夜叉登場。かごめは異常に驚く。
「びっくりするじゃないの!あれ・・・あんた、今日、朔月だったの?」
「わ、わりぃか!!なんでえ!人がせっかく来てやってのに・・・。ところで、用ってなんだよ」
「えっあのその・・・。あ!あんた、また、着物汚して!!お風呂湧かしてあるから入っちゃいなさい!」
「ああ?風呂だあ?んなもん、いーよ」
「よくないわよっ!いーからはいりないさい!!おすわりっ!」
「ぐえっ」
かごめは強引に犬夜叉を風呂場に連れて行った。
「いい?ちゃんと体、洗うのよっ!!」
「あっ・・・。こらかごめっ! 」
バタン。かごめは風呂場のドアを閉めた。
ドンドンドン!
「こら!だせよ!俺、熱いのきれーなんだよ!」
「体、綺麗にして、待ってて欲しいのっ。だって・・・」
(せっかく作ったケーキに、血、つくの嫌なんだもん)
「・・・」
(体、綺麗にって・・・!?)
犬夜叉、何か勘違いする。
「・・・。わかったよ。ちぇっ・・・めんどくせーな・・・」
しぶしぶだが、風呂に入った犬夜叉。
ほっと一息ついて、台所に戻ろうとした時。
「おい、かごめー!」
「んもう!なによっ」
「この、滝みたいにみずでるやつ、どーやったらでるんだよ」
「シャワーのこと?あのね、鏡の下の丸いやつを右にまわすの」
犬夜叉、言われたとおりまわしてみる。
ザー・・・っ
「ぶわっあっちっーーーっ!!」
まわしすぎて熱湯シャワーをあびた犬夜叉。
「大丈夫!?犬夜叉ー!?」
ガラっ
かごめ、風呂場に突入!
「・・・」
「・・・」
湯気ごしに犬夜叉のひきしまった上半身とご対面のかごめ。
「きゃーー!!」
かごめ、すぐにドアをしめる。
も・・・もうっ!お風呂ぐらい一人で入ってよね!!」
顔を真っ赤にしたかごめ。台所にすたすたと戻る。
「あ・・・びっくりした・・・」
かごめ、まだ、ドキドキしている。犬夜叉の裸なんて見慣れているはずなのに。(いつかは、生まれたままの姿もみていることだし)
「赤くなってる場合じゃないわ!さっさとつくらなくちゃ!」
かごめ、エプロンをビシッと着けなおし、再び、ケーキ作りに専念する。しかし、かごめの脳裏から犬夜叉の体がちらついた。
「消えて消えてーーー!!」


30分ぐらい経っただろうか。台所にいい匂いが漂ってきた。
電子レンジの中のスポンジケーキがふっくらとふくらんで美味しく焼けていた。。
(それにしても・・・。犬夜叉ったら、やけに長湯ね・・・)
かごめ、背後に異様な影を感じる。
「わっ!!」
水玉のパジャマ(『いつか』の日のため、かごめが用意した)を着て、バスタオルを頭にかぶったままの犬夜叉がいた。
「おい。かごめ。どーでもいーが。俺の着物、どこやった」
「あ、洗濯したわよ。だって、汚れてたんだもん」
ゴゴゴゴ・・・。犬夜叉のお着物が入った洗濯機は快調に回っております。
「んなっ・・・。勝手なことすんなよ!それにな、こんな、薄っぺらい服、おちつかねぇっ」
「わがまま言わないの!それよりあんた・・・ちゃんと頭洗ったの?もー。びしょびしょじゃないの・・・。ちゃんと拭いて・・・」
バスタオルをぐしゃぐしゃっと犬夜叉の髪を拭くかごめ。
「あっ。いっけない!」
かごめはあわてて電子レンジを開けた。
「・・・よかった・・・。ちょっと焦げただけみたい・・・。あ、犬夜叉、お腹減ったでしょ?そこ、座って待って」
「お、おう・・・」
ちょこんと、腕組みをして真ん中に座る犬夜叉。
「ん〜♪」
かごめの鼻歌がきこえてくる。生クリームを生地にぬるかごめ。
そして、そのかごめのエプロン姿をじっと見つめる犬夜叉。
「・・・」
自分のために、料理をしている女を見つめている自分。この光景はまるで・・・。

(祝言あげたばっかのめおとみたいじゃねーか!!)
「・・・」
犬夜叉、まんざら嫌ではないらしい。
(かごめなら・・・きっと優しい女房になるんだろうな・・・)
犬夜叉、想像してみる。
『犬夜叉、ご飯できたよ。犬夜叉のために・・・作ったんだ♪』
『お、おう・・・』
『あたし・・・犬夜叉の奥さんになってホントによかったと思ってるんだ・・・』
『お、俺だって・・・』
『犬夜叉・・・』
はっと気が付くとかごめのドアップがっ!!
「わっ・・・」
「?何おどろいてんのよ。あんたは。」
「べべ、別になんでもねぇよっ!!と、ところで草太やじいちゃん達はどーしたんだっ。いねーのか??」
「うん。草太は友達の家にお泊まり。おじいちゃんとお母さんは町内の旅行に行っていないの。だから、一人じゃこわいから、犬夜叉にきてもらったんだけど・・・。迷惑だった??」
「べっ別に迷惑じゃねーよ」
「そ。よかった。じゃ、はじめましょうか」
かごめは何を思ったかダイニングの灯りを消した。
「?何おっぱじめようってんだ。かごめ」
「いーからいーから・・・」
そして、そっとテーブルの上のケーキにろうそくをつけた。
「犬夜叉。誕生日おめでとう♪」
「あん?たんじょーび??」
犬夜叉、こないだ、草太の誕生会のことを思い出した。
“誕生日ってなんだ?かごめ”
“生まれてきてくれてありがとうっていういうことよ”
「かごめ・・・これは・・・」
「この間・・・草太の誕生日したでしょ?だから、あんたの誕生日・・・してあげたくなって・・・」
「でも、俺、自分の生まれた日なんてしらねーぞ」
「いーのよ!いつでも・・・。今日でいいの・・・。犬夜叉が・・・。この世に生まれてきてくれた事が・・・。あたしと出会ってくれた事が嬉しいから・・・。えへへ。でも、あんまりケーキはうまくできなかったけどね」
「かごめ・・・」
ろうそくの小さな2つの灯が・・・そっと寄り添って揺れている・・・。まるで、犬夜叉とかごめのように・・・。
「ほら・・・。犬夜叉、火、早く消してみて」
「あ、そ、そうだな・・・っ」
犬夜叉、ふうっと息をふいて消す。
パチパチパチ・・・。
かごめの拍手。
「改めて誕生日おめでとう。犬夜叉。これからも・・・よろしくね」
「お、おう・・・。よろしくしてやらぁな」
「うふふふっ・・・。じゃ、ケーキ食べようね♪あんた、また、クリームべたべたにしないでよー!」
「う、うるせー!!」
二人だけのバースディーケーキ。ちょっと不格好だけど、とても優しい味がする。
ケーキの真ん中には・・・
“私の大切な犬夜叉へ・・・。TOかごめ”とチョコレートで書かれていた。


「うわーい♪犬夜叉のたんじょーびぃ〜」
べろべろに酔っぱらったかごめを担いで部屋に連れて行く犬夜叉。
おいしいブドウジュースがあるといって飲んだのは・・・ワインだった。
かごめはグラスに3杯も飲んでしまった。
「ったく・・・。せわばっかかけやがって・・・」
静かにかごめをベットに寝かせて、布団をかけた。
「ふう・・・」
犬夜叉は大きく息をついた。
かごめの部屋眺める犬夜叉・・・。かごめの香りがする。
「・・・」
何度ここへ来ただろうか。考えてみれば、普通なら考えられない場所に今、自分はいる。ずっとずっと先の未来の世界・・・。
運命と言うには、あまりに現実味がありすぎて・・・。

人間の姿の自分をガラス越しに見つめる犬夜叉。

「・・・」

人間と妖怪の二つの姿を持つ自分の運命・・・。

桔梗という哀しい運命の絆・・・。

そして・・・。

500年という時をを越えて出会った・・・愛しい魂・・・。


かごめ

さっきかごめはこういった。

“犬夜叉が生まれてきて嬉しいから・・・”

うれしさが・・・胸を突き上げそうだった。

自分の魂を優しく抱きしめられてる気がした。

ありがとう・・・。

生まれてきてよかったと・・・心の奥底から感じたんだ。

そして思った・・・。


俺の幸せは・・・。


お前と共に・・・生きることだと・・・。

犬夜叉はかごめの頬にそっと触れた。

「・・・。犬夜叉・・・」

「あ、わり・・・。おこしちまったか・・・?」

「ううん・・・。ずっと起きてた・・・。今・・・何考えてた・・・?」

「・・・。おしえねーよ」

「あ、そう・・・。ふあ・・・」

「あくびなんかしやがて・・・。寝ろよ。眠たいなら・・・」

「やだ・・・」

「何で」

「寝るの・・・。もったいない・・・だから・・・」


犬夜叉と話・・・していたい・・・今夜ずっと・・・

けっ・・・。勝手にしやがれ・・・


生まれ、出会ってくれてありがとう。


お前に出会えて・・・

あなたに出会えて・・・

ありがとう。

この奇跡に・・・。


ということで・・・。夜は続くのです。ええ・・・。勿論!!二人は愛を語り合うのでございます!!ああ、妄想という幸せな世界・・・←ヤバイぞそろそろこいつ・・・。