30分ぐらい経っただろうか。台所にいい匂いが漂ってきた。
電子レンジの中のスポンジケーキがふっくらとふくらんで美味しく焼けていた。。
(それにしても・・・。犬夜叉ったら、やけに長湯ね・・・)
かごめ、背後に異様な影を感じる。
「わっ!!」
水玉のパジャマ(『いつか』の日のため、かごめが用意した)を着て、バスタオルを頭にかぶったままの犬夜叉がいた。
「おい。かごめ。どーでもいーが。俺の着物、どこやった」
「あ、洗濯したわよ。だって、汚れてたんだもん」
ゴゴゴゴ・・・。犬夜叉のお着物が入った洗濯機は快調に回っております。
「んなっ・・・。勝手なことすんなよ!それにな、こんな、薄っぺらい服、おちつかねぇっ」
「わがまま言わないの!それよりあんた・・・ちゃんと頭洗ったの?もー。びしょびしょじゃないの・・・。ちゃんと拭いて・・・」
バスタオルをぐしゃぐしゃっと犬夜叉の髪を拭くかごめ。
「あっ。いっけない!」
かごめはあわてて電子レンジを開けた。
「・・・よかった・・・。ちょっと焦げただけみたい・・・。あ、犬夜叉、お腹減ったでしょ?そこ、座って待って」
「お、おう・・・」
ちょこんと、腕組みをして真ん中に座る犬夜叉。
「ん〜♪」
かごめの鼻歌がきこえてくる。生クリームを生地にぬるかごめ。
そして、そのかごめのエプロン姿をじっと見つめる犬夜叉。
「・・・」
自分のために、料理をしている女を見つめている自分。この光景はまるで・・・。
(祝言あげたばっかのめおとみたいじゃねーか!!)
「・・・」
犬夜叉、まんざら嫌ではないらしい。
(かごめなら・・・きっと優しい女房になるんだろうな・・・)
犬夜叉、想像してみる。
『犬夜叉、ご飯できたよ。犬夜叉のために・・・作ったんだ♪』
『お、おう・・・』
『あたし・・・犬夜叉の奥さんになってホントによかったと思ってるんだ・・・』
『お、俺だって・・・』
『犬夜叉・・・』
はっと気が付くとかごめのドアップがっ!!
「わっ・・・」
「?何おどろいてんのよ。あんたは。」
「べべ、別になんでもねぇよっ!!と、ところで草太やじいちゃん達はどーしたんだっ。いねーのか??」
「うん。草太は友達の家にお泊まり。おじいちゃんとお母さんは町内の旅行に行っていないの。だから、一人じゃこわいから、犬夜叉にきてもらったんだけど・・・。迷惑だった??」
「べっ別に迷惑じゃねーよ」
「そ。よかった。じゃ、はじめましょうか」
かごめは何を思ったかダイニングの灯りを消した。
「?何おっぱじめようってんだ。かごめ」
「いーからいーから・・・」
そして、そっとテーブルの上のケーキにろうそくをつけた。
「犬夜叉。誕生日おめでとう♪」
「あん?たんじょーび??」
犬夜叉、こないだ、草太の誕生会のことを思い出した。
“誕生日ってなんだ?かごめ”
“生まれてきてくれてありがとうっていういうことよ”
「かごめ・・・これは・・・」
「この間・・・草太の誕生日したでしょ?だから、あんたの誕生日・・・してあげたくなって・・・」
「でも、俺、自分の生まれた日なんてしらねーぞ」
「いーのよ!いつでも・・・。今日でいいの・・・。犬夜叉が・・・。この世に生まれてきてくれた事が・・・。あたしと出会ってくれた事が嬉しいから・・・。えへへ。でも、あんまりケーキはうまくできなかったけどね」
「かごめ・・・」
ろうそくの小さな2つの灯が・・・そっと寄り添って揺れている・・・。まるで、犬夜叉とかごめのように・・・。
「ほら・・・。犬夜叉、火、早く消してみて」
「あ、そ、そうだな・・・っ」
犬夜叉、ふうっと息をふいて消す。
パチパチパチ・・・。
かごめの拍手。
「改めて誕生日おめでとう。犬夜叉。これからも・・・よろしくね」
「お、おう・・・。よろしくしてやらぁな」
「うふふふっ・・・。じゃ、ケーキ食べようね♪あんた、また、クリームべたべたにしないでよー!」
「う、うるせー!!」
二人だけのバースディーケーキ。ちょっと不格好だけど、とても優しい味がする。
ケーキの真ん中には・・・
“私の大切な犬夜叉へ・・・。TOかごめ”とチョコレートで書かれていた。
「うわーい♪犬夜叉のたんじょーびぃ〜」
べろべろに酔っぱらったかごめを担いで部屋に連れて行く犬夜叉。
おいしいブドウジュースがあるといって飲んだのは・・・ワインだった。
かごめはグラスに3杯も飲んでしまった。
「ったく・・・。せわばっかかけやがって・・・」
静かにかごめをベットに寝かせて、布団をかけた。
「ふう・・・」
犬夜叉は大きく息をついた。
かごめの部屋眺める犬夜叉・・・。かごめの香りがする。
「・・・」
何度ここへ来ただろうか。考えてみれば、普通なら考えられない場所に今、自分はいる。ずっとずっと先の未来の世界・・・。
運命と言うには、あまりに現実味がありすぎて・・・。
人間の姿の自分をガラス越しに見つめる犬夜叉。
「・・・」
人間と妖怪の二つの姿を持つ自分の運命・・・。
桔梗という哀しい運命の絆・・・。
そして・・・。
500年という時をを越えて出会った・・・愛しい魂・・・。
かごめ
さっきかごめはこういった。
“犬夜叉が生まれてきて嬉しいから・・・”
うれしさが・・・胸を突き上げそうだった。
自分の魂を優しく抱きしめられてる気がした。
ありがとう・・・。
生まれてきてよかったと・・・心の奥底から感じたんだ。
そして思った・・・。
俺の幸せは・・・。
お前と共に・・・生きることだと・・・。
犬夜叉はかごめの頬にそっと触れた。
「・・・。犬夜叉・・・」
「あ、わり・・・。おこしちまったか・・・?」
「ううん・・・。ずっと起きてた・・・。今・・・何考えてた・・・?」
「・・・。おしえねーよ」
「あ、そう・・・。ふあ・・・」
「あくびなんかしやがて・・・。寝ろよ。眠たいなら・・・」
「やだ・・・」
「何で」
「寝るの・・・。もったいない・・・だから・・・」
けっ・・・。勝手にしやがれ・・・
犬夜叉と話・・・していたい・・・今夜ずっと・・・
生まれ、出会ってくれてありがとう。
お前に出会えて・・・
あなたに出会えて・・・
ありがとう。
この奇跡に・・・。