必要とし、必要とされること1

な、なんで元にもどらねぇんだ・・・!」

朝、目が覚めて自分の髪を見て焦る犬夜叉。

無双によるかごめ誘拐も一件落着したが、今度は犬夜叉に何かおこった様である。

「朔の日はついこの間だだったのに・・・!!」

日が昇っても、犬夜叉の髪は黒々とし、爪は短く鼻もきかずでどこから見ても“人間”である。

「やれやれ・・・今度はお前ですか。犬夜叉」

「う、うっせーな・・・弥勒。でもどうなんてんだ・・・」

理由はわからない。かごめの様に四魂の玉を持っているわけでもないし・・・。

「おう。楓ばばあ。どーしてだか何かわかんねーか?」

「そうじゃのう・・・」

楓はう〜んと唸って考えた。

「おう!そうじゃ・・・!」

「何か分かったか!?」

「米研ぐの忘れとった」

がったん!

犬夜叉、かなりお約束的にこける。

「何考えてたんだ、てめーはッ!?」

「まあまあ、犬夜叉落ち着いて。察するところ、気性の激しいお前の事ですきっと、精神的なものかもしれませんな。極めて単純な生き物のお前には考えにくいことだが・・・」

「・・・。いつも一言多いんだよ。おめーは!」

「ただいまー!楓おばーちゃん、薬草こんなにとれたよー」。

「おお。ご苦労じゃったの」

新しい薬草を取りに行っていたかごめと珊瑚と七宝 が帰ってきた。かごめの手の中にはざるいっぱいの薬草が積み重なっている

「あれ?犬夜叉?今日、朔の日だっけ・・・?」

「そ・・・それがな・・・」

犬夜叉は元に戻らないことをかごめに話した。

「そう・・・。犬夜叉、何か心辺りはないの?元に戻らない」

「ねーよ!ねえけど・・・」

「けど?」

「・・・」

昨日、犬夜叉はとても不安な夢をみた。

広い、広い花畑。小さな花が咲き誇っている。人間の姿の自分がいて、隣には・・・。

桔梗がいた。笑っている。

“そうか・・・俺は桔梗のため人間になったのか。そうか・・・”

そう、自分で選んだ道。桔梗が望んだから・・・。だけど・・・。

新緑の草が揺れる。

“優しい匂い”がどこからともなくして、向こうを見ると、一人の少女がこちらを見て微笑んでいた。

“かごめ・・・!”

“犬夜叉・・・”

“かごめ、お前、なんでそんなとこにいるんだ?”

“・・・。犬夜叉、今・・・楽しい?”

“な、何言ってンだ。いいからこっちに・・・”

かごめは顔を横に振る。

“な、なんで・・・”

“私はもう・・・犬夜叉には必要ないから・・・”

“なっ・・・”

“犬夜叉はもう一人でも・・・大丈夫だよ・・・。今の犬夜叉なら桔梗を救える・・・。桔梗の魂を・・・”

“そんな事、ねえよッ・・・!”

かごめは再び顔を横に大きく振った。

“だからね・・・バイバイ・・・”

“バイバイ・・・”

そしてかごめは手を振って消えていった・・・。


「?どうかした?犬夜叉」

「や・・・な、何でもねぇよッ・・・」

「犬夜叉・・・」

何か、重くため込んだ様な表情の犬夜叉。

「・・・。犬夜叉!ちょいつき合って!」

「悪いそんな気分じゃ・・・」

「いいから来なさい!おすわり!」

「ぐえ」

かごめは犬夜叉をある自分だけが知る“秘密の場所”に連れて行った。

そこは・・・。

「こ・・・ここは・・・」

夢の中に出てきた草原にそっくりな場所だった。

小さな白い花一面咲き乱れて・・・。

「えへへへ・・・。ホントは犬夜叉にも内緒にしておきたかったんだけどね、あたし、いつもここで、勉強してるの」

「・・・」

「あ・・・気に入らなかった・・・?もしかして・・・だったらごめん・・・」

「べ、別にんなことねぇよ・・・。気にすんな」

「・・・。うん」

犬夜叉の顔がまだ、曇っている。

できることなら、その理由を尋ねたいけど、犬夜叉からはなすまで待つ・・・。

犬夜叉の気持ちだってあるから・・・。

「ね、犬夜叉」

「何だよ」

「この小さな花の花言葉って知ってる?」

「花言葉?」

「“あなたに必要とし、必要とされたい・・・”小さくて目立たない花だけど、人を和ませる力を持ってて・・・。人はこの花を必要とする。花も人に摘まれるのは悲しいけど、人に『見つけて』もらって自分の存在を知ってもらって・・・。そんな意味かな。あたし、この花、好きなんだ」

花を一本摘んで匂いを香るかごめ。

犬夜叉は、この花はかごめに似ている・・・と優しく思った。

その優しく人を包む匂いが・・・。

「かごめ」

「なに?」

「お前は・・・どう思う?俺は半妖の時の俺と人間の時の俺と・・・どちらが・・・」

「・・・。犬夜叉」

「人間の姿になっているとすごく感じるんだ。爪もない牙もない・・・。どちらが俺なんだって・・・」

不安でたまらない。自分の武器である爪も牙も妖気もない・・・。それが自分の唯一の“自分らしさ”だった気がするのに・・・。

何より、かごめを守れない。

「あたしは・・・どっちも犬夜叉だと思うよ。犬夜叉らしくさえいれば・・・」

「・・・。じゃあかごめ。“俺らしい”ってなんだ?それがわからねぇ・・・」

半妖なのか人間なのか、いつかはそれを選ばなくてはいけない時が来る。

その時、俺は一体どうするのか。俺らしいって何だ、爪があることなのか、妖気があることなのか・・・。

「・・・」

かごめはいきなりすっくと立った。

そして、犬夜叉の周りをぐるっと一回りしていきなりの・・・。

「おすわり!」

「ぐえっ・・・」

そしてもういっかい!

「おすわり!」

「ぐえ、ぐえッ!」

「は〜・・・すっきりした♪」

「てめーー!!いきなりなにしやがる!!」

「それでいんだよ。犬夜叉」

「あ〜??どーゆーことでい」

かごめにこっと笑う。

「怒ってすねて、短気で嫉妬深くて子供っぽい(二股。それはちょっとやだけど)」

「なっ・・・」

「それは人間の姿でも半妖でも変わらない。そのまんまでいいってこと!『らしさ』なんて誰にもわからない」

「・・・」

「上手く言葉が見つからないけど・・・。あたしはどっちの犬夜叉でもいいの。さっきみたく、くらーい顔さえ、してなきゃいいの、ねッ」

コツン。

かごめは犬夜叉の両手をポン!と叩いた。

「ねぇ。犬夜叉手伝って♪」

「え?」

かごめはせっせと小花を摘んで犬夜叉に渡す。

「何しろってんだ?これで」

「花輪作って♪くびかざり」

「なっ・・・。俺がそんなもんつくれるわけ・・・」

「“人間”の犬夜叉でも・・・あたしがして欲しいことあるから・・・。あたしは“今”、“ここで”犬夜叉の作った花輪が欲しいの・・・。だめ・・・かな?ガラじゃねぇって言われそうだけど」

「かごめ・・・」

どうしていつも、かごめは俺が一番欲しい“心”をくれるんだろう。

欲しい言葉をくれるんだろう。

笑顔と一緒に・・・。

「ちっ・・・しゃーねぇな・・・」

「ありがと!犬夜叉!じゃあ、さっそく頑張ろうか!犬夜叉君」

「けっ・・・。急に偉そうに言うな」

「うふふふ・・・」

揺るがないもの。それは、かごめ、お前の笑顔。

ありのままの笑顔が・・・。

俺にとって必要なんだ。俺にとって・・・。

その夜、楓の小屋を抜け出す男、一人有り。

かごめはそれに気が付き、そうっと跡を付けてみる。

犬夜叉の行き先は・・・。

昼間行った花畑だった。

何やらこそこそ座って作っている。

(あいつ・・・。何やってんだろ・・・)

かごめ、犬夜叉に気づかれないように抜き足、差し足で背後から近づく。

そしてそうっと犬夜叉の肩のあたりから、のぞくと・・・。

なんと・・・!花輪が1つ・・・作られている。

「犬夜叉それ・・・」

「かっかごめ!?」

かごめに気づいた犬夜叉は作りかけていた花輪をバッと慌てて隠す。

「な、な、なんでそこにいんだよっ!」

「あんたこそ、ここで・・・」

「お、お、俺は、ただの散歩でいッ!」

「花畑に?」

「わっ悪いか!」

「ううん。全然・・・」

照れる犬夜叉が、花輪が半分手から見ていても必死に隠す犬夜叉が、

一番、いい。

「もー・・・。しょうがないな、半分私、作ってあげるからかして」

かごめは花輪を犬夜叉の手からとろうとした。

「だめだ!!それじゃ!」

「え・・・どうして?その方が早い・・・」

「それじゃ意味がねーんだよ!」

「犬夜叉・・・」

「だってこれは・・・『人間』の俺がお前にその・・・」

犬夜叉はもごもごとそっとかごめに素直に気持ちを伝えようとする。

「そ、その・・・最初にやる・・・おくりもんだからよ・・・自分の手で作りたいんだ・・・。お、おめーが言ったんだろう。人間でもできることがあるって・・・。そ、それに爪が長いとできねーからな・・・こんなちまちましたこと・・・」

「犬夜叉・・・」

犬夜叉は照れのあまり後ろをぷいっと向く。

(だーーーー!こ、こっぱずかしいこといっちまった・・・)

そう思いながらも犬夜叉はちょっと不格好だけど、なんとか2つの花輪ができた。

「なんか・・・これ、“輪”じゃなくて三角みたい」

「んだとー!?文句言うな!」

「ごめんごめん。ありがとう。犬夜叉。すごく嬉しい・・・。大切にするね・・・」

「お、おう・・・」

本当に宇嬉しい・・・。それに、さっきの言葉が・・・

“俺の手で・・・作りたいんだよ・・・”

「かごめ」

「何?」

「その・・・俺にとってかごめは・・・その・・・この花みたいだ。“花言葉”ってやつの意味みたいに・・・。」

今日は何だかいつもより不思議なくらいに素直な気分だ。だからこそ、伝えたい気持ちが、ある。

「俺はずっと・・・お前が必要だ。そしてお前に必要とされたい・・・。あとは何もいらねぇ・・・。だからこの先もずっと・・・。!!」

ふんわり。

うとうと眠ってしまったかごめの顔が犬夜叉の肩にもたれかかる。

(ま、またか!またねてやがる!人が大事な事言おうって時に・・・)

「・・・。いぬやしゃ・・・あり・・・がと・・・」

かごめの寝言。あまりにも安らかでしあわせな寝顔・・・。

かごめのすべてが必要。寝顔も全部・・・。

「ありのままのお前で・・・そばにいて、ずっといて欲しい・・・ずっとずっと ・・・俺らしくいられるように・・・」

犬夜叉は眠るかごめ髪にのそっと花輪を置いた・・・。

そしてしばらく・・・何物にも代え難いその安らかな寝顔を犬夜叉は見続けていた・・・。





小さな白い花が揺れる花々の絨毯で二人が静かに眠る。

互いを必要とし、必要とされている二人が。

絶対に離れまいと誓うように手を重ね合わせて・・・。

FIN

ふふふ。朔犬です。フフフフ・・・(イッチャッテマス・笑)