第2話本当の痛みA

ザアアアアッ!

雨は本降り。雷もなって辺りに凄まじい音が響いている。

ゴゴゴ・・・!カッ!!

「きゃあッ!」

かごめは稲光に驚いて思わず声を上げた。

「雷ぐらいでびびってんじゃねーよ!!」

「なによー!!もー・・・」

もう全身ずぶ濡れの二人。雲母から降りてどこか雨宿りする手頃な場所はないかと森の中を探し歩いているが、一向に見つからない。

足も泥だらけだ。

「はー・・・。まさか雨が降ってくるなんて・・・」

「・・・」

犬夜叉は衣をバッと脱いでかごめに着せた。

ドキッ。

「冷えるといけねぇだろ・・・」

「あ・・・ありがと」

何だか今日の犬夜叉はとても紳士的で、何だか意表をつかれる。

さり気なさがたまらなく・・・。

「どこか・・・。洞窟か何かねーのか!!冥加じじいッ!」

これまたひょっこりと冥加、犬夜叉の襟元から登場。

「そういえば・・・。この先に古い洞窟があったような・・・」

べちゃ!

冥加、厚み1oの体に。

「それを早くいいやがれ(怒)」

冥加の言うとおり、しばらく歩くとそれらしい洞窟が見えてきた。

入り口がなんとも不思議な形をしている。まるで犬の耳の様な三角形が二つとがった・・・。

「なんだ、この洞窟は。まあいいか。かごめ、入るぞ!」

「うん!」

やっぱりここでもかごめをエスコートするように手をひっぱってはいる犬夜叉。

(・・・。やけに優しいなぁ・・・)

じっと犬夜叉の顔を見るかごめ。

「なんでい。俺の顔に何かついてるのかよ」

「ううん。何でもない」

でもつんけんした顔はいつもと同じだな・・・と思うかごめだった。

洞窟の中に一時避難する一行。

洞窟の中は人間が立つと頭すれすれで大人2,3人が入れる程の広さしかなかった。

「少し寒いね。火を焚かなくちゃ」

かごめは枯れ木を集めて火をおこした。

「ぶあああくしょいッ」

犬夜叉の大きなくしゃみが響く。

「犬夜叉。あんた顔赤いわよ?もしかして・・・風邪ひいたの??」

「んな・・・。んなことねぇッ・・・ふあああくしょんッ!!」

鼻の頭が赤い犬夜叉。

「どれどれ」

「なっ・・・」

かごめは犬夜叉におでこをぐっとあててた。

かごめの大きな瞳が目の前に。

「やっぱ・・・。熱あるじゃない」

「けっ・・・。んなもんどうってことねぇッ!」

「どうってことあるでしょ!!もおっ。かっこつけて上着なんか着せてくれるからでしょ」

「な、なんでぇっ!人がせっかく・・・」

立ち上がろうとした犬夜叉。しかしぐらりと足がおぼついた。

「犬夜叉!」

かごめは犬夜叉の体を受けとめ、犬夜叉の頭をひざに乗せた。

「・・・。結局こうなるんだね。ふふ。毎度の事だけど」

「ばっ・・・誰が毎度だ!誰が・・・」

しかし、やっぱりかごめのひざは落ち着く。

そのあたたかさとやわらかさが不安な気持ちが包んで和らげてくれる。

かごめはタオルで犬夜叉の汗を拭き、冷えたもう一本のタオルをおでこに置く。

パチ・・・パチ・・・。

少し火が小さくなっただろうか・・・。

二人はぼんやりと火を見つめている。

「犬夜叉。まだ苦しい・・・?」

「いや・・・。大分楽になった・・・」

そっと犬夜叉の額の汗を拭うかごめ。

すると、犬夜叉の額に前の無双との斬り合いでついた傷の跡がまだかすかに残っていた。

「・・・。まだ・・・残ってるね。ここの傷」

「え・・・。あ、ああ・・・」

半妖の時なら、すぐに治る傷も人間の体には残る。

人間の体はこんなにも傷つきやすく、弱い。

人間の体のもろさを肌身で感じてしまう。

「かごめ」

「何?」

「俺・・・人間の体は・・・しんどい。やっぱり闘うためには妖怪の力が必要なんじゃねぇかな・・・」

「・・・。そうかも・・・。でも・・・。言ったでしょ。どっちでも犬夜叉だって。確かに人間の体じゃ治りが遅いけど・・・。みんなを・・・あたしを守ってくれた傷なんだなって思ったら犬夜叉のこの傷一つ一つが・・・。とても大切に愛しく思えるよ・・・」

かごめはそう言って額の傷の跡を優しく撫でた。

「かごめ・・・」

「人間だろうと半妖だろうと・・・。この傷は痛々しいけど、犬夜叉が精一杯闘った“生きてる”っていう印だから・・・。闘って・・・。強くなったっていう・・・。半妖の時ならすぐ消えちゃうね・・・」

確かに妖怪の力と体は強い。なければならない。

けど、痛みもなしに手に入るものより、痛みを得てこそ手に入ったものがが何より“本物”で大切なものかもしれない。

俺にとって・・・その“本物”は・・・。

弥勒、珊瑚、七宝達仲間と・・・。

かごめ。お前だ・・・。

「・・・。やっぱりなんかお前って・・・すげぇな・・・」

「そんなことないよ・・・。犬夜叉に守ってもらってばっかりだし・・・ 。こうしてあんたの側にいることしかできないけど・・・」

昔は・・・人間なんて弱くて嫌でどうしようもなかった。半妖なんて中途半端が我慢できず、完全な妖怪の力が欲しかった。それしかないと思った。

でも今は・・・。

その“人間”のたった一人の女に・・・。包まれ、癒され、支えられ・・・。そして・・・。
その魂ごと必要としている自分・・・。

俺の“居場所”・・・。

「かごめ・・・。俺・・・。傷なんていくつできてもかまわねぇ・・・。お前が生きて・・・笑ってくれるなら・・・」

「・・・犬夜叉・・・。ぷっ」

かごめ、なぜだか吹き出してしまう。

「な・・・。なんでぃ・・・」

「ご、ごめん・・・。何かやけに犬夜叉素直だから・・・。拍子抜けしちゃって」

「けっ・・・人が真面目に・・・」

「ごめんごめん・・・。でも犬夜叉。気持ちは本当に嬉しい・・・。でも・・・。程々にしてね・・・。やっぱりあたし・・・。犬夜叉の体が一番心配だから・・・」

「・・・。バカ野郎・・・。それはこっちのセリフだっての・・・」

自分を見つめる優しい微笑。

犬夜叉はその微笑がどことなく細くなった様に見えた。

頬が・・・。

「かごめお前・・・。少し痩せたな・・・」

右手で触れたその頬は若干ふくらみがない感じがした。

「そう・・・。かな。ダイエットなんてしてないけど・・・」

「ちゃんとくってんのか・・・。お前・・・只でさえ細い体なんだから・・・」

犬夜叉の手から自分を気遣う気持ちが伝わってくる。

人間の手も、半妖の手も伝わってくる犬夜叉の心の温度は変わらない・・・。

ありがたい・・・。

かごめは犬夜叉の手の上にそっと感謝の気持ちを込めて自分の手を乗せる。

その気持ちが自然と・・・。

犬夜叉の右手はかごめの頭の後ろに・・・。

そして、目をつむり、お互いの顔を唇を引き寄せる・・・。

「ん・・・?」

かごめと犬夜叉の唇がもう少しで触れそうなとき、二人の目の前に冥加の姿が。

「フフ。ワシにかまわずお続けくだされ♪ほれ、チュチュ、チュウッと♪」

「・・・」

冥加、はたかれる3秒前。

ベッターン!!

冥加、再び1oの体にて、散る。

「ったく・・・!!このジジイはッ!!」

犬夜叉、久しぶり(?)のいい雰囲気をぶち壊され、かなりお怒りのご様子。

「ふふふ。犬夜叉大分元気になったみたいね。でも、まだ、寝てなくちゃだめだよ」

「お・・・おう・・・」

犬夜叉、再びかごめにひざへ。

「今度は・・・冥加じいちゃんがいないところが・・・いいね」

「ばっ・・・バカ言うなッ」

「うふふ・・・」

洞窟内は和やかな雰囲気。しかし、その様子を木の陰から最妙少が一部始終伺っていた。そして・・・。

「何ぃ〜★★犬夜叉が近くにいるってか〜♪♪ラッキー。俺、退屈してたんだぁ。犬夜叉とあそびてーよ」

最妙少が飛んでいった先は蛇骨。

蛇骨はその不思議な剣をペロッとなめて、不適な(?)笑みを浮かべたのだった。