夢の中でお前にあった。俺の知らないお前に。
昔のお前に会いに行こう。
きっとすぐ醒める夢だから・・・。
朝。窓の外からチュンチュンと雀の声が聞こえる。
カーテンから漏れる朝日があたって犬夜叉が目を覚ます。
「う・・・。もう、朝か・・・?ん・・・?」
かごめの手を握ったまま眠ってしまった犬夜叉。
心なしかかごめの手が小さく感じる。
「かごめ・・・?」
確かにかごめは眠っている。しかし・・・。
「う・・・ん・・・」
かごめが目を覚ました。小さな手で目をこすりながら。
「か、かごめ?」
小さい。何もかも。
「かごめお前・・・縮んぢまったのか!?」
かごめ・・・?確かに似てはいるが幼い少女だ。
チェックのパジャマを着た・・・。
「あれぇ・・・。お兄ちゃん、だあれ??」
「だ、誰って・・・お前こそ誰だ!」
「あたし、日暮かごめ。7歳」
かごめ、犬夜叉をじいいっと食い入るように見る。
「あーーーー!!!!」
「な、何だよ」
「ヤチャくんだーーー!!戻ってきたんだーーー!!」
「わっ・・・」
かごめは起きあがると犬夜叉に飛びついて喜んだ。
「ヤチャくんが、戻ってきたーー!!やったぁーー♪♪」
犬夜叉は訳が分からず、呆然。
“かごめが・・・ガキになっちまった・・・??”
(な、何でだ。一体何がどーなってんだよ・・・)
「ね、人間になったの?でもお耳がまだあるね」
「な、なにいってやがる!おれは“ヤチャ”じゃねぇ!犬夜叉だ!!」
「・・・。やっぱりヤチャくんだ!。だって、そのお耳!!」
くいっ。
両耳を手慣れた手つきで引っ張るかごめ。
「いてッ!何しやがる!!」
「この耳の感触・・・。“ヤチャ”君に間違いない!!」
「う、うるせぇ!俺は犬夜叉だ!」
「おすわり!!」
「ぐえッ」
7歳のかごめがにおすわりさせられた犬夜叉の図。
「きゃー!!やっぱりヤチャくんだ!おすわり上手だったんだ〜♪♪」
犬夜叉の背中の上に馬乗りになって、歓喜するかごめ。犬夜叉は事の状況がさっぱり分からず、ただ、おすわりの体勢をとったままだった。
だが、確かにこの少女はかごめだ。幼いが、確かに“かごめの匂い”がする。
この匂いを間違えるはずはない。
今、自分の横にいるのはかごめ。
幼いかごめが御神木の前で必至に手を合わせている。
「御神木様。ヤチャ君にもう一度会わせてくれてありがとう。なむなむ・・・」
この幼いかごめ言う“ヤチャ君”とは一体誰なのだろう?
「おう。その“ヤチャ”ってのは誰何でい」
「あのね。“犬”だったヤチャ君がここに眠ってるんだよ」
そう言ってかごめは御神木の根本を指さした。
「あー?どーゆー意味だ」
かごめの話によると、何日か前にかごめが拾ってきた野良犬の事らしい。
あちこちでケンカしてきた野良犬なのか、体中に傷を負っていた。真っ白なきれいな犬だ。
雨の中、ゴミ置き場に横たわって倒れていたその野良犬を抱きかかえて家に連れ帰ったかごめ。
「グワウッ!!」
かごめがその野良犬の体に触れようとするだけで怒る。凄まじい声で、唸って・・・。
相当に人間を嫌っているのか・・・。
しかし、かごめは必至に看病した。野良犬が眠っている間に包帯を巻き、体を温めてやり・・・。
家族には内緒でつきっきりで看病した。
看病のかいあって、野良犬は大分、回復した。
「あ、よかった・・・。大分元気になったね・・・」
かごめは野良犬に気を使って、距離を置いて座る。
「グワウ・・・」
野良犬はスッと立ち上がり、かごめに近寄った。
そして・・・。
かごめの小さな手をペロペロとなめた。
「・・・」
「ワン!」
「キャハハハ・・・くすぐったい、くすぐたいよ」
それでもやめない野良犬。
かごめと野良犬、いや、“ヤチャ”が友達になった瞬間だった。
それから、どこに行くにも一緒だった“ヤチャ”とかごめ。
学校から帰ってくるかごめをいつも、ヤチャは御神木の前で待っていた。
しかし・・・。
ヤチャは帰りが遅いかごめを迎えに行って・・・。
「きゃあああ!!ヤチャ!!」
道路に飛び出したかごめをヤチャは体をはってかばったのだ。
道路に横たわったヤチャはそのまま動かず、かごめの腕の中で息絶えいった・・・。
「・・・。で、その“ヤチャ”ってのが俺だってのかい」
「うん!!」
思いっきりうなづくかごめ。
「ば、バカ言ってンじゃねぇよ!!」
「だってね、あたし、御神木さまにお願いしたの。もう一度“ヤチャ”に会わせてくださいって。会って・・・。謝らなくちゃ・・・」
かごめは犬夜叉にいきなり頭を下げた。
「ヤチャ、ごめんね。あたしのせいで・・・。あたしが飛び出したりしなければ・・・。ホントにホントにごめんね・・・!!」
小さな瞳からポロポロと丸い露をこぼすかごめ。
「う・・・。べ、別に怒っちゃいねぇよ別に・・・」
「ほ・・・ホント?」
「ああ・・・」
「ホントにホント?」
「怒ってねぇって言ってンだろ!だから泣くんじゃねぇッ!!」
犬夜叉、つい、いつもの調子で言ってしまった。子供相手に・・・。
しかし、かごめは少し俯いてからにこっと笑った。
「うん!!そうだね!泣いてちゃいけない!だって、ヤチャとこうしてまた、会えたんだから・・・!」
この笑顔は、まさしくかごめの笑顔。自分が一番好きなかごめの笑顔。
幼いかごめが何故、自分の目の前にいるのか、わからない。とりあえず今は・・・。この笑顔を消したくないと犬夜叉は思った。
幼いかごめの笑顔を・・・。
それから二人は御神木の根本に並んで座って色々話をした。
かごめは学校でのこと。学校で友達とケンカしたこと。
おしゃべりしたかったんだ。ヤチャに沢山伝えたかったことがあった。
だから一生懸命かごめは話す。
犬夜叉はちょっとムスッとした顔で聞いている。
(どーして女ってのはしゃべるのが好きなんだ)
ちょっとうるさいくらい。けど・・・。
でも・・・嫌じゃない。
いや、こうしてかごめのそばにいたい。
だって、横にいる“かごめ”だから。
いつも、自分は“自分”しか見ていなかった。自分しか信じずに、いや、今だってそうかもしれない。“命がけ”で桔梗を、かごめを守りたいと思っていても、守り切れてもいない・・・。
守られているのは・・・。自分の方だ。
守られて、そして、たくさんのものをもらった・・・。
かごめに・・・。
弥勒、珊瑚、七宝・・・。かけがえのない“仲間”を。
それから、教わった。信じる気持ちが自分の居場所をつくっていくんだっていうこと・・・。
「ちょっと!聞いてる?ヤチャ!」
「お、おう。聞いてやってるぞ」
「んまーー!聞いてやってるなんて、あんた、なんか生意気になったわね!」
「な、なんだと。人が黙ってりゃいい気になりやがって!」
「おすわり!!」
「ぐえッ!!!」
かごめとの会話。
すぐケンカになって。素直になれなくて。
でも・・・。そんな当たり前な、何気ない会話が自分にとって大切か・・・。気がつかなかった。
必至に自分をもういない“ヤチャ”だと信じて話しかける幼いかごめ。
こんな幼いかごめに今、“必要とされている”。
確かにはっきりと、自分自身を確かめられる。
それが・・・何より幸せな事だって確かめられた。
「もう!ヤチャったら何ぼうっとしてんの!あ、そうだ、登ろう!」
「あー?」
かごめは犬夜叉の腕をぐいっと引っ張った。
「御神木に登るなんておじいちゃんに罰当たり!っておこられるけど、ちょっとだけ。あたし、ずっと“ヤチャ”と一緒に登ってみたかったんだ。ね、一緒に登ろう!」
犬夜叉は御神木を見上げる。
どっしりとした枝。深々とした緑の葉がキラキラ揺れている。
「ちっ・・・。仕方ねぇな。オラ、しっかりつかまってろよ」
犬夜叉はかごめをひょいっとおんぶしてジャンプする。
「わあ!すごい!!やっぱし、ヤチャはすごーい!!」
かごめの喜ぶ顔を見るとなんか力が湧いて。閉ざしてしまった心も開けたくなってしまう。
御神木の一番てっぺんに登って二人並んで空を見ている。
「少しだけ空に近づいたね!あたし、こうして空見上げるのがすごく好きなんだ。ずうっとずううううっと続いてて・・・。同じ空がすっと続いてるのがすごく不思議なの。どこまであるのかなって・・・」
青い空。ずっと続く青い青い空。
たとえ、時代が違っても、この青い空の色は変わらない。
戦国時代でかごめと一緒に見た空と同じ・・・。
何一つ代わらない。
「ふう・・・。空気が美味しいね」
「お・・・おう・・・」
かごめと見る空が一番・・・青い。
一番澄んでいる気がする。
そしてかごめは 御神木から降りるとそっと、御神木を両手で優しく包んだ。
「何やってんだ」
「御神木にお礼言ってるんだ。ヤチャと会わせてくれてありがとうって・・・」
「けっ・・・。んなもん、伝わるわけねーだろ。ガキってやつはこれだから・・・」
かごめ、“おすわり”させるよ!とかごめのお顔が言っている。
「伝わるよ。こうして御神木さまに耳をあてて・・・。ほら、ヤチャも一緒に」
「んなこっぱずかしいことできる・・・」
かごめ、やっぱりおすわりさせるよと目がいっています。
「・・・。ちっ・・・」
犬夜叉はしぶしぶ両手を広げて御神木を包んだ。
(何で俺までこんなこと・・・)
二人で御神木を包む。
かごめの小さくて短い両手はもう少しで犬夜叉の手に届きそう。
「ねぇ・・・。あったかいでしょう・・・?この御神木・・・。あたしにとってはね、すっごく大事な木なんだ・・・」
「・・・」
「だってね・・・。犬夜叉。あんたと出会った場所だから」
「!」
犬夜叉の両手が誰かが掴んだ。
優しいこの手・・・。
「お前・・・かごめ・・・」
少女の小さな手は、いつのまにか少し大きく細くい柔らかい手になっていた。
「な・・・一体どうなってやがる・・・。ガキんちょになったり・・・」
「うふふ。きっとこれ、夢なんだよ。あたし達、一緒の夢、見てるのよ。きっと」
「はぁー??」
「まあ、いいから。ね、もうしばらくこうしてたいな・・・。だめ?」
「けっ・・・。好きにしろよ・・・」
抱きしめる。二人を繋ぐ、大切な木。そして二人の両手もしっかりとつながって・・・。
「今度は“ガキンチョ”の犬夜叉に会ってみたいな・・・。御神木・・・」
会いたい。知りたい。犬夜叉の昔を・・・。夢の中でいいから・・・。
その光は、ぐっすりと眠る二人も照らす。
しっかりと手を繋いだまま眠る二人にも・・・。