薄暗くなった夜空に満月が浮かぶ。

犬夜叉は御神木の前で首に七宝達が作った折り鶴をかけて、満月を眺めていた。

「はぁ・・・」

(かごめ・・・)

まんまるお月様がかごめの顔に見えてきた。

(かごめ・・・。かごめの願いって・・・)

犬夜叉は悶々と考えこんでいると犬夜叉の鼻と耳がピクリと優しい匂いと声を感知して反応した。

「よいしょっと」

ドサッ。

井戸の中から大きなリュックが顔を出す。

七宝に頼まれたお菓子がぎゅっとつまったリュックはもこっとすごい大きさだ。

かごめは少し息を切らせて井戸からでてきた。

「ふう・・・。ちょっといれすぎちゃったかな・・・」

かごめがリュックをひょいっと背負うとしたら急に背中が軽くなった。

「え?」

かごめが後ろを振り向くとつんとした顔の犬夜叉がリュックを持ってくれていた。

「犬夜叉」

「・・・。相変わらずおっせーな・・・。日が暮れてるじゃねーか・・・」

「う、うん・・・。ごめん・・・」

いつもの如く、文句を言って出迎える犬夜叉だが、なんとなく元気がないなと感じるかごめ。

二人は荷物を置くと二人、御神木の前で月を見ることにした。

「満月かぁ・・・。きれーだねぇ・・・」

「お・・・おう・・・」

犬夜叉は何から切り出して話して良いかわからなかった。とりあえず・・・。この折り鶴をかごめに渡さないと・・・。

「ねぇ。さっきから思ってたんだけど、その折り鶴、何なの?」

「こ、これは・・・。お前のでい。ほれ」

犬夜叉はかごめに折り鶴の輪をそっとかけた。

「え?あたしのって・・・」

「七宝とおまつってガキ共がつくったやつでい。お前に渡してくれって・・・」

「おまつちゃんと七宝ちゃんが・・・?どうして・・・?」

「・・・。さぁ。知るか。ただ、お前に元気だしてほしいって言ってたぞ・・」

「ふうん・・・。綺麗な折り鶴・・・。でも、七宝ちゃん達、すごく上手に折れるようになったんだね・・・」

かごめは嬉しそうに折り鶴に触れた。

“ずっとは無理かも知れない・・・”

“・・・。大切な人達願いが叶うまで・・・かな”

かごめがおまつに言った事を聞きたい犬夜叉。でも、何だか恐い気がした。

そんな風に言わせた原因は自分にあるのに、かごめの口から聞くのは恐い・・・。

「おう・・・。かごめお前・・・。いつのまにあんなにこの村のガキと仲良くなったんだ。それにお前、俺のこと、どうガキ共にいってやがったんだ」

「別に。ありのままを」

「ありのままって・・・」

「ありのままはありのまま。何、もしかして誰かにからかわれたとか?」

「なっ・・・んなわけねーだろ!」

「あー。そうなんだ♪うふふ。図星なんだ〜♪」

「う、うるせえッ!笑うな!!」

しかし、かごめ思いっきり笑っております。

「うふふ。でも嬉しい」

「何がだよ」

「犬夜叉が色んな人と接してつながりができて・・・。沢山の人達が犬夜叉の良いところ、知って欲しかったから嬉しいの」

「・・・」

それはかごめのお陰だ・・・。

そう言いたいのに、素直になれなくて言えない犬夜叉。

肝心な事を言葉にしなければいけないと思いつつ、かごめの前じゃ、つい意地を張ってしまう。

「あのおまつってガキが・・・。お前のお陰でダチができたって喜んでたぞ・・・。その折り鶴のお陰だって・・・」

自分が言えないから、おまつに便乗してかごめに礼を言おうと思った犬夜叉。

しかし、回りくどいせいかかごめには伝わらない。

「ホント!?よかった・・・。おまつちゃん、いつも寂しそうに一人でいたから・・・。よかった・・・」

かごめは折り鶴を頬に寄せて言った。

かごめのお陰で、色んな人間達と出会った。関わった。

少しずつ、変わっていく自分を感じた。

その時、かならずかごめがそばにいた。

かごめが繋げてくれたんだ。色んな人間・妖怪達と。

「でも不思議だね・・・。犬夜叉」

「何が」

「だって・・・。あたしの世界の物をこの世界の人達が食べたり使ったりしてる・・・。すごく不思議な事だよ」

「・・・。よくわからねぇ」

「うふふ。あんたにはちょっと難しいかもね。でも・・・。どんなに仲良くなっても、あたしはこの時代の人間じゃなから・・・。いつかは・・・」

かごめの言葉はそこで止まった。

その先は分かりすぎているから言葉にするのが・・・。辛い。

分かりすぎている現実だから、言えない・・・。

しばらく、二人の間に沈黙が続いた。

重かった。

重たい・・・。


月明かりが優しく二人を照らす。

最初に口を開いたのは犬夜叉だった。

「・・・。同じだろ・・・」

「え?」

「どこだって・・・。うまいもんはうまいし、うるせえガキはいるし、悪い奴はいる・・・」

「・・・。だから?」

「だっ・・・。だからその・・・あの・・・。と、とにかく同じなもんは同じなんでいッ!」

「・・・。よく・・・わかんない」

「わかんねぇでいい!とにかく・・・」

ふわっ・・・。

犬夜叉の頬にかごめの柔らかい髪が触れた。

かごめはそっと犬夜叉の背中から両手を回して呟いた。


「ありがと・・・。励ましてくれて・・・」

「・・・」

犬夜叉は少し頬を赤らめてつんとした顔をした。

こうしてかごめが側にいる。

時代は違っても同じ月。

形も色も変わらない。

何も・・・。違わない。

二人はそう思う。二人の願いが同じ様に・・・。

「折り鶴・・・。七宝ちゃん達の気持ちがこもってる・・・。あたし、いつも元気じゃないといけないね」

「充分元気じゃねーか。あんなにくいもんもってきやがって」

「だーって。七宝ちゃんや他の子達の分もあるんだもん。あ、そうだ犬夜叉」

「何だよ」

「はい、あーん・・・」

犬夜叉、条件反射でお口をあけました。

かごめ、ポイッと中に何かを入れた。

「な、なんだ!」

「チョコボール・・・おいしいでしょ?」

「な、俺は甘いもんすきじゃねぇッ・・・。モグモグ・・・」

でも犬夜叉、ちゃんと噛んで食べてます。

「もう。どうしていつも口のまわり汚すの・・・。ほらまたチョコ付けて・・・」

フキフキフキ。かごめちゃん、スカーフで犬の口のまわりきれいきれいしました♪

「ガキ扱いすんな!」

「黙って。まだついてる・・・」

「けっ・・・」

こんな二人のやりとりを草の影からやはりこの3人は見物中。

「向こうの方々はなんとも甘い時間をお過ごしのようで・・・」

弥勒はチラッと珊瑚を見た。

「何よ」

「珊瑚。私も“フキフキ”して欲しいですぞ。フキフキ・・・」

珊瑚の前に顔を差し出す弥勒だが・・・。

フキフキフキ。

何かなまあたたかい・・・。

「わあッ!!」

目を開けるとそこには七宝のしっぽが。

「はい!フキフキ終了!これで良いでしょ法師様」

「・・・。ハイ・・・。(キツネの匂いが・・・。)」

「こりゃ!!オラのしっぽは手ふきではないぞ!」


一方、二人はまだ月を見ている。

「あれ」

「どうした」

「1羽だけ、変な形の折り鶴がある」

犬夜叉、ギクリ。

「・・・。もしかして。これ、あんたが作った・・・?」

「な、な、俺がんなことするわけねーだろ!」

「あー。やっぱりそうなんだ。しっかし相変わらず不器用ねー。これホントに鶴?」

「うるせえ!!七宝が言ったとおりにやっただけ・・・はっ・・・」

犬夜叉、自ら白状。

「うふふ。ありがと。で、犬夜叉はどんな願いをこめて折ったの?」

「そっ・・・それは・・・」

「それは?」

かごめ、犬夜叉の目をのぞき込むようにじっとみる。

「う・・・。わ、忘れた!!」

「忘れた!?何よ。それ!」

「忘れたもんは忘れたんだ!」

「もー・・・」

自分の願いなんてやっぱり照れくさくて言えない犬夜叉。

でも、その願いはいつもその胸にしまっている。



かごめ・・・俺の願いは・・・。


お前がお前らしく生きていてくれることだ。


お前の願いと同じ・・・だな。

それ以外にはねえ・・・。

でも・・・もし・・・。


もし・・・。もう一つだけ・・・願っていいってんなら俺は・・・。


またお前に会いたい


新しい“運命”を望んでいいなら・・・。


ありのままのお前に会いたい・・・。

ありのままの俺で・・・。


会いたい・・・。


犬夜叉のちょっと不格好な小さな鶴にはそんな願いがぎゅっと込められていたのだった・・・。

FIN

何だかラスト、やたらといちゃつかせてしまいました(でも嬉しい♪)犬って多分、器用な方じゃないと思うのですが、映画だとかごめちゃんに包帯器用にまいてましたね。

ラストの犬の気持ちで「ありのままで会いたい」というのは、あっし個人の気持ちでもありまして。できれば今のままの二人でずっと居て欲しいと思いまする。かごめちゃんは犬に何も求めていません。ただ、一緒に居られる時間ずっとそばにいたい・・・。ただそれだけなんです。犬とて同じこと。こんなにも犬が犬らしくいられる相手はかごめちゃんだけです。いつか、言ったかもしれませぬが、相手に弱みをみせたがらない犬が自分の寝顔を見せられる(23巻参照)、さらけ出せるかごめちゃんはもはや、犬にとっては絶対不可な存在なのです。自分の短所も長所もすべてさらけ出せる、果ては『寝顔』という無意識的な顔まで見せられるのだから、犬の深層心理に無意識に住み着いていると言えましょう。犬がかごめちゃんがいなくなってすぐ現代へに迎えに行ってしまうのは当然ですね♪(何だか嬉しい)犬の名ぜりふ「俺の居場所だ・・・」という言葉がでたのは、どこよりだれより、かごめちゃんの側が一番犬が自分らしくいられる場所・・・。という意味なのだと解釈したあっしは、このシーンで犬かご愛が頂点に達したのでございまする・・・。・・・。ここは語り部屋ではなかったですね(笑)