犬夜叉もまた、桔梗と桜の花びらが舞い散る季節に出会った。
深い孤独を胸に秘めた二人が出逢い、共に生きていこうとした。
しかし・・・。
切なく散る桜の花びらのように、二人のまた、哀しい運命に散った・・・。
そして50年が経ち・・・。
再び桜の季節がやってきた。
4月。戦国時代もこの季節は、桜が咲き、人々はそのしたで花見をしていた。
犬夜叉一行も・・・。
「ぷはー・・・。ごちそうさまでした。かごめさま、料理の腕、あがったのではないですか」
「そうかな・・・。なら嬉しいけど」
「けっ。たいして変わってねーだろうが」
「おすわり。おすわり。おすわり!!」
犬夜叉、卵焼きをくわえたまま、3回連続おすわり終了。
かごめの作ってきた弁当で、犬夜叉一行は近くの“千本桜”で花見をしていた。
その名の通り、川沿いに見事に何千本の桜が咲いている。
千本以上あるかもしれない。
長い長い桜並木が続いている・・・。
「ね、犬夜叉。ちょっと歩こうよ」
「仕方ねーな・・・」
犬夜叉とかごめ。ふたり、千本桜を天上にしてゆっくりと川沿いをあるく。
桜の花びらに吹かれて・・・。
「ねぇ。犬夜叉」
「なんだよ」
「桜ってね・・・。人の出逢いと別れを意味するんだって・・・。桜が咲く頃に出会った者通しは・・・永遠を共にする・・・」
「永遠・・・」
桜の花びら。
初雪のように柔らかく、風に乗り舞い落ちていた。
50年前のあの出逢いも・・・。
犬夜叉は桜の見上げ、しばらく立ち止まって見つめた。
「いぬや・・・」
せつない瞳。
桜を見上げる切ない瞳にかごめは気がつく。
そしてその瞳は、遠く、50年前という遠くに向けられたいることも・・・。
すぐとなりにいる自分にではなく・・・。
ズキンと痛む。まだこの胸の奥。
痛みに慣れることはずっとないだろう。
犬夜叉の側にいると決めたときから、この痛みも受けとめると覚悟はしている。
でも・・・。
かごめは静かに犬夜叉から離れた。
しかし犬夜叉は気づかない。
今、犬夜叉の瞳は50年前にいる。見上げる桜と共に・・・。
20メートル程かごめは離れた。桜をいつまでも見つめる犬夜叉。
50年前、犬夜叉と桔梗もこの切なく散る桜の中を歩いたのだろうか。
見上げ、同じ瞳で桜をみあげたのだろうか。
かごめには伝わる。
わかる。
犬夜叉の瞳映る桜はずっと咲いている。
たとえ、隣に歩く人間がいたとしても犬夜叉はきっと切ない瞳で見つめていることだろう・・・。
忘れることのできない永遠の桜だから・・・。
かごめの手の中に一枚花びらが落ちた。
「・・・」
桜は“散り際”が一番美しいという人がいる。
美しく咲き誇った桜。役目を終えたかのように最後に静かにそして儚く散っていく・・・。
まるで“私を忘れるな・・・”
と伝えるように・・・。
たった1 0メートル程の距離。
走っていけばすぐたどり着く。犬夜叉のとなりに行ける。
肩をポンと叩けば犬夜叉は振り返ってくれるかも知れない。
でも・・・。できない。
桜を見上げるあの犬夜叉の心には絶対に入れない。入っちゃ行けない・・・。
白霊山の時、桔梗を抱いて歩く犬夜叉の背中とだぶって見えた。
入っちゃだめなんだ・・・。
10メートル。短く長く・・・。そして遠い遠い距離・・・。
埋められない。心の距離・・・。
「あ・・・」
上ばかり見上げていたかごめ。
足下に、たんぽぽの綿帽子をみつけた。
「もう綿毛がでてるんだ・・・」
一本摘むかごめ。
小さい種がついて、早く飛びたいよというようにふわふわしている。
小さな種・・・。
風に飛ばされて、
どこへ飛んでいくか分からない。
でも、必ず、落ちた先でまた、芽をだして花を咲かせる。
「・・・」
かごめはふうっと息を吹きかけた。
綿帽子は風に乗り、犬夜叉の方へと流れる・・・。
気づいて欲しい・・・。私の飛ばした綿帽子。
心の綿帽子・・・。
「ん・・・??」
犬夜叉の鼻の上に、ちょこんと一つ綿帽子が止まった。
「なんだこりゃ」
見ると舞い散る花びらの中に小さな綿帽子がいくつも舞っていた。
後ろの方から・・・。
「かごめ・・・?」
振り向くとそこには・・・。綿帽子を楽しそうに飛ばすかごめがいた。
犬夜叉の一番好きな笑顔で・・・。
「なにやってんだ。お前・・・」
「えへへ・・・。可愛いでしょ?たんぽぽの綿帽子。種を飛ばしてるのよ」
「・・・。そんなもんがたのしいのか?」
「うん!だって・・・。あたしが飛ばした種がさ、またどこかで花を咲かせると思ったらすごく楽しみじゃない?またどこかで咲いて、誰かの心を励ましてくれたり・・・ってさ」
“誰かの心を励ましてくれたり・・・”
かごめが笑う。
笑って飛ばす綿帽子。
犬夜叉の胸にも舞い降りる綿帽子。
かごめの笑顔も一緒に舞い降りる。
舞い降りて、優しい花を咲かせる。
限りなく優しいそしてあたたかな花を・・・。
「ほら・・・。犬夜叉もいっしょにやろうよ」
あたたかな花を・・・。
「けっ・・・。ガキじゃあるまいし・・・」
「そういうと思った。うふふ・・・」
かごめの綿帽子。桜吹雪と共に広く高く飛んでいく。
「ねぇ犬夜叉・・・」
「何だよ」
「この綿帽子も桜も・・・。花が散ったら、種がなくなったらおしまい・・・。だから忘れられないんだね。切ないんだね・・・」
「かごめ・・・」
「でも・・・」
かごめはしゃがんでもう一本綿帽子を摘んだ。
「でも桜も綿帽子もまた来年もそのまた来年も必ず花咲くよ。必ず咲くよ。だから・・・」
“だから、生きなきゃね・・・”
そうかごめの瞳が言っている。
願うように。切に願うように・・・。
かごめの綿帽子が飛んでいく。かごめの願いを種にして・・・。犬夜叉の心へ・・・。
「本当・・・。桜綺麗・・・。涙がでそうになるね・・・」
「けっ。なんでい花ぐらい・・・。でも俺は・・・。その白いやつも黄色いやつ嫌いじゃねぇよ・・・」
「え・・・?」
「だから嫌いじゃねぇって言ってんだ!なんかあったかそうで・・・。柔らかそうで・・・。つい触りたくなりそうな・・・。ってべ、別にそれがお前みたいだなんて言ってる訳じゃねぇぞ!言ってる訳じゃ・・・」
言ってる訳です。充分。
「うふふふ・・・。ありがと。犬夜叉」
「だ、だから、言ってる訳じゃねぇって言ってンだろ!!」
犬夜叉の隣にかごめがいる。
並んで、千本桜を歩く。
見事に舞い散る桜に混じって小さな綿毛が飛んで・・・。
「かごめ」
「なあに?」
「また・・・。一緒に見ような・・・。桜・・・。一緒に・・・」
「うん・・・。『絶対』ね・・・」
そう約束する。指切りの代わりに手を繋いで・・・。
『絶対』なんて米粒ほどにないかもしれない可能性。
でも願わずにはいられない。
もう一度・・・。いつかもう一度二人で見たい・・・。
二人の願いを詰めた小さな種は、どこまでもどこまでも飛んでいった・・・。
二人が一緒に生きていける時間に・・・。
ああ、やっぱりかごめちゃんにぴったりだ。
とやっぱりその日からすべてのタンポポがかごめちゃんに見えるのでありました(笑