蜜柑色の太陽。大きな太陽。見ていると元気になる。
“明日また、会おうね”と言っているみたいに名残惜しそうにゆっくりと太陽は真っ直ぐな地平線のベットに吸い込まれていく。
おやすみなさい。
蜜柑色の太陽。しばらくだけさようなら。
でも、また会えるさ。絶対会いに来る。
君の笑顔を見に、僕は時間を超えても会いに来る。
明日必ず太陽が昇る様に僕も必ず・・・。
七宝がまた、折り鶴を折っている。
昨日の夜、七宝はとても哀しい夢を見たのだという。
かごめが「どんな夢だったの?」と聞くと、
「オラ達みんな仲間がバラバラになる夢なのじゃ〜」
と言って泣き出してしまった。
特に七宝は夢の中のかごめが哀しかったと言う。
自分の時代に帰ったかごめ。寂しくて寂しくてかごめの世界に追いかけて言った七宝。そこにかごめはいた。でも・・・。
「オラ、透明人間だったんじゃ・・・。誰もオラのこと気づいてくれないんじゃ・・・」
見たこともない景色の中に、七宝一人、誰も見向きもしない人間達。
雑踏の中、七宝は必死にかごめの姿を探す。
雑踏の中、友人達と楽しそうに歩くかごめを見つけた七宝。
「オラ、かごめー!って何回も呼んだんじゃ。だけど・・・」
七宝の体が透明みたい。すうっとかごめは通り抜けていった。
誰かがいる事を気がつく様子もなく・・・。
「オラ、何度もかごめに叫んだのに・・・。オラ、かごめに会いに来たんじゃってさけんだのにかごめは遠くに行ってしもうた・・・」
かごめの姿が見えなくなって・・・。
気がつくと七宝は一人、戦国時代に戻ってきた。誰もいない野原。ただ、夕焼けだけが切なく七宝を照らしていた・・・。
「そう・・・。寂しい夢だね・・・」
「なぁかごめ。かごめはオラの事忘れたりせんじゃろ?みんなのことも忘れたりしないじゃろ?オラ達ずっと一緒にいるんじゃろ?」
うるうるな瞳で七宝、かごめにお願いする。
「あたしが七宝ちゃんの事、忘れたりするはずないよ。絶対」
「ホントだな??オラ達、みんな誰一人欠けないでみんな、一緒じゃな?」
「・・・。うん・・・」
黙って頷くかごめ。
「わーい♪弥勒もそうじゃろ??」
「そうですな。七宝の狐くさい匂いは独特ですから忘れようにも忘れられませんよ」
「ホントか?弥勒〜♪」
「そうですとも。な。珊瑚」
今度は珊瑚に。
「まぁね。法師様の女癖の悪さにはかなわないけど」
「珊瑚〜!弥勒の子を産んでもオラと遊んでくれるのじゃな?わーい★」
七宝、論点がずれてきています。
「ななっ。犬夜叉、お前も忘れないじゃろうな?オラの事」
犬夜叉の肩に乗っかる七宝。
「けっ・・・。うるせー!今はんな泣き言言ってる場合じゃねぇだろうが・・・」
「何じゃとッ!!貴様、オラのこと忘れるというのか!!んじゃかごめの事はどうなんじゃ!!桔梗がいるからかごめとお前は離れて寂しくないのか!!」
ドカ!バキ!!
「うわあん・・・」
七宝に、3つのお山ができました。
犬夜叉は無言で楓の小屋を出て行ってしまった。
「七宝・・・。ご愁傷様な事で・・・。しかしお前、質問がストレート過ぎます・・・」
「法師様!法師様・・・!」
珊瑚が弥勒の着物をくいくいと罰がわるようにぴっぱる。
かごめに気を使っているのか・・・。
「あ、別にあたし、気にしてないよ。七宝ちゃん、一緒にお絵かきしましょ」
「うん!」
七宝の無垢な言葉が痛い。
自分がいつも心に浮かぶ想いを何のためらいもなく言葉にして・・・。
寂しいとき、寂しいと。会いたいときは会いたいよ・・・。
そんな風に叫べたら、相手に思い切り伝えられたら・・・。
母が子を探すように
子が母を探すように・・・。
夕暮れの河原。
穏やかに流れる川に橙(だいだい)の色が溶けて川の水は蜜柑色に染まっている。
その河原に我が子を背をってまぶしそうに夕陽をみつめている母子。
「大きなみかんが山に食べられるよ。おっかぁ」
「あの山は食いしん坊だからねぇ・・・。うふふ・・・」
子が母に笑いかけ、母は倍にして笑い返す・・・。
実に穏やかな笑顔・・・。
犬夜叉のそばに、いつもある温もりと同じ匂いがする・・・。
“ねぇ。犬夜叉。あの夕陽見て、なに思い浮かべる?”
“はー?なんじゃそりゃ”
“あたし、何だか『オレンジ』思い浮かべちゃった”
“おれんじ??何のことだ”
“あたしの国のみかんみたいな果物の事よ。とっても美味しいんだよ”
“食い意地はってんな。おめーは・・・”
“何よ。想像力があると言ってよ。ま、単純明快なあんたにはないだろうけど・・・”
“けっ!うるせえッ・・・!”
かごめと二人。あの母子の様に沈む夕陽を静かに眺めていた。
何度も・・・。
「きれーだねぇ・・・」
「か、かごめ・・・」
犬夜叉の横に静かにかごめは座った。
「な・・・。なんだよ。お前人のあとついてきやがって・・・」
「来ちゃだめだった?」
「べっ・・・。別に・・・」
本当はきっとかごめは来てくれるだろうと密かに待っていた犬夜叉。
照れくさそうにする犬夜叉の顔から本音が溢れているのがわかって嬉しいかごめ。
そんな二人を蜜柑色の夕陽がやさしく照らす。
「あたしん家の境内から見る夕陽もきれいだけど、戦国時代の夕陽なんて見てるなんて不思議だね・・・」
「どっちもおなじだろーが」
「うん。でも犬夜叉と一緒に見てるから特別綺麗に見えるよ」
「ばっ・・・。ばっ・・・バカ言ってンじゃねぇよっ・・・」
犬夜叉、照れまくりでおろおろしております。
「うふふ・・・。でも・・・。この河原にもいっぱい思い出・・・。犬夜叉と一杯いろんな事話したね・・・」
ケンカして、何度も仲直りした。
奈落との戦いの後、ここで傷を手当てしたこともある。
二人の時間がいっぱい詰まった場所だ・・・。
「けっ・・・。何感傷的になってやがる。別にどこもかわらねぇじぇねぇか・・・」
「うん・・・。変わらない。でも・・・」
でも・・・。変わらないこの風景もいつかは・・・。こうして大切な人と肩を並べて見られなくなる日が来るかもしれない。
「七宝が妙な夢見たからってお前まで、湿っぽくなるんじゃねぇよ。たかがガキの夢だろ」
そのガキの夢にムキになり、夕陽をみに来た湿っぽい男がここにいる。
「犬夜叉あたし・・・。時々自分が夢見てるんじゃないかなぁって思うときがあるよ・・・」
「・・・。何がだよ」
「自分が戦国時代に来てることも・・・。奈落達と闘ってることも・・・。こうしてあんたの横で500年前の夕陽見てる事も・・・。いつか突然夢から覚めて、いつも通りの毎日に戻ってしまうんじゃないかって・・・」
夢じゃない。夢じゃないけど、目の前にある夕陽は綺麗すぎてモシカシタラ、昨日見た夢の続きなんじゃないかって不安になるときがある。
激しい闘いも中でも・・・。
「何だよ!てめぇ!さっきからじめじめしたことばっかり・・・!今、俺たち分かれるみてぇな事ばっかり言ってンじゃねぇよ!!」
「・・・」
“別れる”
確信をつく言葉。
決定的な言葉。
一番・・・辛い言葉。
二人の間の空気が一瞬石のように重たくなる。
「・・・」
「・・・」
互いに目線を逸らす。背を向け合って・・・。
二人にあるこの先の“現実”から逸らすように・・・。
「・・・」
振り向けば、大好きな人はそこにいるのに。
手を伸ばせば、その手の温もりを感じられるのに・・・。
河原に背を向け合って座る二人をの横をさっきの母子が通り過ぎていく。手を繋いで・・・。
「おっかぁの手、あったかいなぁ・・・。あの夕陽みたいにぽっかぽかだ。あったかい蜜柑だ」
「じゃあ。坊やの手は小さな温かい蜜柑だね」
「・・・。オラ、蜜柑は蜜柑でもおっかあの手の蜜柑が大好き!」
「おかあも坊やの手の蜜柑が一番すきだよ。ずっと繋いでいようね」
「うん!!」
小さな楓の様な手と畑仕事で豆だらけだけど優しい手がギュウと強く握られた。
蜜柑色に染まって・・・。
その光景を犬夜叉とかごめは 見ていた。
さっきまで二人の間にあった重たい空気も蜜柑色に染まって柔らかな空気に変わって・・・。
「!」
かごめはそっと犬夜叉の右手を握った。
「ごっつい手・・・。この手がいままで何回暴れてきたことか・・・」
「なっ・・・。人の手じろじろ見るんじゃねぇよ」
「いいじゃないへるもんじゃなし」
「減る減らないの問題じゃ・・・」
優しく・・・。フワリと・・・。包み込むように円を描く様に・・・。
かごめは犬夜叉の手の甲を撫でる・・・。
手の甲から、かごめの吸い付くような手の柔らかい感触が犬夜叉に伝わる。
「・・・」
「夕陽みたいに大きくて温かくて・・・。はこの手にずっと守られてきたのよね・・・。だからあたしは・・・」
かごめはそのまま両手で犬夜叉の手を頬に寄せた。
「この手が一番好き・・・。どこにいたって感じられる・・・」
犬夜叉の心と体にも刻まれる。
かごめの匂いも、ぬくもりも、手の柔らかさも・・・。そして笑顔も・・・。
絶対に忘れないように。いつも感じられるように・・・。
「ねぇ。おっかぁ。あそこいる人達、何してんのかな」
真上の河原でさっきの幼子が二人を指さして 母に尋ねた。
「うふふ。あのね。あの二人もお互いのお手が一番すきだよって言い合ってのよ」
「じゃあ、あの人達の手も蜜柑色してるかなぁ?」
「そうだね。きっと優しい蜜柑色してるね。きっと・・・」
母子が再び歩き出す。
お気に入りの子守歌を口ずさみながら。
蜜柑色の夕陽を背負って・・・。
そして犬夜叉とかごめにもまた・・・。
「腹減ったぜ」
「・・・。ったくあんたってホントにムードってもんがわかんない奴ね」
「んだとーー!!」
「何よー!」
すぐにケンカになってしまう二人。この二人にもまた・・・。
優しい蜜柑色の夕陽の光が注がれた・・・。
限りなく・・・。限りなく・・・。
皆様も一度聞いてみてくださいね★