村の宿の廊下で七宝と弥勒が何やら話をしている。どうやら、弥勒と珊瑚がいなかった間の出来事を話しているらしいが・・・。
「いや〜。犬夜叉が鋼牙に積極的な発言をしたのですか」
「そうじゃ!しかし結局、最後は鋼牙と犬夜叉の子供じみたケンカで終わったんじゃ」
「ま。それがいい『オチ』でしょうな。まだまだコドモですから犬夜叉は」
「誰がコドモでいッ!」
自分のうわさ話には異様に地獄耳の犬夜叉。
弥勒の背後からぬっとあらわれる。
「でっかい『子供』のお出ましお出まし。所で、犬夜叉、お前、かごめ様と周囲のめもはばからず熱烈なシーンを見せつけたというのは本当か?」
「なっ・・・」
犬夜叉。お顔が真っ赤っか。
「だ、だ、誰がんな事言ったんだ!」
七宝は機嫌良く手をあげた。
「オラじゃー♪」
バッコン★
「うわ〜ん・・・」
七宝に照れ隠しのげんこつが。
「まー。犬夜叉にしてみれば、それが精一杯の愛情表現なのでしょうな。ま、まだまだ子供ですよ」
「人のバカにしやがって!弥勒、てめえのは度が過ぎてるだけじゃねぇか!何が『私の子、うんでくださらぬか』だ。スケベ野郎が!」
「ふっ。ならば犬夜叉。お前、もし、私がかごめさまに抱きついたら怒らないか?」
「なんだとーーーーっ!!いつ抱きついたんだ!!」
犬夜叉、弥勒の一言だけで大噴火。
「もしと言っているだろうか。たとえばの話だけでお前はこんなに嫉妬する。子供じゃないか充分」
「なっ。そ、そんな事ねぇッ!!そんなもん位で・・・」
「ほほう・・・。よし分かった。じゃあ、これから私はかごめ様にアプローチするぞ。お前がどこまで耐えられるか見物だな。ははは」
「弥勒、てめぇ・・・。覚えてろ・・・」
そんな男たちのよそに風呂に上がってきた珊瑚とかごめ。浴衣姿で登場だ。
「おお・・・。これはこれはなんと色っぽいですな。お二方。良い湯でした か?」
「うん。すごく気持ちよかったよ。ね。珊瑚ちゃん」
「まあね。どこかのスケベ法師ののぞきがなかった分、静かだった」
「さ、作用ですか・・・」
珊瑚の毒舌に弥勒はギクリとする。実はちょっと覗きに行こうと思っていたりして・・・。
「あら・・・?かごめさま、右の髪に枯れ葉がついていますよ・・・」
と、かごめの髪の葉をそっととった・・・。
「!!」
犬夜叉、カッきて血管が浮き出る。
「ありがとう。弥勒様。きっと露天風呂でくっついてきたのね」
「ふっ。気がついた事をしたまでです・・・」
なにげにかごめに優しい視線をおくる弥勒。
もう犬夜叉は、今にも大爆発しそうだったが、さっきの弥勒の言葉で我慢していた。
しかし、もう一人の方は・・・。
「み、弥勒・・・!さ、珊瑚から殺気が・・・」
七宝が弥勒に警告・・・。
「あー。もうスケベ法師全開ね!!ふんっ」
珊瑚、すっかりご機嫌斜めですたすたと部屋に行ってしまった・・・。
「・・・。弥勒さま、行かなくていいの?珊瑚ちゃんおこちゃったよ?」
「いいのです。あとでフォローしておきますから・・・。それよりかごめ様、もしよろしかったら私と一緒に村を散策しませんか?」
「え・・・。あのでも・・・」
「ささ、行きましょう。行きましょう」
「あ、弥勒さまっ・・・」
弥勒は強引にかごめを連れて、宿を出て行ってしまった。
勿論、この男は後をつけて・・・。
かごめと弥勒は村はずれの野原に来ていた。
露草が沢山さいている。
「気持ちいいですなぁ」
「うん・・・」
並んで座る二人の4メール後ろに、かごめ尾行班のこの男一人、身を潜める。
(くそぅ・・・!!なんで俺がこんな隠れなきゃなんねぇんだ・・・!!弥勒の野郎・・・!かごめに指一本触ったらただじゃおかねぇぞ!!)
その横に、なんと珊瑚がいつのまにやらいた。
「な、なんだ!お前・・・!」
「そ、そっちこそ何よ!こんな所で・・・!」
「お、俺は・・・その・・・。ひ、昼寝でいッ!」
犬夜叉、苦しすぎる言い訳。
「あそ !あたしもそうよ!」
珊瑚も然り・・・。
そんなこんなで弥勒とかごめ、尾行班はじっくりと聞き耳をたてて二人の話を聞く。
「弥勒さま、何か企んでるでしょ?」
「え?」
「・・・。犬夜叉をわざと怒らせようとしてる・・・?違う?」
「はは・・・。流石かごめさま。鋭いですな。」
「・・・。弥勒さま、どうしてこんな事・・・」
「・・・」
弥勒は露草を一本引っこ抜いた。
「かごめ様。私は犬夜叉とかごめ様に幸せになってもらいたいと強く思うのです」
「え?」
「ずっと・・・。一緒に闘ってきてお二人を見てきました・・・。様々な事があって少しずつ絆を深められていった・・・。犬夜叉の頼もしさを感じるとき、かごめ様のお力だと私も珊瑚もとても感じるのです・・・。犬夜叉もかごめ様も私の大切な仲間です。二人が笑っていると、私も珊瑚も一人ではないといつも勇気づけられていました・・・」
「弥勒さま・・・」
初めて聞いた弥勒からの言葉・・・。
かごめは驚きながら聞いていた。
「二人の複雑な事情は私も珊瑚も知っています。でも、だからこそ、もっとお二人が仲むつまじい姿が私も珊瑚も見たいのです・・・。すいません。回りくどいやり方をしてしまって・・・」
「ううん・・・。弥勒様や珊瑚ちゃんの気持ち、とっても嬉しい・・・。でも・・・でもね・・・。弥勒様、あたしと犬夜叉はね・・・。あたしと犬夜叉は・・・」
『あたしと犬夜叉は・・・』
その先の言葉が出ない。
どうしても・・・。
「あたしの方こそ羨ましい。珊瑚ちゃんと弥勒さまが」
「は・・・?」
「だって・・・。二人ともなんだかんだいってお互い両思いだし。二股疑惑もないし・・・。それに・・・同じ時代、同じ時間に生きてる・・・」
「かごめ様・・・」
「だからね・・・。弥勒様と珊瑚ちゃんこそ幸せになってもらいたいなって思う・・・」
自分のこの先の幸せなんて、考えられない。
いや、考えない。
でも・・・。ずっと共に闘ってきた仲間の幸せ、仲間の恋は精一杯応援したい・・・。
「あたしは今でも充分幸せだよ。弥勒さまと、珊瑚ちゃんと、七宝ちゃんとみんなに一緒にいられて・・・。それから犬夜叉といられて」
二人の会話をじっと聞いていた犬夜叉と珊瑚・・・。
「犬夜叉・・・。あんたって幸せものだね・・・。かごめちゃんみたいな子にあんなに想われて・・・」
「・・・」
「どれだけ大切にしてもたりないくらいだね・・・」
「・・・。わかってる・・・。そんなこと・・・わかってる・・・さ・・・」
髪の毛一本傷つけたくない。
大切で大切で・・・。
煉骨の炎に飲まれ、かごめに心配をかけたときも・・・。
俺のために見せてくれた涙。
俺の無事を喜んでくれた涙。
こんなこと本当は思っちゃいけないのかもしれないが、かごめが俺を心配した顔、ながしてくれた涙、それ全部が心底、嬉しかった・・・。
もっと見たいと思った。
俺の胸に飛び込んできたかごめが・・・。
かごめが・・・
たまらなく愛しかった・・・。
「犬夜叉・・・?」
犬夜叉はスッと立ち上がり、かごめと弥勒の後ろで立ち止まった。
「犬夜叉・・・。やはり跡をつけていましたか。はは。やっぱりお前は子供ですなぁ・・・。まだまだ」
「どけ」
「はい?今なんと?」
「そこは俺の場所だ」
犬夜叉は弥勒の腕をぐっと掴んでかごめのとなりからどかした。
「かごめの隣は俺だけの場所だ。誰もゆずらねぇッ!」
弥勒を掴む犬夜叉の手に力が入る。
「・・・。ふっ・・・。犬夜叉。言えるじゃねぇか。熱い台詞を・・・」
「弥勒・・・」
「自信を持て。犬夜叉。熱い台詞を恥じることなく言えるくらいに・・・。かごめ様を守りたいという気持ちに・・・。自分を信じて・・・」
「・・・。お前もな。弥勒」
弥勒はポン!と犬夜叉の肩を返事のかわりに力強く叩いた。
そして、珊瑚の元へ・・・。
「珊瑚・・・」
「法師様・・・」
「私も言ってみようか・・・“珊瑚のとなりに座っていいのは俺だけだ”」
弥勒は珊瑚の手をとってそう言った・・・。
「・・・。犬夜叉の受け売りじゃない・・・」
「はは・・・。やっぱりだめか・・・」
弥勒の手を握り返して、顔をよこに振る珊瑚。
「だめじゃない・・・。う・・・嬉しい・・・」
「・・・。そうか・・・。じゃあ、私と共に他の場所でもっと語らいましょうか。珊瑚・・・」
「・・・。う・・・うん・・・」
弥勒と珊瑚・・・。
手を繋なぎ、二人はどこか消えていった・・・。
そして、こちらの二人は・・・。
「・・・」
犬夜叉は慣れない台詞を言ってしまったせいか、かごめの顔がまともにみれなくて腕組みをしてかごめに背を向けてとなりに座っていた。
「犬夜叉・・・。弥勒さま・・・。本当に仲間思いだね・・・」
「ああそうだな・・・」
「あたしって本当に幸せ者だな・・・。素敵な仲間がいて・・・。それに・・・」
「それに・・・。何だ?」
「犬夜叉からあんな台詞が聞けて・・・。嬉しすぎてまた、泣いちゃいそう・・・。えへへ・・・」
かごめはすこし瞳に滲んだ涙を人差し指でそっと拭った。
「かごめ・・・」
「あたしね。犬夜叉があたしに言ってくれた言葉、一つ一つ覚えておく・・・。腹が立った言葉も、びっくりした言葉も、嬉しかった言葉もみんな・・・。心に刻んでおくね・・・。それだけで幸せな気持ちになれるから・・・」
「・・・。かごめッ・・・ッ」
犬夜叉は少し強引にその胸にかごめの身を引き寄せ、その細い体を抱きしめた。
かごめを思い切り抱きしめたいという気持ちは普段は照れくさいが、今は照れくさくもなんともない。
目の前にいるかごめが愛しくて可愛くて・・・。
たまらない、たまらない・・・。
「そんな・・・。そんな過去形な事ばっかりいってんじゃねぇよ!俺は・・・。俺は・・・今の事しかわからねぇッ!今、かごめが俺のそばにいて欲しいとしかかんがえられねぇ・・・ッ!それしか・・・。それしか・・・ッ。かごめ・・・ッ」
犬夜叉の強い想いがかごめを抱く。
夢中で・・・。
がむしゃらに・・・。
「犬夜叉・・・」
「かごめ・・・」
逃げているかもしれない。先の事を考えたくないだけなのかも知れない。
でも・・・。でも・・・ッ。
「かみしめよう・・・。この一瞬を・・・。二人で・・・犬夜叉・・・」
「一瞬・・・?」
「うん・・・。時間なんか、忘れるくらいにかみしめよう・・・。今、この一瞬を・・・。時間なんて超越する程に・・・」
「かごめ・・・」
骨が痛くなるほど
髪がみだれるほど、、互いを
抱きしめて・・・抱きしめて・・・。
二人に同じ“永遠”がこない事は死ぬほど分かっている。
二人の時間が“限りあるもの”だと分かれば分かるほど、その一瞬が狂おしいほど愛しい・・・。
それでも願わずにはいられない。
“限りあるもの”が共に生きられるものにかわることを・・・。
この一瞬が“永遠”になることを・・・。
「犬夜叉・・・。ごめん・・・。こうしてると幸せすぎて怖くて、何だか涙がとまんないよ・・・」
「止まらなくていい・・・。お前の涙、見ていたいから・・・」
犬夜叉の衣はかごめの涙で濡らされる。
それもいい。
かごめの涙なら・・・。
そしてまた、二人は互いを
きつく、激しく、優しく・・・。
抱いて 抱いて 抱いて・・・。
抱き合って・・・。
一秒、一分、一時間・・・。
かみしめよう・・・。
その一瞬を・・・。
お前と一緒に・・・。
貴方と一緒に・・・。
この一瞬を・・・。