「・・・。遅い・・・。かごめの奴・・・一体、なにしてやがるんだよ!」
いつものように楓の小屋の屋根の上でおすわりの体勢でかごめの帰りを待っている犬夜叉。
「屋根の上がまた、何やら騒がしいようですな」
「しかし、かごめが最近、帰りが遅かったのはオラ達の贈り物をつくっておったからなんじゃろう?」
七宝はいたく、かごめが編んだ手袋が気に入ったのか、ずっとしたままだ。
「さあ、それはなんとも・・・。あちらの事は犬夜叉しか知る事ができないですし・・・」
「やっぱり、かごめの国で新しい男でもできたんじゃろうか?」
「やはりそうでしょうか?そして今頃はもしやかごめさまとその男は人気のないところで・・・」
ドッタンバタン!
「あれ、何の音じゃ?」
「さあ、嫉妬深い犬でも落ちたんじゃないの?」
雲母を撫でながら珊瑚はすましがお。
小屋の外では犬夜叉は珊瑚達には気付かれないように井戸の方へ行く。
「やっといったか。全く、手がかかる男ですな。」
「ほんと、かごめちゃんとこ行きたいならいきゃいいのに・・・」
「そうだ、いつか、私が色恋沙汰について指南しましょうかね。やはり、男が積極的にならねばいけません・・・って何ですそのしらけた視線は・・・」
「弥勒が教えるのは子の作り方ではないのか?」
「犬夜叉には刺激が強すぎるわよ」
(結局、私がいつもオチ、なのですね・・・(涙))
「コホンコホン・・・」
咳が止まらず、寒気がする。熱も上がっていたようだ。
かごめは久しぶりに風邪をひいていた。多分、この前、寒い中、犬夜叉と二人で雪をずっとみていたせいだとかごめは思っていた。
(風邪ひいたのはちょっといたいけど・・・。きれいだったな初雪・・・。犬夜叉の手、温かかったな・・・)
触れあった手と手、髪。
その時のことを思い出したら何だか体がまた、ほてってきた。
(やだ・・・。自分で熱あげてどうすんの・・・)
コンコン。
「かごめ姉ちゃん、北条って男が来てるよ」
「えっ。北条くん?」
北条が部屋に入ったと同時に花の匂いがきつくした。
「ごめん。起こしちゃった?また、日暮が倒れたって聞いて心配だったもんだから・・・今度はリウマチと肺炎の合併症だって?!」
(・・・。そんな病気きいたことないわよ・・・)
北条は花束をかごめに手渡す。
「あ、ありがとう・・・北条君。わざわざきてくれて・・・」
「いや・・・それより、具合、どうなの?」
「うん。ちょっと風邪、ひいただけだから・・・」
「日暮っていつも笑顔でいるけど、本当は色々・・・辛いこと、あるだろ?俺じゃ何もできないけど、俺、日暮の味方だから・・・」
「北条君・・・」
何だかいい雰囲気の部屋の中。しかしそれをかじりつくようにピリピリしながら見ている男、外に一人あり。
(何だ!!あいつは!!)
犬夜叉の脳裏に弥勒の言葉がよぎる。
『もしや今頃かごめ様は新しい男と・・・』
(・・・・。かごめ・・・)
犬夜叉のピリピリ度がどんどん上がっていく。
「ファアックション!」
「ほら!温かくしないと・・・」
北条はかごめの肩を支えて、横にならせる。
(んなっ・・・・。どこ触ってんだ!あの野郎!!かごめから離れろてんだ!!)
犬夜叉、窓際にへばりつく。
「ん?」
「どうしたの?北条君」
「今、窓の外に頭に耳のある犬みたいな人間がいたような・・・」
「え?」
かごめは窓を見た。しかし、犬夜叉の姿は見えない。
犬夜叉、屋根の上に隠れる。
(犬夜叉じゃなかったの・・・?)
「ふう・・・。北条君、うつったら大変だし、今日はもう・・・」
「ごめん。そうだよな。日暮、よく眠って早く治してくれよな」
「うん。今日は本当にありがとう。北条君」
「いや・・・。日暮・・・俺・・・俺だけは何があっても日暮の味方だから・・・。それだけは覚えておいてくれ」
「北条君・・・」
「ふう・・・」
熱がまた、上がってきた。
(てっきり、犬夜叉が来てると思ったのに・・・はあ・・・。犬夜叉・・・。今頃、何してるかな・・・)
かごめは再び深い眠りについた。
一方、戦国時代に帰っていた犬夜叉は相変わらず井戸の前でぶちぶちと文句を言っていた。
「ったく・・・。かごめの野郎・・・。人が心配していってやったてのに・・・」
(でも・・・やっぱり・・・かごめの奴・・・あいつの事・・・)
ふつふつふつ。再び、ジェラシーが湧いてくる。
「だああ!もう!何で俺がこんなうじうじしてなきゃなんねぇんだよ!かごめは風邪をひいてんだ・・・」
(この前・・・雪ん中にいたせいか・・・)
犬夜叉は楓の所へ行き、何かいい薬草はないかとたずねた。
「これを水で濡らした布にはさんで額にでも置くといい。熱冷ましになる」
「すまねぇ。楓ばばあ」
「犬夜叉」
「何だ。楓ばばあ」
「・・・。かごめを大切にしてやってくれ」
「?どーゆー意味だ?」
楓はふと遠くを見るような表情ではなす。
「桔梗姉さまの事ではお前達に色々と辛い思いをさせているようだからな・・・。特にかごめには・・・」
楓はつい昨晩かごめと話したことを思い出していた。
犬夜叉と雪が見られたと喜んで話すかごめ。楓もそんなかごめの様子を嬉しく思いながらきいていた。
「今のうちに、いい思い出つくっておきたいんだ・・・。なんて大袈裟だけど・・・」
「かごめ・・・。すまぬ。桔梗お姉さま事ではお前には辛い思いをさせて・・・」
「や・・・やだな。楓おばあちゃんが謝ることじゃないよ。桔梗はただ、女の子なだけだよ・・・。好きな人より先に死んじゃって今も好きなだけ・・・。普通の女の子だよ」
「かごめ・・・」
「ねぇ、楓おばあちゃん。私ずっと考えてたんだけど、一度生まれ変わってしまった魂って、もう、転生しないの?」
「さあな・・・。そう何度も転生できるとは・・・」
「桔梗の魂が・・・もう一度、生まれ変われたらいいのに・・・。桔梗でもなく私でもなく・・・。巫女なんて立場じゃなくて普通の女の子として・・・そうしたら、犬夜叉とまた、出会える」
胸元のかごめは四魂のかけらを取り出し、見つめる。
すべてはこの玉から始まった。自分の体の中にあった四魂の玉。この玉がめぐり会わせた。桔梗と犬夜叉。でも桔梗は死んでしまった。そして、桔梗は犬夜叉に自分の元へ来て欲しいと思っている。
でも私は犬夜叉には死んで欲しくない。絶対に。犬夜叉が桔梗に応えるというなら、『生きて』ほしい。『生きて』幸せになって欲しい・・・。
「ワシは・・・正直、かごめのその言葉に救われた気がした。もしかしたら・・・お姉さまの痛みが分かるのはかごめかもしれんな・・・。生まれ変わりだからというわけではなく・・・」
「・・・」
犬夜叉は楓の言葉が身に染みて分かる。かごめのあたたかな魂は邪気だけではなく、すさんだ人の心を包む。何に対しても。真っ直ぐに。
「薬草。もらってくぜ。楓ばばあ・・・」
「ああ・・・」
かごめに出会って、見失った自分を取り戻した。そして、側にいてくれる。そんなかごめが望むことは自分が生きること。それがかごめに対してできる事だと犬夜叉は思った。
死ではなく、生き続けること。
カラ・・・。
静かにかごめの部屋に入る犬夜叉。
現代はもうすっかり暗くなっていた。
かごめはまだ、熱が下がらないのか顔を赤くして苦しそうに眠っている。
犬夜叉はかごめの額の上のタオルに楓から貰った薬草をはさんで、置く。
「犬夜叉・・・」
かごめの寝言にドキっとする犬夜叉。
犬夜叉はなぜか、目覚まし時計を見た。
(また、突然、ならねぇだろうな?)
以前、夜にかごめの部屋に来たとき、突然鳴った時計を壊してしまった。
かごめが苦しそうに何かを言っている。
「犬夜叉・・・。死なないで・・・」
「かごめ・・・」
一体、どんな夢をみてるんだ?
夢の中でもかごめを苦しめてるのか?
「犬夜叉・・・。あたしは・・・」
夢の中なら、何のしがらみもなく、かごめを守っていけるのか?
「犬夜叉・・・」
できることなら・・・お前の夢の中で生きられたら・・・な・・・。
犬夜叉はかごめの汗をぬぐう。
かごめ・・・今、どんな夢・・・見てるんだ・・・・?
犬夜叉はそうかごめにたずねるように、かごめの髪にそっと触れた。
もうじき・・・夜が明けようとしていた。
チュンチュン・・・。雀が朝が来たのを告げるように鳴いている。
「ん・・・」
体が軽い。熱は下がったようだ。かごめは額の上のタオルをとると、見慣れない薬草が入っているのに気がつく。
すると、そこに、鉄砕牙をもったまま眠っている犬夜叉の姿があった。
「・・・。犬夜叉・・・ずっと側に?」
「・・・」
ずっと側にいてくれた・・・。かごめは犬夜叉の寝顔がとても愛おしく感じた。
しかしなぜか・・・。
「犬夜叉・・・。おすわり・・・」
「ってぇ・・・。何しやがんでぇ!」
「おはよう。犬夜叉。あの薬草、犬夜叉が持ってきてくれたの?」
「・・・ま・・・まあな・・・。楓ばばあが持ってけって言うもんだから・・・あくまで楓ばばあがだぞ!」
犬夜叉は照れくさそうにぶつぶつと言う。
「そ・・・そんなことより、お前、もう、熱はいいのかよ・・・」
「うん・・・。ありがとうね。犬夜叉・・・」
「けっ。もうーめんどーなんかみねーぞ。俺は」
「うん・・・。でも・・・。もう少し・・・ここにいてくれる?」
かごめは犬夜叉をのぞき込む
「・・・。ふんっ。もうしばらくだけだぞ・・・」
「ありがとう」
カーテンの間から眩しい朝日が差している。
今日は晴天になりそうだ。
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