かごめとりんの活きる道 第二話 傷菜とキズナ 「殺生丸様。ご夕食ができました」 「・・・いらぬ」 駅の向こうの高級住宅街。 でっかいちょっと現実離れした和風建築の家。 玄関までに1分以上はかかりそうな道を歩いてやっと。 会食料理のような御膳に盛られた豪華な夕食を無視して この長男坊殺生丸がはなれの自分の部屋へと入っていく。 「・・・。ったく・・・。いくら頭が切れて器量よしでも あれじゃあ・・・」 高級食材でつくった夕食に向かってため息をつく家政婦。 「・・・あ。犬のぼっちゃん」 厨房の前を泥だらけに姿のこの家の次男がとおりかって。 「・・・い、犬言うな!!」 「・・・じゃあ本名全部でいいましょうか?なんなら ちゃんづけしましょうか?」 「い、いわんでいいッ(汗)め、メシどこだ!」 「はいはい。おにぎりつくってありますよ。鮭入りです。 おしぼりつけておきましたからちゃんと手、拭いてから食べてくださいね」 「・・・。へ、へん!」 腹が減った犬君。 厨房のとなりのちょっと狭い部屋 にバッタン!とあらっぽく襖をしめた。 (・・・。弟の方は・・・またネンネだけどちゃんとご飯食べるてくれる) 家政婦のカエデはこの家に奉公に来てすでに30年。 兄は本妻の子で弟はおめかけさんというよくある設定ではあるが。 「兄弟仲良く・・・は当分無理だわね」 自分が生きている間に少しでも兄弟の溝が埋まればいいとねがうカエデであった。。 一方。 犬君。 (あの姉妹いなかったな・・・。さてはオレに びびってでてこねえとか) ごはんつぶをつけながら、 かごめになおしてもらったズボンをじっと眺める。 (・・・あのアネキの方・・・。かごめっていうのか) ”かごめちゃんはいい子よね。 本当に感心しちゃうわ” 公園でおばさんたちのうわさ話からちゃっかり情報収集 しておりました。 (へっ。なんでい年上だけど女じゃねぇか) ”けど頑張りっ子だから頑張りすぎないかと 心配。張り詰めなきゃいいけど” (けっ。頑張るなんて言葉、一番嫌いだ) ”実はね。これは噂なんだけど、実は りんちゃんとかごめちゃんは血がつながってないって” (・・・) ちょっと突っ込んだ情報まで仕入れてきたようで。 (・・・。ふ、ふん。知るか・・・!他人のことなんて!!) ごろん。 あんまりお日様に干してないぺったらっこい布団に寝転がる。 (・・・。あの飴は・・・。何味だったんだろう) 口の中に残るあの幸せな甘み。 かごめとりんという姉妹から感じたにおい。 もう一度できることなら味わいたいと思いつつ・・・ ご飯つぶをつけたまま眠る犬君でした・・・。 ※ 「うん。わかった。いいよ。大丈夫。おかーさん」 黒い電話の受話器を静かに置くかごめ。 「おかーさん、今日もおそいの?」 「仕方ないわよ。患者さんの具合が急に悪くなったんだって」 かごめとりんのおかーさんは看護士。 患者さんのために働くスーパーウーマンなのだ。 けれど・・・ 「おかーさんに見せてあげようと思っていたのに」 おかーさんの似顔絵。 保育所で一生懸命、くれよんで描きました。 「明日二人で見せよう?お母さんきっと喜んでくれるから」 「・・・。うん。そうだね・・・」 りんの小さな背中をさすってなだめる。 「お風呂にはいっちゃおう。今日、 ”ソフトクリーム”してあげる」 「・・・!うん!!」 お風呂場。 緑色のタイル張りで、シャワーはありません。 「りんのおなかにソフトクリーム〜♪」 バスマットの上に寝転がるりんのおなかの上にせっけんで泡立てた 泡をそっと置く。 「何味ですか。かごめおねーちゃん♪」 「すずらんのお味です。いかがですか?」 「とってもさわやかなお味がします★」 「たべちゃだめですよ。香を楽しみましょう〜。 ソフトクリーム増幅ーー★」 「きゃははは!」 かごめはりんの体をくすぐって泡をもっともっとたてる。 ”かごめちゃんは血が繋がっていない” (・・・) 不用意な他人の言葉に ココロが軋みつつも 「今度おねーちゃん。ねぇまた お胸、おっきくなった?風船はいってるの?」 「きゃっくすぐったいってば!ふふ・・・」 りんの無垢な笑顔が愛しい。 すがってくる小さな手が愛しい。 「りんはずっとそのままでいてね」 「?」 きょとんとした顔。 「なんでもない。ふふ。さー。念入りに洗うわよー!」 しゃかしゃかしゃか。 頭に入道雲をつくったりん。 妹がいるから 毎日が楽しい。 「きゃははは」 ちっちゃなお風呂場。 タイルのお風呂場から聞こえてくる声は 月を隠していた雲も 消えていった・・・。 「おばちゃん、小松菜いいね〜」 軽トラで団地に野菜を売りに来るおばさんとかごめが 話している。 (・・・かごめとかいう姉貴だ) 植木の陰から半分顔を出して盗み聞きしている少年一人。 「あー。やっぱり若い子はいいねぇ。肌が つやつやしてて。胸もまたおっきくなったんじゃないのかい? ほら。このトマトみたいに。完熟だよ〜vv」 「やっだぁおばさんたら!」 (か、完熟トマト・・・) 小学5年生。 そろそろお年頃? (///) 手のひらでサイズ確認しちゃいました。 なんだかちょっぴりドキドキしつつ。盗み聞き続行。 「ふふ。じゃあ今日は小松菜とトマトもらおうかな」 「毎度アリ〜」 小銭をもらって財布に入れる。 (・・・チャリチャリと・・・みみっちい女だぜ!) 「私、小銭が好きなの。そこの犬ナントカ君」 「!!!!!!!!」 かなーり、びびったのか 声にもならないようで。 「て、て、て、て」(てめぇ、なんで)といいたい。 「あのねぇ・・・(汗)」 「お、オレはべつにびびってねぇぞ。びびって・・・」 だが逃げ腰なのはどうしてか。 「あんた、私のことみみっちい女とか思ったでしょ?」 「!!!!!」 (こ、こいつは人のココロよめんのかッ!??) さらに逃げ腰。 ズボンの後ろがどろんこに。 「びっ貧乏なんじゃねぇのかッ。そ、そんな 傷ばっかりの葉っぱ・・・食うなんてッ」 「・・・けど全部食べられる。茎も根っこも。みーんな。 工夫一つで食べられる。ほら」 かごめは手作りの布バックからお弁当箱を出した。 「ほら・・・。この和え物。小松菜の茎の部分で 作ったのよ。胡麻風味。ハイ。お口、アーん」 「・・・!!」 ぱっくん。 口の中に放り込まれた。 「どう?さっぱり味してるでしょ?ちゃーんと お料理してあげたらみんな美味しくなるのよ」 「・・・うぐせえ」←ほおばりすぎてる。 「ちゃんと噛んで食べてね。あ、私も行かなくちゃ。 じゃあね犬ナントカ君」 「あ・・・待・・・」 溝でこける犬君。 (・・・お、俺はなんでここでこんな風に・・・) 顔が泥だらけ。 (・・・けっ・・・。くだらねぇ!) 自分でも分からない。 自然に足が向いていた。 (・・・。まずくは・・・ねぇ) 傷だらけの菜っ葉。 これはカエデに一度作ってもらったことがある味だ。 (・・・) ”ご飯をつくってもらった人にちゃんと ごちそうさまを言える人になってくださいね” 「・・・。ごご、ご、ごちに・・・なってやったぜ」 ぶすっと言って ポケットに手を突っ込んで 去っていく。 (ご、ごちそう・・・。さま) 懐かしい味が 口の中にいつまでも残っていた・・・。 一方・・・。 りん。 「おねえちゃん,まっだかな。まっだかな」 保育所の門の前でかごめが迎えに来ることを待っていた 「・・・あ・・・!たんぽぽ!」 (お姉ちゃんが好きな花・・・!) コンクリートの溝の際から生えているタンポポをみつけ、 引っこ抜こうとしゃがみこんだ。 「・・・あれ?」 ふんわり。 突然、りんの体が宙に浮いて・・・。 (んー?) 「・・・邪魔だ」 なんとも きれーなお顔が りんの目に飛び込んできて・・・。 年上の男の人。 おっきなお兄さん。 「あ、あのー・・・?」 「邪魔だ・・・」 黒塗りの車が近づいてきて 「殺生丸さま、遅れて申し訳ございません」 「・・・」 運転手らしい背がちっこいおじさんがドアをあけて 殺生丸は乗りこむ。 「あ、あのー・・・!私、りんっていうの。 おっきい車だね。なんで自分で歩かないの?」 りんは背伸びをして窓越しに顔を出した。 「・・・」 「子供はあっちへいけ!」 運転手はりんを車から遠ざけて運転席に乗り込んでエンジンをかけた。 「私、りんっていうの・・・」 「・・・。私には関係ない」 「うん。でもさっきはだっこしてくれてありがとうございました。 ちぇっちょーまる様」 ぺこりと頭を下げて挨拶するりん。 「・・・」 殺生丸は無言。 車は静かに去っていった。 「・・・ちぇっちょーまる様っていうんだ。 おもしろい名前」 りんはゆびで覚えたてのひらがなで 書いてみる。 (たくさん字あるなぁむずかしいや・・・。 でもやさしーひとだ。きっと) 怖い顔なのに やさしい顔にみえる。 不思議な気持ちを感じるりん。4歳。 「りんーー!」 「あ!おねーちゃんだ!」 迎えに来たかごめの元へ走っていく。 「おねーちゃん!おねーちゃん。あのね・・・!」 タンポポを見せる。 「ありがとう!おうちに帰ったら 牛乳瓶に生けようね」 「うん!」 かごめとりん。 手をつないで おうちへ帰る。 お互いに今日出会った少年のことを 話しながら・・・ かごめとりん 殺生丸と犬君 ふたつのおうちの夕食に共通した野菜が 「カエデ婆。それ、食ってやる」 がつがつと小松菜の和え物を食べる。 「犬ぼっちゃま。良いお心がけです。 成長期はたくさん食べなくちゃね」 茶碗に山盛りにご飯をよそうカエデ。 一方。 殺生丸は食後の運動と庭の剣道場で剣のお稽古で・・・。 ”どうして自分で歩かないの?” 見知らぬ少女の一言が 妙に引っかかって・・・ 「子供如きで・・・。くだらぬ・・・!」 揺るぎない自信を 竹刀にしたためる・・・。 「りん。おいしいね」 「うん。りん、お野菜大好き」 小松菜の和え物を 二人仲良く食べる。 「根っこの野菜は沢山食べたら根性がつくのよ。 りん、沢山食べとこうね!」 「うん!」 大根のつけものや ニンジンのしょうゆ漬けをこりこりと食べる。 決して豪華ではないけれど 噛むと元気がでるおいしい食事。 かごめとりんは母の夕食をラップに丁寧に包んで 後片付けを終えてそしてまた 楽しいお風呂の時間だった・・・