かごめちゃん小説 『お日様の毛布』 「ねぇママ」 「なに?」 かごめは押入れから毛布を一枚取り出した。 「これ・・・。あっちに持っていってもいい?」 「いいけど・・・。洗濯していったほうがいいんじゃない?」 「そうね。少しほこりっぽいかな」 かごめはくんくんとにおいをかぐ。 (・・・。犬夜叉君のための毛布ね) 匂いに敏感だが、乙女心には鈍感な”彼”のための毛布。 「洗剤使わないほうがいいよね。できるだけ 自然の・・・」 洗濯機のスイッチを押しながら 洗剤の分量を確認しつつ入れる。 (・・・。亭主関白もいいけど・・・) 15歳の娘が一家を支える主婦のように見えることが切ない母。 「新しいもの持っていったら?あるわよ?」 「ううん。いいの。アイツ、”お日様”で干した ものじゃないと嫌がるのよ」 「・・・。かごめ・・・(汗)」 「猫の手も借りたいって言うけど あっちの犬はわがままばっかり言うの」 「・・・ふぅ」 (・・・惚れた弱味・・・ね) 同じ女 わがままも可愛く見えることも在る。 「でもね。かごめ。”我がまま”と”在りのまま”は違うからね」 「え?」 「難しいけど・・・。分かる?」 「・・・」 かごめは少し間をおいてから にこっと笑った 「・・・。私、国語って苦手なの。ふふ・・・。でもママ・・・。 ありがとう」 かごめの笑顔。 いつのまにか 大人っぽい笑顔になったと感じる・・・。 「さーてと!思いっきりお日様を浴びさせなきゃね!」 物干しにひらっと クリーム色の毛布がかかる。 「ふー・・・。時代が違っても・・・。 お日様のにおいは一緒ね」 雲がさっとひいて 白いような 透明のような光が かごめを包む。 「・・・。ふぅー・・・」 (眠くなってきた・・・) 井戸に向かわなければと思うけど ・・・体は・・・横になりたいと・・・ 「・・・まあ」 縁側で座ったまま 硝子にもたれかかって眠るかごめ。 (どうしようかしら) かごめのためにとにぎったご飯。 「・・・。固くならないようラップしとかなくちゃ・・・。 と、その前に・・・」 かごめの母はそっと 自分が着ていたカーディガンをかごめに着せた。 「・・・。うちには何枚でも”毛布”は あるから・・・。忘れないでね・・・」 かごめに着せられたのは ・・・母の白のカーディガン。 薄手の布だけど・・・ (あったかい・・・) お日様の匂い 疲れて 心の奥に堪ったものも 元気に変えてくれる・・・ (みんな・・・。待っててね・・・) 少しの間だけ 一休み。 ・・・かごめが眠っている頃 井戸の向こうでは。 「寒いのう。かごめの毛布はまだじゃろうか」 「季節の変わり目ですからね。珊瑚。なんなら私が温めて・・・」 「助平な毛布はいらない。かごめちゃんのが持ってくる”布”が一番いい」 「そ、そうですね(汗)」 かごめの”毛布”を待ちわびる仲間達。 「・・・フン。寒くなんかねぇ!」 屋根の上で 太陽を見上げては 俯く少年。 まだ上を見て歩けない 胸の痛みを抱えて・・・ 「・・・」 それでも 太陽の匂いはちゃんと感じている。 (・・・!) 井戸の向こうからやってくる・・・。 「ごめんねぇ!みんな!」 曇っていた空が 晴れていく。 ・・・かごめの手には柔らかくふわふわの 毛布が確かに抱えられて・・・。 優しいにおいの毛布が・・・。 FIN